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メディア・コンテンツビジネス
広告会社の「エンタテインメントビジネス」座談会・第2弾【前編】
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2018年、博報堂DYメデイアパートナーズに、新たにエンタテインメントビジネス局ができました。同局で活躍する人たちに話を伺う企画の第2弾。今回も聞き手はエンタテインメントビジネス局の杉山豊(すぴ)です。杉山が同部署の中でも“ニューウェーブ”と感じている、松本詠子、竹田裕人、川合 英、長島志歩、小原裕貴に話を聞きました。

前列左から、エンタテインメントビジネス局の長島志歩、小原裕貴、松本詠子。後列左から、川合 英、竹田裕人、杉山豊(すぴ)。

■経験を生かし、新しいジャンルに挑戦していく

杉山
エンタテインメントビジネス局って、いったいどんな仕事しているのかと思っている人もいると思います。それなら、実際にやっている人に話を聞くほうがいいだろうと、今回は5人の方に来ていただきました。広告会社が手掛けるエンタテインメントとはどんなものなのか、そして今後の展望なども伺っていきたいと思います。まずは自己紹介をお願いします。

川合
2017年10月まで博報堂でマーケティングのストラテジックプラナー職として、流通や航空会社、一部エンタメ系の企業の広告マーケティングに関わっていました。その後、今のエンタテインメントビジネス局に異動になりました。プロデュース経験はないので、経験のある先輩について学ばせていただきながら、音楽や映画、美術展などに関わっています。映画では細谷まどかさんと一緒に仕事をさせてもらいました。もともとマーケティングの職種だったので、提案の際に調査データを使ったり、データに基づいた視点を踏まえたソリューション提供などをしています。

小原
博報堂で15年間、営業職として主に飲料メーカー、通信、トイレタリーなどのクライアントを担当しました。制作営業も媒体営業も経験しています。営業職から少しキャリアを広げたいという希望を持っていて、2018年8月付で異動になりました。ゆくゆくは一からのコンテンツ開発業務に携わりたいのですが、まずはエンタメの領域を広く経験するということで、現在はジャンルを問わず、営業経験を活かせる業務を中心に動いています。

松本
もともとは博報堂の営業職でした。個人的にミュージカルや舞台が好きでよく見に行っていたのですが、あるコンテンツのスタッフから予算がないという相談を受けて、パンフレットに広告を入れてはと提案したりしました。これがビジネスになるんだと思い、そういう視点でエンタテインメントを考えるようになったころ、ちょうど時を同じくして博報堂の中にエンタテインメント局ができて、異動してこないかと声をかけられました。舞台やお芝居、コンサートなどを中心に携わり、興業で収益が上がれば広告外収入につながることを実感してきました。
そこに特化していくうちに韓流ブームがきて、韓流スターやK-POPに関わるようにもなりました。今は、映画会社などエンタテインメント専門の会社と関わりながら、ブロードウェイ関連の仕事にも視野を広げ、博報堂DYメディアパートナーズのビジネス領域を広げているという感じです。

長島
私は新卒で映画会社に入ってCSチャンネルの広告営業を担当し、その後、テレビ局や配信サービスに対するライセンス営業をしていました。約2年前に、博報堂DYメディアパートナーズのエンタテインメントビジネス局に中途入社し、今は、配信サービスとオリジナルコンテンツをつくったり、配信サービスやテレビ局と連携して制作するドラマに関わったりしています。

竹田
僕が広告やプロモーションに関わり始めたのは、学生のときです。もともとクラブのDJをやっていたのですが、学生ベンチャーで会社をつくって、クラブや飲料品のプロモーションなどをしていました。大学4年で会社を閉じて、博報堂に入社してからはテレビスポットや新聞、ラジオなど様々な部署を経験しましたが、音楽に詳しいということで声をかけてもらい異動してきました。プロモーションやプランニングなど、クリエイティブディレクターとしての仕事をしてきましたが、今は出資やアライアンス、事業構築などでコンテンツホルダーと関わる仕事をしています。音楽を通じて学生時代から付き合いがある音楽レーベルとは、現在もダンス・ミュージックフェスティバルや花火イベントなどで関わっています。

杉山
個性豊かな皆さんに集まっていただき、どんな話が聞けるのか、ワクワクしてきました。ところで川合さん、ストプラ(ストラテジックプラナー)からキャリアアップするなら、データを扱う部署に行くほうが主流ではないかと思いますが、なぜコンテンツをやろうと思ったんですか。

川合
大学時代から映画が好きで卒業後の仕事を考えたとき、エンタテインメントとビジネスの掛け合わせという観点から広告に魅力を感じて入社しました。入社後、ずっとマーケティング畑にいたわけですが、4〜5年くらい前に自分が一番やりたいことはなんだろうと考えたとき、エンタテインメントを軸に仕事をしたい、その中で広告プロモーションについても携わるというスタンスがしっくりくるかなと思ったんです。みなさんご存知だとは思いますが、この会社はこれがやりたい!というと話を聞いてくれる人がどこかに必ずいる会社だと思うので、しつこいくらいに言い続けた結果なんとか異動できたのかな、という感じです。
あと、実のところ、データといってもあまりときめかないんですよね(笑)。もちろん、適切に活かすことは重要だと思っていて、広告会社としては生活者について様々な視点で把握できることは強みだと思います。当然、さまざまなプラニングもデータを見ながら考えているので、蔑ろにするつもりは全くないのですが、ただ、そこを主語にしたくはないんです。コンテンツありきで、何をするかを考えたいと思っています。

