コラム
メディア環境研究所
スマートフォンの次は何か ~声の時代へ。音声インターフェースの登場~
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スマートフォンは5年以内に使われなくなる」。通信機器メーカーとして有名なエリクソン社のコンシューマーラボが、2015年末にこんな刺激的なレポートを発表しました。メディア環境研究所が2006年から毎年行っているメディア定点調査によると、右肩上がりで増加してきたスマートフォンの普及が2016年には69.2%、2016年には70.7%と横ばいになりました(東京地区)。スマートフォンの日本サービス開始から8年半、生活者にとってスマートフォンのある生活は当たり前のものとなりました。そんな状況のもと、スマートフォンの次は何か、というテーマについて考えてみたいと思います。

増加する音声検索

「今日の天気を教えて」。皆さんは、こんな風にスマートフォンに話しかけて、音声検索を行ったことがありますか。日本でも若年層でこの音声検索が進んでいるようです。Googleの検索クエリによると、2013年を境に音声検索が右肩上がりで増えています(図1)。この動きは英語圏にとどまりません。中国語圏の検索エンジン「百度(Baidu)」でも2014年から音声検索が上昇中(図2-1)。ちなみに、中国語は言語入力の煩雑さもあり音声検索のみならず、音声入力も急上昇しています。(図2-2)

図1  Googleでの音声検索数の推移傾向%e5%9b%b31出典:Mary MeekerInternet Trends 2016”より

図2  中国の百度(Baidu)での音声検索・音声入力推移傾向「音声検索に加え音声入力も急増」%e5%9b%b32出典:Mary MeekerInternet Trends 2016”より

 

「音声コントロール」という新たなインターフェースの登場

「音声コントロールデバイス」の市場も活況を呈しています。その代表格がAmazon Echo(図3左)です。2015年の夏より北米で販売開始、2016年末のホリデーシーズンには米国で最も売れた商品のひとつとなっており、販売台数がすでに500万台を超えたと推測されています。Amazon EchoはiPhoneのSiriに相当する音声アシスタントAlexaを搭載。「Alexa、今日のスケジュールを教えて」というと教えてくれます。「Alexa、エアコンつけて」と指示するとAmazon Echoとつながったエアコンのスイッチが入るのです。「音声コントロールデバイス」は、家庭内のあらゆる機器とつながって操作を可能にします。この領域には、Google、SONYやLINEも参入(図3)。「音声」をとりまくインターフェース市場が拡がりを見せているのです。

図3  各社の音声コントロールデバイス%e5%9b%b33博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所作成

CESに見るAmazon Alexaの圧倒的な存在感

毎年1月に米国ネバダ州ラスベガスで行われる世界家電見本市“Consumer Electronics Show(通称CES)”。世界中の家電メーカーの新商品のお披露目の場でもあるCESでもAmazon Alexaの存在感は大きくなっています。2016年にはFord社と連携。車中から、家の中の温度や照明を音声でコントロールする新サービスも開発されました。2017年は、あらゆる家電メーカーがAlexaを採用。CESに登場した3600社の700もの機器が、Alexaによって、音声コントロールができるようになりました。Alexa搭載の冷蔵庫(LG社)の場合、「Alexa、水を買っておいて」と指示をすると、通販サイトを通して、水が届くという宅配サービスとの連携も発表されました。米国のメディア企業各社もAlexa向けのサービスを次々と開始中。CNNは、生活者が音声で最新ニュースを尋ねると教えてくれるサービスを始め、ハースト社の主婦向け雑誌は、家事のHow toについて音声で応えてくれるサービスを始めました。様々な生活シーンで、人々は、声によって情報を得ることや、指示をすることができるようになってきたのです。

音声インターフェースの出現における広告・メディア業界の3つのインパクト

では、音声インターフェース市場の拡大により、広告・メディア業界にはどのようなインパクトがあるのでしょうか。3つの変化が予想されます。一つ目は「生活者」のメディア接触の変化。家電、車、鏡、冷蔵庫・・・あらゆる機器が音声でコントロールができるようになると、テレビやPC、スマートフォンといったスクリーンに縛られず、自由度の高い生活になることで、生活者のメディア接触は、ますます分散化していくと想定されます。二つ目は「メディア」の売り物の変化。メディア接触が分散化することで、従来の売り物のメディアの「面」が減る可能性があります。とりわけデジタルメディアにとっては一部の売り物が音声インターフェースに流れるかもしれません。三つ目は「ブランド購買」における変化。音声メディア化した生活では純粋想起ブランドがより強くなるでしょう。冷蔵庫に水を買っておくように話しかける際の「水」がどのメーカーのものなのか。「指名買い」をされるように、トップブランドになる必要が高まります。

音声インターフェースの出現により、今までとは違った生活者の束ね方、サービスの提供が求められるはずです。異業種連携も不可欠となり、今まで以上に加速するでしょう。我々、広告会社にとっても音声インターフェースの出現におけるインパクトは非常に大きいといえるのではないでしょうか。

斎藤 葵 メディア環境研究所

2002年博報堂入社。雑誌ビジネスを中心とするメディアプロデューサーを経て2016年より現職。ファッション、ラグジュアリー、化粧品等を中心としたあらゆる業種の広告主に対し、出版コンテンツを活用した統合マーケティング企画の立案や雑誌出版周りの広告データ分析を行ってきた。インバウンドビジネスにも精通し、訪日中国人向け日本情報サイト立ち上げにも携わる。現在はメディア/コンテンツ双方の視点で生活者動向及びメディアビジネスのこれからについて研究している。

※執筆者の部署名は、執筆時のものであり現在の情報と異なる場合があります。

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