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メディア環境研究所×京阪神エルマガジン社 対談 『SAVVY』編 「生活者との新たなつながり」~期待されるこれからのメディアへの役割~
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多接点時代における「生活に直接作用する」生活者とのつながり方とは?メディアの役割はどう変わるのか?メディア環境研究所がメディアの方々にお話を伺い、これからのメディアと生活者とのあり方を探る対談企画。今月実施のメディア環境研究所ウェビナーに先駆け、「地域とメディア」の関係を探ります。関西の街をフォーカスし続ける京阪神エルマガジン社のリージョナルマガジン『SAVVY』と『Meets Regional』の編集長それぞれに、メディア環境研究所の曽根裕がうかがいました。今回は『SAVVY』の竹村匡己編集長との対談です。

■実際に足を運んで拾い上げる、“自腹感”のある情報

曽根
今日はよろしくお願いします。竹村編集長は2019年から女性向け情報誌『SAVVY』の編集長を務められています。それ以前は『Meets Regional』の編集長はじめ、エルマガジン社内でいくつかのタウン誌や情報誌、ムック本の編集部を経験されてきました。もともとどういう経緯で出版業界、雑誌の世界に入られたのでしょうか。

竹村
僕は京都の生まれで、若い頃はずっとサブカルチャー、アングラカルチャーに傾倒していました。特に小学生の頃から憧れていたのが中島らもさん。演劇、音楽、小説、広告と、今でいうマルチメディアで活躍されていて、そういう仕事ができるのは編集者だと考えたのです。

曽根
『SAVVY』という雑誌の特徴について教えてください。

竹村
ベースとなったのは、80年代に出ていた『神戸からの手紙』という女性向けの情報誌です。外国人モデルを多用し、写真も豊富で非常に贅沢なつくりでした。そこから『SAVVY』に衣替えして、もう36年になります。『SAVVY』の方針は、カフェやインテリア、ファッションなど、その時々の街で流行しているものをテーマに、“かわいいもの”を取り上げること。最近は食を取り上げているイメージかもしれませんが、食に特化しているわけではなく、現在一番エネルギーがあるのが飲食だということです。また、僕らが考える「街」は半径5kmくらいの範囲を想定しています。京都・大阪・神戸と、三都市にそれぞれ特性がありますが、編集部員がとにかくコツコツと歩いて、街の空気や流行をつかんでいます。

たとえばグルメサイトの場合、東京ほど大きな都市なら、多くの人がその店に行って評価するので精度が維持できます。でもローカルエリアで少人数しか訪れていないような店の場合、その少人数の評価が店の評価になってしまう。評価が極端になりがちで、精度が悪くなるんですね。地元には、あまり知られていなくても面白い店がたくさんあるので、それを編集部員が歩いて拾っていくことが肝心。そこは、東京発の全国誌と違うところかなと思っています。

曽根
すべて編集部員の方が足を運んでいるのがすごいですよね。一つひとつのテーマを徹底的に掘り下げている。誌面の温度感も他誌とはちょっと違う気がするのですが、この違いはどうとらえていますか。

竹村
たとえば先日のパン特集では、大阪、京都、神戸、奈良のパン屋に通いまくって、しばらくパンは食べたくなくなったほどでした(笑)。そのテーマが嫌になるくらい編集部員が徹底してエリアを回りますから、その自腹で行っている感じ…いわば“自腹感”が、『SAVVY』独自の温度感につながっているのかもしれません。たとえば、世間ではプリンで有名なお店があったとして、いざ訪ねてみると、実はミルフィーユの方が良いと思うこともあります。そこは、編集部員の感覚の方を重視するようにしています。

曽根
なるほど。その自腹感のベースにある考え方は、『SAVVY』とお店との関係性にも現れているものなのでしょうね。

竹村
そうですね。僕らは別に特別な立場から取材しているわけではなくて、編集部員が実際に行き、時には何度も通って、面白いとか素敵だと感じたことを伝えたくて取り上げている。そのためにお店の貴重な時間をいただき仕事をさせてもらっているわけですから、取材の際も基本は「お邪魔します」という姿勢でいます。

■ 流行をつくるのではなく、街に生かされている

曽根
他の情報誌と比べても、エリアへの愛着、愛情が感じられるのは、街をさらに盛り上げていこうという感覚があるからでしょうか。

竹村
考え方は逆です。もちろん関西エリア全体がより良くなったらいいなとは思っていますが、僕らの力で街を盛り上げようとはまったく思っていなくて、むしろ街に生かされていると考えています。立ち飲み屋が増えているから立ち飲み屋特集ができるのであって、僕らが立ち飲みを流行らせたいと思っても流行らせることはできません。関西の言葉に、「わしがわしがの“が”を捨てて、おかげおかげの“げ”で暮らせ」というのがあるんですが、要は我を捨てて、自らを下に置いて生きなさいと言う意味。そういう気持ちを忘れてはいけないと編集部員にもしつこく言っています。自分たちがブームをつくっているんだいう目線を持ち始めると、ここまで築き上げてきた街との関係性は一気に崩壊するでしょう。『SAVVY』ならではの伝え方があるとしたら、それは街との密な関係をベースにした、深い情報を届けていくということでしょうね。