■広告会社がエンタテインメントを手掛ける意味とは

杉山
広告会社が手掛けるエンタテインメントってどう思いますか。

松本
エンタテインメントに関わる企業は、専門職の方がそれこそ全身全霊をかけて仕事をしているようなところがあります。そこに広告会社が入り込もうとするとき、もちろん広告外収入は得られるかもしれないけれど、一体何が残せるだろうかという気持ちを持っています。一つひとつを成功させるのはもちろんなのですが、もう少し長期スパンで、たとえば10年後を見据えて取り組むことも必要なのかなと思います。たとえば、新しい映画をつくろうでも、博報堂のオリジナルのレーベルをつくろうでも、新しいライブ会場をつくろうでも、なんでもいいのですが、そこに人材が集まって専門家が生まれれば、プロとしてエンタテインメント業界に切り込んでいけるのではないかという気がしています。

小原
私はもともとシンプルに広告会社のビジネスに興味をもったことが入社動機で、当初はエンタテインメントに関わろうとは思っていませんでした。ただ、いくつもの大きなクライアントを担当させてもらい、自分のキャリアを広げていくことを考えたときに、自分の経験も踏まえ、ぐるっぐるっと3周くらい周って(笑)、コンテンツ開発って面白そうだなというところにたどり着いたんです。
まだ異動して数ヶ月なので勉強中ではありますが、川合さんが話されたように、生活者のデータを生かすということもできるし、3000社ものクライアントを持っているというネットワーク、媒体社やコンテンツホルダーを含め多彩なスタッフとの連携もありますし、これらを掛け合わせたら今までにない新しいものができるんじゃないかと思い始めています。つまり、単純にコンテンツを売るというよりも、クライアントを巻き込んで開発するということに可能性があるんじゃないかということですね。生活者との絆のつくり方でいえば、コンテンツには圧倒的な強さがあり、それが企業や商品のブランディングにも反映できるのではないかと思います。

杉山
コンテンツのエンゲージメント力ということですよね。松本さんが手掛ける韓流系のエンタテインメントはコンテンツそのものに熱烈なファンがいて、僕はそのファンを得意先のために役立てているのだろうと解釈しています。だからこそ、広告会社としては、新しい顧客をつくろうと思ったら、コンテンツのファンを連れてくるということが強みになるんじゃないかなと思っています。

松本
先ほど話したプロになるということで言えば、コンテンツに熱烈なファンがいるということから考えると、可能性のひとつとして、広告会社のノウハウを生かしてファンクラブを仕切るプロになるということも考えられるかもしれません。

竹田
少し前までは、音楽ビジネスといえばCD販売でしたが、今はライブで稼ぐものになっていて、さらにIP(知的財産)ビジネスへと進んでいます。たとえば、僕は日本で立ち上げたライブエンタテインメントを海外に売ったり、3Dにして映画館にかけるビジネスに取り組んでいます。プロモーションの形もかなり変わってきていて、たとえば観客動員は、CMではなくインフルエンサーの発言によって変わってくるし、ニュース配信サービスによってチケット販売が進んだりします。こうした知見は、広告会社ならではというところがありますね。

川合
得意先に対してネットワークがあるというのはこのグループの強みだと思いますし、ここにコンテンツホルダーに対するビジネス的なメリットもあると思います。IPビジネスに関しても、ここ数年はテクノロジーの進化に伴いエンタテインメントもすごいスピードで変化が起きていると思います。そうした中でこの会社としても自らIPをつくっていくというようなことにもチャレンジしていかなければならないという意識も高まっていますし、そうした際に広告会社ならではの力を発揮して取り組むことにも意義があるんじゃないかなと思っています。もちろん、簡単じゃないと思いますけど。

■広告会社にとって自社コンテンツとは

杉山
広告会社がコンテンツを持つということについてどう思いますか。

松本
私は必ずしも自社で持たなくてはいけないとは思っていません。多くのコンテンツホルダーのところに、席を置くくらいのつもりで張り付いて、クライアントから要望があればつなぐことができればいいのかなと。つねにコンテンツの情報を持っていて、いつでも一番先に提示できることが大切じゃないかと思います。自社で持ってないならそういう連携のシステムをつくることも選択肢の一つだと思います。

杉山
エンタテインメントに長く関わってきたからこその意見かもしれませんね。傾聴しておきます(笑)。

川合
これからのライフスタイルやメディアの変化に伴い広告ビジネスも様々に変化していくと思いますが、エンタテインメントは残り続けるはずだと感じています。むしろメディアがこれだけ分散する中で、多様なメディア間で統一して展開できるコンテンツそのものにブランドやメッセージを埋め込む・一体化させるという考え方も広がる可能性がある様に思います。それが主流になるかはわかりませんが、熱狂的なファンがいるとか、エンゲージメントが高いものと掛け合わせる形で、企業がメッセージングを強めていくというようなことはひとつの流れになるのかもしれません。

