コラム
Media Innovation Lab
中国新興ブランドの実態と最新情報
【Media Innovation Labレポート.21】
COLUMNS

成長著しく、続々と登場してきている「中国新興ブランド」。その実態と最新情報について、深圳在住のMedia Innovation Lab(メディアイノベーションラボ※)の現地メンバーである北京迪愛慈広告有限公司(北京DAC)の汪 曦と、上海在住で博報堂生活綜研(上海)の包 旭に、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 兼Media Innovation Labの原田俊が聞いていきます。

■中国市場で注目の消費財ブランド

原田
日本国内でも韓国コスメに続く形でPerfect DiaryFlower Knowsといった中国コスメが店舗に並ぶようになっていますし、米国でアプリダウンロード数1位になったアパレルECのSHEINや、Anker、DJIといった家電も注目されています。スマホブランドも、Xiaomiをはじめ、すでにグローバル化したものや東南アジアやインドで人気を得ているものがあります。
今回はさまざまな領域で注目すべき中国の新興ブランドの最新情報をうかがえたらと思います。汪さんは中国・深圳にてリサーチ活動などの業務を担当されています。また包さんは中国・上海にて消費者研究などの業務を担当されています。
ではまず包さんからお願いします。


XGIMIJMGOというプロジェクターブランドは、テレビやスマホ用のスマートシステムをプロジェクターに搭載することで、今までのプロジェクター業界を革新させたブランドです。中国では明るさへのこだわりといったことよりも、いかにスマート機能が搭載されているかが商品の良し悪しの新しい基準になっています。もともと中国は日本より部屋が広く数も多いので、テレビは1部屋に1台だったのですが、お金がかかるし場所も取る。そこでバッテリー内蔵で持ち運びできるプロジェクターを、リビング、寝室、と持って移動する使い方が普及しているのです。最新のOSやさまざまなアプリも搭載されていて、特に若者はテレビではなくこのプロジェクターで観るという状況です。音声システム入力もあり、子どもの音声で入力すると子どものインターフェースに、老人の声では老人向けのインターフェースになり、文字の大きさ、画像、お勧めコンテンツも変わります。このように画質よりもシステムの競争になっているのが中国市場で、人口も多くビッグデータがたくさん蓄積できることが中国企業の大きなメリットとなっています。

健康領域では、Keepというアプリが自宅トレーニング用のサービスを提供していましたが、オンラインからオフラインへ、リアル店舗も展開しています。オフラインの評価はオンラインの口コミで拡散するので店頭広告も必要ない、という新しいスタイルのジムとして注目されています。ジムのアプリにもう一つSUPER MONKEYがあります。サブスク型ではなく1回利用ごとの料金設定で、ボクシングやジョギング、サイクリングなどを予約して、リアルのジムに行く。一つの部屋に10人から20人くらいが入り、インストラクターの指導のもとエクササイズを行ったら最後に参加者で集合写真を撮り、グループチャットで交流も行う。各自がSNSで発信しそれがまた宣伝になる…という形式で流行っています。サブスク型では足が遠のく人も、一回ずつの支払いでは気軽に行きやすいようです。

多くのアプリサービスはまずオンラインで店舗やサービスをつくってからオフラインでユーザーを取り込もうとしますが、現状ではオンラインが飽和状態になりつつあります。そこで、まだタッチしていないユーザーとオフラインでいかに接点をつくるかが各企業の課題になっています。

原田
なるほど。消費財系、たとえば食品や飲料、飲食店ではどのようなブランドがありますか?


