レポート
ADVERTISINGWEEK NY 2017
ADVERTISINGWEEK NY視察報告【2】~NYにて、デジタル化の中でマーケティングの未来を感じる~ 
REPORT

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社員による日本広告業協会・海外広告研修団の一員として訪れたADVERTISINGWEEK NYのレポート第2弾。
今回はデータドリブンプラニングセンター飯田大輔が、ターゲット戦略視点で注目したセッションをレポートします。

★第1弾はこちら

■はじめに

9月25日~28日の4日間、ニューヨークでADVERTISINGWEEK NY(以下AdWeek )に、日本広告業協会の海外広告研修団の一員として参加して参りました。AdWeekには、総合代理店、クリエイティブブティックをはじめGoogle、Facebookなどのプラットフォーマー、各放送局などのメディア、そして、IBM・Microsoft・Adobeといったソリューションホルダーまで、広告領域に関係する様々な企業が参加しており、9つの会場で熱い議論が交わされていました。

その中で印象的だったのは、「Artificial intelligence(以下AI)」 をはじめ、「データ」「アドテクノロジー」「デジタル」を使うことは大前提としつつ、それらを最大限活かしていかにプラニングしていくのか、いかにエグゼキューションしていくのかの「試行錯誤」にフォーカスしたトピックが各所で見られたことです。今回はその中でもプラニングの肝となる‘ターゲティング’の点について、今後データやデジタルを活用したプラニングを行う上で重要となると思われるトピックを2点、レポートさせていただきます。

■AIによるプラニングの進化 ~セグメンテーションのその先に~

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38%。

この数字はアメリカにおける「将来、AIがカスタマーサービスを改善向上させる可能性があると思う」と答えた人の割合です。近年アメリカのメディア環境は大きく変化し、マスメディアからプログラマティックなデジタルメディアの運用へと主軸が移っています。また、戦略レイヤーでも様々なソリューション/テクノロジーが活用されるようになり、当然のようにAIは効率を求める作業ですでに取り入れられており、このAdWeekでも様々なセッションの主題となっていました。
「Keeping the Creative Spark Alive in a Data Driven World」と題されたセッションでは、クライアント/クリエイティブエージェンシー/メディア/デジタルの立場からそれぞれ「PepsiCo」のJessica Spaulding氏、「Droga5」のAmy Avery氏、「Group M」 のEvan Hanlon氏、「Media iQ」 のJoe Kowan氏が登壇し、デジタルの深化の中にあってそのクリエイティビティをどう発揮するかを議論しました。議論の軸はクリエイティブでしたが、その中で、戦略プラニングについても重要な議論が交わされており、その一つが、マシンラーニングを活かしたターゲット分析の問題点についてです。

「データの取り扱いには、ヒューマンエレメントが必要である」

パネラーの一人、Amy Avery氏が開口一番に語ったのはこの言葉でした。言わずもがな、コミュニケーションのプラニングにおいてもテクノロジーが活躍する場面は増えており、特にアジリティと正確さはマシンラーニングの得意とするところですが、一方で、マシンだけに頼ってしまうことでおかしな状況も生じていると言います。その代表例がターゲット分析で、パートナーの保有するデータ、メディアサイドのデータ、3rdパーティデータをAIにマシンラーニングさせることで、生活者のあらゆる側面が浮き彫りになります。時には、性別や家族構成、趣味、普段どのような服を着ているのか、果ては今日穿いているパンツの色まで分かってしまうとまで語られていました。しかし、一方でそれらはビジネスに重大な影響を与える要因を言い得ていない、つまり、肝心の我々が知るべき生活者インサイト(その変化は非常に少しずつであるが時に大きな潮流を生むものである)を捉えきれておらず、非常に精緻ではあるがスケールできない(すなわちビジネスインパクトを与えない)ターゲット設定になっていると語られていました。

