コラム
メディア・コンテンツビジネス
【カンヌライオンズを振り返る】メディア部門を審査して
COLUMNS

第62回カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルにおいてメディア部門の審査員を務め、またライオンズ・イノベーションのクリエイティブデータ部門においてシルバーを受賞したデータドリブンメディアマーケティングセンターの安藤元博センター長に、カンヌを振り返っていただきました。

■メディア部門の審査員として参加されていかがでしたか

DSC01399t

私が参加したメディア部門の審査員は第一次審査時点では全部で35人いて、3日間かけて3200の作品を見て300くらいのショートリスト候補に絞り、そこから12人の最終審査員にしぼられてさらに3日間かけて議論し賞を決めていきました。大変な長丁場でしたね。

メディア部門の審査基準となるのは、35%がインサイトやストラテジー、クリエイティブアイデア、30%がメディアエグゼキューション、そして35%がリザルトとエフェクティブネスです。

ここでもっとも特徴的だと感じたのは、審査の過程で「これはただのクリエイティブアイデアでしかないよね」「メディアマンはここでどういう働きをしたの」といった議論が頻繁に出てきたことです。もちろんクリエイティブアイデアは大事だし、目を引くものに関してはショートリストに入り込んできますが、最終的に受賞に至るには、切れ味のよいアイデアとメディアの実現力が互いに作用しあい、うまく相乗効果を発揮できているかどうか、さらに言えばそれが現実的な成果に結びついたかどうかが重視されていたと思います。

結果的にメディア部門でグランプリを受賞したのは、トルコのDV被害に苦しむ女性を救うための「Vodafone Red Light Application // Between Us」。危機を感じると即座にスマートフォンのアプリで事前に登録した相手に助けを呼べるというシステムです。このアプリの存在を男性に知られることなく周知するために、メイク動画の合間や女性用衣類のタグなどを活用し、25万件のダウンロード数――スマホを持つトルコ人女性のおよそ24%という圧倒的なリーチにつながりました。女性だけが気づき、女性だけに効果的に伝わるメディアを活用できていること、そして圧倒的なリザルトが評価されました。

■今年のカンヌ全体の印象はいかがでしたか

DSC00229 DSC00230

巨大グローバルブランドの力技的な仕事が依然多いなかで、さまざまなレポートでも言われていましたが、やはり社会的な課題をいかに解決していくかというソーシャルグッドな傾向が潮流としてあります。これはメディア部門の評価基準とも関連してきますが、アイデアだけに終わらずいかにリアルに、本質的に、社会的課題を解決していくのかという視点が問われています。

また、今年の2週間の滞在の間で感じたことは、昨年と比べて、実際の受賞作品と、カンヌを取り巻く時代の動きとのギャップが少しずつ狭まっているのではないかということ。

というのも、会場の外に設営されているたくさんのテントブースではテクノロジーベンダーだとかデジタル系の先端プレイヤーがたくさんいる。セミナーでも、デジタルやデータを活用した先進的なマーケティング事例の話が飛び交っている。でも実際の受賞作品を一通り見てみると、相変わらず昔ながらのクリエイティブアイデアが核となっている受賞作が強い印象なんです。去年はカンヌにいてそのズレのようなものが気になっていたのですが、今年の受賞作をブロンズやショートリストまで丁寧にみていくと、そのギャップがだんだんと埋まりつつある傾向が感じられます。来年以降は、もっとテクノロジーを活用した仕組みやターゲティング技術、マーケティングデータとクリエイティブアイデアが掛け合わされた作品が上がってくる傾向が強まるかもしれませんね。その先鞭をつけるのが、アイデアだけじゃなくてメディアエグゼキューションやリザルトがしっかりと問われるメディア部門なのかなと思います。

カンヌは少しずつ裾野を広げてきています。せまい意味での広告業界にとどまらず、その周辺の産業界でいま起きている多様なイノベーションの動きが、これまではセミナーや本会場の周辺で語られるにとどまっていたのが、フェスティバルの中核である贈賞に反映されはじめたということです。狭義のクリエイティブではなくて、もっと広告産業の枠組みを広げていこうという意図のもとに、このイベントは成長していっていると解釈できるのではないでしょうか。

■ご自身は、ライオンズ・イノベーションのクリエイティブデータ部門(新たなクリエイティブ・コミュニケーションを可能にするデータやテクノロジーの活用に対して与えられる賞)において、新しいターゲティング広告の仕組みを創造した「Crossword Targeting」(メルセデス・ベンツ日本)がシルバーを受賞されました。

image1t

ぼく個人ではなく、正確にはうちのチームのメンバーの仕事です。去年の秋、ライオンズ・イノベーションが誕生し、さらにその中にデータ部門が新設されるという話を受けて、新しい賞の一年目に出品できたらそれだけでも光栄だし、とりあえずやれることは全部やってみようよと、自分の部門のメンバーに呼びかけました。ゼロからスタートし、たった数か月で応募できるクオリティの仕事にまで仕上げただけでもすごいと思っていたので、受賞にまで至り、関係者のみなさまやチームのメンバーには本当に感謝しています。

近年は従来型のフィルムとかフィルムクラフトなどの広告表現に対する評価から、キャンペーンの仕組み自体が評価されることも増えてきています。先ほども言いましたが、そうした広告の仕組みとクリエイティビティをどう掛け算できるかというところがポイントなのだろうと思います。そういう意味で、広告業界にいる若手も、発想を柔軟にし、賞と普段の仕事をまったく別のものととらえるのではなく、いまの自分たちの仕事の延長線上にあるものとしてカンヌにチャレンジしていく価値がある。また、強く自覚的にのぞむことで賞を獲れる可能性も広がっていると思います。

さらに言うと、いま現在の自分の仕事がメディアでもプラニングでもマーケティングでも、自分の仕事の延長としてのカンヌとの関係性、というものを考えることに一定の意味はあるのではないでしょうか。カンヌを知ることが、自分たちの仕事をどう先進的に変えていくのか、進化させていくのかということを考えてみるきっかけにできるのではないかと考えています。今回の受賞がそのひとつの道しるべになれたら嬉しいですね。

安藤 元博 データドリブンメディアマーケティングセンター センター長

1988年博報堂入社。主にマーケティングセクションに在籍し、50を超える企業の事業/商品開発、キャンペーン開発、アカウントプランニング、グローバルブランディングに従事。2010年より統合マーケティングを推進する組織を率いる。ACC(2005年・2011年グランプリ)/AME(Best Integrated Marketing Campaign)/JAAA広告論文新人賞等。日本マーケティング協会マーケティングマイスター。今年のカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルにおける日本代表審査員13人のうちの1人に選出され、現地に赴いた。2015年より現職。博報堂 生活者データマーケティング推進局長を兼任。

※執筆者の部署名は、執筆時のものであり現在の情報と異なる場合があります。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
PAGE TOP