コラム
Media Innovation Lab
メディアのDXをリードする
─メディアイノベーションラボ新春企画
【Media Innovation Labレポート.23】
COLUMNS

2021年は、コロナ禍が続く中、東京オリンピック・パラリンピックという大きなイベントがあった一方で、テレビCMのモデルやデータ活用の方法が大きく変化した年でした。その変化をどう捉え、チャンスにしていくのか──。Media Innovation Lab(メディアイノベーションラボ※)のキーパーソンたちが昨年のメディアや広告の動向を振り返り、今年の見通しを語り合う恒例の新春座談会を開催しました。

矢嶋弘毅
博報堂DYメディアパートナーズ 代表取締役社長

安本純毅
博報堂DYメディアパートナーズ イノベーションセンター センター長

吉田 弘
博報堂DYメディアパートナーズ イノベーションセンター 兼
メディアイノベーションラボ 海外拠点リーダー

聞き手:田代奈美(博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局情報マネジメントグループGM兼メディアイノベーションラボ)

■運用型テレビ広告が本格的にスタートした年

──メディアイノベーションラボでは、2021年も日本、米シリコンバレー、中国深圳を結んで、メディアビジネスのイノベーションに関する情報の収集と発信を行いました。まずは、2021年のメディアや広告ビジネスのトピックを振り返っていただけますでしょうか。

矢嶋
2021年は、デジタルの領域ではすでに一般的になっている運用型広告の手法が、テレビCMの領域にも広がった年でした。運用型になるということは、これまで「広告枠」を販売していたビジネスモデルが、「広告効果」を販売するモデルに大きくシフトすることを意味します。博報堂DYグループも、そのシフトにいち早く対応するために、2020年から「AaaS(Advertising as a Service)」という新しいモデルへの取り組みを始め、2021年に本格運用を開始しました。これによって、テレビCMの効果をトータルに可視化するだけでなく、効果を検証しながらキャンペーンを運用することができるようになりました。

安本
テレビCMに運用型の手法が導入されるのにともなって、広告運用のソリューションを提供する新しいプレーヤーも参入してきましたね。今後は、動的データをリアルタイムでトラッキングしていく仕組みなど、運用のソリューションが競争軸の一つになっていくと考えられます。

──アメリカでは、運用型テレビCMはすでに一般的になっているのでしょうか。

吉田
「リニアTV」と呼ばれる従来のテレビ放送に、テレビでインターネット動画を視聴する「コネクテッドTV(CTV)」や、テレビに加えてPCやスマホでインターネット動画を視聴する「OTT(Over-the-Top)」を組み合わせて、トータルに運用のプラニングをすることがほぼ常識になっています。CTVやOTTの特徴は、視聴者を細かくターゲティングできる点にあります。今後、広告運用の精緻化がさらに進んでいくと思います。

──一方、個人を特定するデータ活用のルールは以前よりも厳しくなっています。

吉田
2021年のトピックの一つと言っていいでしょうね。インターネットの個人情報保護に関しては、ヨーロッパがGDPR(EU一般データ保護法)によって規制を行っていましたが、米国でも2020年にカリフォルニア州で、消費者プライバシー法(CCPA)を施行してデータ活用を規制し、昨年(2021年)にはその改正法であるCCPRも成立されました。アメリカではWebサイトやアプリを開く度にデータ利用に関するアテンションが出るようになってきています。データ利用規制がグローバルに一気に広がった感じです。

矢嶋
法律による規制が進んでいるだけではなく、プラットフォーマーも外部へのデータ提供を制限するようになっていますよね。生活者のプライバシーが保護されなければならないのは当然ですが、その前提に立った中で、取得できるデータの分析力を磨き、広告運用の精度を高めるための新しい方法を考える必要があります。データを駆使したメディア価値の向上と広告主のマーケティング効果の最大化、その両面を強化していく事が更に求められていると思います。それもこれからの競争軸の一つになっていくでしょうね。

■エンゲージメント装置として、優れたコンテンツの重要性が高まる

──データを活用した広告運用精度の向上と並んで、生活者のエンゲージメントを高めるためのコンテンツの重要性がこれまで以上に増していくことになりそうです。

矢嶋
優れたコンテンツによっていかに多くの生活者とのつながりをつくっていくか、今後はたくさんの生活者を惹きつけるキングコンテンツの価値がより高まっていくことになると思います。2021年は、スポーツ、映画、音楽などの分野でキングコンテンツが生まれた年でした。この流れが今年も続いていくことに期待したいと思います。私たちも、広告取引をするだけでなく、コンテンツそのものに投資をし、二次利用、三次利用によってコンテンツの価値を拡大させていく道もありうると思います。