钟薛高というアイスクリームのブランドは、従来のアイスクリームより価格は高めですが、珍しい味など、毎月新しいフレーバーを出して話題づくりを行っています。パッケージングでもさまざまなIPやブランドとコラボしていて、限定商品なども販売しています。中国では政策の一つに健康促進もあって、プロテインやゼロ糖質、ゼロカロリーといったラベルのついたブランドがどんどん台頭してきています。ffit8というプロテインバーは、ライブストリーミングを使ってオンライン販売していて、さまざまなカンファレンスや、セレブ、企業CEO、アイドル、フィットネス系KOLなどを使ってのオンラインプロモーションを進めています。

原田
中国には喜茶奈雪の茶といったミルクティーの人気ブランドもありますね。


深圳では、2000年以降に生まれたZ世代の若者はコーヒーよりミルクティーをよく飲むと言われています。


上海でもミルクティーは特に女性に人気です。コーヒーチェーンでもManner Coffeeというブランドがあって、ここも非常にコラボレーションに力を入れています。それは、若い世代はテレビを見ておらず、趣味のネットワークでつながっているので、コラボによって趣味のチャネルを通していかに情報を消費者に届けていくかが新興メーカーのマーケティング手法になっているからです。ほかに、SATURNBIRDというインスタントコーヒーは非常にインスタ映えすることで話題です。コーヒーにはおしゃれというイメージがあり、さまざまなコラボも出てきて、ファッション的に楽しまれているので、これから市場が大きくなる感じがします。


Manner Coffeeはマイカップを持参すると割引されるので、エコ意識も満たせるしコスパがいいのも評判ですね。先日私のオフィス近くのManner Coffeeが開店1周年記念で、マイカップ持参で無料になるというキャンペーンを行っていましたが、ものすごい行列でした。

■情報チャネルは世代で断絶し、Z世代はゲームが中心

原田
新消費財のこうした動きの中心にあるのはやはりZ世代でしょうか。


90年以降に生まれた人がメインですね。それより上の年齢層とは接触している情報チャネルがまったく異なっていて、新興メーカーは主にSNSを使って情報展開しています。メディアをきっかけとする世代断絶があって、互いに認識しているブランドがまったく違います。


ソーシャルのチャネルも違いますよね。若い世代はゲームアプリ経由でチャットをしたりグループをつくったりしていて、仲良くなったらオフラインで会うというケースが多いです。


特にTencentはWeChatなどのチャットツールも持つので、ゲーム内のソーシャル機能に非常に強いですね。一度ボタンを押すだけで、ゲームでチームを組んだ人と同じグループチャットに入れるとか、人間関係がすぐつながるようになっています。ゲーム内ではそれほど話さなくても、WeChatに飛んでから話すことが多いようです。

原田
確かにそれは非常に便利ですね。


グループチャットの人間関係があると、ゲーム内でより長く遊ぶことになると思います。そういう特性を利用してユーザーを取り込み、ロイヤリティーを上げていく戦略だと思います。QQアプリ(日本のLINEのようなチャットアプリ)は検索機能でゲーム名を一つ検索するとさまざまなグループチャットが出てきて、簡単に入ることができます。上海の何々区など、エリアも分かれているので、同じ地域のグループチャットに入ることで人間関係が急速に広がっていく形です。

原田
中国の若者が多く利用するゲームプラットフォームを通じて、ブランドが若者にリーチしたいと思った場合、どういう方法がありますか。


一つはeスポーツの協賛が大きく、メーカーがチームのスポンサーになっていて、ユニフォームにロゴを入れていたりします。協賛の規模もさまざまで、ゲーム内に自社製品を入れたり、期間限定でゲーム内容のパッケージにしたりしてユーザーを取り込んでいます。

原田
なるほど。ネイティブなインゲーム広告やマーケティング手法が中心で、バナーや動画広告はそれほど主流ではないのですね。日本ではゲームプラットフォーム上の広告はユーザー数に限界があるのでスケールしないのではないかという懸念がありますが、中国では何億という人が利用しているので、スケールの問題はありませんね。


