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【D3WEEKセミナーレポート・前編】日本の企業にCMOを!―JMA「CMO ソサエティ」発進
REPORT

7月26日(水)~28日(金)に開催された「D3WEEK 2017」の最終日に、ネスレ日本の石橋昌文氏、ドミノ・ピザ ジャパンの富永朋信氏、日本マクドナルドの足立光氏という、日本のCMOを代表する方々が集結。博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ 執行役員 安藤元博がモデレーターを務め、日本企業へのCMO導入の意義と課題、およびその方法論についてディスカッションを行いました。(以下敬称略)

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■マーケターは扇動者であり、プロデューサーであり、経営者でもある

安藤
博報堂の安藤です。CMOとはチーフ・マーケティング・オフィサーの略ですが、JMA(日本マーケティング協会)でCMOの研究会を始めたのが2011年。まだ「CMOってどういう意味?」という声が多かった時期でした。次第にその認知度も関心度も高まってはきたものの、古いデータで恐縮ですが、経産省のレポートでは2013年時点で日本では時価総額上位300社中、0.3%しかCMOを設置していないという数字もあります。一方で、国内市場の成熟やデジタル化、グローバル化のなかで、いかにマーケティングを経営の中心に持ってくるかというのが重要なテーマになりつつあります。この動きを機会として捉え、JMAではこの秋より「CMOソサエティ」という活動の始動を計画しています。今日はそのキックオフセッションとして、日本のCMOを代表する方々に集まっていただきました。まずはお一方ずつ、自己紹介をお願いいたします。

石橋
ネスレに入社したのは32年前で、7年ほど営業におり、その間2年ほどイギリスでキットカットのセールスを担当しました。帰国後はずっとコンフェクショナリー(菓子)でマーケティングを担当し、2010年から現職です。コーヒー好きが高じて入社したものの菓子の仕事が長かったですが、いまはCMOという立場ですべてのカテゴリーにおけるビジネスに携わっています。本日はよろしくお願いいたします。

富永
私はずっとコカ・コーラの仕事がしたくて、3回受けてようやく入社でき、しばらく自販機の仕事をしていました。次第にチャネルの仕事に面白みを感じるようになり、西友に8年。そしていまドミノ・ピザにおります。相当はしょりましたが、これまで経験した計7社、すべてマーケティングで、CMOは現在3社目となります。よろしくお願いいたします。

足立
僕はお二人と違ってマーケティング畑が長かったわけではなくて、最初にいたP&Gで少し携わったくらい。その後コンサルからヘンケルというドイツの会社でコスメティック事業のアジアにおける責任者を務めていました。その後、アパレルのワールドを経て、日本マクドナルドへ来たのが2年前。そういうわけで、マーケティングというポジションは約16年ぶりとなります。

安藤
ありがとうございます。バックグラウンドは異なるものの、お三方とも外資系の日本の企業のCMOという共通点をお持ちなのですよね。日本のマーケティングにおいてはいわば先駆者的立場で、成功もされているわけですが、どんなところにマーケティングの仕事の面白さを感じるか、また成功の秘訣について教えていただけますか。

石橋
マーケティングを面白いと感じだしたのは2001年くらいです。いま弊社のCEOをやっている高岡が、当時コンフェクショナリー部門のマーケティング本部長をしていて。私もスイスから帰国し一緒に仕事をし始めたのですが、彼からのさまざまな無茶ぶりをこなしていくなか、新しいことへのチャレンジや、成功があり失敗があり、本当にいろんな体験を通して仕事も学んでいくことができた。刺激も多くてすごく楽しかったのですね。マーケティングというのはテーマによって社内の各部門に関係しますし、いろんなところでいろんな人と関われて、新しい学びや経験が得られます。そしてもちろん生活者の目に触れるところも刺激的です。どんどん変化する世の中、生活者の新しい情報をつかみながらステップを踏んでいくというところも、マーケティングの面白さでしょうね。