ただ、キングコンテンツを生み出すにはお金がかかります。それをどうやって回収していくかが大きな課題です。その方法は、ユーザー課金、広告、コマースの3つだと考えられます。それらを組み合わせながら、コンテンツを活用して得意先にメリットをもたらすソリューションを生み出していく必要がありますし、そこに私たちのチャンスもあるはずです。

安本
優れたコンテンツは国境を超えていくので、メディアのグローバル戦略も問われることになるでしょう。これまで主に国内マーケットを対象にしていた放送局が、グローバル戦略を視野に入れるようになったのも、昨年の大きな動きです。

コロナ禍の中で、音楽ライブ配信の技術が大きく向上するなど、コンテンツのDXが進みました。今後、国やデバイスを超えたコンテンツ視聴がさらに広がっていくと思います。これは同時に、マネタイズの機会が拡大することを意味します。マネタイズポイントをあらゆるところに見出し、そこで確実に制作投資を回収し、次のコンテンツづくりにつなげていく。そんなサイクルづくりがこれからの課題になりそうです。

矢嶋
韓国はそのようなモデルづくりを先んじて成功させていますね。私たちも独自の新しいモデルをつくっていかなければなりません。

吉田
ニッチなファンがいるコンテンツには課金モデルが合っていますし、スポーツコンテンツなどは、アメリカではすでに実現しているベッティング(賭け)を取り入れる方法もあるかもしれません。コンテンツの種類によって、適したモデルを見極めていくことが必要です。

矢嶋
あるいは、生活者の行動の結果がリワードにつながり、かつエンゲージメントを高めることができるマイルプログラムの仕組みなども考えられます。例えば、メディアやデバイスに関係なく、野球中継を見れば見るほどマイルが貯まるといった仕組みです。視聴者にはマイルを貯めれば特典がもらえるというメリットがあり、メディアや広告主の立場からすれば、視聴者のデータを獲得できるというメリットがあります。そこにマネタイズの仕組みを加えていけば、モデルとして成立するように思います。

──以前、テレビを見ながらモバイルデバイスの画面を見る「セカンドスクリーン」という視聴スタイルが注目されたことがありました。テレビとほかのデバイスの組み合わせは、現在も有効ですよね。

矢嶋
テレビと相性がいいのはアプリだと思います。例えば、当社でも取り組みを行っていますが、番組コンテンツとアプリを連動させて、視聴者のアクションを喚起するというのは有効な方法です。ただし、最近はテレビ番組もリアルタイム視聴とオンデマンド視聴の両方がありますから、そのどちらにも対応するアプリをつくる必要がありますね。

吉田
アメリカでは「ショッパブルTV」と呼ばれている、テレビにQRコードを表示して、それをスマホで読み取ればすぐにものが買えるといった、テレビでリーチを獲得しながらアプリやウェブで顧客をつかんでいく方法もあります。この仕組みを使えば、コマースでマネタイズすることが可能になります。

──アメリカでは、放送とインターネットで番組を同時に配信していくケースも増えているようですね。

吉田
スポーツ中継などは、リニアTVでの放送とストリーミング配信がすでに2本柱になっていて、今後はよりストリーミングの方にシフトしていくと考えられます。テレビ放送とストリーミングでは視聴層が異なるので、放映するCMは異なります。異なる視聴者層にアプローチし、トータルのリーチを上げていく戦略が今後主流になっていくのではないでしょうか。

また、「ブランドインテグレーション」という新しいモデルも出てきています。これは、プロダクトプレイスメント、つまり番組の中に製品やロゴを入れ込む手法とほぼ同じモデルで、サブスクリプション型の動画OTTサービスでの取り組みが注目されています。サブスクリプション動画サービスはユーザー課金モデルですから、従来のテレビ広告のスポンサードの仕組みがありません。その分、いろいろ新しいチャレンジができるという面があります。