小原
営業の視点からすると、自分たちの武器として優良なコンテンツを持っておくことが大切だなと感じます。日々、営業のフロントラインにいると、コアファンを抱えるコンテンツを活用したいというクライアントからの要望が以前にも増して強まっており、そのコンテンツを自社で持っていることで、成立しやすいという側面はありますから。だから、使える武器としては数多く持っているほうがいいかなと。

長島
私は、文化をつくるみたいなことがあるかなと思っているんです。最近の例でいうと映画「ボヘミアン・ラプソディ」がブレイクしましたけど、かなり熱い応援上映が行われていました。以前から、たとえば「グレイテスト・ショーマン」などでも、応援上映は行われていて、数年前からこういう観覧方法が提示されていました。その下地があったからこそ、「ボヘミアン・ラプソディ」の応援上映が大きなサイズ感でブレイクしたんじゃないかと思っています。これはファンの有志で始まった例ですが、こういったコンテンツの新しい楽しみ方、そして文化としてのスタイルのような部分までを、コンテンツそのものと合わせてプロデュースしていける可能性が博報堂にはあると思っています。

竹田
僕が博報堂でエンタテインメントに関わっているのは、エンタテインメントに人を惹き付ける力があるからです。基本的に広告の仕事は、一人でも多くの人に伝えることなので、一人でも多くの人を惹き付ける必要があります。僕が関わっている音楽フェスティバルも、花火イベントも数万人単位で人が動く。魅力的なエンタテインメントにはその力があるのです。

杉山
人が集まるものは広告メディアになりうるということですね。それに文化をつくる、ポストCM的な期待ができる、広告会社としての武器になりうるなど、興味深い意見が聞けました。

★後編につづく

■プロフィール 
杉山豊(すぴ)
エンタテインメントビジネス局 グループビジネスデザイン部
1987年博報堂入社。セールスプロモーション、デジタル、コンテンツ・ビジネス、クリエイティブ畑を歩み、2010年から博報堂DYメディアパートナーズに新設されたクリエイティブ・チームに所属。現在メディア起点の広告コンテンツの開発に取り組む。新聞広告が好きと公言し、また映画ライター「杉山すぴ豊」名義で雑誌に映画レビュー等を多数寄稿。

松本詠子
エンタテインメントビジネス局 グループビジネスデザイン部
博報堂で営業職経験後、エンタメ局(当時EBU)へ。舞台・映画などを経験後、博報堂DYメディアパートナーズ設立とともにエンタテインメントビジネス局へ。筆頭プロデューサーとしての芝居、コンサート等事業展開が中心。韓流スターのファンクラブ・ドーム公演やKPOPアイドルのコンサートも手掛け、国内アイドルグループの立ち上げ等にも従事。

竹田裕人
エンタテインメントビジネス局 ビジネス開発部 プロデューサー
CM、テレビ・ラジオ番組、イベントのプロデュースから、海外アーティストのブッキング、音楽フェスティバルや商業施設のブランディングやPR業務まで担う。広告の分野以外でも、名古屋芸術大学特別講師やこれまでにFM大阪、愛知、新潟などラジオパーソナリティとしても活動し、幅広い視点からの施策実施を得意とする。

小原裕貴
エンタテインメントビジネス局 グループビジネスデザイン部
2003年博報堂入社、営業局にて大手飲料メーカーや通信、トイレタリー等のクライアントを担当し、2018年に博報堂DYメディアパートナーズのエンタテインメントビジネス局へ。
コンテンツホルダーと協業したコンテンツ開発やクライアントセールス等、コンテンツプロデュース業務を従事。現在は「e-sports関連」,「Mリーグ」等を担当。

川合 英
エンタテインメントビジネス局 ビジネス開発部
博報堂に入社後ストラテジックプラニング職として、流通、航空、有料衛星放送、レジャー関連のコンテンツ企業など様々なクライアントの広告プロモーションの戦略立案、及びマーケティング・コンサルティング業務に携わる。2017年11月より現職に。博報堂グループで毎年実施しているコンテンツファン消費行動調査などを始めデータをプラニングに活かしつつ、コンテンツを軸にした広告プロモーションの企画・実施、事業開発に取り組む。

長島志歩
エンタテインメントビジネス局 映像コンテンツ開発部
映画会社で広告営業、ライセンス営業などを経験後、2017年に博報堂DYメディアパートナーズに入社。配信サービスやテレビ局と連動したコンテンツの製作、プロモーション等を中心にエンタテインメントビジネスに従事。主な担当作品はGYAO!「私のAIする王子様」、ABCテレビ×GYAO!「KBOYS」など。

 

【関連情報】
★広告会社の「エンタテインメントビジネス」 コンテンツプロデューサー座談会【前編】
★広告会社の「エンタテインメントビジネス」 コンテンツプロデューサー座談会【後編】
★広告会社の「エンタテインメントビジネス」座談会・第2弾【後編】

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