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Media Innovation Lab
【Media Innovation Labレポート.15】 ペットの家族化により進化する、ペットテック・ペットメディア
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新型コロナウィルス感染症の拡大をきっかけに、日本でもアメリカでもペットを飼う人が増えています。ペット人口の増加にあわせて、「ペットテック」と呼ばれるテクノロジーを使った商品、ペットの健康まわりのサービスも盛んになってきています。そこで、ペットビジネスの最新動向について、博報堂DYメディアパートナーズグループ発のベンチャー企業としてペットビジネスを行うstepdaysのCEO実吉賢二郎と、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム兼Media Innovation Labの江口英里に、ナレッジイノベーション局兼Media Innovation Labの田代奈美が聞きます。

■ ペットビジネス急成長の背景とは

田代
まずはペット市場全体の現状について教えていただけますか。

実吉
2月に矢野経済研究所が発表したレポートによると、2020年度の日本のペットビジネス市場の規模は約1.6兆円で、前年比で約3.4%増となっています。例年は1%から3%の成長といわれていますから、コロナ禍でペットを飼う人が増えた影響が、伸び率の大きさに現われているといえるでしょう。外出の自粛などによって、自宅でペットと過ごす時間が増えたために、ペット用品も室内で使うものを中心に伸びています。今後のペット用品については、しばらくはプレミアム志向が続くと予想されています。旅行などが控えられ、その費用がペットに使われる可能性が考えられるからです。

田代
ペットビジネス市場が成長している背景には何があるのでしょうか。

実吉
よくいわれるのはペットの家族化です。かつて犬は家の外で飼うものでしたが、近年は室内飼いがメインになり、家族と同じような扱いを受けるようになりました。また、動物愛護法の改正によって、愛情を持ってきちんと飼える人にしか飼うことが許されなくなりましたので、その影響も背景にあると思います。ちなみに、日本でのペット飼育頭数は、2017年に猫が犬を上回りました。それに伴い、猫向けのサービスも増えてきています。

田代
ペットビジネス市場の内訳はどのようになっていますか。

実吉
半分はサービス分野で、約3割がペットフード関連です。変化としては、人間の赤ちゃんや子ども用のテクノロジーをペットに応用したサービス分野が伸びています。それから、ペットフードなどは他の業界同様、ECの割合が増えています。

田代
実吉さんのいるstepdays はどのようなペット関連ビジネスをしているのでしょうか。

実吉
動物病院と飼い主をつなぐプラットフォームの運営を行っていて、通っている動物病院を登録すると、病院からアドバイスやお知らせなどがくるといったCRMの機能を備えています。また、オンラインで予約や順番待ち、事前問診などができる機能もあります。その他に健康記録やQ&Aなどのコンテンツもあって、ふだんから使っているアプリに、病院からの大切なメッセージが入ったり、病院の予約ができたりするというイメージです。今後はオンラインでの診療相談や決済、ホームケアの物販などもできるようにしたいと考えています。

田代
次に、ペット向けサービスの広がりについて、江口さんから説明していただけますか。

江口
ペットテックは家庭向けと動物病院向けに大別できます。家庭向けには、さまざまな商品やサービスが登場しています。たとえば、餌やりを自動化する給餌器、トイレの回数を記録するデバイスや猫用の自動洗浄トイレ、鳴き声や心拍数などから感情分析をするウェアラブルデバイス、迷子防止のため詳細な位置情報を補足できるスマート首輪などがあります。また、個々のペットの栄養状態に合わせて、ペットフードをレコメンドしてくれるサービスもあります。総じて、ペットごとのカスタマイズが進んできているといえそうです。

 田代
ペットごとのカスタマイズとは、どのようなサービスがありますか。

江口
例えば、ペットの遺伝子情報をもとに、サプリメントの処方や体調管理のアドバイスを行うサービスや、遺伝子情報から疾病リスクを判定するサービスなどもあります。海外には、犬の口腔粘膜から遺伝子を採取して郵送すると、疾病リスクなどの診断結果を通知してくれるものもあります。このサービスで面白いのは、曾祖父の代までさかのぼって犬種を識別してくれることです。

