コラム
Media Innovation Lab
【Media Innovation Labレポート.5】 世界のゲームビジネス最新動向
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旧来のイメージとは異なり、技術・ビジネスの両面で大きな進化を果たし、近年その存在感を急拡大させているゲーム市場。世界各国のゲーム開発者が米国に集う国際会議、Game Developers Conference(GDC)のトピックスや最新動向について、イノベーションセンター 兼Media Innovation Lab(メディアイノベーションラボ※)の吉田弘とデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 研究開発局兼Media Innovation Labの永松範之に、博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局兼Media Innovation Labの島野真が聞いていきます。

■日本型pay to winから、世界の潮流はpay to funへ

島野
今なぜ、ゲーム市場は注目に値するのでしょうか。前提となるゲーム市場の現状や変化について教えていただけますか。

吉田
昔からあるコンソール系の市場やPCゲームの市場が比較的安定して続いてきた中で、この10年ほどの間にスマホゲームが登場し、非常に大きな市場を形成しました。それから、ゲームプレーヤーがスポーツ選手的な存在となり、観客がそれを観て楽しむといったeスポーツというジャンルも定着。その周辺には当然新たなビジネスチャンスも生まれるし、あるいはメディアビジネスとしての価値の再活性化も考えられます。

永松
日本のスマホゲームでは、勝つために課金するいわゆるpay to winの課金モデルが主流でしたが、グローバルで最近伸びているのは、いわゆるアバターのスキンやアイテムのように、ゲーム内の自分のキャラクターの見た目に課金するpay to funという支払方式です。これが全世界的に伸長しています。

島野
通常2-3月に開催されるゲーム開発者の国際会議「Game Developers Conference(以下GDC)」が今年は8月開催となりましたが、今年のトレンドはいかがでしたか。

吉田
そもそもGDCは、あくまでもゲームデベロッパー向けの会議で、ソニーやマイクロソフト、VRでいうとFacebookなどが出展/登壇し、新しいゲーム開発言語や知識など、ゲーム開発関連の最新情報がシェアされてきました。最新技術が体感できるような展示が例年好評で会場も大いに賑わうのですが、今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響でオンライン開催となり、当初予定されていたメジャーなプレーヤーは軒並み欠席となりました。とはいえ今年も当然新しいゲームがたくさん出るし、特に11月にはプレイステーション5やXboxの新商品発売が予定されていることもあり、各セミナーは非常に充実していた印象です。

現在世界のゲーム市場はおおよそ14兆円ほどですが、そのうち8兆円はスマホゲーム。PC、コンソール系のゲームは頭打ち状態と言えます。スマホゲームの場合、先ほどのpay to win、pay to funといった課金体系がビジネスモデルとして確立していて、継続的な課金ができているのが大きいですね。

永松
こうしたビジネスモデルは、ガラケー時代に日本で普及したもので、それがスマホ時代に世界に拡大していきました。スマホゲームへの課金額も日本が圧倒的ですが、最近は中国、アメリカがぐんぐん伸びてきているところです。

島野
スマホゲーム市場で注目すべきポイントはどのような点になりますか。

吉田
現在スマホゲームに課金するとプラットフォーマーに支払われている3割ほどの手数料が昨今問題視されていることです。これまでアプリビジネスの暗黙の了解となっていましたが、近年手数料が1割程度の新たなプレーヤーも出てきたことで、にわかに話題になっています。これまで市場を独占していたアメリカのプラットフォーマーに対抗し、中国の主要端末メーカーが連合を組んで、独自のマーケットをつくろうとしていて、ビジネスモデルでの主導権争いは激化しつつあります。
また、一昔前の携帯やスマホはスペックに限界があったので、シンプルなパズルゲームなどが主流でしたが、最近はスマホのスペックがPC並みになってきたこともあり、ここ1、2年は「Fortnite」や「PUBG」といったいわゆるeスポーツの題材にもなるようなゲームがスマホでもできるようになりました。そこに、pay to fun的なビジネスモデルもあり、生活者はキャラクターのコスチュームをいろいろと買うなどの楽しみ方をしているようです。

永松
「Fortnite」や「PUBG」などは特にスマホゲームに移行してからの成長が非常に著しいため、売上のうちベンダー側への手数料などが発生することへの抵抗感は強まってきています。PCゲームとして販売していた時は必要なかったので。
そして技術的な傾向で言うと、昨今はUnityやUnreal Engineといったゲームエンジンの利用が一般化してきていて、PCゲームやコンソールゲームを開発すると、ほかのプラットフォームや異なるデバイスの環境にも適応させやすくなってきています。開発の時点で、マルチプラットフォーム対応が前提になりつつあるという状況です。

■ジャンル別に見る要注目の市場動向

島野
サービスや商品の課金モデルではサブスクリプション型が近年注目されていますが、ゲーム市場ではいかがでしょうか。

吉田
主流はあくまでもpay to win、pay to funの課金モデルで、月額で払うモデルはあまり受けていませんね。というのも、サブスクリプションのメリットは何種類ものゲームがやり放題になる、ということだと思いますが、そのニーズはクラウドゲームがカバーすることになると思います。ただし、現状はまだ期待されているほどクラウドゲームは普及していませんね。

永松
クラウドゲームはサーバ側で処理をすべて行うので、ゲーム機の種類やスペックに左右されないというメリットがあります。一方で、クオリティを高めようとするほど遅延なども発生しています。格闘系のゲームなどでは小さなタイムラグでもゲームのクオリティに直結するため、いかに遅延を感じさせないかという点が重要になります。個人的には、今後10年くらいかけて発展していくものかなと捉えています。

吉田
その点で、日本でも今年からサービスが開始された5Gは低遅延も特徴の一つであり、ゲームとは相性がいいはずです。回線だけで解決する問題ではありませんが、実際にモバイルのネットワーク側とプラットフォーム側などでさまざまなアライアンスは進行中ですし、要注目です。

島野
VRやARも、一時非常に盛り上がりましたがその後どうでしょうか?

