コラム
メディア・クリエイティブ
博報堂DYメディアパートナーズ「クリエイティブ&テクノロジー局」の現在、未来、進行形【前編】
COLUMNS

生活者がオフライン、オンラインを問わず縦横無尽に行き交うようになった今、かつての「媒体」といわれるメディア以外にも、あらゆる接点をメディアとして活用できるようになっています。同時にテクノロジーの発展によっても、クリエイティブの可能性は無限大に広がっています。そこで博報堂DYメディアパートナーズでは2018年、媒体や手法による枠組みを越境して新しい発想や仕組みづくりを追求する組織、クリエイティブ&テクノロジー局、通称「クリテク局」を立ち上げました。

クリエイティブ&テクノロジー局では、媒体社との協業や媒体社を横断したメディア企画、コンテンツホルダーとテクノロジーを掛け合わせたビジネス開発やソリューション開発など、多岐にわたる活動を積極的に進めています。前編は局長を務める才田智司に、設立の背景を聞きました。

「クリ×テク」でつくるのは「未来のエクスペリエンス」

――クリエイティブ&テクノロジーを組織名に掲げた「クリテク局」では、新しいメディア&ソリューション開発を推進しているそうですね。まず、設立の背景をうかがえますか?

才田
設立の背景のひとつは、今の時代はクリエイティブとテクノロジーが切っても切れない表裏一体の関係にあることです。技術の発展によって、クリエイティビティの発揮できる幅や領域がぐっと広がったり、深まったりします。これからのクリエイターは、日進月歩の技術の細かい仕組みまで知ることは不可能ですが、少なくとも現在どのようなカードを使えるのかは押さえておかないといけません。なので、クリエイティブだけではない、テクノロジーだけでもない両方を冠した組織が必要なのは、半ば時代の必然でした。

その上で、メディア&ソリューション開発をビジネスにしている我々が着眼していたのは、「クリ×テク」でより豊かな「生活者発想における、新たなエクスペリエンスの創出」を実現していくことです。かつてないクリエイティビティを発揮できるかもしれないテクノロジーも、その視点がないとうまく掛け算ができないと感じています。
そのためこれまで通り、博報堂DYグループの発想の原点である“生活者発想”をベースに、もっと楽しい、もっと絆が深まる体験を提供して、企業と生活者をつなげたい。そのためグループの中でもメディアを生業としている博報堂DYメディアパートナーズだからこそできるメディア&ソリューション開発の組織が必要だと考えました。

テクノロジーの追求が目的ではなく、あくまでエクスペリエンスをクリエイティビティで実現するためにテクノロジーを使う、という“生活者発想”がベースです。

――では、クリエイティブ&テクノロジー局はどんな運営方針なのでしょうか?

才田
ひとことで表すと、「クリ×テク」で新しい体験をデザインすること。それをビジネスに転換するのが組織のミッションです。その際のポイントを分解すると、「連鎖」や「動的な」という言葉が大きなキーワードになると考えます。

たとえば、かつての「メディア」といまどきの「メディア」では、指し示すものやカバーする領域が違いますよね。かつてはいわゆるマスメディアやODM(交通広告や屋外広告)といった特定の場であり、情報を媒介する“筐体”つまり箱や枠でした。それを介して生活者は新しい情報を見聞きし、知り得ていました。

それが今では、メディア自体が多様化しているだけでなく、生活者は箱や枠に留まっていません。生活者は情報を見聞きした後、気になったらすぐに検索し、口コミをチェックし、そのままECで購入することも何らめずらしくない。メディアとは、情報接触と行動を“連鎖する”システムであり、プラットフォームになっているのです。そうすると、情報を届ける際の設計が、以前とはまったく異なってきます。

――生活者の見聞きした後の行動まで考える必要が出てきた、ということでしょうか?

