コラム
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【Media Innovation Labレポート.17】知っておきたいNFTの最新事情とビジネスの可能性(前編)
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最近デジタルアート作品のオークションなどで注目度が高まりつつある、ブロックチェーンを活用した新技術「NFT(Non-Fungible Token)」。あらためて、NFTとはどのような技術で、なぜ注目に値するのか、またメディアやコンテンツビジネスの視点からどのような可能性があるのかを、博報堂DYメディアパートナーズ ミライの事業室の高橋信行とデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 研究開発局兼Media Innovation Lab(メディアイノベーションラボ※)の永松範之に、博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局兼Media Innovation Labの島野真が聞いていきます。

■コピペが当たり前のデジタルの世界で個性を表現できる革新的技術

島野
NFTによってデジタルアート作品や著名人のツイートが高値で取引されるなど、新たなコンテンツ市場の萌芽を予感させるニュースが相次いでいます。注目の新技術「NFT(Non-Fungible Token)」について、その実態と可能性などについて紐解いていけたらと思います。
まず高橋さんは、数年前からブロックチェーンについてのさまざまな社内プロジェクトを進めていますね。

高橋
僕は2017年、当時、デジタル猫「CryptoKitties」の非常にレアなKittieがおよそ1,300万円で売れたというニュースに驚き、いろいろと調べた結果、初めてNFTについて知りました。その革新性に感銘を受け、以来、ブロックチェーンにずっとはまっている状態です。そのため、最近の盛り上がりは自分にとっては若干「いまさら」な感じもしますね(笑)。

島野
そうだったのですね。永松さんはいつ頃からNFTに注目していましたか。

永松
僕は2016年頃にブロックチェーンの調査を始め、主にマーケティングの領域において何かビジネス活用できないかと模索してきました。最近NFTへの注目が高まっていることもあって、調査の視点がNFTに切り替わっているところです。

島野
なるほど。では改めて、NFTとは一体何なのか、基本的なところを教えていただけますか。

高橋
NFTはNon-Fungible Tokenの略で、非代替性トークンを意味します。そもそもトークンとはブロックチェーン上に刻まれたデジタルデータのことで、大きく分けると2種類存在します。一方がFT(Fungible Token)、つまりBTCやETHなど、代替可能な暗号通貨や仮想通貨といわれるものを指し、もう一方がNFT (Non-Fungible Token)で、代替不可能なトークン、つまりデジタル通貨以外のデジタル上の「モノ」全般を指します。例えば、500円玉は丸いですが、もし三角形や四角形の500円硬貨もあった場合、三角形が丸型よりも魅力的に感じる人もいるので500円玉を510円で取引するなどの差異が発生してしまいます。ですから通貨はすべて同じ形で同じ機能を持つ、代替可能なものでなくてはなりません。一方Non-Fungible(非代替性)であるNFTは、代替できないたった一つの「モノ」を意味します。デジタル上の唯一のチケットやキャラクターなど。コピペが当たり前だったデジタルの世界で、コピーできない個性が表現できるようになったことが、革新的なのです。

直近では、2021年3月にクリスティーズに出品されたデジタルアーティストbeeple氏のNFT作品が、70億円を超える価格で落札されたニュースがありました。これは将来教科書に載るくらいのインパクトがあった出来事ではないかと思います。それから同じく3月、Twitter社のジャック・ドーシーCEOの初ツイートが3億円超で落札されるというニュースがあり、にわかにNFTに注目が集まってきました。

島野
お2人が最初にNFTに注目したのが4年前で、なぜ今また急に注目を集めるようになったのでしょうか。

高橋
NFTを利用する際のUXが改善されたことは大きいと思います。NFTの売り上げ推移を見ると、実は今年1月くらいから少しずつ市場が拡大していることがわかります。この市場をけん引したのがアメリカのプロバスケットボールリーグ、NBAが始めたデジタルトレーディングカード「NBA TopShot」です。選手のスーパープレーなどをとらえた試合の動画ハイライトに個別番号がついていて、売買、取引できるというコンテンツですが、まったく仮想通貨だとは感じさせないようなUXで、クレジットカードでごく自然に購入することができるのが特徴です。

島野
そうなのですね。ただ、TopShotのサービス自体はそれ以前から始まっていたのに、なぜ今年1月頃から伸びてきたのか。何かきっかけがあったのでしょうか。

永松
仮想通貨全体の市場規模や価値が、今年に入ってから爆発的に拡大したことが影響してそうですね。

高橋
確かにそうですね。2020年8月頃から、仮想通貨を預けて金利を得る、定期預金のような仕組みDeFi(Decentralized Finance:分散型金融)が出てきました。それまではあくまで投機と見られていた暗号通貨に、「買って、預けて、金利を得て、儲かる」という新たなルートができたわけです。一度手に入れた暗号通貨を売らなくてもよくなり、持ち続ける人が増え、仮想通貨の価値がどんと上がった。次は何に投資しようか?という人が多く出てきたのが、去年の12月~今年の初めでした。それが下地となっていたかもしれません。

■つくり手が尊重されるクリエイターファーストの世界がやってくる

島野
こうしたNFTの盛り上がりは必ずしも本質的ではない、と以前高橋さんはおっしゃっていましたね。

高橋
はい。そもそもTwitter社のジャック・ドーシーCEOの初ツイートというのは、言い換えればデジタル万葉集の最初の1ページのような象徴的価値があるものと捉えられていて、それをふまえて、「名言のツイートをNFTにしてまとめていけば、NFTの価値が高まるのではないか」という、界隈にいる人たちの、ある意味ノリで始まったものです。ツイート自体は本人が簡単に削除してしまうこともできるし、NFTにすることの本質的価値は薄いと思っています。