吉田
伸び率は非常に高いですが、まだまだ拡大は限定的です。ただ性能がよいVRゴーグルが発売されるなど、動きは出てきています。VR市場としては今のところ医療や建設現場と言ったBtoBが大きいですが、BtoCのモデルで使われているソフトは多くがゲームタイトルらしいです。内容としてはシューティング系が多いですね。

永松
目新しいので僕もVRゲームを試したりはしますが、やはり少し疲れてしまって継続が難しい。VR空間でなければならないゲームコンテンツというものを、これからどう作っていくかも課題ではないかと思います。そこの壁を突破できれば、VRゲームももっと普及していくのではないでしょうか。

■今再び期待が高まる「ゲーム内広告」市場

島野
最後に、ゲームを「多くの人が集まり共通の体験を長時間共有する場」と捉えた場合に、企業のマーケティング活動を行う媒体としてどのような可能性があるか教えていただけますか。

吉田
コンソール系のゲームが主流だった時代にも、たとえば車のラリー系のゲームで、ラリー中に見かけた看板が広告になっているといったことはすでにありました。現在、ユーザーが増加傾向にあり、かつターゲットも比較的若いので、テレビを補完するような広告メディアになりうる可能性が高いという話は出てきています。熱中しているときに出てくるのでエンゲージ力もある。
ゲームの世界はまるごとデジタルで入れられるので、技術的にはそれこそバナーを入れるような形で、DSPで広告配信するといったことも可能。米国ではすでにスタートアップも何社か出てきています。ただ、本当にそれが市場として成立するかどうかはまだ何とも言えないのが実情です。そういう意味ではすでにeスポーツが先行していて、先日は大きな大会に一流自動車メーカーが後援につきました。一昔前なら考えられないことです。ただ、同じゲームと言ってもeスポーツはスポーツの一種と扱われていて、比較的ライトな層も視聴していますが、ゲーム内広告の場合はゲームをしている人が対象となるため、区別する必要はあるでしょうね。

永松
実際2005年頃にも、オンラインゲームの盛り上がりの中でゲーム内広告が注目を集めた時期がありました。ただ、普通のメディアともっとも異なるのは、ゲームクリエイターやゲーム開発者の好みや意向が強く影響すること。そのため広告ビジネスとして出来ることに制限が多いという側面がありました。でも最近になって、DSPやSSPといった、よりプログラマティックに広告を展開する技術が進んだことで、広告ビジネスの拡大に対する期待感はまた膨らみ始めたといったところです。

島野
ゲームという作品全体の世界観と広告をどう考えるかは課題としてありつつ、これからどう解決していけるか、見ていく必要がありそうだということですね。

吉田
今年春に行われた「Fortnite」のライブイベントに1230万人集まったことを考えても、得意先視点からすると間違いなく非常に注目度の高い市場だと思います。ゲームの世界観に合致するかという懸念点はありながらも、先ほどのeスポーツの大会の例のように、ラグジュアリーブランドが入ってくる余地も十分にあります。そもそもゲームはフルデジタルですから、デジタル化した世の中には非常にマッチする広告メディアと言えるでしょう。

島野
なるほど。技術の進化によって、ゲーム市場を取り巻く環境も大きく変化していることがよくわかりました。ゲーム機の処理能力だけでなく、クラウドや通信環境の進化によって、メディアとしても広告市場としても目が離せませんね。
お二人ともありがとうございました。

※Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)
博報堂DYメディアパートナーズとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムが、日本、深圳、シリコンバレーを活動拠点とし、AdX(アドトランスフォーメーション)をテーマにイノベーション創出に向けた情報収集や分析、発信を行う専門組織。両社の力を統合し、メディアビジネス・デジタル領域における次世代ビジネス開発に向けたメディア産業の新たな可能性を模索していきます。

 

吉田 弘
イノベーションセンター
1988年博報堂入社。事業局、研究開発局を経て、2004年より博報堂DYメディアパートナーズへ異動。メディア環境研究所長、メディアビジネス開発センター長を経たのち、2018年よりイノベーションセンター(シリコンバレーオフィス)エグゼクティブディレクター。20年より、Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)海外拠点リーダーを兼務。

 

永松範之
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 研究開発局長
2004年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社、ネット広告の効果指標調査・開発、オーディエンスターゲティングや動画広告等の広告事業開発を行う。2008年より広告技術研究室の立ち上げとともに、電子マネーを活用した広告事業開発、ソーシャルメディアやスマートデバイス等における最新テクノロジーを活用した研究開発を推進。現在はAIやIoT、AR/VR等のテクノロジーを活用したデジタルビジネスの研究開発に取り組む。専門学校「HAL」の講師、共著に『ネット広告ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター刊)等。

 

島野 真
博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局局長 兼 Media Innovation Lab(メディアイノベーションラボ)リーダー
1991年博報堂入社。主にマーケティング部門に在籍し、飲料、通信、自動車、サービスなど各企業の事業・商品開発、統合コミュニケーション開発、ブランディング業務を担当。2012年よりデータドリブンマーケティング領域で、マーケティングとメディアを統合した戦略立案・推進の高度化、DX推進に従事。2020年より博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局局長。メディア環境研究所所長兼務。共著:『基礎から学べる広告の総合講座』(日経広告研究所)

 

【関連情報】
★【Media Innovation Labレポート.1】米国動画配信サービスの最新動向
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★【Media Innovation Labレポート.3】 「投げ銭」市場最前線(前編)
★【Media Innovation Labレポート.4】 「投げ銭」市場最前線(後編)

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