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【Media Innovation Labレポート.12】 コロナ禍で活況!「音声配信サービス市場」の最前線
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コロナ禍をきっかけに在宅時間が増え、ながら聴き需要が増加。音声配信サービス市場が活況となっています。ラジオ番組視聴サービスの登録ユーザー数が堅調な伸びを見せているほか、音楽配信サービスや、一般の生活者が音声配信できるサービスなどさまざまなプレーヤーも新規参入してきています。音声配信サービス元年とも言われた2020年を経て、今後はどのような動きに注目していくべきなのか、博報堂DYメディアパートナーズラジオ局オーディオビジネス開発部の石井忠典部長をゲストに、Media Innovation Labメンバーの野田絵美、市川修平、江口英里が聞いていきます。

■音声配信サービス市場に見られるさまざまな動きと兆し

野田
まずは音声配信サービスの市場構造を、市川さんに説明していただきます。

市川
一つは音楽のサブスクリプションサービスがあります。Spotifyが代表的ですが、国内でもLINEミュージックやAWAなどのプレーヤーがいます。それからマルチジャンル音声コンテンツ配信サービスとして、Voicyやアップル、グーグルといったプラットフォーマーが展開しているポッドキャストのサービスもあります。また、本を音声化したオーディオブック、などのサービスもありますし、radikoや我々も開発に関わってきたラジオクラウドのほか、らじるらじる、AuDee(旧JFN PARK)などのプレーヤーも存在します。そして報道によると、radiko+Spotifyの月間利用者は2018年の776万人から1225万人と、2年間で58%も増加したほか、ニッポン放送のポッドキャストのダウンロード数も、2019年の180万から2020年には500万と昨年比で270%も増加しているとのこと。2020年が“音声配信サービス元年”と言われるのも納得です。

野田
市場はさまざまなコンテンツ軸で領域が分かれてはいますが、たとえば音楽配信サービスに位置付けられているSpotifyもポッドキャストをやっていたりして、各領域で明確な線引きができるわけではないことも前提として理解しておく必要がありますね。石井さんからまずはこうした活況を極める現場の具体的な動きを教えていただけますでしょうか。

石井
たとえばTBSラジオは、2019年からオーディオムービーという、没入感が高く非常にクオリティの高い音声コンテンツ制作に取り組んでいます。3D音声などを活用し、これまでにない臨場感を味わえるようなコンテンツになっています。オーディオムービー制作においては、TBSラジオが中心となって「スクリーンレス・メディア・ラボ」という組織を立ち上げ、オーディオムービーコードという演出方法などのメソッドをマニュアル化し、公開もしています。ニッポン放送は、poddogという独自のポッドキャストプラットフォームをリリースした一方で、アメリカのポッドキャスト制作会社のコンテンツの権利を買い、日本語版を制作・配信して話題となりました。J-WAVEはSPINEARというポッドキャストブランドを立ち上げ、オリジナルコンテンツを多数制作しています。ブランデッドポッドキャストという、スポンサードのコンテンツでは、スポンサーの商品であるビールを注ぐ音がさらっと入っていたりして、さりげないブランディングが際立っています。

野田
コンテンツをリッチ化するというのが、各キー局に共通する大きな動きのようですね。

石井
日本の場合は聴き応えのあるコンテンツ自体がまだ非常に少ないので、そこを充実させるべきだという課題意識を業界全体が持っています。それから、既存の地上波ラジオ市場は縮小傾向なので、こうした新たなコンテンツをきっかけに新規のお客さんを呼び込みたいという意図もあります。

野田
なるほど。音声配信サービス市場で、いま注目している兆しはありますか。

石井
この市場は本当に動きが激しく、2020年は、2019年の予測を大幅に超える買収や提携などの動きが進んでいきました。おそらく2021年もこの流れは続くでしょう。実に多くの企業が、制作会社からプラットフォームを含めたポッドキャスト関連企業を狙い、買収していて、大きく成長しています。アメリカではアップルがポッドキャストのサブスクを始めるといった話も報道されましたし、中国では先日テンセントがLazy Audioというオーディオブックプラットフォームを買収。Netflixも音声のみモードの運用なども始めています。
また、大物ポッドキャスターと独占契約を結ぶなど、著名なポッドキャスターの囲い込みが続いているのですが、ポッドキャスター育成の動きも出始めました。クリエーターサポートプログラムを展開するなど、ポッドキャスター周辺の支援やプロモーションに関する動きは今後も活発化しそうです。ちなみに日本でも、Voicyは配信者の厳しい選考があるのですが、選ばれた配信者にはどうしたら再生数が伸びるかなどのサポートを手厚く行っているようで、育成にも力を入れていると聞いています。

