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デジタルとアウトドアメディアの垣根を取り払うFIT AD+とは
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博報堂DYメディアパートナーズ、博報堂DYアウトドア、クラフター、ヒトクセの4社は2019年6月、デジタル広告とデジタルアウトドア広告のクロススクリーン配信を可能にするソリューション「FIT AD+(プラス)」の提供を開始しました。従来から提供していたデジタル広告を自動で出し分けるソリューション「FIT AD」の配信対象に、アウトドアメディア(以下ODM)を加えてバージョンアップした形です。
ODMの現状はどのようになっており、何故FIT AD+のようなサービスが必要になってきたのでしょうか。博報堂DYアウトドアの井手悠輔、薗田和斉、大森翔の三人が語り合いました。

井手:
博報堂DYアウトドアの井手です。現在の業務は、交通系媒体との折衝やプラニング業務で、5年ほど前から担当しています。

薗田:
博報堂DYアウトドアの薗田です。デジタルプロデュース部という部署に所属しておりまして、ODMで活用できるデータの整備やテクノロジーを活用したソリューション開発を担当しています。

大森:
博報堂DYアウトドアの大森です。2015年に博報堂DYアウトドアに中途入社しました。以前は交通広告の専業代理店に在籍していた時期もありましたので、そういった視点を生かしてODMのデジタル化に取り組んでいます。

薗田:
FIT AD+についてお話する前に、FIT ADについて簡単にお話します。FIT ADはデジタル広告のソリューションで、「アンビエント(環境)データ」と呼ばれる様々なデータをトリガーに広告の配信を制御することができます。アンビエントデータには、気温、天候、ニュースキーワードや、検索トレンド、テレビ番組情報、CMなどが含まれます。
FIT AD+は、このFIT ADの配信対象にデジタルアウトドアメディア(以下DODM)を加えたクロススクリーンの配信ソリューションになります。例としては、“花粉指数”というデータをトリガーにして、指数が高いときに携帯端末とデジタルサイネージの双方に花粉の飛散量が多いことを伝えるクリエイティブで花粉用マスクの動画広告を表示するといった具合です。

井手:
冬であれば気温、夏であれば紫外線など、トリガーにするアンビエントデータは様々なものが考えられます。

実証実験で一定の成果も、課題は効果測定

薗田:
近年、ODM市場においてデジタルトランスフォーメーションは進んでいますが、どのような配信手法が効果的なのかやどのような効果測定手法だとODMの広告効果を正確に可視化できるのかなど、デジタルトランスフォーメーションを進めるうえでまだ議論が必要な点も多々あります。
広告に接触した人を測定する手法も、カメラと画像認識技術を使ったり携帯端末の位置情報を使ったり、と様々なものがありますが、どれもメリットとデメリットがある状況です。

井手:
効果測定ができるようになると、そのデータを次の媒体のプラニングに利用することもできるようになるのですが、まだそのようなテクノロジーを利用した効果測定を取り入れている媒体が少ない現状では、数年に1回行われるようなアンケート調査などの結果を用いて効果を予測しプランニングすることになります。季節など様々な要因によって人の動きは変わるので、その静的なデータでキャンペーン時期の広告効果を予測することは非常に難しいです。

薗田:
今年5月に広告配信実験を西武鉄道の車内ビジョンにて実施しました。FIT AD+を使って飲料の広告動画の配信を気温の変化に応じて制御するという内容の実験で、対象商品の売上の変動を見て分析したところ一定の効果を見ることができました。
その一方で、広告効果の測定手法については、まだ課題を感じています。
広告出稿と売上のデータを分析すると、広告の売上への寄与らしいものが分かりますが、その結果出てきたものが純粋に広告の効果だと言い切れるかというと難しいところがあります。

大森:
金曜日にビールの広告を流すと、ビール購入率が上がることがあるのですが、それが、広告による効果なのか週末だからなのか野球の試合があるからなのかは実際には分かりません。普段以上にモノが売れているとしてもそれが広告以外の要因によるものということも多々あるのです。

薗田:
もちろん分析の際に、曜日の要因など想像しうる広告以外の要因は除くよう分析するのですが、想像しえない要因が売上に寄与しているということも十分にあり得ますからね。
効果測定に関しては現在、様々な手法にチャレンジしています。「広告を何人見た」といったことだけではなく、「広告を見た人がどれくらい行動を起こしたか」という視点でも測定する必要があると思っています。位置情報データを用いると、ODMに接触した人が広告主の店舗に行っていれば広告が集客に繋がった、と判断することもできます。

FIT AD+が解決するODM広告市場の課題とは

井手:
FIT AD+は、元々はODM系の媒体社が「今後どの様に媒体をセールスしていくべきか」という不安を抱えられていたのを、何とかして解消できないかと考えたことからスタートしています。
ODMの広告市場は、全体では緩やかに伸びています。その中身を見るとサイネージ広告の伸びが支えていて、ポスター系の媒体はゆるやかに落ちています。ODMのサイネージ広告には、デジタル広告のように配信をフレキシブルに制御する機能はなく、固定の動画素材を流すだけのものが多い状況です。それでもサイネージ広告であれば、同じ場所、同じ期間でも複数社の広告を出し分ける、といったことが可能なので利益が上がっていました。
ただアドネットワーク化やDMPとの連携といったモバイルやPCへの動画広告の配信技術が進んできた状況を受けて、今後サイネージ広告市場を拡大するにはどうすれば良いか、と媒体社が悩むようになりました。そういった状況を考慮して我々からODM系の媒体社に「ODM単体で売るのではなくモバイルやPCまでも含めたデジタル全体でパッケージングしたソリューションを開発しませんか」という提案をさせていただく機会があり、それが現在のFIT AD+に繋がっています。

