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未来型「地方創生」実践手法 ~市場を創る、人材を生み出すための、ソーシャルデザインとは?~(博報堂Consulactionセミナーより)
REPORT

参考 → 博報堂Consulaction HP

地方創生を一過性のブームに終わらせずに、未来につながるムーブメントにするにはどうすればいいのでしょうか。
今年4月に内閣府選定の地方創生先行自治体に選ばれた高知県佐川町の堀見和道町長と、その佐川町を始め全国各地の地域を「デザイン」の力で活性化させる取り組みを続けている博報堂/issue+design代表の筧裕介が、「地方創生の現在」について語りました。

【講演1】
「地域の今と地方創生総合戦略」

堀見氏1

堀見和道氏(高知県佐川町長)

なぜ佐川町の町長になったのか

高知県の佐川町は、植物学者の牧野富太郎の故郷であり、清酒の有名銘柄「司牡丹」がつくられている町でもあります。
私は2年前にこの佐川町の町長となり、町を活性化させる様々な活動に取り組んできました。

大学卒業後、経営コンサルティングなどを手掛ける会社を立ち上げ、静岡で暮らしていた私が、故郷に戻って町長選に出ようと考えたのには二つの理由があります。
一つは、子どもの頃から数学が得意で、難易度の高い問題にチャレンジするのが好きだったことです。
地方自治体の長の最大の仕事は、課題の解決です。町長の仕事は自分に非常に合っている、そう考えました。
もう一つの理由は、やはり子どこの頃から「世のため人のために行動しなさい」と父親から何度も念仏のように聞かされてきたことです。
私はその言葉を20代半ばから生きる指針にするようになりました。課題を解決し、町のため、町民の皆さんのためになることをする──。
それが、私が町長になってやりたかったことです。

町長に当選して最初に取り組んだのは、総合計画の策定でした。
自治体の総合計画は、企業における事業計画に相当します。
これがなければ、町の未来を描くことはできません。私はその策定を外部の方にサポートしてもらおうと考えました。
外からの視点を備え、かつ自分とタイプの違う人に参加してもらえば、バランスの取れた計画が作れると考えたのです。

あるとき上京する機会があって、書店で地域づくりや町づくりの本を片っ端からチェックしていたところ、『ソーシャルデザイン実践ガイド』という本が目に入りました。
その本のページをめくって、その場で購入することを決めました。町に帰って本を一気に読んで、私は著書である筧裕介さんに「一度会ってお話をしたい」とメールを送りました。
あれは運命の出会いだったと思います。再び上京して「町の総合計画の策定を手伝っていただきたい」と筧さんにお願いしました。
唐突とも言えるその申し出を、筧さんは快諾してくださいました。

「自伐型林業」で町を創生する

「住民同士のつながりが増え、気持ちのいい挨拶が交わされ、笑顔があふれる『人がイキイキと輝く幸せなまち佐川町』を行政と住民が一緒になって創る」──。

これが、私が筧さんらと考えた佐川町の総合計画の基本理念です。
これは町の理念であると同時に、地方創生の理念でもあります。

住民同士のつながりを増やすためには、その活動を支援してくれるファシリテーターが必要です。
私たちは、数年かけてファシリテーターを育成していくことを目標に掲げ、ワークショップを何度も開催しました。
そこでは住民と行政関係者が同じ目線で町の将来について語り合いました。
こういう交流と対話の場が町のあちこちにあって、楽しい話し合いが日常的に行われる。
そんな環境が整えば、地方創生は7割がた成功と言っていいのではないか。
私はそう考えています。

