コラム
メディア環境研究所
CES2022 レポート「内省から攻勢へ」
コロナ禍を乗り越え、いかに価値創造による成長につなげるか
COLUMNS

22年1月3日より7日の会期で、今年もCESが開催されました。
昨年コロナ禍によってオンライン開催となったCESでしたが、今年はいつものラスベガスの会場とオンライン上の「DIGITAL VENUE」とのハイブリッドでの開催に。オミクロン株の流行によって、直前まで出展企業の相次ぐキャンセルで混乱もありました。しかし、今回のCES2022で実感したのは、コロナ禍によって停滞することなく、次の成長に向けて積極的に動き出している世界各国の企業の姿でした。今回はその様子をお届けします。

コロナ禍を乗り越えて次の成長に向けて動き出す世界各国の企業

CESは毎年1月米国で開催される世界最大級のハイテク技術見本市です。従来はいわゆる家電見本市でしたが「テクノロジーとイノベーションの祭典」へと領域を拡大。大企業からスタートアップまで数千社が自社の製品やサービスを通じて未来の生活を提案し、グローバル市場に向けて年頭にスタンスを表明する場として注目されています。
キーノートやプレス向け発表会では各社のキーマンから、新商品やサービスの紹介にとどまらず、社会課題に対する自社の取り組みや、今後のビジョンが示され、「様々な企業の未来の捉え方が一堂に会する場」として、マーケティングや事業開発の視点からも注目されています。

昨年はコロナ禍の影響で初めてオンラインで開催。しかし、登壇者からは「やはり早くまたラスベガスで会いたいね」という発言が相次ぎ、会期最後には「CES2022 RETURNS TO LAS VEGAS」と宣言、リアル開催へのこだわりをみせました。
この点にはついては今回の冒頭、主催団体のCTA(Consumer Technology Association)CEOのゲーリー・シャピロ氏からの挨拶でも、「スタートアップから未来を奪ってはならないと考えた。彼らはラスベガスに来て製品を披露することで新しい顧客や、新しい投資家が見つかる」と説明。万全の感染防止策をとったうえで、強い使命感からリアル開催をあきらめなかった様子がうかがえました。

一方で大企業を中心に、感染拡大を受けてリアル展示をキャンセルしたり、人の派遣を減らしたりするなどの動きが直前まで見られました。キーノートにCEOが登壇予定だったT-Mobileは早々にキーノート自体をキャンセル、GM(General Motors Company)もキーノートをオンラインでの実施に変更。また、Meta(旧Facebook)、Microsoft、グーグル、アマゾン等は会場での参加を取りやめました。
会場内に大きな空きスペースが生じていたり、展示内容を大幅に簡素化したりする様子なども見られました。先行きが予測しにくいコロナ禍を前に、リアルとオンラインを組み合わせて柔軟に対応していくことが求められたとも言えます。

このような中で開催されたCES2022で実感したのは、コロナ禍を乗り越えて次の成長に向けて、世界各国の企業が積極的に動き出している姿でした。
昨年のCESは、脱炭素・人種差別(Black Lives Matter)・ダイバシティ・プライバシー等、コロナ禍の中でより明確となった様々な社会課題に対してテクノロジーがいかに向き合うべきなのか、一旦立ち止まって「内省」が目立つ年でした。今年は、それらは前提としたうえで、いかに新たな成長に向けて「攻勢」をかけていくかというテーマが浮き彫りになりました。
繰り返されるのは「生き延びるだけでは不十分、よりよい世界をどう作るか」「テクノロジーによるイノベーションを起こし続けることが重要」「Build a better world」というメッセージ。
CESというポジティブな未来を語る場であるということを差し引いても、コロナ禍の脅威のなかで対応に追われるだけではなく、テクノロジーを活用してそれらを乗り越えていこうとする、停滞を良しとしないアグレッシブな姿勢が目立ちました。

CES2022における5つの注目ポイント

1.「モビリティ」 EV・自動運転で産業転換が加速
2.「デジタルヘルス」 デジタル化による「ディスラプション」
3.「メタバース」 バズと実装と思索
4.「ロボティックス」 技術は成熟、どう活用するか
5.「スペーステック」「フードテック」 今回は種まき