野田
独自コンテンツ強化の動きとともに、ポッドキャスターの価値が上がっているのですね。

石井
それから、音声×SNSの動きが活発化しているのも面白いですね。話題沸騰の音声SNS、Clubhouseを制作した会社も、創業間もないにもかかわらず多額の投資額を集めています。Twitterも同様のサービスであるSpacesのβ版をローンチし注目を集めています。音声は、文字のように一部分だけ切り取られて誤解を生んだり、ネガティブに拡散されたりするリスクが少ないという特徴もあり、声なら細かいニュアンスも正確に伝わるので、健全に拡散させることができるという点が人気の要因のひとつかもしれません。
日本でも音声サービス会社はどんどん増加していて、博報堂DYグループの社内ベンチャー制度「AD+VENTURE」からもArtistspokenというアーティスト特化型音声配信アプリが生まれています。グノシーもオリジナルポッドキャストをつくっていますし、YouTubeのレーベルで知られるUUUMはRECという音声配信ソーシャルアプリを、Amazonもポッドキャストをリリースしています。また、報道系はポッドキャストとの相性がいいと思っていたところ、朝日新聞がポッドキャストを始めました。記事に書ききれなかったことの周辺なども明かされ、聞き応えがあります。

野田
注目すべき兆しにブランデッドポッドキャストもあると聞きましたが、詳しく教えていただけますか?

石井
ブランデッドポッドキャストは海外ではすでにメジャーなマーケティング手法になっていますが、我々も取り掛かっていて、成果も出てきています。ほかのメディアに比べブランデッドポッドキャストは海外のハイブランドの活用が目立つのも特徴的です。ハイブランドの世界観を映像でつくると非常にコストがかかりますが、音声なら聴く人の想像に任せるだけでよいので制作しやすく、継続的にコンテンツを出しやすいという点もあります。また、企業のブランドイメージとコンテンツをうまく組み合わせ、ひとつの商品の使い方や裏技などをじっくり紹介するうえでも有効です。

市川
ブランドの世界観を伝えるコンテンツの場合、今はまだファンじゃない人たちとの接点づくりもできますし、詳しい商品内容に寄ったものであれば、すでにファンの人たちとはより深くつながれそうですね。

石井
その通りです。音声はテレビなどに比べリーチという面では劣るメディアなのですが、ブランド理解を深めるとか、より深いファンになってもらうといった側面では強いメディアです。音声なので、ラジオ同様リスナーとの絆づくりといった点が得意なのです。

■今後注力していくべきポイント

野田
今後、この市場で注力していくべき点としては何がありますか。

石井
音声コンテンツを核にしたコミュニケーションに対する認知や理解をもっと広めるため、クオリティの高いコンテンツを送り出していくことが大事だと思います。ポッドキャストは、誰にも好まれるようなコンテンツがある一方で非常にニッチなコンテンツも人気があり、カテゴリーメディア、紙媒体との相性もとてもいいのです。さまざまなクリエイティブや媒体と掛け合わせて新しい音声コンテンツがつくれたらいいですね。

市川
確かに、たとえば雑誌なら、それぞれのブランドが持つファンとの絆をより強固にするという意味でも、音声コンテンツや、これまでのラジオ番組が培ってきた手法との相性はすごくよさそうですね。

野田
コロナ禍で人と密なコミュニケーションがとれない状況で、コミュニティにおけるコミュニケーション欲は高まっています。そういった生活者のニーズも、音声コンテンツ市場のビジネスチャンスにつながりそうです。

■音声広告技術の現状とアナログな音声広告の効果

江口
私からは、音声広告技術の話についてうかがっていきます。アメリカのデジタル音声広告が成長しているというデータがありますが、日本においてはいかがですか。

石井
市場予測によると、日本のデジタルオーディオ市場は5年後には400億を超えるそうです。クリエイティブの面でもまだ進化ができると思います。現状、日本では音声のCM素材を持つところが少なく、すでに存在している動画から音声を抜いて転用したりしています。海外では音声CMクリエイティブの研究が非常に進んでいて、独特な手法で音声を制作しているので、その辺りが日本でも進んでいくといいかなと思っています。

【デジタル音声広告市場規模推計・予測2019年―2025年】

(出典)デジタルインファクト調べ

江口
石井さんが注目している広告クリエイティブやフォーマットはありますか。

石井
双方向広告は、今後力を入れていきたいところですね。最終的にはスマホの中ではなく、車内とか、目や手が使えないところでも実践できるといいかと考えています。

江口
音声広告技術において、注目の動きはありますか。

石井
ポッドキャストの再生数はダウンロード数でカウントされ、実際に聴いたかどうかまではわからず、効果検証やターゲティング技術の活用に至っていないので、開発の余地はまだまだあると思います。
音声広告は、ネイティブアドと言われるコンテンツ自体に広告が入り込んでいるものと、インストリーム型広告という、コンテンツの中間や終わりに広告を入れ込んでいくものがあります。前者はラジオ同様、コンテンツの送り手が広告も読むので、その信頼感が圧倒的に高く、非常に商品は売れるそうです。ですから機械化し、ターゲティングして埋め込めばいいという話でもなく、信頼しているパーソナリティの声で広告を伝えるというアナログ的な側面も重要なのかなと思います。また、「音の広告はブランド想起率が高い」、「親近感を覚えやすい」というのはここ数十年にわたって言われてきているので、科学的な研究も進められているところです。