今回の研修の一環としてAdWeek NYと合わせて訪問させて頂いたAdobeでは、「AIではなくIA(=Intelligent assistant)である。」と表現されていましたが、AIを使うことが次世代のプラニングにおいて必須となる中で、マシンラーニングで拾い集めたピースをマーケティング上最適なスケールに束ねる、あるいは最適なメッセージへと変換するには、‘人’が戦略視点を持ってストーリーを紡ぐ必要があると実感しました。

■デジタル時代のブランド戦略 ~ブランドを正しく導く5つの羅針盤~

さて、ここからは、このAdWeek の中でもひときわ注目度が高かったセッション、ユニリーバのKeith Weed CMOによる「The Future of Marketing Driving Growth in a Digital」についてご紹介させていただきます。このセッションでは、“広告ブロックに対する考え”、“コンテンツのあり方”、“デジタルメディアの透過性”など多くの課題を抱えるデジタル市場で、同社が抱える300ものブランドを正しい方向に導くにはどのようにするべきか、さまざまな視点で語られていましたが、今回はその中でも’データ活用’や’ターゲティング’に絞った部分のトピックをご紹介します。
同氏はコネクトされたデジタル社会で正しい方向を見定める羅針盤として「5C」と名付けたマーケティング戦略の枠組みを提唱していました。

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【ユニリーバの5Cブランド戦略】
Consumer:顧客とブランドとの接点を最適化すること
Connect:リーチの最大化、そのための最適メディアの選択
Content:パーソナル化/カスタマイズ化(=ワンツーワンでカスタマイズする)
Commerce:シームレスな購買プロセスの確立
Community:ブランドコミュニティの声を聞きイノベーションに繋げる

この「5C」の根底にはユニリーバの全社的マーケティング戦略「Crafting Brands for Life」 すなわち顧客を消費者ではなく一人の人間(ヒト)として見る考え方があると言います。この羅針盤に沿って、考えた時、広告表現の多くが消費者の真の姿を映し出していないということに警鐘を鳴らされていました。同氏によると、女性消費者の40%は広告に登場する人物と自分たちとは異質だと感じていると言います。このギャップを埋めるために、データの正しい分析と適切な活用の重要性が強調されていました。また一方で、ユニリーバでは『マス・カスタマイゼーション』と呼ばれる新しいターゲット戦略が導入されています。これは、従来の「○○州のビジネスマン」や「▲▲系のミレニアル世代」といった大雑把なターゲット設定を改める試みです。例えば、消費者がサーチ上である洗剤を探すケースにおいて、新たな戦略としてはその根底に潜在化する真の悩み(シミなのか、洗い上がりの肌触りなのかなど)を理解し、悩みをもったターゲット層を見極め、彼らに合わせたサーチ広告を実施するとのことです。同社の配信テストではコストがやや増えたものの、トラフィックが+30%と良好な結果を示したとのことで、ここだけを切り出すと、単純な配信の最適化に見えますが、’マスインサイトの視点’からのカスタマイゼーション、つまり、完全なOne to Oneの追求ではなくスケーラビリティが考慮されているところに肝があるのではないかと感じました。

■最後に

今回は、プラニングの肝となる“ターゲティング”にフォーカスしながらレビューさせていただきましたが、この混沌としたデジタル時代の中にあって、エージェンシー、パートナー、プラットフォーマー、メディア問わず、真剣に次世代のマーケティング、次世代のプラニングについて議論されていたのが印象的でした。
次世代型プラナーとして、生活者・テクノロジー双方の面からプラニングを進化及び深化させていくことが重要であると改めて実感しています。

◆プロフィール
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飯田大輔
データドリブンプラニングセンター
2008年博報堂入社。営業にて、メディアプランニングやメディアバイイングの仕事に従事。
その後、マーケティングプラナーとして主に自動車、流通、金融、コンシューマー商品などの領域でクライアント企業のブランディングやマーケティング支援に携わる。
近年はデジタルマーケティングに軸足を置き、データ・ソリューションを用いた戦略プラニングやPDCAマネジメント、マーケティング基盤の構築などを担当。

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