1.「モビリティ」EV・自動運転で産業転換が加速
あるニュースサイトでは「CESはここ数年で最高のオートショーになりました」と評されるほど自動車関連が話題に。ソニーはプレス向け発表会で、これまでにも公道を走る様子などが公表されていた「VISION-S 01」と共に、今回新たにSUVタイプの「VISION-S 02」を紹介。あわせて、事業会社「ソニーモビリティ株式会社」の設立も発表しました。
昨年に続いて2年連続でキーノートに登壇したGMは、量販車種のピックアップトラック「シボレー・シルバラード」のEVを発表。昨年、EV時代をリードしていく強い意志の証として新CIを発表しましたが、今年はその取り組みが着実に進んでいることを印象付けました。
ベトナム初の自動車会社VinFastは22年にもガソリンエンジン車の生産を停止。EV車のみの生産に移行し、欧州と米国でも販売していくことを発表、注目を集めました。
またインテル、NVIDIA、クアルコムなどの半導体メーカーの発表でも目立ったのは自動車関連。各社の発表では自動運転技術を始めとする次世代の自動車に欠かせない「プラットフォーム」として自社を訴求。各社とも多くの自動車メーカーとの緊密な協働関係を示し、モビリティの進化に不可欠な存在であることを印象付けました。

2.「デジタルヘルス」デジタル化による「ディスラプション」
今回のキーノートでは、初めてのヘルスケア企業としてAbbottが登壇。バイオウエアラブル(常時装着型のバイオセンサー)による継続的なデータ収集、AI活用による分析技術、スマホ連携によるUI向上により、大きく進化していることが示されました。従来は、身体が発している「メッセージ」は医者や病院を介してしか自分でも理解できないものでしたが、Abbottのテクノロジーによって自分自身で理解できるようになる。自分の健康を自分に取り戻す、医療の民主化ともいえる「Human-Powered Health」は、会場からのスタンディングオベーションで幕を閉じました。
デジタル技術や粒度の高いデータの力で自分自身のことをリアルタイムで精度高く理解する。理解することで行動につながる。行動することでより健康的な生活を手に入れる。デジタル化によって企業のマーケティング活動の精度が向上し、効率や効果を高められるようになったのと同様のことが健康や医療の領域でも進んでいます。

3.「メタバース」バズと実装と思索
FacebookのMetaへの社名変更など、昨年より急速に注目度が増したメタバース。何でもメタバースに結びつけてしまう展示の様子が話題になるなど、まさにバズ状態の一面も。
しかし一方で、NVIDIAによるメタバース開発ツール「Omniverse」の個人ユーザーへの無償提供開始や、ソニーの次世代VRであるPlayStationVR2など、メタバースの基盤となることを目指す発表も相次ぎました。またパナソニックの子会社であるシフトールからはメタバースを快適に楽しむための超軽量VRグラスや、音漏れ防止機能が付いたマイク等が発表に。コンセプトや話題が先行しがちとも言われるメタバース領域で、実用化に不可欠な要素の開発が進んでいることを実感します。
さらにヒュンダイのキーノートでは、メタバースとリアルを断絶させずシームレスにつなげるコンセプトとして「Meta-Mobility」を紹介。様々なメタバースのコンセプトが発表される中で、生活していく上で不可欠な「リアル」の場との断絶をどう防ぐかが論点にもなりましたが、その一つの解決策として注目されました。

4.「ロボティックス」技術は成熟、どう活用するか
今回最も注目を集めたロボットは、英国のロボット開発企業Engineered Arts がソフトウエアと技術を開発したヒューマノイドロボット「Ameca」。人間からの問いかけに対し、人間のようなしぐさと表情で反応。「不気味の谷」を超えた表現力に達したとも言われました。昨年ボストンダイナミクスを買収したヒュンダイのプレス向け発表会には犬型ロボット「Spot」が登壇。倉庫作業ロボットの「Stretch」を23年から市場投入することも発表。
この他にも、輸送ロボット、配膳ロボット、掃除ロボット、など様々なロボットが紹介され、技術的には成熟していることを感じさせました。これらロボット技術をどう活用し、社会に実装し、どのように人間と共存させていくのか問われていると言えそうです。

5.「スペーステック」「フードテック」今回は種まき
この2つの領域は今回より新たにカテゴリーが新設され、その内容が期待されていた領域でした。スペーステックでは宇宙開発企業シエラスペースが出展。「Space-as-a-Service」企業として注目されていましたが、宇宙船のモックアップ展示の他は目立った話題とはなりませんでした。
またフードテック領域では、大豆を使用しない代替肉などの紹介がされましたが、リアル会場での展示や行動に制約がある中で大きな話題にはなっていない印象でした。
民間活用で急速にビジネスとして進化するスペーステックと、サステナビリティの観点から注目度がさらに高まっているフードテック。今後のテクノロジーの注目領域として、今回はまず「畑」が用意され、来年以降に期待とみるべきのようです。