才田
そうです。だから、「連鎖」という観点が重要になっています。ただの役立つインフォメーションに留まらない、何らか心が踊るような働きかけを含めた“情報”に触れ、行動へと連鎖する。そんな、次の行動につながる体験を、以前のエクスペリエンスに対して「動的エクスペリエンス」という言葉で定義しています。

例えば、ある商品のPOPアップショップ企画においては、話題化や接点を増やす目的に加えて、そこでの体験がSNSにアップされ、来店できないエリアの生活者にも届くことを見込んで、検索からECへと誘導する設計でした。SNSの拡散効果も踏まえたUXを設計し、PRが自走し、購買が拡大するようにしたのです。

さきほどクリエイティブとテクノロジーは表裏一体と言いましたが、クリエイティブとデータも、UXをはさんで表裏一体だと僕は思います。生活者の行動からデータが生成され、それを捕捉してコミュニケーションを提供する側がまた次の企画に活かすことができるためです。昔は「新商品が出ました、特長はこちらです」と伝えて買ってもらい完結していたのが、今では情報に触れて検索したデータが得られ、買われたら購買データが得られるようになりました。

これは、アクティベーションという領域の名称が掲げられたときに、プロモーションとどう違うのかと議論が起こったのと似ています。プロモーションは「One idea, one result.」なのに対して、アクティベーションは「Connected, Continued」ですから。一回で終わらない、点で終わらない、ということですね。なので、クリエイティブは「情報と行動を連鎖して、動的エクスペリエンスを描く」。テクノロジーは「その連鎖する仕組みを実現し、動的エクスペリエンスから得られるデータを捕捉するもの」と理解することができます。

働き方のトランスフォーメーション「アジャイラクラシー」

――具体的に、クリテク局の組織体制はどのようになっているのですか?

才田
クリエイティブ起点、コンテンツ起点、ビジネス開発、IoTソリューション開発などに重点を置く部と、部を横断してメディア&ソリューション開発に取り組むプロジェクトがあります。この働き方、チーム編成の仕方も、これまでにないメディアとUXを生み出す上でとても大きなポイントだと思っています。そこで、最初から厳密な仕様や設計を決めずにトライ&エラーを重ねて更新する開発手法の「アジャイル型」と、各メンバーに役職や肩書きをつけずにフラットに組む組織形態を指す「ホラクラシー型」を組み合わせた「アジャイラクラシー」という働き方の概念をつくり、「クリテク局」設立時から掲げています。

――役職や肩書きがない、というのは?

才田
これまでなら、部長や課長、CDやプロデューサーなどの肩書きや職能をベースに役割や業務の範囲を決めるのが一般的です。でも今後は、そもそもこの技術は誰がわかるのかとか、当てはまる職能が思い当たらないといった、分類不能な役割がどんどん出てきますし、それに柔軟に対応していけないと行き詰まります。そのときどきのテーマで、いちばん明るい人がリーダーになればいいし、高速でアジャイル開発を進めて途中で誰かの能力が必要になったら入れればいい。必要なら局やグループ会社の垣根を越えて、もっと言えば社外から人を集めてももちろんいい。そんな動きを今、実践しつつあります。

僕も局長ではありますが、上に立っているつもりはまったくなくて、むしろ皆がその都度最適な形で動けるように下支えをしたいと思っています。組織が大きくなると、どうしても縦割の文化があるので、それを打ち壊してフラットにしていくつもりです。

★後編へ続く

■プロフィール

才田 智司(さいだ ともし)
博報堂DYメディアパートナーズ 
クリエイティブ&テクノロジー局長

1988年博報堂入社。コピーライターとして配属。1990年代より各種広告制作業務を担当し、アルコール、飲料、食品、自動車、航空、化粧品等、多様なジャンルに携わる。統合マーケティング、統合ソリューションに早くから取り組み、広告、プロモ、PR、イベント、デジタル等々、他領域で業務実績。2005年クリエイティブディレクター、2008年シニアクリエイティブディレクター、2009年チームリーダー、2011年グループマネージャー、2012年Cannes Lions、ADFEST、SPIKES等、国際賞9冠、2013年エグゼクティブクリエイティブディレクター、2014年博報堂第一クリエイティブ局長、2016年同アクティベーション企画局長、2018年現職。

 

★博報堂DYメディアパートナーズ「クリエイティブ&テクノロジー局」の現在、未来、進行形【後編】

★本記事は博報堂DYグループの「“生活者データ・ドリブン”マーケティング通信」より転載しました

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
PAGE TOP