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メディア環境研究所
「メディアイノベーション調査2018」からみる、日本と各国の比較【1】 ~プロダクトハンターあかねさんと考える、日本とアメリカの比較~
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生活者目線で新しいプロダクトやサービスを語ってみたい。このコラムでは、メディア環境研究所が2018年に日米中タイの4カ国で調査を行った「メディアイノベーション調査2018」(ご参考:プレスリリース)の結果について、各国に詳しい方に調査結果について語っていただきます。第1回はサンフランシスコ在住の「プロダクトハンターあかね」さんに、メディア環境研究所の小林が米国の結果について日米比較も交えてお聞きしてみます。

◆米国とAR/VR

-メディア環境研究所 小林(以下、小林)
あかねさん、こんにちは。どうぞよろしくお願いいたします。今日は、「メディアイノベーション調査2018」で行った「生活を変える55のサービス」について、各国の興味度ランキングをベースにお話しをうかがいたいと思います(図1)。
日本は唯一「無人店舗」が1位になっています。他国では、10位以内にも入っていないサービスでした。米国はAR/VRへの関心が高く、「情報表示される鏡」と「AR対応機器を使った救急対応サービス」が同率1位、「VR×医師の診断」が3位、「VR×専門教育」が4位にランクインしており、4位までにAR/VRが3項目入っています。まず、初めてこのランキングデータを見てどう感じられましたか?

■図1:生活を変える55の新しいサービスに対する各国の興味度ランキング トップ10

※「生活を変える55のサービス」各国ランキングはこちら

-プロダクトハンターあかねさん(以下、あかね)
感じることは3つあるのですが、1つ目は、ランキングの結果の通り、特に米国ではAR/VRへの関心が高いと思いました。日本ではまだ、VRといってもゲームのイメージしかありませんが、米国では教育やショッピング、医療などの領域で、一部のブランドがAR/VRをすでに取り入れはじめており、もっと生活に密着した身近な未来として捉えられているからかもしれません。

小林
AR/VRが身近な未来とのことですが、実際に米国に住んでいてこの調査結果通りと感じられるということでしょうか?

あかね
LAでの調査とのことなので、エリアによってはもっと高かったり、低かったりしそうですが、私が住んでいるサンフランシスコでは新しいサービスに対する許容度が非常に高いと感じています。そういったこともあり、スタートアップもサービスをスタートしやすい環境になっています。LAもUberなどのサービスが日常的に身近にあるので、比較的許容度が高いエリアになるのではないかと思います。それにLAであれば、日常的にUberを利用している層がアンケートに答えている可能性が高いです。
例えば、まだ一般的に普及はしていませんがMRデバイスの「HoloLens」は、公式サイトにあるプロダクトムービーで幅広い用途(教育、医療、ビジネスなど)に利用される可能性を見せてくれています。

左上:hakuhodo-VRARがプロデュースしたMRミュージアムin京都、右上:遠隔サポートとマイクロソフトレイアウト、左下:医療、右下:製造

◆プライベート空間の利便性

あかね
2つ目に気になったのは、質問項目には米国ですでに実現しているサービスも多いと感じました。スマートスピーカーが日本よりも普及しているので、音声アシスタントなどは日本より身近かもしれませんね。

小林
そうですね。55の項目は、各種コンベンションや報道などにおいて公開されている、現在の技術で商品化が可能なものを選んでいるので、特に米国にお住まいだとそう感じられるかもしれないですね。
ランキングを見ていると、以前よりもよりプライベートな空間の利便性を求めているように見えるのですが、これはスマートスピーカーが生活に入り込んでいることも影響しているのでしょうか?