私たちはまた、「しごと」「ひと」「まち」を創生するための目標もつくりました。
以下に紹介するのが、その目標です。

<しごと創生における目標>

①自伐型の林業を働く場づくりの核として捉え、仕事として軌道に乗せること。

②木材や猪の皮などを活用して、デジタル加工機械を活用した「ものづくり分野」での仕事をつくること。

③地域の元気をつくる地域センター型「道の駅」の整備を行い、農林業分野での産業振興を図ること。

<ひと創生における目標>

①学校教育の中で職業教育ならびに、ものづくり教育が行える環境を整備すること。

②ものづくりについて体験、学習できる拠点を整備し、起業家が生まれる環境を整備し、支援すること。

③地域おこし協力隊の制度を積極的に活用し、移住促進に取り組む中で、外の視点を入れた町の活性化を図ること。

<まち創生における目標>

①行政と住民が信頼関係を構築し、一緒になってまちづくりを推進していくことのできる体制づくりを進めていくこと。

②小さな拠点づくりを推進し、町周縁部の4地区にそれぞれ拠点を構えること。

③結婚・出産・育児について財政的な支援と人的な支援を中期的に実施すること。

とくに私たちが注力したいと考えたのは、「自伐型林業」でした。
個人が自ら山に入っていって木を切り出し、それを有効活用して産業にする。それが自伐型林業です。

高知県の面積の8割以上は森林です。
日本もまた、森林が国土の7割に及びます。
しかし、これまで日本の林業政策はあまりうまくいっていませんでした。
輸入材の多さがそれを物語っています。
国産の材木をうまく利用できていないということだからです。
森林から木を合理的に切り出して、市場に合うような材として販売していく。
そんな取り組みが今後は必要になるでしょう。
その取り組みは地方の活性化にもつながるはずです。
自伐型林業を佐川町で成功させることは、日本の林業への寄与にもなる。そう私たちは考えています。

「そのような小規模林業を続けても、生活はできないだろう」と言う人もいます。
しかし、自伐型林業に従事して3年ほどで400万円の年収を得るようになった23歳の若者もいます。
工夫次第で、自伐型林業で生きていくことは可能なのです。
最近では、このような林業に取り組む自治体も増えてきています。

日本中の美しい森林がきちんと手入れをされて、土砂崩れの危険のない山として整備されていくことが私たちの願いです。
この取り組みの成果が明らかになるまで、10年かかるかもしれないし、30年かかるかもしれません。
長い時間を要する取り組みですが、歯を食いしばって頑張っていこうと思っています。

佐川町には美しい自然があります。
美味しいお酒もあります。
温かい人たちもいます。
ぜひ一度、佐川町に足を運んでください。

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【講演2

「ソーシャルデザイン:地方創生のためのデザイン思考」

筧氏1

筧 裕介(博報堂/issue+design代表)

デザインの力で課題を解決する

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「issue+design」は、2008年に神戸市が主催したソーシャルデザインのプロジェクトからスタートしました。
1995年の阪神淡路大震災から10年以上が経ち、防災の意識が薄れてきたという課題がそのプロジェクトの背景にはありました。
再び震災が来たら何ができるかをみんなで考えよう──。
そんな問いかけがプロジェクトのベースとなっていました。
東日本大震災が発生したのは、そのプロジェクトが終わって一年ほどが経ってからでした。プロジェクトで出された様々なアイデアが被災地の支援に実際に生かされたのは、たいへん意義深いことでした。

「issue+design」には、「課題をデザインの力で解決する」という意味が込められています。
デザインといっても、ビジュアルを美しく整えるといった狭義のデザインではありません。
私たちが考えるデザインとは、論理的思考や分析だけでは読み解けない複雑な問題の本質を直感的、推論的に捉え、そこに調和と秩序をもたらす行為であり、「美」と「共感」の力で多くの人の心を動かし、行動を喚起し、社会に幸福をもたらす行為のことです。

「issue+design」の取り組みはまた、常にオープンでなければならないと考えています。
企業、NPO、大学、国、地方自治体、生活者など、様々な立場の人が参加し、その集合知を活用することで、課題の解決に確実に近づくことができるからです。

神戸市との共同プロジェクトとして始まった「issue+design」は、その後、子育て、教育、結婚、国内観光、生活習慣病、食育など様々な社会課題にテーマを広げ、現在まで続いています。

地方創生をめぐる4つの提言

さて、今日のテーマは「地方創生のためにデザインに何ができるか」です。
地方創生が声高に語られるようになった背景には、急速な人口減少があります。
人口の減少と地方の創生。このテーマをめぐって4つの提言をしたいと思います。 

<提言1>人口減少の本質をつかむ

日本の人口は、2010年には1億2776万人でした。
では、2100年には何人になるでしょうか。
推計で4959万人まで減ると見られています。

鎌倉幕府が成立したころの日本の人口は700万人弱でした。
これが江戸時代には3100万人くらいまで増えました。
江戸時代は、戦乱がなく、鎖国の中で自給自足をしていた時代です。
この時代の人口の規模が実は日本の国土には適正なのではないかと言う人口学者もいます。

この後、日本の人口が急激に増加するのは1800年代後半以降です。
この時代からピーク時の2004年まで、世界に類例のないスピードで日本の人口増加は進んでいきました。
それが今、急速な減少の局面に入っています。これだけ急激に人口減少が進むのもまた世界の歴史に例のないことです。
この急速な人口減少に日本社会はどう対処していくのか。
どのような新しい社会システムをつくっていくのか──。
世界の多くの国々がそんな関心を持って、現在の日本を注視しています。