そうですね。ユーザー数が圧倒的に多いので、あるレポートのデータ(※)から見ると、2020年中国のゲームユーザー数はおよそ6.7億人で、かなりの規模になっています。またそもそもテレビ離れしているので、特定の趣味のつながり(コミュニティ)の方が広告との親和性も高くなります。さらにバナー広告に関しても、EC外はブランディング、EC内は販売促進というように役割を分けて使われています。
※データ出典:中国音数协游戏工委与中国游戏产业研究院《2020年中国遊戯産業報告》
https://www.chinaz.com/2020/1217/1214297.shtml

原田
日本のメディアは、たとえば雑誌であれば、目指している方向性の微妙な違いによってそれぞれ異なるオーディエンスがついていましたが、そういう細かい違いでオーディエンスが細分化されているのではなく、ゲーム、コーヒーといった塊でマーケティングしている感じでしょうか。


日本は成熟市場ですから細かい差別化が必要でしょうが、中国は成長市場で、大手は割と予算も持っているので、多くの人にどんな風に見てもらうかが一番重要です。差別化も必要ですが、それ以前にまずはどれだけ話題になり多くのオーディエンスを集められるか。企業からの相談でよくあるのが、まずターゲットはざっくりとしか決めずにブランドを打ち出し、1年ほど活動した後にどういう客が来ているかを分析し、そこからターゲットを変更したりブランドの価値構成を変えたりしていくというものです。マーケティングの順番が全く異なると感じています。また、先ほどから触れているようにZ世代のゲーム愛好者は情報接触チャネルが伝統的なマス広告から離れていて、発信力が高い。彼らによる情報拡散によって広告のコストパフォーマンスを高めることが狙えます。ほかに日本と異なる点は、中国人は広告よりも第三者からの情報を重視するので、ソーシャル系が強いことが挙げられます。

■新興ブランド≠D2C。成長市場発の新たなグローバルブランド

原田
KOLを使うことやソーシャルを意識したコンテンツマーケティング、データを使ったプロダクト改善などはD2Cと同じですが、目指しているボリュームが全然違うのですね。


まず市場規模を獲得し、その後どう利益を出せるかを考える。ビジネスモデルの考え方がだいぶ異なりますね。
先日、日本に進出したいという英会話アプリの制作会社の話を聞いたのですが、中国国内は競合が多いし、中国で貯めてきたビッグデータを海外で活用し市場開拓につなげたいということでした。英語アプリもゲームアプリも直接海外でリリースするようになってきています。

原田
新興ブランドというのは「中国版D2C」の動向だと思っていましたが、成長市場である中国から生まれた新しい「マスブランド」なのですね。
ほかにも、中国ブランドにおけるトレンドはありますか?


新興ブランドではありませんが、これまで固いイメージだった故宮のような博物館や企業がブランドを若返りさせるという目標のもと、どんどんECでコラボを始め、リブランディングを進めています。こうした風潮を主導しているのはやはり若者世代中心の市場です。若い世代は完全に新しい消費価値観を持っていて、伝統的な広告の影響力は弱まっているので、企業としてもまずはソーシャルで一番発信力のある若い人からとっていき、そこから周囲の30代、40代の大人にも波及させるという戦略をとっています。

原田
新しい世代の価値観に合わせてブランドの提供形態やマーケティングの在り方をデジタルシフトしていくのは、D2Cブランドというより、世の中のブランド全体のトレンドと言えそうですね。こうしたトレンドについて汪さんはどう捉えていますか。


トレンドを誰が誘導しているかについては、資本家やVCが後押ししていると感じます。VCはコンサル会社のアドバイスを受けて資本を投じ、あらゆるプロモーションでユーザーを集め、そのデータに基づいて宣伝するという循環になってきているのです。

原田
なるほど、資本家やVC、コンサル会社の動きによって、新興ブランドをつくってから成功させるまで「再現」できるようになっているのですね。


そうですね。ただし、最終的にはその会社が市場や社会にとって本当に価値があるのかが基準になっていくと思います。すべての市場に参加している人たちに均等に利益が分配されていくような形が今後の市場の理想像のような気がします。