今後のメディアDXやマーケティングDXを進めるために多くの示唆

以上が今回のCESの注目ポイントですが、その展示された技術や商品、サービスそのもの以上に、今後のメディアDXやマーケティングDXを進めるために多くの示唆を提示する場でもありました。

■ デジタル化によって意味がなくなる「境界」
自動車会社がメタバースとロボットの話をし、エンタテインメント企業が自動車の将来を語る。半導体メーカーもPCの性能向上の話以上に自動運転の未来を示す。CESで改めて目の当たりにしたのは、デジタル化によってこれまでの役割や関係性を超えた産業構造の変化でした。従来の枠組みを超えた新たな競合・共創関係の中で、競争軸の変化を主導していくことの必要性を改めて実感させられました。

■ データ活用による「ゲームチェンジ」
「データやAIを活用し、既存の健康・医療業界にゲームチェンジを仕掛ける(Abbott)」「モビリティを再定義する好位置に付けている(ソニー)」。各社の発言からは、デジタルの活用によって既存業界にゲームチェンジを仕掛ける発言が相次ぎました。従来の暗黙知や経験値と、データ活用力の掛け合わせによってビジネスのルールが変わる。今後も様々な業界でのゲームチェンジは続き、その中で自社がゲームチェンジを仕掛けていくことが重要になることが示されました。

■ モノ単体でなく仕組みの提供「プラットフォーム化」
GMは「我々は自動車メーカーからプラットフォームイノベーターになる」、NVIDIAは「メタバース時代に必要となるコンテンツ作成基盤を無償で提供する」と宣言。自社で完結するモノやサービスだけではなく、多くの企業やユーザーに活用され、共に価値創造を行っていくプラットフォームを志向する発表が相次ぎました。デジタル化によって部品やサービスのモジュール化が進む中で、今後も新たな基盤や仕組みの提供の話題が続きそうです。

■「プレミアムな体験」の提供
コロナ禍もあり、生活者の暮らしにおけるデジタル化が大きく進みました。CTAの調査からは、ネット接続されたスマート家電の保有率の向上や、意識面でも、日常生活の様々な場面でAIを活用することに抵抗感が大きくないことが明らかに。必要に迫られたデジタル化は日常として定着。デジタルを活用したより豊かな、高付加価値なサービスが期待されています。
LGは「The Better Life You Deserve」(より良い生活を手に入れる)」と提示。効率化によるコストダウンだけではなく、プレミアムな体験を提供する価値創出が不可欠と言えそうです。

■ 韓国ベンチマークの重要性
今回のCESでも存在感が高かったのが韓国でした。CEO自らが訪米しキーノートに登壇したサムスンは「この状況下でよく来てくれた」と壇上で歓迎されました。ヒュンダイやLGもトップが登壇。出展企業数も米国に次ぐ2位で日本の5倍以上とも言われています。
BTS等の音楽や、イカゲームなどの動画配信と同様に、世界をターゲットに国内に閉じずに仕掛ける。日本国内からは気が付きにくいですが、テクノロジー領域でもさらに存在感を高めている点は注目が必要です。

「大きくなり過ぎたCESには本当の先端的な発見はない」という声もあります。一方で、世界各国から様々な業種の企業が集まり、新商品やサービスの紹介だけでなく、企業トップがビジョンやパーパスを語る場として価値は高いと感じています。また参加企業のバラエティの多さは、デジタルによって業界の垣根がなくなってきている今だからこそ大きな意味があります。
コロナ禍による先行きの不透明感を超えて、いかに次の成長に向けて攻勢をかけるか。今回のCESで世界各国の企業から示された動きをどう受け止めるか問われていると言えそうです。

(写真は全てConsumer Technology Association)

島野 真
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 所長
1991年博報堂入社。主にマーケティング部門に在籍し、飲料、通信、自動車、サービスなど各企業の事業・商品開発、統合コミュニケーション開発、ブランディング業務を担当。2012年よりデータドリブンマーケティング領域で、マーケティングとメディアを統合した戦略立案・推進の高度化、DX推進に従事。2020年より博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局 局長 兼 メディア環境研究所 所長 兼 メディアイノベーションラボ。共著:『基礎から学べる広告の総合講座』(日経広告研究所)

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