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メディア環境研究所×京阪神エルマガジン社 対談 『Meets Regional』編 「生活者との新たなつながり」~期待されるこれからのメディアへの役割~
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多接点時代における「生活に直接作用する」生活者とのつながり方とは?メディアの役割はどう変わるのか?メディア環境研究所がメディアの方々にお話を伺い、これからのメディアと生活者とのあり方を探る対談企画第3弾。12月に実施するメディア環境研究所ウェビナーに先駆け、「地域とメディア」の関係を探ります。関西の街をフォーカスし続ける京阪神エルマガジン社のリージョナルマガジン『Meets Regional』と『SAVVY』の編集長それぞれに、メディア環境研究所の曽根裕がうかがいました。今回は『Meets Regional』の松尾修平編集長との対談です。

■『Meets Regional』は街の生の声を拾う「ドキュメント誌」

曽根
『Meets Regional』は京阪神エリアの都市部の人たちに向けて街の情報を発信する雑誌ですが、2019年から編集長を務めていらっしゃる松尾さんから、詳しくご紹介いただけますか。

松尾
『Meets Regional』の創刊は1989年で、もうすぐ32年目になる月刊誌です。当初は街の動きやファッション、カルチャーなどさまざまな情報を載せていましたが、僕の3代前にあたる、3代目編集長の頃から一気に飲食情報に寄った内容にシフトしていきました。基本的には街のエリア特集と、カレーやラーメンなど、流行を感じられる単品特集の2本柱になっていて、時折ファッションや書店といった新規企画が入ってくる感じです。何より、ここまで“酒場”にフォーカスしている雑誌はなかなかないんじゃないかなと思っています(笑)。特にこの1年は、僕が編集長に新しく就任するにあたって、ひとつ「街の酒場を応援したい」という姿勢を前面に打ち出したいと考え、通年で酒場を取り上げることにしました。

曽根
なるほど。では今の『Meets Regional』を一言で表現するとしたら、どんな雑誌と言えるのでしょうか?

松尾
京阪神を舞台に街の生の動きを拾って紹介していくドキュメンタリーのようなもの、いわば「ドキュメント誌」なのかなと思っています。その時々の街の流行りとか、動きをとらえて取り上げたいのです。数年後にその風景は変わっているかもしれませんが、賞味期限のある内容でいいと思っています。

曽根
情報サイトや情報誌がさまざまある中で、ドキュメントという言葉にどういうニュアンスがこめられているのでしょうか。

松尾
一般的な情報誌は、営業時間や予算などおそらく1年後にも使える情報が載っていますよね。ドキュメント誌は、たとえば「この店主のキャラがめっちゃ濃い」とか「こんな常連客がいて面白い」とか、「この店は、ある程度お客さんがはけた閉店2時間前がもっとも空気が濃くなる」といった、情報ともとれないような、いわば酒場の小話的なネタなど、店主や常連客のクセや面白さなどの情報サイトではあまり拾われないことも載せている。そういう街の隙間の話をなるべく落とし込んだ本にしたいと思っています。営業時間も値段も地図も、言ってしまえば調べれば分かることなので、『Meets Regional』に関しては載せなくていいとすら思っているくらいです。

曽根
通常の情報誌は一歩引いて分析するイメージで、客観的な第三者的視点でトレンドを拾い上げますが、『Meets Regional』はお店や読者に対してどういった視点や立ち位置をとっているのでしょうか。

松尾
読者がまだ行ったことのないお店の、開いていない扉を代わりに開けに行っている感じです。「なんか気になるけどどんな店やろ?」と皆が思っているお店の扉を、我々が開けてきましたよという感覚。単純に美味しい店を追うのとは少し違う基準があります。