大森:
PCやスマートフォンの普及で動画広告を配信するメディアが増えてきたので、広告主側も「広告を出すなら動画でやりたい」「動画を流すなら配信量を制御するなどデジタル広告と同じような方法で配信したい」というところが確実に増えています。その要望に柔軟に応えるためにも、デジタル広告のような配信に対応したサイネージが近年求められるようになってきました。
過去10年くらいあまり状況が変わっていなかったのが、ここに来て大きく変わってきた、という印象です。現在が変化の過渡期であると言えます。
一気に変えるというのはもちろん難しいのですが、少しずつODM領域にデジタル広告のアドテクの企業も参入してきたこともあり、ODM領域でこれまでとは異なる配信手法を試す事例が増えてきました。

一方で、「ODMを全部デジタルにするべきではない」とも思っています。ODMには“プロモーションが得意”という特徴があります。「実際に見て、触って、参加できる」といったところが良いところの1つで、新宿駅などではODMのそのような特徴を生かしたイベントをよくやっています。クライアントにも、「Twitterで一番拡散が広がったのはODM広告ですね」と言われることが多くあります。

薗田:
DODMの枠の買い方そのものもデジタル広告に合わせたほうが良いのか、というのもまだ検討が必要です。
先ほどの話にも繋がりますが、ODMに関する効果測定の手法はまだ確立していません。今後、デジタル広告のような売り方には繋がらないような測定方法が主流になる可能性もあります。枠の売り方に関してもまだまだ議論と試行が必要であると思っています。

井手:
私もまだ明確な基準がない状況で、デジタル広告のCPM(Cost Per Mille)のような形でDODMの枠を販売していくのは難しいと思っています。

薗田:
今回のFIT AD+は配信手法を従来からアップデートしましたが、一方で広告のバイイングや進行は従来のままです。そこもまだこれから媒体社とも相談しつつ、理想的な形を模索し進めていく必要がありますね。

大森:
デジタル広告とODMの相互補完もやっていきたいですね。家を出て目的地につくまでに接触するのは基本的にはスマートフォンの広告とODMになるかと思うので、家から目的地の間に関連する広告を途切れなく見せるというフリークエンシーの観点であったり、デジタルでは接触できない層にODMで接触させるというリーチの観点であったり、相互補完のやり方はいくつかあると思っています。

ODMの強みを最大限活かしていく

井手:
ODMの強みの一つは、広告を出すエリアをコントロールできるということと、生活者に寄り添った「気づいたらそこにある」ということであると思っています。
だからこそクリエイティブもエリアに沿ったものにしていったほうが絶対に良いと思います。「山で食べるお弁当はいつもより美味しく感じる」という人は多いと思いますが、それと同じように「このクリエイティブをこのエリアで見るからこそ生活者に響く」というような効果をODMには期待できると思っています。

薗田:
FIT AD+はアンビエントデータによるクリエイティブの出し分けが可能なので、先ほど話に出た「エリアに沿った」クリエイティブというだけでなく、さらにその「状況に沿った」クリエイティブというものを作っていけたら、生活者への訴求力というのはより高まるでしょうね。

大森:
場所という意味で言うと、家電を売っている販売店の側でODMを使って家電についての広告を打てる、といったことは、シンプルですが強みです。後はやっぱり、先ほども少し触れましたが体験ブースで一緒に写真が撮れるなど、人に体験させることができることですね。

井手:
私もODMの本質は体験できるということだと思います。例えばサッカーを見る場合、家で見ていた方が詳細は分かりやすいかもしれない。それでもスタジアムで観戦するのは雰囲気を含めた「体験」がしたいから。ODMはそれができるメディアだと思っています。

薗田:
体験ブースを設置するなど大仰な展開まではいかなくとも、今回のFIT AD+を用いてエリアや状況に応じた広告を出し分け、広告接触の体験をより深くする。そうすることで、広告の印象や効果がぐっと深まっていくと思います。

 

■プロフィール

井手 悠輔
博報堂DYアウトドア
交通メディア部
交通系メディアを中心にメディアプラニング・バイイング業務を担当。プログラマティックにメディアの売買が出来るようにすることによる「業務のスマート化」も推進。

 

薗田 和斉
博報堂DYアウトドア
デジタルプロデュース部 
交通系メディアを中心としたメディアプラニング・バイイング業務を経て、現在はODM領域を中心としたソリューション開発、ビジネス開発を主に担当。

 

大森 翔
博報堂DYアウトドア
交通メディア部 
東京生まれ東京育ち。空港メディア担当を経て現在は交通系メディアにメインに関わる。専門的なアウトドアメディア知見を活かしODM業界のデジタル化も推進している。

 

★本記事は博報堂DYグループの「“生活者データ・ドリブン”マーケティング通信」より転載しました

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