コラム
【連載】質の高いECソリューションをスピーディに生み出してくために──生成AIを軸にしたプラットフォーマー戦略局の取り組み〈第2回〉
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博報堂DYメディアパートナーズ・プラットフォーマー戦略局は、日々の業務の中で生成AIを積極的に活用し、新しい価値の創出を目指しています。その取り組みを紹介する連載の第2回は、ECプラットフォーム担当チームの生成AI活用にフォーカスします。ECプラットフォーマーやクライアントとの向き合いの中で、生成AIはどのように力を発揮しているのでしょうか。メディアプロデューサーの真野翔一と、ソリューション開発プロデューサーの山口翔平に語ってもらいました。

真野 翔一
博報堂DYメディアパートナーズ
プラットフォーマー戦略局 第四グループ メディアプロデューサー

山口 翔平
博報堂DYメディアパートナーズ
プラットフォーマー戦略局 第四グループ ソリューション開発プロデューサー

いかに迅速にソリューションを開発するか

──はじめに、お二人のお仕事の内容をお聞かせいただけますか。

真野
僕たちが所属するプラットフォーマー戦略局第四グループは、ECプラットフォーム関連のビジネスに特化した部署です。ECプラットフォーマーが所有しているデータを使ったソリューション開発、広告商品のセールスのほか、オフラインを含めた「購買」起点のプラニングなどを手掛けています。また、テレビCM、デジタル広告、オンライン購買、オフライン購買の4種類のデータを掛け合わせて広告効果を最大化するサービス〈Tele-Digi Aafor PurchaseaS〉の開発などにも携わっています。

山口
真野さんは、メディアプロデューサーとしてプラットフォーマーやクライアントのニーズを把握したり、課題を発見したりするのが主な仕事です。一方、そのニーズや課題に応じて具体的なソリューションを開発していくのが僕の役割です。

──ECプラットフォーマーのビジネスに携わる中で、日々どのような課題を感じていらっしゃいますか。

真野
ECビジネスでは、ROAS(広告の費用対効果)などの数字が非常に重視されます。僕たちの仕事においても、業務の生産性を向上させて、クライアントに提供するサービスのコストパフォーマンスを上げていかなければなりません。そのような体制をつくることが1つ大きな課題ですね。

山口
ソリューション開発でも、やはり費用対効果が重要な指標となります。高品質のソリューションをスピーディに、かつバリエーション豊かに提供していくことが求められています。

真野
これまでのソリューション開発には、3カ月から半年ぐらいかかるのが普通でした。しかし、デジタルやECをめぐる環境は日々変化しているので、ソリューションが完成する数カ月後には、当初の課題感が変わってしまうということが大いにありえます。その意味でも、できるだけスピーディに、課題がホットなうちにソリューションを生み出さなければなりません。そういった課題を解決するツールとして非常に有効なのが生成AIであると考えています。

重要なのは「課題」と「ゴール」の設定

──生成AIはすでに実務レベルで活用できるようになっているのでしょうか。

山口
僕たちが生成AIを本格的に使い始めたのは昨年(2023年)からですが、かなり高いレベルでの実用が可能になっています。僕はソリューション開発プロデューサーなので、プログラムのコーディングは専門ではありません。しかし生成AIを使えば、簡単なコーディングは僕一人で、しかも数時間でできてしまいます。もちろん、大規模なシステムやソリューションを生成AIだけでつくることは現段階ではできませんが、PoC(実証実験)などに使えるレベルのソリューションであれば簡単につくれてしまいますね。

真野
僕はエンジニアリングのスキルがないので、ソリューションをつくるときは山口のようなソリューション開発プロデューサーと協力しています。「こういうことはできるかな」とか「こんなツールがあったらいいよね」といった提案を共有し、一緒に解決策を模索しています。生成AIを活用するようになってからは、コラボレーションがさらにスムーズになりました。以前は時間を要していた問題も、「数時間でできそうです」「明日までに対応できそうです」といった答えを即座に返してくれるようになりました。 生成AIが使えるようになったことで、プロデューサーである僕からの要望に応えてくれるスピードと対応の幅が格段に広がったと感じます。生成AIのサポートを受けて、お互いの専門知識を活かしながら効率よく課題解決を進めています。

山口
ただし、「解決すべき課題は何か」「ゴールをどこに設定すべきか」といったことが明確になっていないと、生成AIをうまく働かせることはできません。それらをしっかり定義するのは人間の役割です。

真野
日々の業務の中から、課題を適切に抽出して、「始点」と「終点」を決めるということですよね。その定義が明確であれば、ソリューションをスピーディにつくることができます。