安本
プロダクトプレイスメント、あるいはブランドインテグレーションは、実は日本のアニメや戦隊ものの番組の手法に近いと言えます。登場するキャラクターと、メインスポンサーである玩具メーカーのプロダクトが一体化しているモデルです。温故知新の視点で従来の方法から学ぶことから、新しいスポンサードの形を考えていくことも必要かもしれません。

──2021年は、「音声配信サービス」の可能性にも注目が集まりました。

矢嶋
音声にはこれからも可能性がありますよね。日本はポッドキャストの市場が欧米に比べてまだ小さいので、これから伸びる余地は大いにあると思います。ラジオも音楽もポッドキャストも含めて、「音声」という共通のフォーマットの中でコンテンツを楽しむスタイルが今後定着していくのではないでしょうか。

吉田
アメリカは車社会なので、車の中でラジオなどの音声コンテンツを聴取する人が昔から多くいました。コロナ禍のロックダウン中に車での外出が減ったことで、音声コンテンツの需要は減るかと思ったのですが、実際はそんなことはありませんでした。やはり、それだけ音声コンテンツが各世帯や個人に浸透し、定着しているのだと思います。この流れは、今後間違いなく日本にもやってくると思います。

■メディア・コンテンツと生活者を結びつける新しい仕組みの模索

──最後に2022年の見通しをお聞かせください。

安本
昨年後半から、ブロックチェーンの技術を使ったNFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)の活用例が増えてきました。NFTを使えばデジタルコンテンツの複製や改竄が事実上不可能になります。それによって、今後オンライン上でのコンテンツの流通が今まで以上に活発化していくはずです。そこにどのような新しいマーケットができていくのか。それを注視しながら、私たちがそこで活躍できるチャンスをうかがっていきたいと思います。

メディアイノベーションラボとしては、引き続き世界のメディア、コンテンツ、マーケティングの動向を捉え、そこで何が起こっていて、それにどのような意味があるのかを、企業、メディア、生活者の皆さんに広くお伝えしていきたいと考えています。

吉田
アメリカでこれから伸びるだろうと言われているのがリテールメディアです。リテールメディアの代表格はAmazonですが、リテールビジネスを手掛けているほかの企業も、自社のECメディアの可能性を探っているところです。私たちも、リテールメディアで何ができるかを考えていくべきだと思います。

矢嶋
新しい形のO2O(オンライントゥオフライン)の動きも出てきていて、今年はそれがさらに進んでいくと思います。特に、電子決済やECサイトなどのマーケティング領域の技術革新によって、オンラインとオフラインを行き来する生活者の行動を、今まで以上にシームレスに捉えることができるようになります。今後は、生活者の購入体験を、いかに最適化していくかが問われる時代になると思います。

また、すでに米国では、リニアTV視聴とCTVやOTT視聴が混在するメディアの接触状況に対して、メディアの出稿効果を検証するための新しいメジャメントや取引指標についての検討が進められていますが、今後、日本でも同じように考えていかねばならないでしょう。
その他にも、今年のCES(世界最大級のデジタル技術見本市)でも注目ポイントとして挙げられていた「メタバース」や「ヘルステック」、そして、「スペーステック」などの新しいテクノロジーを、どのように広告ビジネスに活用していくか、ということも考えておく必要があると思います。特に、「メタバース」については、バーチャルの世界で生活する場と捉えると、コンテンツの在り方、マーケティング手法など、我々のビジネスチャンスとしての可能性を秘めています。

2022年も媒体社やコンテンツホルダー、そして得意先の皆さんと協業しながら、魅力的なソリューションやコンテンツを世の中に生み出し、さらには、メディアのDXを実現させることで、業界全体のさらなる進化を後押したいと思っています。

※Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)
博報堂DYメディアパートナーズとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムが、日本、深圳、シリコンバレーを活動拠点とし、AdX(アド・トランスフォーメーション)をテーマにイノベーション創出に向けた情報収集や分析、発信を行う専門組織。両社の力を統合し、メディアビジネス・デジタル領域における次世代ビジネス開発に向けたメディア産業の新たな可能性を模索していきます。

矢嶋弘毅
博報堂DYメディアパートナーズ 代表取締役社長

安本純毅
博報堂DYメディアパートナーズ イノベーションセンター センター長

吉田 弘
博報堂DYメディアパートナーズ イノベーションセンター 兼 メディアイノベーションラボ 海外拠点リーダー

田代奈美
博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局情報マネジメントグループGM兼メディアイノベーションラボ

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