石橋昌文氏
ネスレ日本 専務執行役員 チーフ・マーケティング・オフィサー マーケティング&コミュニケーションズ本部長の石橋昌文氏

富永
僕は自分の顔を、鏡を通してしか見たことがないわけですよね。そうすると、鏡の前の自分はキリッとした顔をつくって見ているので、ふだん皆さんがご覧の僕よりも2割増し換算の自分しか僕は知らないわけです。いや、2~3割かもしれない(笑)。会社も同じで、特に社長とか役員のような偉い人は、自社のことを実態よりも2割、3割増しでカッコ良いと思っている。それって、言わば3枚目のコメディアンがタキシードを着て、バラの花束をもって正統派女優にプロポーズするようなものです。でもその滑稽さを自覚できていないという状態なのです。男でも女でも「カッコ悪いよ」「ブスだね」なんて言おうものなら喧嘩になってしまいますが、マーケティングの人というのは実際、「あなたの会社はカッコ悪いよ」ということを喧嘩にならないようにライトに伝えるということをベースにしている。そういうことだと思います。

安藤
確かに根拠もなく「カッコ悪い」と言えば喧嘩になりますよね。そのときマーケッターに必要な武器は何でしょうか。

富永
武器は2つあります。1つはデータ。主張を裏付ける調査をして、うちの会社はカッコ悪いよね、ということの証左にします。偉い人は左脳的には納得しても、右脳的には怒りがたまっていきますが、たまたま僕がキムタクみたいにカッコいい人間ではないから、「社長、こんな僕だって自分のことをカッコいいと思っているんですよ!」と説明すると大抵納得してくれます。僕の場合はそれを武器にしていますが、CMOの人はそれぞれが自分の武器をつくっていくものだと思います。

安藤
単純な理詰めではなくて、そういったコミュニケーションの取り方もカギになるということですね。

富永
自分がいくらいいことを考えて口にしても、「何カッコいいこと言っちゃって」で終わると意味がない。会社全体のイニシアチブとしてそれが起きないといけないわけですから。自分が三枚目になっても、泥をかぶっても、事を起こすということが大事なんじゃないでしょうか。

富永朋信氏
ドミノ・ピザ ジャパン 執行役員 チーフ・マーケティング・オフィサーの富永朋信氏

安藤
なるほど。足立さんはいかがですか。

足立
僕はもともとマーケティングがしたくて職種別採用からP&Gに入りました。マーケティングは、いわば扇動者として、人の心を動かしたり、行動を促したりすることができる職種だと思ったからです。でもやっているうちに、意外とそれだけじゃないな、と感じ始めました。要はビジネスをつくっていく必要があって、目標を達成するためにさまざまな仕事が発生する。映画のプロデューサーみたいな感じで、お金が足りなかったらお金を集めてきて、いろいろなプランを企画し……そういう側面が結構あるなと思っています。それから、ブランドを扱っている以上、一発当ててもしょうがなくて、中期的にビジネスが継続できるような仕組みをつくることも必要。ある意味経営者的な仕事でもある。マーケターというのはそういう意味で、扇動者でありプロデューサーであり、経営者でもあることが面白いと感じています。

安藤
扇動者という部分では、今日会場にいらっしゃる若いマーケターも皆、まず携わる仕事と理解できます。その次のプロデューサーだという感覚を持つには少しハードルがあり、その次に仕組みをつくるというところまでいくとさらにハードルが高そうです。これは若い方の仕事として考えていいものか、それともいずれやることと考えればいいものでしょうか。

足立
若い頃からやるべきでしょうね。というのも、マーケターは人の心を動かすプランは確かにつくれるかもしれませんが、その実現のためには営業や生産や広報など周囲に動いてもらう必要があるわけです。そのためには間違いなくプロデューサーとしてのスキルが必要です。またブランドを扱う場合、いまこの一つの商品、一つの事業を担当しています、で終わりではなくて、その後自分がいなくなっても継続的に回る仕組みを考えなくてはいけません。これは経営者の視点だと思いますよ。若いか若くないかは関係なくやるべきことだと思います。

富永
プロデューサー的な感覚というのは、結局しゃかりきになって、どういう手段をもってしてもこの事を起こすということ。私が先ほど申し上げたことと共通しそうです。

足立光氏
日本マクドナルド 上席執行役員 マーケティング本部長 チーフ・マーケティング・オフィサーの足立光氏

→後編はこちら【D3WEEKセミナーレポート・後編】日本の企業にCMOを!―JMA「CMO ソサエティ」発進

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