田代
こうしたサービスは日本にもありますか。

実吉
遺伝子検査はありますが、医学的なエビデンスがないので、獣医学で認められるまでには、まだ時間がかかりそうです。

江口
stepdaysは、家庭向けペットテックと動物病院向けテックにまたがって位置していて、両者をつなぐ役割を果たしています。家庭向けペットテックと動物病院向けテックとを掛け合わせたものには、ペットの日々のアクティビティデータを病院での診断に活かしながら健康管理をするものなどがあります。日本動物高度医療センターが開発した「PLUS CYCLE」もそのひとつで、私の犬も使っています。これは、ペットの睡眠時間やジャンプの回数などのデータを動物病院で分析し、病気の早期発見や、治療後の回復傾向や薬の効果の確認などに役立てるというものです。

「PLUS CYCLE」を装着した江口家のチョコ

田代
使ってみて、飼い主として何か発見はありましたか。

江口
これまでは、ジャンプの回数や、いつ起きて、いつ寝ているかなどの日常の行動を把握できていませんでしたが、活動を数値で可視化できる点が新しい発見でした。また、ペットを動物病院で診てもらうときに、これまでは「昨日から元気がない」といった主観的な説明しかできませんでしたが、データで説明できるので、飼い主としては安心感があります。ペットは話せないので、お医者さんに症状や具合を具体的に伝えるのに苦労しますから、こういったサービスは助かります。

田代
そのほかに、保険についてはどうでしょうか。それぞれのペットに保険が必要となると、市場が大きくなりそうな感じがします。

江口
ペットの保険の比較サイトはありますね。

田代
人間の生命保険や自動車保険では、条件やデータによって保険料に差が生じたりします。ペットの保険でもそういうものが登場しそうですね。

江口
首輪につけたウェアラブルデバイスで犬の健康情報を計測し、それをもとに保険料を算定するというものも既に出てきています。

実吉
ペットに対する保険は、右肩上がりで加入が増えていますが、日本のペットの加入率は約7%。海外では20%~30%といわれているので、日本ではまだまだ伸びる分野だといえます。また、ペット用品、特にペットフードは同じものを買い続ける傾向があるので、サブスクリプションサービスと相性がよく、ECも伸びています。ペットフードは、喜んで食べるものが重視され、ニーズに合わせて細分化が進んでいます。最近の傾向としては、大量生産するドライのペットフードから、ウェットなもの、ナチュラルなもの、オーガニックのものなどに人気が移ってきています。

江口
添加物がなく、手づくりで安全性、鮮度が高いものへとニーズが広がっていますね。

実吉
冷凍で配送されているものもありますよ。

田代
本当に人間向けのサービスと変わりませんね。ほかに面白いサービスはありますか。

江口
里親探しのマッチングサービスや、散歩の代行サービスなどがあります。散歩では、距離を地図に表示したり、飼い主がアプリで犬の居場所を確認できたりします。

■さまざまな技術活用が想定されるペットビジネス市場

田代
ここで改めて使用されている技術について整理していただけますか。

江口
テックの領域を、認識・識別、計測、分析、自動化の4つに分けてみました。認識・識別の顔認識は、トイレの回数を記録するデバイスなどに使われていて、ペットの個体ごとの管理ができるようになっています。計測の圧力センサーは、ペットのジャンプの回数を計るのに使われています。分析の音声解析は、ペットの感情分析などに使うことが考えられています。これはペットの鳴き声を分析して感情を推定しようというものですが、正確性がまだ課題です。

田代
こうした技術は、どの分野に活用が期待できますか。

実吉
やはり健康管理ですね。オンライン化が進み、人間では遠隔診療や治療、処方が行われるようになってきているので、条件が整えばペットでも進むと思います。ただ、人間と違ってペットは話せないので触診が欠かせないためオンラインではできません。その点が課題ですね。

江口
人間向けの技術の転用ということでは、大手の消費財メーカーが、自社の技術を生かしてペット向け商品の開発を行っています。また、ペットの家族化を受けて、家電メーカーがペットの見守りカメラを出すといった動きもあります。