では、人口はなぜ急激に減少しているのでしょうか。
要因は3つあると考えられます。

まず、夫婦当たりの出生率が低下していることです。
一組の夫婦当たりの子どもの数は、1982年には2.23人でした。
2010年にはこれが1.96人まで減っています。
もっとも、激減というわけではありません。
例えば、2人以上子供いる夫婦は、82年には85.9%で、10年には77.8%です。
子どもを2人つくる夫婦が多数であることには変わりはありません。

要因としてより大きいのは、生涯未婚率(50歳時点で未婚の人の割合)の上昇です。
男性で見ると、85年には4.3%だった生涯未婚率が10年には19.1%まで上がっています。
予測では、2030年には男性の29.5%、女性の22.4%が未婚になると見られています。

3つ目の要因は、若者の減少です。
とくに地方の若年女性の数が減っていることが人口減少に大きな影響を及ぼしています。

人口減には、夫婦当たりの出生率低下、生涯未婚率の上昇、若者の減少の3つの要因がある。
それがこの提言におけるポイントです。

<提言2>住民幸福度を高める

それでは、このような人口減少を食い止める方法はあるのでしょうか。
私たちは、「人は幸せを感じている地域には留まるのではないか」「人は幸せを感じている地域では子どもをたくさん生むのではないか」という仮説を立てました。

先ほど堀見さんからお話があったように、私は2014年から、高知県佐川町の総合計画をつくるプロジェクトに携わっています。
総合計画はどの自治体にもあるものですが、その中には成果や目標がわかりにくいものが少なくありません。
総合計画を意味あるものにするために必要なのは、明確な目標です。
そこで私たちは「住民の“幸せ”を高める」ことを目標に設定しました。

「幸せ」の定義として参照したのが、慶應義塾大学大学院の前野隆司教授が提唱する考え方です。
前野教授によれば、幸福には「長続きしない幸せ」と「長続きする幸せ」があります。
前者を支えるのが「地位財」で、後者を支えるのが「非地位財」です。

地位財とは、周囲との比較により満足を得るもので、お金、財産、社会的地位などがこれに該当します。
一方、非地位財は、他人との比較とは関係なしに幸せが感じられるもので、健康、自主性、社会への帰属意識、良質な環境、自由、愛情などがこれには含まれます。
地位財は、獲得すればただちに次の獲得を目指さなければならないのできりがありません。
結果、心は常に満たされない状態となります。
それに対して、非地位財には幸福の持続性が高いという特徴があります。
私たちは、非地位財によって支えられる「長続きする幸せ」こそが「幸福」であると定めました。
また、そのような幸福を構成する5つの指標を考えました。

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私たちはこの5つの指標をもとにして、47都道府県と佐川町の幸福度をスコア化してみました。ランキングの上位10位に入ったのは、以下の都道府県です。スコアも一緒に紹介します。

①沖縄県/834.0
②鹿児島県/738.0
③熊本県/730.0
④宮崎県/729.3
⑤東京都/712.3
⑥福岡県/703.3
⑦兵庫県/688.7
⑧長崎県/688.0
⑨石川県/686.3
⑩岩手県/679.7

一見して、沖縄と九州の幸福度が高いことがわかります。
さて、佐川町のスコアですが、結果は693.7で、6位の福岡県と7位の兵庫県の間となりました。
全国的に見ても非常に高いスコアということです。

ちなみに、「人は幸せを感じている地域では子どもをたくさん生むのではないか」という仮説をこのスコアで検証すると、子どもが多くなるほど幸福度の数値が上がり、女性の幸福度スコアが高い県は出生率が高い傾向にあることがわかりました。

この結果を受けて、佐川町の総合計画の目標は、第一に「幸福度スコアの維持・向上」に、第二に「やってみよう!スコアの向上」に決まりました。佐川町は、全体的に幸福度スコアは高いのですが、「自己実現と成長」(やってみよう!)に関するスコアが低かったからです。
チャレンジ精神の醸成が大きな課題であるということです。

この調査後、佐川町を幸せな町にするために何が必要かを話し合うワークショップを開催しました。
そこには200人に上る町民の皆さんが参加しました。
ワークショップはその後も継続していて、これまで合計400人ほどの皆さんに参加いただいています。

