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【Media Innovation Labレポート.14】 音声SNSのこれから
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国内外で急速に注目を集めている音声SNS。「Clubhouse」を筆頭にさまざまな話題となっています。今回は米国と日本における音声SNSをめぐる状況とその最新動向、また今後の可能性について、WiL(World Innovation Lab)の琴章憲氏(シリコンバレー在住)にメディア環境研究所の加藤薫が聞いていきます。

■シリコンバレーにおける「Discord」と「Clubhouse」

加藤
2020年夏、私たちのメディア環境研究所は、メディアエンタテインメント領域で、今、何か新しいタイプの消費の仕方が表れてきているのではという仮説のもと、琴さんの所属しているWiLと共同で米国の生活者のインタビューを行いました。その結果をまとめ「オンライン同期がメディアコンテンツを強くする」という発表をしたのですが、年が明けると今度はClubhouseに代表される音声SNSが急速に盛り上がり始めました。そこで本日は、話題の音声SNSの最新動向について、日米の比較を中心にいろいろとお聞きできればと思います。


僕自身はシリコンバレー在住13年で、現在WiLという、ベンチャーキャピタル(VC)であり大企業のイノベーションパートナーであるファンドのメンバーとして、投資先の事業育成などに関わっています。博報堂DYメディアパートナーズともいくつかのプロジェクトをご一緒しています。プロダクト開発やデジタルメディア周りの知見から、今日はお話できるのではないかと思います。

現在音声SNSを語る上で、シリコンバレーではずせないのは、2015年に誕生した「Discord」というボイス/テキストチャットアプリです。当時ゲーマーは主にSkypeを使っていましたが、徐々にDiscordで電話をつなぎながらゲームするというスタイルがメジャーになっていきました。僕は2018年にDiscord創業者に会う機会があったのですが、もともとはDiscordストアというPC向けのゲーム販売プラットフォームを売り出すために開発したアプリだったそうです。Discordストアは終了してしまったのですが、その後、Nitro Gamesというチャットプレミアム機能をローンチします。Diacordとしては2020年の売上だけで100ミリオン米ドル、2020年のMAUは1億超え。時価総額も7ビリオン米ドル、つまり約8000億円というとんでもない額になっています。仲のいい友人同士が集まり、つねにつなぎっぱなしで声を交わしあうというDiscord特有の使い方は、ある意味発明です。つねにつながるようになると、今度はそこから何かしようという話になって、オールナイトでゲームをやったり、同時に同じ映画を観たりと、新たな行動も出てきています。

そのなかで昨年爆発的人気となったのが「Among Us」というゲーム。宇宙船を舞台に4~10人が参加し、その中にいる犯人をコミュニケーションから推察し合うという、高度なコミュニケーションスキルを求められるものです。互いにDiscordのIDを教え合い、リアルタイムのボイスチャットをしながらAmong Usをプレイする。コロナ禍でどんどん友人の輪が広がっていったという話でした。

加藤
これまでなら一緒に映画を観たりゲームをプレイしたりした後に感想を述べあったりしていたのが、同じ部屋でおしゃべりをした後に共視聴するというように、コンテンツとコミュニケーションの順序が逆になっているのは面白いですね。特にAmong Usは、私たちがインタビューした全員も「やっている」と答えるほど象徴的なタイトルでした。


次に、Clubhouseについて改めておさらいすると、2020年2月に創業、10月時点で社員は10名くらいというかなり新しい会社です。我々が最初に耳にしたのは、2020年5月、シリコンバレーで最も名の知れたVC、アンドリーセン・ホロウィッツによって、ローンチ前にもかかわらず100億円調達したという報道でした。ただこのころは周囲も様子見状態でしたし、ユーザー数にも制限があったのでそこまで広がっていませんでした。その後今年1月、時価総額が10倍の1000億円になったと知り度肝を抜かれました。Clubhouseは招待性なのですが、この時点で招待可能な人数がどんどん増やされ、日本にも一気に情報が入ってきて急速にユーザー数を増やしているというのが現状。最新の情報では200万MAU、80万DAUということです。(2021年2月現在)