あかね
スマートスピーカーが生活に入りこみ始めているので、プライベート空間の利便性の向上にリアリティを感じているからかもしれないですね。また、医療費が高いので、未病に対しても意欲的で、プライベート空間で利用する鏡やベッドなどが上位に入ってきているのかなと思います。
また、米国は東京に比べると家や車の中で過ごす時間が長いです。通勤で毎日車に2時間乗る人も多いので。そういったことも関係しているのではないかと思います。

小林
通勤が車という話がでましたが、米国のデータ(図2)を見ていると、「無人・自動運転タクシー」が41位(日本は17位)、「無人・自動運転シェアリングカー」が54位(日本は39位)など、自動運転に対して消極的なように見受けられます。通勤に毎日車を利用していたら、こちらがもっと上位にランクインしていてもよいのかなと思うのですが。

■図2:「無人・自動運転タクシー」に関する項目の日米比較

あかね
日本より自動運転の話題が身近だからではないでしょうか? 自動運転のテストは結構行われているので、実際の事故についても知られている可能性があります。日本ではまだ未来の話と思っている人も多いと思いますが、米国では実現性の話になってきているので興味という点では順位が下がるのかもしれないですね。より身近なことで、ネガティブなイメージもついている可能性もあります。
また、自動運転によって、現在Uberドライバーとして働いている人たちの職が奪われる可能性もあります。日本でも「AIによって仕事がなくなる」という議論が度々起こりますが、まだそこまで実感値を持っている人は多くないのではないかと思います。Uberを利用している人にとって、自動運転は確実に職を奪うもの。そういった点からもネガティブなイメージがあるのかもしれないと感じました。

小林
なるほど。たしかに日本では自動運転のテストをしていることは知っていても、実際の事故の話などはあまり聞かないので、ネガティブな話というよりはまだどんな車になるのだろうとワクワク感の方が強いのかもしれないですね。

◆便利な日本と不便な米国

あかね
3つ目に気になったのは、各国と比べて、日本の新しいサービス興味関心の低さです。東京は新たなサービスを受け入れずとも、すでに非常に便利に暮らせる環境が整っていると感じるので、その影響もあるかもしれませんね。

小林
そうですね。こちら(図3)は「興味がある」と答えた55のサービスの%を足しあげたものなのですが、米国の興味の総量は2015.0。日本は981.4なので、米国の半分しかありません。

■図3

あかね
サンフランシスコでは、日本に比べて不便を感じることが多々ありますが、日本に住んでいるとあらゆることに感動します。特に物流については、日本では翌日に届くので、Eコマースの頻度が上がりますよね。米国の場合、国土が広いこともありますが、ネットで買い物すると、届くのに1週間程度かかることもザラです。お届け予定日に届かないこともあるし、段ボールなどが破損してしまっていることもあるんです。

小林
おっしゃる通り、日本はあらゆる分野が進化し便利になっています。また、日本に滞在してみて、実際、アメリカの状況は日本よりも興味があるように感じられますか?

あかね
米国の場合は、不便な状況が改善されるので受け入れるのですが、日本の場合はすでに便利なので、あえて新たなサービスを受け入れる必要がないように感じました。
大規模なキャンペーンを行っているQRコード決済サービスが話題ですが、駅前でネット回線のモデムを配布していたころの再来を感じます。強引に普及を進めないと、単に「便利だよ」の訴求では、日本ではなかなか新しいサービスは根付かないのではないかと感じます。
そういった点では米国は不便なところがあるので、改善された後の生活が劇的に違うんです。移動も東京のように電車でどこへでも行けて、タクシーも常に走っている状況ではないので、Uberの登場で生活が大きく変わりました。だから、新しいサービスに対してみんな寛容なのだと思います。

小林
米国は改善された後の生活が違うというお話、また、スマートスピーカーが米国で普及しているというお話もありました。今回の調査では、情報提供とセキュリティに関連する質問もきいています。「家の中のさまざまな機器や家電をインターネットにつなげることは」(図4)について、日本では不安と答える人が、便利と答える人を上回りました。他国では便利と回答する人の方が多いのですが、こちらについてはどうお考えですか?