江口
なるほど。アメリカの場合、音声広告を活用している企業にD2C企業が多いというデータを見たことがあります。確かにニッチなファンに刺さりやすいという側面はありそうですね。

石井
D2C企業にはブランドの固定ファンがいますから、その人たちのファン度を高め、より深く刺さるような音声広告ならではの効果を活かしていて、すごく納得感があります。

■検索、拡散の課題を解決し、市場をスケールアップさせる

石井
最後に、音声の課題として、現状では検索の仕組みができていないということがあります。音声の検索、それから拡散の仕方も今後重要なポイントになるでしょう。イスラエルの音声テクノロジーの企業の技術に、音声コンテンツの内容がすべて文字化・タグ化されることで、検索や拡散がしやすくなるというシステムがあります。日本でもこの動きが進んでいけば動画と同様、音声コンテンツも検索できるようになるでしょう。そうするとまた市場に変化が起きそうですね。

市川
以前石井さんは、「良い音声コンテンツとどう出会うか」も大事だとおっしゃっていました。検索、拡散が可能になれば、それも解消できそうですね。

石井
そうですね。そうしたデジタル技術によっても音声コンテンツと出会いやすくなるでしょうし、アナログ的な手法でもさまざまなプレーヤーが日本の音声コンテンツ市場を盛り上げる動きに出ているわけですが、業界全体としても、市場をつくるために協働する動きが同時進行で起きています。いずれにしても、今後しばらくは目が離せない状況です。

野田
もともとラジオが持っていた、音声によってファンとの絆を深める力というものを基点に、今後イノベーションが起こっていきそうですね。

市川
2019年くらいから音声メディアに関するさまざまなリリース、動きが出てきていて、その盛り上がりは感じていました。既存のラジオ局にとっては追い風になるでしょうし、まったく新しい音声メディアが新しい市場を切り拓いていく可能性もある。我々としては昔から培ってきたラジオ局との関係性を軸に協業が進められそうですし、新しい音声メディアともどんなことが一緒にできるのか楽しみになりました。

江口
ラジオ局が、ラジオにとどまらず音声コンテンツという広い領域でさまざまな可能性を模索していることがわかりました。生活者側としては、動画と音声の役割がどう分かれていくのかにも注目しています。3Dの音響効果などを駆使し、音声でしかできないことを追求していくことも、今後音声コンテンツ市場を広めていくには重要なのではないかなと思いました。

野田
皆さん今日はありがとうございました。

※Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)
博報堂DYメディアパートナーズとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムが、日本、深圳、シリコンバレーを活動拠点とし、AdX(アド・トランスフォーメーション)をテーマにイノベーション創出に向けた情報収集や分析、発信を行う専門組織。両社の力を統合し、メディアビジネス・デジタル領域における次世代ビジネス開発に向けたメディア産業の新たな可能性を模索していきます。

石井忠典
博報堂DYメディアパートナーズ ラジオ局 オーディオビジネス開発部 部長
2001年博報堂入社。金融・食品・化粧品等、数多くのスポンサーの主にダイレクトマーケティング事業に関わる。膨大な量にのぼるデータ分析と、それをふまえたプランニング・クリエイティブ開発、効果検証を含めたPDCA運用により、事業拡大に貢献。2017年より現職。オーディオ(音)に関わるすべての領域でコンテンツ・テクノロジー・データを掛け合わせて新たな稼ぎ方・ルールを創り出すべく、日々チャレンジを続けている。

野田絵美
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、食品やトイレタリー、自動車など消費財から耐久財まで幅広く、得意先企業のブランディング、商品開発、コミュニケーション戦略立案に携わる。生活密着やインタビューなど様々な調査を通じて、生活者の行動の裏にあるインサイトを探るのが得意。2017年4月より現職。生活者のメディア生活の動向を研究する。

市川修平
博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局 情報マネジメントグループ
2007年博報堂DYメディアパートナーズ入社。新聞局にて大手新聞社のメディアバイイングを担当した後、i-メディア局に異動し、伸長著しい運用型広告の業務領域に携わる。現職では音声メディアに限らず、ナレッジ開発や、各種メディアのイノベーション・DXの動向を追い続けている。

江口英里
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 研究開発局 広告技術研究室
2018年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社。広告技術研究室にて最新テクノロジー全般の調査や広告業界団体の情報収集を担当。5G、音声広告、ヘルスケアテックを個人調査テーマ(関心領域)としている。

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