この提言におけるポイントは、「地域住民の幸福度を高めることが人口流出を防ぎ、出産を後押しする。
そのための長期計画づくりが重要」ということになります。

<提言3>住民同士をつなげる

幸福度調査の中でわかったもう一つのことは、人と人とのつながりと幸福度のスコアには明確な相関関係があるということでした。
所属している団体が多いほど幸福度は高い傾向があり、また友人の数が多いほど幸福度が高い傾向もあることがわかりました。

そのような気づきをもとにして始めたプロジェクトが福井県の「国内観光+design」です。
これは、私たちが「コミュニティトラベルガイド」、つまりその土地の人々との出会いを楽しむ旅のガイドブックを、その土地の人たちと一緒につくるというプロジェクトでした。
この取り組みは『福井人』というガイドブックに結実し、その後、『海士人』『三陸人』『大野人』『銚子人』などほかの地域でも同様のガイドブックが実現しています。

このプロジェクトから私たちが実感したのは、住民同士のつながりが仕事づくりや、育児・子どもの見守りといった活動に結びつき、何よりも住民の幸福度を高めるということでした。

提言4>小さな経済をつくる

 地域で生きるために欠かせないのが仕事です。
佐川町で私たちが着目したのが、すでに堀見さんから紹介のあった自伐型林業です。
この林業を「仕事」にするには、切り出した木材を活用したビジネスをつくり出していかなければなりません。
良質な木材は住宅用などに売り出すことができます。
しかし、販売できない木材はどうすればいいか──。
そこで私たちは、「さかわものづくり大学」というものづくりのコミュニティスペースを立ち上げました。
コンセプトは「林業×デザイン×デジタルで仕事をつくる」です。

3Dプリンターに代表されるいわゆるデジタルファブリケーションによって、誰もがこれまでは難しかった高度なものづくりにチャレンジすることができるようになりました。
いわば「ものづくりの民主化」が実現したわけです。
自伐型林業とその「ものづくりの民主化」をかけ合わせるデザインによって、新しい産業が生み出せるのではないか。そう私たちは考えたのです。
試作品の第一弾として「Write More」という新感覚の“勉強したくなる机”がこの取り組みから生まれています。

地域の資源と新しい技術や仕組みをかけ合わせることができれば、地域に新しい産業をつくり出すことは可能である。
それがこの4つ目の提言のポイントです。

人口は今後間違いなく減少していきます。
しかし、人口が減ること自体は必ずしも悪いことではないと私は考えています。
問題なのは、過度な人口減少と、都市に人口が集中して地域の産業の担い手が減ることです。
それは、日本が誇る地域の豊かな生活、あるいは多様な文化や景観の衰退につながるからです。

自分が生まれた土地で生きていきたい、働きたい、結婚したい、子どもを育てたい──。
そんな気持ちを持つ若い人がもっと増えてほしいと私は願っています。
そのためには、多くの人が非地位財型の幸せを実感できる地域をつくっていかなければなりません。
そんな視点で、これからも地方創生に貢献していきたいと思います。

ツーショット1

高知県佐川町長 堀見 和道氏
1968年生まれ、東京大学工学部建築学科卒。
1992年新日本製鐵株式会社建築事業部入社。
2000年株式会社堀見総合研究所設立代表取締役就任。
商業施設、住宅などの建築設計および経営コンサルタント業務に携わる。
静岡県行財政革新戦略会議委員、静岡県事業仕分け仕分け人、小学校PTA会長などの公職を務める。
2014年10月故郷である高知県佐川町の町長選に立候補し初当選。
「まちをみんなでつくる」を合言葉にまちづくりに邁進中。
「自伐型林業と住民発ものづくりの聖地」を目指す地方創生総合戦略が内閣府より高い評価を受け、地方創生先行自治体28にも選ばれる。

株式会社博報堂(issue+design代表) 筧 裕介
1975年生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了(工学博士)。人口減少×デザイン.JPG
1998年株式会社博報堂入社。2008年issue+designを設立。
以降、東日本震災支援ツール「できますゼッケン」、人々との出会いを楽しむ旅のガイド「Community Travel Guide」など、ソーシャルデザイン領域の研究、実践に取り組む。
著書に『人口減少×デザイン(2014)』『ソーシャルデザイン実践ガイド(2013)』などがある。
グッドデザイン・フロンティアデザイン賞、竹尾デザイン賞他多数受賞。

人口減少×デザイン 
地域と日本の大問題を、データとデザイン思考で考える。
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