また開発に当たる陣容についても、5人、10人といった人数がかかわると、コストも増えますし、確認作業や細かなチューニングにも時間がかかります。その点、生成AIを活用した開発は基本的に一人でできるので、コストをかけずアジャイル型で「つくりながら修正していく」というスタイルで進めることが可能です。

ECならではの生成AI活用法

──生成AIというテクノロジーの特徴はどのような点にあるとお考えですか。

山口
従来のシステムでは、レギュレーションがかなり厳格に決まっていました。入力ルールに従って情報をインプットすれば有効なアウトプットが出てきますが、インプットが適切でないとエラーとなってしまいます。例えば、半角文字で入力しなければならないところを全角で入れたりすると、システムはそれをインプットと見なしてくれなかったりするわけです。

それに対して生成AIは、どのようなインプットに対しても何かしらのアウトプットを必ず出してくれます。その点では、クリエイティビティの高いテクノロジーと言えると思います。例えば、企画案、解釈、要約、翻訳など、1つの決められた解ではなく、ある程度の幅や創造性のあるアウトプットが必要とされる場合は、生成AIは非常に有効なツールです。

真野
「仕組み」さえしっかりつくっておけば、使う人のリテラシーに関わらず、ある程度の質のアウトプットを出してくれるということですよね。

──「仕組み」とは。

山口
汎用的な生成AIをカスタマイズして、特定の用途に使えるようにするということです。
例えば、広告配信に生成AIを活用する場合は、セグメンテーションや配信のバリエーションなどをAIに学ばせることが仕組みづくりに当たります。そのような仕組みをつくっておけば、どのような人に広告を届けたいかをインプットするだけで、広告配信のプランニング案をいくつも出してくれます。

──生成AIをテキストや画像などの生成に活用する場合、まったく想像もつかなかったようなアウトプットが出てくることがありますよね。そういった経験はありますか。

真野
例えば、広告配信のセグメント設定などでは、かなり意外な提案をしてくることがあります。プラットフォーマーはターゲットのセグメントをとても細かく設定して、場合によってその数は数千にのぼることもあります。そこから、特定のクライアントの特定の商品に対する最適な広告配信層を見つけ出す作業は簡単ではありません。そこで、AIにその作業を委ねて、すべてのセグメンテーションを網羅的に把握したうえで、どの層に配信するのがいいかを提案してもらうということを僕たちはよくやっています。

その提案の中に、ときに人の感覚では理解できないようなセグメント設定があったりするわけです。人間は「定石」にとらわれがちで、想定外の提案を見ると「この商品に対してこのセグメントはないだろう」とつい考えてしまいます。しかしAIは先入観がなく、最も効果が高いと考えられる方法をドライに提案してきます。それによって、プランナーの視野が広げられるということがよくありますね。

山口
もちろん、AIの提案がまったくの的外れであることもあります。そういう場合、どうしてその提案をしたのかをAIに聞くと、そのプロセスや根拠を示してくれます。それを見て「なるほど」と思わされるケースもありますね。それがプラニング案を練り直すきっかけになったりします。

──とくにEC領域ならではの生成AIの活用法にはどのようなものがありますか。

山口
商品のカスタマーレビューの分析ができるのがとても便利です。これまでは数百件から数千件のカスタマーレビューを人間が1つ1つ読んで、そこからキーワードを抽出し、商品のどのような要素がユーザーに支持されているかを分析したり、競合との差別化ポイントを見極めたりしていました。しかし生成AIは、すべてのレビューをものの数分で読んで、そこからいろいろな指標を抽出してくれます。

真野
レビューを中立的に見ることができるのもAIならではです。
例えば掃除機の場合、メーカー側が「吸引力」や「価格」が訴求ポイントであると考えていたのに対し、AIの分析から「サイズ感」が実は支持されていることがわかったりします。そういった分析結果をプロモーション戦略にいかしたり、商品開発の参考にしたりすることができます。

生成AIを活用したオリジナルソリューション

──生成AIを使って開発した具体的なソリューションをご紹介ください。

山口
僕たちが開発したソリューションの1つが〈Promotion Generator〉です。
これは、メディアの特徴をはじめ、さまざまな情報をオープンデータに読み込ませて「仕組み化」したもので、商品名を入力するだけで、いくつかのプロモーション企画を提案してくれます。プロモーションに有効なコンテンツや、それをつくるのに適したクリエイターなどの案も出してくれます。

真野
一般に、プロモーション企画の初期の案は、つくり込んだものである必要はありません。ざっくりした案がいくつかあって、それをたたき台にディスカッションができればいいわけです。その最初の案出しまでをスピーディにできるのがAIのよさです。そこから先のブラッシュアップは人間がやればいいと僕たちは考えています。