Discordと比較すると、Discordは創業9年、Clubhouseは1年。どちらも本社はベイエリア。月次アクティブユーザー数は前者が1億5000万人。後者が200万人。調達額は600ミリオン米ドル対100ミリオン米ドル。時価総額では7ビリオン米ドル対1ビリオン米ドル。両社の時価総額を1人あたりの月次アクティブユーザーで割り算すると、Discordの46米ドルに対して、Clubhouseは500米ドルと10倍以上の価格差があり、いかにClubhouseの金額がすごいかがわかりますが、いずれの会社も非常に高い時価総額で、それだけ投資家が期待しているということです。

加藤
Clubhouseはその成長スピードが特に注目されているのですか?


それもありますし、エンゲージメント力が評価されている側面もあります。実際、自分が1週間のうち何時間もClubhouseで時間を使っていることに気付き投資を決めた投資家もいます。毎週土曜日の夕方からやっているClubhouseの「バーチャル・ディナー・パーティ」はダイバーシティーとインクルージョンをテーマにした人気番組で、そのホストは、アンドリーセン・ホロウィッツ創業者の妻で、黒人女性。多様性と、他者を排他しないという文化的素養を育てるような番組です。また先日イーロン・マスクやマーク・ザッカーバーグが登場して話題になった「グッドタイム」も、アンドリーセン・ホロウィッツのジェネラルパートナーが今年1月から始めた番組。つまり内部の人間がClubhouseの成長を助けているのです。

また、最近話題になったのがロビンフッドという会社。個人投資家同士がグループを組み、投資のプロが売ろうとしている株を買うことでファイナンスの下克上を目指すという取り組みの舞台となった個人投資家向けFinTech会社で、ゲームソフト販売会社「ゲームストップ」の株価が突然高騰するという事象が発生しました。この話題で持ちきりの時に、「グッドタイム」でロビンフットのCEOとイーロン・マスクの対談が実現しました。番組の最後の方でロビンフットのCEOが入ってきたことで急に公開討論会のようになり、鋭い質問をするイーロン・マスクのインタビュワーとしての能力を称賛する声も出ました。

それから、アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者でシリコンバレーの重鎮であるマーク・アンドリーセンも、Clubhouseに週に何度も登場しています。彼はかつてマシンガントークで有名で、Twitterでもかなり発言していたのですが、そのTwitterをやめてしまったため、いまや彼の意見はClubhouseでしか聴けないということも非常に大きなフックとなっています。いずれにしてもこうしたClubhouseでの発言がすぐに記事化され、話題になるというのがシリコンバレーの現状です。

加藤
その使用感についてですが、招待性というのが非常に重要な要素になっていますよね。1月ごろは私の周囲でも、「招待枠ありませんか」という人が多く、飢餓感がすごかったです。


招待数を制限して飢餓感をつくる辺りは、非常に上手ですよね。それから、いまアメリカでは多様な人材を温かく迎え入れるという意味でインクルージョンということもよく言われていて、本当にいろんな人種の人がClubhouseにいることも大きな売りになっています。Clubhouseでは多様性を理解して話そうという気配りがあるように感じます。

加藤
以前、モデレーションスキルに感心するともおっしゃっていましたね。


そうなんです。全体の意見がまとまりそうなときに、「反対意見はありませんか」「反対の声が聴きたいです」と発言を促す。多様な意見を言いやすい雰囲気を上手につくっています。アメリカの場合は自分の意見をシャープに表現し、主張しますよね。発言者のバックグラウンドよりも、その人がどういう意見なのかを重視する。日本の場合は発言者のステータスを紹介して、前置きをしてから話してもらうという仕切りが多いですが。そのあたりの違いは面白いと感じます。