曽根
そうなんですね。雑誌は“流行の仕掛け人”のようなイメージがあるので、街に生かされているというお話は非常に新鮮です。また、かつては明確に女性向け情報誌とうたっていましたが、現在はどう読者層を想定しているのでしょうか。

竹村
『SAVVY』発足当時は、20代後半から30代前半の、流行に敏感な、街を楽しむ女性…といった読者層を想定していたのですが、いまは男性であれ女性であれ、小さい子でもおばあちゃんでも誰でもよいと考えていて、こちらはとにかく街に出て、リアルを感じて伝えるしかないと思っています。

曽根
そこはまた全国誌とは違った感覚というか、地元に住む人に向けて情報を届けるという、エリア誌ならではの特徴になるのでしょうか。

竹村
読者のペルソナを想定しているわけではありませんが、“地元の人たち”という読者の顔ははっきりと見えていて、それは非常に大きいと思います。ある意味アメリカンバイクとかコスメとか、趣味の雑誌にも似たアドバンテージがあると思います。一方で、“かわいいもの”という概念はどうしても漠然としがちですから、他誌との明確な差別化については課題を感じているところです。『SAVVY』は街との密な関係がある分、そのお店の一番濃い部分を抽出して伝えているわけですが、ぱっと見ではわかりにくい。そこは難しいですね。

■雑誌の価値を活かし、ローカル・プレミアムメディアとして世界へ向けて発信する

曽根
テレビの情報番組が、『SAVVY』の情報をベースに企画会議をすることもあるそうですね。

竹村
はい。『SAVVY』に聞いた、というお題目で発信されたりするので、実際どうしても流行の発信元として見られることはあるんですね。ありがたいことではあるのですが。やはりテレビの影響力は大きくて、お店の人によると放送後一週間くらいはものすごく人が来るんだそうです。でもその後はぱったりと来なくなる。一方で雑誌の場合は、掲載してから3年後くらいに、「雑誌で見てずっと来たいと思っていたんですよ」といって立ち寄られて、その後何度も来てくれるお客さんもいるそうです。とかく即効性が求められる時代だからこそ、その“遅効性”が紙媒体、雑誌の強みだと思うんですよね。そういう意味で今後の『SAVVY』は、紙の価値を最大限に活かし、思い切って値段をあげてもいいので、クオリティをとにかく重視していくべきだとも考えています。それと同時に、即効性のある情報はウェブで展開する。その両輪で回るようにできたらと考えています。

曽根
地域発のプレミアムメディアという考え方は新しいですね。通常ローカライズすればするほど、制作費もそれほどかけられなくなっていくイメージがあったので、逆の発想でどんどんプレミアムにしていくというのは非常にユニークだと思いました。

竹村
大阪発で、世界の人が買うような雑誌にしたいと思っているんです。以前台湾で書店に行ったら、われわれの会社のコーナーをつくってくれているところが何店もあったのです。要するに日本のカルチャーを面白いと思ってくれている人が結構いるわけです。僕は以前から世界に向けて発信しているつもりですし、特にアジアへ販路を広げていくというマーケット視点は必要だと考えています。
また、今は特に、いちローカルメディアとしても大阪とアジアがつながっていくチャンスが来ていると感じています。それこそリモートで何でもできる時代ですから、関西や九州など西日本を拠点とするデザイナーやカメラマン、クリエイターたちとつながって、高クオリティの雑誌がつくれる制作チームをつくれたらいいと考えています。そしてゆくゆくは、大阪がアジアとつながっていくハブになれたらいいですね。

曽根
それは面白そうですね。目指す高いクオリティ、世界を見据える視点…また何より、編集部がエリアに注ぎ込む圧倒的な熱量を非常に感じました。『SAVVY』の今後を楽しみにしています。ありがとうございました!


竹村匡己(たけむら まさき)
京阪神エルマガジン社 『SAVVY』編集長

出生地は京都市伏見区。保険会社のSEを経て、京阪神エルマガジン社に。『エルマガジン』、『SAVVY』、『Richer』、別冊と転戦し、『Meets Regional』編集部に。2014年より『Meets Regional』編集長。2019年より現職。タイニーでショートカットな女の子に弱いです。


曽根 裕

メディア環境研究所 上席研究員
2013年博報堂DYメディアパートナーズ入社。
出版社プロパティを活用したソリューション企画の提案、統合メディアプラニング、メディア・コンテンツ企画開発などの経験をベースに、クリエイティブプランニングに従事。

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