■新興ブランドへのバックラッシュとしての「高質量発展」


中国では、当初は新消費財やSaaS関連への投資が盛り上がっていたのですが、GDPを増やそうと政府が掲げている「高質量発展」という政策に「共同富裕」というスローガンも加わり、サステナブルな発展や、利益が均等に還元されるような成長を目指す動きとなっています。ブランドもそれに合わせて戦略シフトをする必要が出てきています。
あるミルクティーのブランドも一時は国内各地で精力的に店舗展開していてファンドに注目されていたのですが、本質的な市場バリューや経営のサステナビリティが疑問視され始め勢いを弱めています。教育関連でもコロナ後に盛り上がったブランドがいくつかありますが、そもそも子どもたちは授業以外にも毎日何時間も勉強をしなくてはならない風潮があり、子どもへの負担が問題視されていました。さらにそうした教育費が親にも負担になっていて、結果的に少子化の遠因になっているとして政府から規制が入りました。

原田
日本では教育関連事業はあまり規制をかける対象として見られていません。その辺りに中国ならではの事情があるのは面白いですね。


いま中国政府は独占禁止法を頻繁に出していて、大企業による囲い込みを防ぐことで市場の健康的な成長を促し、中小企業の成長の余地を残そうとしています。

■中国企業の海外進出支援ニーズの高まり

原田
最後に、今後の動向についてお2人の予測をお聞かせください。


現在、新消費財ブランドが中国国内で盛り上がっていますが、将来的には必ず世界へ展開していくでしょう。それは中国政府とブランドに共通する使命感です。日本もしくは東南アジア、アメリカへの展開やプロモーションにおいて、現地ローカルのエージェンシーへのニーズは確実にあるので、そこへ博報堂DYグループがどう対応していくのか考え始めるべきだと思います。


長い目で見ると中国も人口は減少していきますから、海外でどうサポートしていくかという点では日系企業にも大きなチャンスがあるのではないでしょうか。彼らは日本市場についての知識はほとんどありませんから、海外進出企業向けのセミナーなど、ニーズはあるはずです。特にオンラインベースで、海外市場を開拓しようという企業はたくさん存在しているので、我々のチャンスも大きいと思います。

※Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)
博報堂DYメディアパートナーズとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムが、日本、深圳、シリコンバレーを活動拠点とし、AdX(アド・トランスフォーメーション)をテーマにイノベーション創出に向けた情報収集や分析、発信を行う専門組織。両社の力を統合し、メディアビジネス・デジタル領域における次世代ビジネス開発に向けたメディア産業の新たな可能性を模索していきます。

汪 曦
北京迪愛慈広告有限公司(北京DAC) 兼Media Innovation Lab
2016年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社。グローバル部署で海外の最先端テクノロジーの導入を担当。2018年から北京DACに転籍。中国の深圳にて中国市場やアドテクノロジー調査を行いながら、中国企業とのアライアンス事業も推進。Media Innovation Labメンバーとして、深圳からの情報配信も行っている。

包 旭
上海博報堂 兼 博報堂生活綜研(上海) 、メディア環境研究所
2013年博報堂生活綜研(上海)に入社。社会環境の変化が激しい中国における生活者の消費行動、生活価値の変化を中心に、研究活動を行っている。コンセプト開発、市場調査などの業務を担当。 著書は「出格消費」(共著、2015)「数自力」 (共著、2018)などがある。2020年からマーケティングプラナーとして上海博報堂に異動。

原田 俊
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 研究開発局 広告技術研究室長
2008年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社。社内システムや広告配信ソリューションのインフラシステム開発・運用業務に携わった後、2012年より広告技術研究室にて国内外のアドテクノロジーおよび先端技術のマーケティングリサーチ、ビジネス企画業務に従事。また日本インタラクティブ広告協会(JIAA)やData Driven Advertising Initiative(DDAI)、情報法制研究所(JILIS)にて生活者のプライバシー保護を推進。

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