加藤
そうした議論が、ユーザーコミュニティ内でも行われていたそうですね。


はい。Clubhouseはどのようにマネタイズすべきかについて、あるコミュニティでユーザーが意見をぶつけ合っていました。いまの雰囲気を壊さずにいかにマネタイズすべきか、過去にGoogle、Facebook、YouTubeでマネタイズしてきたような人が真剣に語り合っていて、非常にClubhouseらしい感じでした。また、アルゴリズムによって意見が2極化されたり、虚飾したりできないのもClubhouseの良さだとも言われます。正直に、ありのままの自分を出すことの重要性が最近はよく語られていますね。

加藤
日本では、有名人の話など、上から下への情報の流れ方が多い気がします。あるいは本当に小さな集まりでの雑談など。どの使い方もありなのでしょうが、相手と議論を戦わせるといった使い方はあまり見られないですね。


アメリカはディベートスキルを重視するし、さまざまな意見を知ることに価値を置きます。日本では、情報のシェアや知識をまとめたようなものが求められますが、国を超え言語を超えた先にはさまざまなコミュニティがあって、さまざまな意見があるわけです。もしかしたらClubhouseが持つダイバーシティーについては、触れてみて初めてわかるものかもしれません。

■多種多様な音声SNSプラットフォームと今後の動き

加藤
Clubhouse以外の音声SNSについて教えていただけますか。


「Locker Room」は、まさにスポーツのロッカールーム的に、スポーツに特化した音声SNSです。「Chalk」も2015年創業と比較的長くやっているSNS。グレイロックという非常に有名なVCから資金調達していて、暗号化に力点を置いた安全性重視の音声SNSです。それから「Clubhouseは結局シリコンバレーのセレブ向けアプリだ」という批判もあり、それに対して「一般ユーザーの話が聴ける」というのが売りの「Rodeo」があります。そして「Spoon」という2013年に韓国でスタートしたアプリもあります。実はボイス系アプリは特に中国が早くから取り組んでいて、アジアが強い印象はありますね。

また、Clubhouseの次に来るのではないかと期待しているのが、まもなくローンチされるTwitterの「Space」。アメリカでも一部ユーザーがスクリーンショットを出していて雰囲気がわかってきたのですが、モデレーターが自分のツイートを見せながらディスカッションできるというサービスのようです。Clubhouseが音声のみである一方、こちらはタイムラインの文字や動画を見ながら話ができるという方向性のメディア。これまでの企業アカウントを使って話ができたりもするので、ビジネス上では使い勝手がいいかもしれません。それからまだ英語のみの対応ですが、音声の自動文字起こし機能がついているのも特徴的です。

加藤
録音されないのでしゃべりっぱなしで後腐れないのがClubhouseの特長だと思いますが、Twitterは書き起こし機能に加え、ニュースレター機能で企業やクリエイターが別のコンテンツに転用できるという点が特長です。また、スクリーンシェア機能という、たとえばネットフリックスなどの共同視聴機能の企業買収などで多機能化を目指しているのではないか、という点で注目が集まっていますね。


そこで意識しておきたいのは、これまでベースとしてきた広告モデルから、サブスクリプションへの移行も目指しているのではないかということ。Clubhouseの場合、ビジネスモデルはチケッティング、投げ銭、そしてサブスクリプションの3つです。広告を使わないソーシャルネットワークに挑戦しようとしているので、これも注目すべき点ですね。

加藤
Clubhouseはいま企業アカウントがありませんが、もし企業が活用しようとすると、創業者や開発者など、しっかりと語れる人材が企業内部にいないとなかなか難しそうですね。
それでは今後について教えていただけますか。


日本でもVoicyやポッドキャストが浸透し始めているように、ながら視聴のニーズがあり、耳からの情報に親近感を覚えやすい点は音声メディアの魅力でしょう。一方で課題があるとすると、音声の識別性です。音声だけですと、テキスト・画像・ビデオと異なりどうしても話題の全容やサマリーが認識しづらい。また、安全性をどう保っていけるのか。あるいは多様と排他のバランスもあります。音声だけで表情が見えないことで、発言が誤解を呼ぶこともあるでしょう。Clubhouseもいずれは検閲機能が追加されるかもしれません。そうなると、プラットフォームの権利を使って特定のユーザーを排除するといった行為も可能になり、それについての議論も当然起きるでしょう。検閲と安全性のジレンマです。

