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コンテンツファン消費行動調査
色んなヒットの形があるから音楽は面白い 〜音楽市場のヒットを再定義する時代へ〜【コンテンツファン消費行動調査2017分析リレーコラム】#4(音楽編:前編)
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【パッケージ】【動画】【ストリーミング】【SNS】・・・それぞれの市場でヒットアーティストが誕生する時代

突然ですが、みなさんに質問です。「2017年の音楽市場で最もヒットしたアーティスト」といえば何を思い浮かべますか。
その質問に答えるためには、実際にビルボードジャパンの2017年の音楽アーティストランキングを見ていくのがいいでしょう。ビルボードジャパンのチャートは、パッケージの売上だけでなく、ストリーミングでの再生数や動画再生数などの様々なチャートによって構成されています。(図1)

【図1】2017年音楽アーティスト年間ランキングh_01

総合1位には星野源がランクインしています。ただ、他の部門を見てみると各部門で1位が異なっています。動画再生数での1位はTWICECDなどのパッケージの1位はAKB48、ツイート数では紅白で話題となった欅坂46、ストリーミングでは西野カナとなっており、全然違う顔ぶれとなっているのが見えてきます。みなさんが思い浮かべた「2017年1番ヒットしたアーティスト」もそれぞれ異なっているのではないかと思います。 

これは一体どういうことなのでしょうか。

当然、アーティストによって売り方の戦略が全然違うということもあるでしょう。しかし、想像してもらえれば分かる様に、CDを買う人もいれば、スマートフォンでしか音楽を聴かない人など、人によって音楽を知る場所・聴く場所が異なってきているのも原因の一つだと思います。

コンテンツファン消費行動調査データをみると、各性年代ごとに利用しているものが違うのが一目瞭然です。(図2)ラジオには高年齢層が目立つ一方で、若年層はダウンロードや定額制音楽配信(ストリーミング)を利用しています。さらに10代で最も多いのがTwitterで、特に女性10代・20代で40%以上を占めています。このように性年代での音楽を楽しむ生息場所の違いがランキングに影響を与えているのではないかと考えられます。このことから、若年層でヒットを起こすためにはデジタルでの視聴環境を、高年齢層はラジオやCDと、それぞれの生息場所を意識する必要が出てきます。

【図2】音楽に対する行動h_02

音楽市場を引っ張るライブと身近に音楽を持ち帰るための方法の多様化→ライブでの集客数、チケット販売数が新たなヒット指標の可能性

それでは、実際に音楽市場にインパクトを与えているのはどのような市場なのでしょうか。2017年の音楽市場規模を見てみると、リアルイベントが1番高い事がわかります。(図3)リアルイベントは、ライブや音楽に関わるイベントでの支出を表しており、2017年の推計市場規模は2817億円と最も存在感が大きいです。特に近年はライブの公演数自体が増えてきており、箱不足の問題が叫ばれるほどになってきています。(※2)ここまで見てきたランキングやデータにはライブなどの要素は入っていませんでした。しかし、実際の音楽市場を大きく動かしているという意味では、ライブの動員数やチケットの販売数などのランキングの要素の一つとしてあってもいいかもしれません。

【図3】2017年の音楽の市場規模とボリュームh_03

そんな市場の移り変りを経年で見てみましょう。(図4)一番高い利用率なのはYouTubeで、50%〜60%で安定して推移しています。伸びてきているのはTwitterでの情報取得です。アーティストの公式アカウントやコアファンのコミュニティなど、音楽に関わる情報が手軽に集められるようになっています。音楽を聴くという面で見るとラジオ・CDでの入手は横ばいですが、定額制音楽配信などは徐々に増加傾向で、デジタルでの新しい選択肢が増えてきています。一方、ライブへの参加は利用率で見るとボリュームはそこまで変動していないことがわかります。やはり、ライブという市場が音楽のメインとしてある中で、自分の身近な場所にその音楽を持ち帰って聴くという方法が多様化しているということかもしれません。多様化という面では、アメリカではアナログレコードの売上が伸びています。(※3)調査データを見てもラジオやCDなどが横ばいで、一気に変化をしているものがないのは、それぞれに良い面があり、それぞれの方法での楽しみ方を見つけている人たちがいるからではないでしょうか。

【図4】音楽に対する行動の利用率の経年推移h_04

音楽のヒット。これから考えていくべきこと。

さて、ここまでビルボードのランキングから、コンテンツファン消費行動調査データを活用して、音楽市場について分析してきました。スマホの普及などでより手軽に音楽を聴ける環境が整ってきています。しかし、昔からある方法に取って代わったわけではなく、それぞれが共存し、生活者によって自分の気に入った楽しみ方を見つけられているのではないでしょうか。そうしたことにより、様々な形の音楽のヒットが生まれてきています。これからの音楽のヒットには、今までの指標に加えて、市場を牽引しているライブやデジタルで音楽を聴く環境のダウンロード・定額制音楽配信などが重要になってくると思います。様々な生活者の側面を捉えた、音楽のヒットの定義を議論するタイミングに来たのではないでしょうか。コンテンツビジネスラボでは、これらを組み合わせた究極的な音楽のヒットについて研究を進めていきたいと思います。

★後編へ続く・・・

※1:ビルボードジャパン 2017年音楽年間チャート
※2:ぴあ総研 ライブ・エンタテインメント調査委員会
※3:All Digital Music 「レコード・ストア・デイ」が牽引する、アナログレコードの売上成長がひと目で分かるチャート

★関連情報
■【コンテンツファン消費行動調査2017】コンテンツビジネスラボ「リーチ力・支出喚起力ランキング」
■【調査レポート】コンテンツファン消費行動調査2017
●「変わるコンテンツファンの消費行動2010→2017」【コンテンツファン消費行動調査2017分析リレーコラム】#1
●若年層で進むライブストリーミング観戦【コンテンツファン消費行動調査2017分析リレーコラム】#2(スポーツ編)
●デジタルとリアルを行き来するアニメファン【コンテンツファン消費行動調査2017分析リレーコラム】#3(アニメ編)
●音楽のヒットは多様化へ 〜「紅白歌合戦」から見る「Feed」を意識した生活者の巻き込み方〜【コンテンツファン消費行動調査2017分析リレーコラム】#4(音楽編:後編)

道堂 本丸 コンテンツビジネスラボ(博報堂 研究開発局、博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター)

2015年博報堂入社。初任で現職に。統計解析を活用したマーケティングツールの開発やHDYオリジナル調査の企画・分析業務、ARやVRなどのテクノロジーを活用した次世代顧客接点の研究開発などに携わる。コンテンツビジネスラボのメンバーとしては、社外でのセミナーや講演会などコンテンツビジネスの専門家として活動中。担当は音楽と競馬。社内同期のクリエイティブユニット「VOID SETUP()」としても活動を行う。

※執筆者の部署名は、執筆時のものであり現在の情報と異なる場合があります。

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