曽根
なるほど。取材に対する『Meets Regional』ならではのこだわりはありますか。

松尾
うちの強みはロケハンにあると思っていて、それぞれの編集部員がとりあえず店に行ってみることを大事にしています。一つの店に複数回行くこともあれば、違う編集者が行くこともある。実際に行ってみると、それこそデータでは見えない店主のキャラや、お店の愛想や面白さなども見えてくるので、それを記事にうまく落としたいのです。どこを拾うかは編集者それぞれの主観でよくて、読者が「へえ」「そうなんや」と面白がってもらえるポイントになればいいと思っています。

曽根
編集部員の好みも感覚もそれぞれ違うと思いますが、全体をどう『Meets Regional』らしく束ねているのでしょうか。

松尾
毎号デスクがいて、特集テーマが決まると先発隊として特集デスクが3カ月前からお店に行ったり掲載候補の店のリストを作ったりと、特集テーマにまつわるリサーチをして具体的な特集案を定めます。そこから各編集部員がさまざまな企画を持ち寄り、骨子に肉付けしていきます。意外性のある切り口や、少し視点をずらした企画が集まると特集が個性的になり、色づいていきますね。それが『Meets Regional』らしさになっていると思います。

■街のスモールサークルに入り込み、中の人を巻き込んで一緒につくる

曽根
「情報の地産地消」、地元の情報を地元の人に届けるという意味で、京阪神エリアだからこそ『Meets Regional』の手法、方針がはまっていると感じる点はありますか?

松尾
京阪神のいいところは、互いのコミュニティが近いところ。人でも店でも、2~3人知り合いをたどるとつながるようなことがすごくあって、口コミがよく回るのです。たとえば、堺を特集した時、“ザ・大阪”な雰囲気が感じられる飲み屋と街をフォーカスしました。堺を特集したことは新機軸だったのですが、そこへ俳優の窪塚洋介さんに出ていただいたこともあって、生の声でもSNSでも反響が大きかったんです。そういう話が伝わりやすい規模なのかなと思いますし、だからこそ『Meets Regional』のような地域に寄った情報が求められているのかなと思いますね。

曽根
関西エリアのゆるいつながりやネットワーク感に、情報が合っているのですね。

松尾
そうですね。コロナの影響もあって、特にいまは近場の街情報の需要が高まっているようにも感じます。大阪市内でも結構狭いエリア――ウラなんばや福島、天満といったところを重点的に取り上げてきたのですが、そういう特集は人気があります。近場のスモールサークルというか、コミュニティの情報は、中の人にとってはもちろん面白いし、全然知らない外の人にも「なんか面白そう」と思ってもらえる。行こうと思えばすぐ行ける距離感だからなのかなと思います。また、エリア特集に関しては、その街のコミュニティに入って潜っていって、中の人を巻き込んで一緒に作るというやり方をすると、さらに反響が大きくなる実感もあります。

曽根
潜るというのはまさにドキュメント的な言葉ですね。そして東京だとおそらく、コミュニティの外にいる人たちとは距離がありすぎて、自分ゴト化しにくいかもしれない。俯瞰的な目線の情報が多い中、確かに『Meets Regional』には作り手の温度感や情というものを感じます。そして、代わりに店の扉を開けてくれることで、『Meets Regional』を通して読者が街と近くなるのですね。

松尾
僕らが面白いと思ったことを、真摯に、ダイレクトに出していくことが、『Meets Regional』の強みだと思うのです。お店の人と仲良くなって作るのが僕らのカラーで、愛情をもって魅力を表現しています。そういう街との距離の近さが誌面を通じて出ると、読者にとっても街が近くなると思います。

■回覧板的な存在として、街の「いま」をテンション高く伝えていく

曽根
誌面から、いい意味で“がやがや”した印象を受けていたのですが、今を切り取った、ドキュメント誌というキーワードを聞いて、非常に腑に落ちました。インターネット上にはグルメサイトもいろいろとありますが、『Meets Regional』はそういうものを競合とはとらえていないのですね?