山口
生成AIは、そうやって出した案をクライアントやメディアへの提案資料の形にまとめてくれたりもします。もちろん、それをそのまま使うことはできませんが、3割程度の手直しで済む場合がほとんどです。

真野
もう1つ、〈Audience Finder〉というソリューションもあります。
これは、先ほどお話しした広告配信のセグメンテーションに活用できるツールです。我々が独自にチューニングしたAIによって、配信したいターゲットの傾向を詳細に分析し、配信したいターゲットの傾向を生成AIに入力すると、それにあてはまるセグメントや関連性の高いセグメントを選定してくれます。その提案をもとに、プランナーが実際に配信するターゲットを決めるという流れになります。

山口
〈Audience Finder〉の活用例として、ECプラットフォームをリテールメディアとして使うケースが挙げられます。以前からECサイトは広告メディアとして活用されていましたが、最近では、EC内で販売している商品だけではなく、例えば生命保険や自動車など、ECで取り扱っていない商品の広告をECユーザーに向けて配信するケースが徐々に増えてきています。そのようなケースで〈Audience Finder〉を使うと、AIが購買データなどをもとに、どういった層にアプローチすればいいかを提案してくれます。

〈Promotion Generator〉と〈Audience Finder〉は、名前をつけてパッケージング化したソリューションですが、まだ名前のないものや開発途中のものを含めれば、10以上のオリジナルソリューションがあります。

真野
いずれのソリューションも、クライアントやプラットフォーマーに提供するものではなく、博報堂DYグループ側のメンバーが活用して、提案の質を上げたり、業務を効率化したりすることを目的としています。しかし今後は、クライアントの業務効率向上を実現するソリューションを僕たちが独自に開発したり、プラットフォーマーとソリューションを共同開発してクライアントに提供したりすることも可能であると考えています。

「生活者発想」とAIの関係とは

──生成AIの活用が進むことで、エンジニアやメディアプロデューサーに求められる要件も変わりそうですね。

山口
エンジニアに関する一番の変化は、量より質が重視されるようになることだと思います。これまでのエンジニアの仕事のパフォーマンスは、アウトプットの量で計られていました。システム、ソリューション、アプリなどを「1ついくら」で売っていたわけです。しかし今後は、AIが量を担保するようになります。AIに任せておけば、ソリューションやアプリのベースをいくつでもつくってくれます。そうなったとき、プロのエンジニアの仕事は質、つまり解決できたクライアント課題や、そこから生まれた価値などによって判断されるようになるのではないでしょうか。

真野
メディアプロデューサーの仕事にもたらされる最大の変化は、「媒体のポテンシャルを拡張する」という役割が新たに加わることだと思います。メディアプロデューサーにこれまで求められていたのは、「媒体の特性を正しく理解し、その特性をどのようにいかせばクライアントの課題を解決できるか」を考えることでした。いわば媒体価値の翻訳者であり解釈者としての役割がメディアプロデューサーにはあったということです。

今後AIの活用が進んでいくと、媒体の翻訳や解釈はAIがやってくれるようになります。結果、メディアプロデューサーの仕事は、AIが整理してくれた媒体価値を踏まえて、「どうすればその価値を大きくすることができるか」を考える方向にシフトしていくことになると僕は考えています。

──博報堂DYグループのフィロソフィーである「生活者発想」は、生成AIの活用にどのようにいかされると思いますか。

山口
生成AIがよりよいアウトプットを出すためには、よりよいインプットが求められます。生成AI自体が生活者発想を備えているわけではないので、生活者視点に立ったアウトプットを引き出すには、深い生活者理解に基づいたインプットが必要です。そのようなインプットができるのが博報堂DYグループの力だと思います。

真野
生成AIは誰もが簡単に使えるツールである一方で、実は使い手を選ぶテクノロジーでもあります。生活者発想を重視している使い手が生成AIを活用することによって、生活者や社会の課題を解決する本質的な方法を導き出すことができる。僕たちはそう考えています。

重要なのは、「生成AIに何ができるか」ではなく、生活者発想に基づいて「自分たちは何をしたいのか」「どんな課題を解決したいのか」をまず考えることです。そのうえで、その目的達成のために生成AIを使うことが適しているかどうかを検討する。それが正しい流れだと思います。
生成AIはあくまでも便利なツールの1つです。
生成AIの活用自体を目的とするのではなく、自分たちのミッションの中で上手に生成AIを使いこなしていく。そんなスタンスをこれからも大切にしていきたいですね。

真野 翔一
博報堂DYメディアパートナーズ
プラットフォーマー戦略局 第四グループ メディアプロデューサー

山口 翔平
博報堂DYメディアパートナーズ 
プラットフォーマー戦略局 第四グループ ソリューション開発プロデューサー

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