■図4:「家の中のさまざまな機器や家電をインターネットにつなげることは」4か国比較

あかね
日本のインターネット環境は非常に整っていると感じています。ネット回線は一定の速度がでて、安定したインターネットをどこでも利用できます。アメリカ人もスマートスピーカーについては、日常がのぞかれているという不安を持っています。ただ、その反面、便利さゆえに受け入れている側面もあります。プラットフォーマーの個人情報流出に大きく反応する層もいますが、一方で依存度が高すぎて「もういまさら」と諦めている人も多い気がします。
また、Uberに相乗りのサービスがあり、同じ方面に向かう人と相乗りができるサービスなのですが、精度がよすぎて、先日相乗りしたら同じマンションの住民だったのです。他人に自分の住所がさらされてしまうこのようなサービスは、日本人には抵抗感があるかもしれないですね。普段からネット上でのセキュリティの厳しさも、日本は本当に厳しいと感じます。

小林
あかねさん、大変興味深い考察、どうもありがとうございました。実際に米国で生活をされているあかねさんに、研究所で行った調査のデータをぶつけてみました。米国は広く、特にあかねさんの住んでいるサンフランシスコや調査を行ったLAではこのような結果となりましたが、もっと田舎の方に行けば米国も保守的な考え方を持った方が多そうですね。

あかね
先日、もしもアップルが日本の会社だったらたぶんiPhoneはこうなっていた、という画像がありました。裏が、注意書きで真っ黒なものです。昔はアメリカの取扱説明書が分厚くてバカにされていたのですが、今は日本の説明書の方が細かいんですよね。街中で広告を見ていても注意書きがとても多い。エクスキューズが多いんです。細かくて厳しい…守られているのだけれど、斬新なものを受け入れることは難しい環境なのかもしれません。それと比較して、タイの結果はSF感があるというか、ポジティブですよね。

小林
そうなのです。興味度の総量でもタイは一番高くなっています。今後、中国やタイ在住の方とも本調査データについて議論していきたいと考えています。

◆メディア環境研究所 まとめ

日本は実際の店舗やサービス、居住空間が成熟しています。交通は交通、物流は物流など、各産業や領域が独自に進化し便利になっています。翌日配達はもちろん、当日配達も可能となっているし、元々タクシーなども安全なのでUberなどのサービスがなくても移動に支障はありません。便利な世の中なので、新しいサービスに対しても特に必要性を感じていないのが現状です。
しかし、注意しないといけないのは、便利というのは、一度体験するともう後には戻れないということです。今の大学生は物心がついた時から、スマホが身近にありました。スマホの前を知っている世代は、スマホで世の中が便利になったことを知っています。しかし、物心ついた時からスマホが当たり前の世代にとっては、この便利な世界が当たり前なのです。今後、この感覚が一般的となった未来を想像すると、個別のサービスの完成度の高さよりも、サービス間が各分野、領域を飛び越えて連携していかなければいけないのではないかと感じました。

 

■プロフィール

プロダクトハンターあかね
サンフランシスコ在住。スクラムベンチャーズ マーケティングVP。米国のスタートアップ情報、新サービスやプロダクトについてブログ&寄稿記事で発信する”プロダクトハンター”として活動中。年間1000件超のスタートアップ情報にふれ、100件超のサービスやプロダクトを実体験している。

 

小林 舞花
メディア環境研究所 上席研究員
2004年博報堂入社。トイレタリー、飲料、電子マネー、新聞社、嗜好品などの担当営業を経て2010年より博報堂生活総合研究所に3年半所属。 2013年、再び営業としてIR/MICE推進を担当し、2014年より1年間内閣府政策調査員として消費者庁に出向。2018年10月より現職。

 

【関連情報】
★メディア環境研究所 「第3回メディアイノベーション調査」より―「生活を変える55の新しいサービス」への興味度4カ国比較―
★プロダクトハンターあかねさんと考える、これからのテクノロジーと私たちの生活 vol.1
★プロダクトハンターあかねさんと考える、これからのテクノロジーと私たちの生活 vol.2

 
★本記事は博報堂DYグループの「“生活者データ・ドリブン”マーケティング通信」より転載しました

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