松尾
競合ではなく、違う方向に向かうべきだと思っています。雑誌は、下調べをして情報を集めてつくるのにすごく時間もかかりますし、ページ数も限られている。逆にそこが誌面のいいところで、限られたページで印象的な写真や印象的なテキスト、印象的なシーンを載せられるから、見えない部分を読者に委ねて、想像してもらうことができ、それが楽しいところだと思います。誌面を見て興味を持ったあとの情報は、グルメサイトで調べてもらってもいいんです(笑)。

曽根
なるほど。それから、徹底した地元視点も誌面から感じますね。観光視点の名所的な場所ではなく、地元の人たちが行くお店の情報がまとまっている印象です。

松尾
まさにそこにこだわっていて、観光で来られる方にも、あまり知られていない地元の店の面白さを伝えたいのです。だから一般的なガイド誌と比べるとちょっと変わっていますが、あえてそうしています。『Meets Regional』は、仲の良いお店の方々とつくる、口コミ+ちょっとした街の掲示板のような立ち位置がいいと思っているのです。

曽根
YouTubeも始められていますよね。スモールサークルで地産地消されている情報を、外の人にも届ける手段でしょうか。

松尾
オンラインイベントを開催したり、それをきっかけとしたオンラインストアをオープンし、お付き合いのある作家さんや飲食店さんとのコラボグッズを作ったり、といった新しい施策も始めました。外出自粛時に昔の雑誌を片付けていたら、懐かしいアルバムみたいでぐっときました。雑誌は記録として残る良さがある。そんな、メディアとしての紙媒体の魅力をしっかり伝えるべく、少しでも『Meets Regional』に目を留めてもらい、知ってもらいたいと思っています。その広報活動の一環としてYouTubeも始めました。ここを基点に何か新しい展開ができていくかもしれないなと思っています。逆に動いてみたり、あの手この手で動いてみたりすることは決して悪くは働かないんじゃないでしょうか。ピンチはチャンスと考えてやっているところです。

曽根
最後に、エリアとともに歩み地域の人に情報を届けるうえで大切にしていることと、今後の展望を教えていただけますか。

松尾
もっとも大切にしているのは、街の動きやリアルな情報を、編集部の人間味をもって生の声で届けることです。コロナ禍を経て、僕も含めた人々の活動範囲は狭くなっている気がしています。その一方で、近所でいろいろな発見があって、もっと知りたいという気持ちが出てきています。『Meets Regional』として、この近所の情報ニーズの高まりをチャンスととらえ、いかに定着させることができるかが勝負だとも思っています。いまのところ酒場情報を多く扱っていますが、今後は、このエリアはスイーツショップが面白いとか、いろんなアーティストが住んでいるとか、ジャンルを広げて、違う切り口で街を切っていけたらいいなと思います。その上でキーになるのは、やはり“人”。飲み屋だから紹介するのではなく、面白い人がやっているから紹介するというスタンスは変えずにいきたいですね。コロナ禍で、実際にお店に行くことの良さを再発見できた面もありますよね。そこを、誌面を通して伝えられればと思います。僕らが見つけてきた「ここはゴキゲンだぞ」「この街面白いぞ」という情報をテンション高く伝えていけたらと思います。

曽根
そのこだわりは誌面に表れていると思います。今日は貴重なお話をありがとうございました!


松尾修平(まつお しゅうへい)
京阪神エルマガジン社 『Meets Regional』編集長
1978年、兵庫県小野市生まれ。2002年京阪神エルマガジン社入社。月刊誌『エルマガジン』(08年休刊)を経て、08年12月より『ミーツ・リージョナル』編集部へ。2015年12月より同誌副編集長、2019年8月より現職に。ゴキゲンな人と酒場が集まる街が大好物。


曽根 裕
メディア環境研究所 上席研究員

2013年博報堂DYメディアパートナーズ入社。
出版社プロパティを活用したソリューション企画の提案、統合メディアプラニング、メディア・コンテンツ企画開発などの経験をベースに、クリエイティブプランニングに従事。

 

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