■SNSのバージョンが変わっていく

加藤
Clubhouseの流行を受けて私が感じたのは、特定のSNS、プラットフォームの隆盛というよりは、SNSのバージョンが変わりつつあるのかもしれないということです。


このテーマを考える際にいつも頭の片隅にあるのは、2014年頃に話題になったいくつかの短編動画アプリです。これらはその後Snapchat、Facebook、Twitterなどのプラットフォームに動画機能として組み込まれていきました。同じことが音声でも起こるのではないかと考えています。Twitter、Facebookだけでなく、何かしらのコンテンツを置きながら、見ている人同士が会話するという新しいインタラクションがサービスとして普及するのではないでしょうか。

加藤
通信の歴史を振り返ると、たとえば4Gが出てきたときは動画視聴が大幅に増えるだろうと予測されていましたが、実際生活者の間では、テキストを使ったリアルタイムのチャットや、LINE、Twitter、Facebookなどの利用が広がりました。5Gも現在エリアを広げていて、目下の利活用の想定はIoTや8Kと言われていますが、それよりも音声の遅延が少ないClubhouseのような音声SNSが花開いてきています。今後2020年代、XRや空間コンピューティングなどの市場も盛り上がるとは思いますが、超低遅延で、自由におしゃべりできるようなところが標準装備になり、支持されていくのではないか。そうしたうねりがメディア環境にやって来るように感じています。

今後はSNSの複合機能の一つとして音声機能が標準的になっていくでしょうし、遅延が少ないネットワークを使って同期していくようなコミュニケーションが支持されていく。テキストや画像、動画に加えてライブの音声で、また1対1ではなくn対nで、1つのコンテンツを大人数で見るのではなく、無数の小部屋が出現する…そんな風にSNSのバージョンが変わるという大きな構えでいることで、特に広告やマーケティング、メディアに関わる企業にとっては、ビジネス活用のヒントが見つけやすくなるのではないかと思います。今日は盛りだくさんのお話をありがとうございました。

※Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)
博報堂DYメディアパートナーズとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムが、日本、深圳、シリコンバレーを活動拠点とし、AdX(アドトランスフォーメーション)をテーマにイノベーション創出に向けた情報収集や分析、発信を行う専門組織。両社の力を統合し、メディアビジネス・デジタル領域における次世代ビジネス開発に向けたメディア産業の新たな可能性を模索していきます。

琴 章憲 
WiL(World Innovation Lab)
1999年関西大学工学部建築学科卒業後、大手ゼネコンに入社。建築の現場監督を担当しながら独学でプログラミングを習得し、翌年、プログラマーとして転職。2003年にデジタルガレージ入社後、WEBプロデューサーとしてクライアントの各種サービス立ち上げに従事。2008年に同社のシリコンバレーオフィス設立のため単身渡米。米国投資先との共同プロダクト開発を担当した。投資先であったTwitter米国本社に2010年から常駐し日本展開を支援。その後、アーリーステージ投資としてUdemy、Intercomなどを手がけた。 2014年、WiL創業時にパートナーとして参画。日本企業とのオープンイノベーションを促進するため、デザイン思考や各種ワークショップを取り入れた企業幹部向け研修や、経産省とのイノベーター育成プロジェクト「始動 Next Innovator」を担当する。

加藤 薫
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 主席研究員
1999年博報堂入社。菓子メーカー・ゲームメーカーの担当営業を経て、2008年より現職。生活者調査、テクノロジー系カンファレンス取材、メディアビジネスプレイヤーへのヒアリングなどの活動をベースに、これから先のメディア環境についての洞察と発信を行っている。

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