島野
beeple氏の件はどうですか?デジタルアートも複製は可能ですが…。

高橋
デジタルアートもダウンロードしたら複製できるのは当然ですが、NFTが売っているのは画像ではなく所有権です。世界にたったひとつしかない所有権を持つということを、NFTが証明してくれることに価値があるのです。しかもあの作品は、beeple氏が10年間毎日1点ずつつくり続けたデジタルアートをコラージュしたもの。アーティストの個性と歴史が感じられる、世の中に唯一の作品ということでNFTとマッチしていたのであれだけの価値が出ました。

繰り返しになりますが、NFTの本質的価値は――それがどんなデジタルデータであれ――所有を証明できることです。ただ、所有の証明だけでは意味はなくて、それによって自慢できたり、賞賛されたりといった体験に紐づくことで初めて、価値が出てくるのだと思います。

島野
永松さんはNFTのどのような価値に注目していますか。

永松
所有することの価値、というだけでは一般的にはまだまだわかりにくさがありますよね。たとえば所有権プラス入手困難なチケットだったり、あるいは所有権プラス何か特別な権利だったり…というように、何かが付随することで本当の価値が出てくると思います。ですので、今後は「どう価値をつけていくか」を考えていくと面白いのではないかと思っています。

島野
そういえばNFTの特徴としてもう一つ、取引のルールを設計して入れておくことができる、“プログラマビリティ”もありますよね。最初にものをつくって販売した時だけではなく、その後転売されたとしても、創作した人に必ずお金が入るような仕組みがつくれるということにもなる。物事の取引の形を変えるチャンスにもなりそうです。

高橋
われわれ広告会社が間に入り、新しい企画やメディアにNFTを付加価値として加えることで、売り上げに貢献するような役割になっていくかもしれません。従来のビジネスモデルから、NFT販売の貢献度に応じてフィーが入るアフィリエイトのようなビジネスに変わっていくことも、十分考えられます。いずれにしても、二次流通以降のマーケットをコントロールできるようになるのは画期的です。
オークションサイトやフリーマーケットサービスでは、「商品を送ったけどちゃんと支払われるだろうか」とか、逆に「お金は振り込んだけどちゃんと商品は届くだろうか」というユーザーの不安が根本にあり、それを解消するために、信用に足る企業が取引を代行しているわけです。

でもこれは、極端な言い方をすれば、企業を信用することを強制されているような状態ともいえます。一方NFTやスマートコントラクトの仕組みは、第三者を介在せずに取引ができ、企業が今まで使ってきたセキュリティやメンテナンスの人件費を圧縮できます。この信用コストが、コンテンツをつくった人にきちんと還元されていくことになれば、ゆくゆくはコンテンツドリブンの世界がつくられていくだろうという期待があります。

島野
クリエイターファースト、つくり手がきちんと尊重される世界になっていくということですね。クリエイターエコノミーの重要性を語るプラットフォームが増えていますが、NFTも同じ流れの中にあるのかもしれないですね。

高橋
クリエイターエコノミーの重要性を説く人たちは、すべからくトークンエコノミー、ブロックチェーンの仕組みの公平性に共感し、活用していくだろう思います。

永松
確かにそうですね。やはりこれまでは、創作物が、一次、二次、そしてn次と流通していく場合、きちんと履歴や権利を管理し保護していくことが難しいという課題がありました。なぜならその管理や運営にコストがかかるし、複雑だったからです。でもNFTを活用することで有効な仕組みができ、それらがクリエイターの間に浸透していけば、新しい市場の広がりや、全体の取引の活性化にもつながっていくかもしれませんね。

(後編に続く)

※Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)
博報堂DYメディアパートナーズとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムが、日本、深圳、シリコンバレーを活動拠点とし、AdX(アド・トランスフォーメーション)をテーマにイノベーション創出に向けた情報収集や分析、発信を行う専門組織。両社の力を統合し、メディアビジネス・デジタル領域における次世代ビジネス開発に向けたメディア産業の新たな可能性を模索していきます。

髙橋信行
博報堂DYメディアパートナーズ イノベーションセンター ミライの事業室
2016年博報堂DYメディアパートナーズ入社。入社以来メディアプラナーとして企業のキャンペーンやブランディングをプロデュースする業務に従事。2019年よりイノベーションセンターに所属し、XRやブロックチェーンなど、新技術を応用した事業開発を複数手がけている。

永松範之
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 研究開発局長
2004年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社、ネット広告の効果指標調査・開発、オーディエンスターゲティングや動画広告等の広告事業開発を行う。2008年より広告技術研究室の立ち上げとともに、電子マネーを活用した広告事業開発、ソーシャルメディアやスマートデバイス等における最新テクノロジーを活用した研究開発を推進。現在はAIやIoT、AR/VR等のテクノロジーを活用したデジタルビジネスの研究開発に取り組む。専門学校「HAL」の講師、共著に「ネット広告ハンドブック」(日本能率協会マネジメントセンター刊)等

島野 真
博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局局長 兼 Media Innovation Lab(メディアイノベーションラボ)リーダー
1991年博報堂入社。主にマーケティング部門に在籍し、飲料、通信、自動車、サービスなど各企業の事業・商品開発、統合コミュニケーション開発、ブランディング業務を担当。2012年よりデータドリブンマーケティング領域で、マーケティングとメディアを統合した戦略立案・推進の高度化、DX推進に従事。2020年より博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局局長。メディア環境研究所所長兼務。共著:『基礎から学べる広告の総合講座』(日経広告研究所)

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