田代
子ども向け、高齢者向けと並んで、ペット向けの市場があるということですね。ペットは頭数が増えているし、1頭あたりの消費額も増えています。テクノロジーや企業ノウハウをペット向けに転用する企業が増えそうですね。

■1to1のアプローチが求められるペットマーケティング

江口
ペットテックは、AIやセンサーなどが進展したことによって進化しており、ペットの生態・行動データを取得することで、健康状態の可視化もできるようにもなっています。また、オンライン医療相談など、デジタル医療の進化も目立ちます。そして、定期宅配サービスなど、サブスクリプションを採用しペットや飼い主とのエンゲージメント向上を図るサービスも登場してきています。

実吉
最初に説明したように、ペットビジネス市場の規模は約1.6兆円で、大きいと思われるかもしれませんが、中身はかなり細分化されています。たとえばペットは、まずは大きく犬と猫とその他に分かれますし、犬も猫も種類でさらに分かれて、ペットフードもサービスも、ニーズもそれぞれ異なります。ですからマスマーケティングが難しく、きめ細かい対応が重要です。そうなると、1to1のアプローチが必要になり、それを可能にするペットテックの登場は大きなプラスとして働くはずです。そこでもっとも重要になるのがデータベースです。飼い主とペットに関する、セグメントされて、しかも網羅的なデータベースと、マーケティングの仕組みとを組み合わせることが、これからの業界の流れになると思います。

田代
データはセグメントされ、細分化されているので、食品や健康といった横串でまとめることが必要で、stepdaysでは健康が横串になっているわけですね。

実吉
そうです。動物病院を介して、飼い主やペットのデータベースをつくることがねらいです。

田代
ところで、さまざまな業界には業界団体がありますが、ペットビジネスにはあるのでしょうか。

実吉
業界団体としては獣医師会があり、東京獣医師会がもっとも大きな団体です。獣医師会では、ペットにマイクロチップを埋め込んでデータをとろうという取り組みをしています。マイクロチップの埋め込み自体は、法律によって今年から義務化される予定です。埋め込んだマイクロチップは、当面は迷子捜しに使う予定ですが、将来的には健康データを蓄えて活用するそうです。

田代
ペットビジネスにとって、今年は潮目が変わる年になりそうですね。

実吉
その可能性はありますが、デジタル化にはまだまだ時間がかかると思います。デジタルが苦手な高齢の飼い主も多いですし、いまだにファックス文化の動物病院も少なくありませんから。

田代
デジタル化には時間がかかるかもしれませんが、ペットビジネスには進化の余地がたくさんあることがわかりました。
今日はお2人ともありがとうございました!

※Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)
博報堂DYメディアパートナーズとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムが、日本、深圳、シリコンバレーを活動拠点とし、AdX(アド・トランスフォーメーション)をテーマにイノベーション創出に向けた情報収集や分析、発信を行う専門組織。両社の力を統合し、メディアビジネス・デジタル領域における次世代ビジネス開発に向けたメディア産業の新たな可能性を模索していきます。

実吉賢二郎 
株式会社stepdays CEO
2000年博報堂入社。8年間の営業職を経て博報堂DYメディアパートナーズ内新規事業開発を行う部門へ。大手携帯キャリア、コンテンツホルダー、出版社、通販会社、デジタル系媒体社等との協業によるサービス開発を手掛ける。グッドデザイン賞、キッズデザイン賞社内では社長賞(2年連続)、社内コンペ金賞など受賞多数。

江口英里
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社 イノベーション統括本部 研究開発局 広告技術研究室
2018年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社。広告技術研究室にて最新テクノロジー全般の調査や広告業界団体の情報収集を担当。5G、音声広告、ヘルスケアテックを個人調査テーマ(関心領域)としている。

田代奈美
博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局 情報マネジメントグループGM兼Media Innovation Lab(メディアイノベーションラボ)サブリーダー 
1996年博報堂入社。テレビ局、メディアマーケティング局、博報堂香港、メディアビジネス開発センターなどを経て、2019年よりナレッジイノベーション局でメディアやテクノロジーのグローバルトレンドを研究。

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