コラム
広告コミュニケーションと社会貢献活動を統合する画期的ソリューション
──デジタル広告の新しい形を示す「Good-Loop」
COLUMNS

デジタル広告が年々拡大している中、コンテンツ閲覧中などに頻繁に表示されるデジタル広告に良い印象を持たない生活者もいます。広告の価値を高め、「好きになってもらえる広告」を実現するにはどうすればいいか──。そんな問題意識からスタートしたのが、博報堂DYグループのメンバーと、英国のスタートアップ「Good-Loop」のコラボレーションでした。広告に寄付の仕組みを組み込むソリューションGood-Loopの概要と可能性について、メンバーたちに語ってもらいました。

李 眞煥
博報堂DYメディアパートナーズ
プラットフォーマー戦略局

山﨑 宏太
博報堂DYメディアパートナーズ
プラットフォーマー戦略局

矢田 菜々子
博報堂DYメディアパートナーズ
プラットフォーマー戦略局

広告とドネーションを結びつける仕組み

──このチームは、有志が自発的に集まって生まれたそうですね。チームができたきっかけをお聞かせください。


インターネットが普及してから、ネット上の情報やコンテンツの多くが無料で利用できるようになりました。それが可能なのは広告の仕組みがあるからなのですが、生活者の中にはデジタル広告を「自分の意志と関係なく見せられるもの」と捉える人も少なくありません。広告には、生活者に必要な情報を届けて、生活者を豊かにする力があると信じています。しかし、デジタル広告はしばしば「嫌われる広告」になってしまう。それを何とかできないかという思いが最初の出発点でした。

たまたま、イギリス大使館が主催する英国のスタートアップ企業を紹介するイベントに参加する機会があり、そこで広告をドネーション(寄付)と結びつける仕組みを提供する企業があることを知って、「これだ!」と思いました。それが「Good-Loop」というスタートアップでした。すぐにその企業に連絡を取って、協業の形を模索しはじめました。

矢田
私も、眞煥さんと同じ思いがありました。デジタル広告の市場は年々大きくなっていますが、それに比例してデジタル広告に対するネガティブな考えも増えつつある気がしています。それを払拭するために何かしたいと考えていたときに声をかけていただいて、チームに参加させていただきました。

山﨑
SDGsがグローバルな共通目標となっている中で、企業の社会的価値が問われるようになっています。広告会社として、企業のマーケティング活動を社会的価値に結びつけるお手伝いができないか──。僕は以前からそんな問題意識をもっていました。Good-Loopというソリューションがあると聞いて、それを使えば僕が考えていた課題を解決できるのではないかと考えて、自分からチームに参加させてもらいました。

──Good-Loopとはどのようなソリューションなのですか。


動画広告を見た後で、生活者が寄付の意志を表明すれば、その企業からNGOなどの団体に寄付金が渡されるというソリューションです。生活者は自分でお金を出さなくても、広告を見ることで寄付ができるわけです。

矢田
クライアントは、通常の動画広告の入稿と同じ手続きで、いろいろなメディアにドネーションつきの広告を配信することができます。


クライアント側が寄付先団体を複数選んで、それを生活者に選択してもらうという仕組みをつくることも可能です。クライアントは広告を出稿する際、メディア費と同じ金額をあらかじめ寄付金として供出し、それが広告を見た人の選択に応じて各団体に分配されることになります。広告を見た人が寄付の意志を示さなかった場合は、クライアントの判断で団体に分配します。いずれにしても寄付は実行されるモデルになっています。

企業と生活者がドネーションのパートナーに

──Good-Loopを活用することのクライアントのメリットはどのようなものですか。


まず、仕組みやインターフェースがこれまでの動画広告にはないものなので、動画をスキップせずに最後まで見てもらえる可能性が高まるという点が挙げられます。また、このソリューションによって企業としての社会貢献の意志を伝えることが可能になります。押しつけがましい形ではなく、自然に社会活動のPRができる仕組みと言えます。その結果、デジタル広告を好ましいものと捉えてもらえるようになると僕たちは考えています。

山﨑
これまで、企業の社会活動を世の中に伝える手段は、コーポレートサイトかCSR報告書くらいだったかと思います。また、寄付活動の取組は企業と寄付団体先のやり取りで完結することが多く、生活者とコミュニケーションする機会がほぼなかったと思います。
Good-Loopを使えば、広告コミュニケーションの中でそれを行うことが可能になります。また逆に、この仕組みがあることによって、社会貢献を起点とした広告やマーケティングという発想も生まれると思います。

──生活者が寄付の意志を表明するモチベーションはどのようなものだと考えられますか。


近年、生活者の社会意識が高まっていると言われます。例えば、SDGsに取り組んでいる企業からものを買いたいと考える人が増えているのはその表れです。そういった人たちが、お金を出さなくても「広告を見る」という時間を提供することによって、企業と一緒に社会貢献ができる。そこに生活者にとってのこのソリューションの意義があります。

矢田
私は、デジタル広告にインタラクティブ性が加わる点がGood-Loopの優れたところだと考えています。デジタル広告がネガティブに捉えられる大きな理由は、生活者の意志に関係なく一方的に広告が表示されるところにあると思います。しかし、Good-Loopは広告コミュニケーションに生活者の意志を介在させることを可能にします。デジタル広告の一方向性に抗う仕組みであり、生活者の参加性を促す仕組みと言っていいと思います。

──博報堂DYグループがGood-Loopの仕組みをクライアントに提供することの意義についてもお聞かせください。


広告にこれまでにない価値を加えることができるというのが一つです。また、社会貢献をしたいけれど方法がわからないというクライアントに、社会貢献の新しい方法をご提案できるのも意味のあることだと思います。

加えて、この取り組みは博報堂DYグループの社会貢献活動にもなると思っています。Good-Loopの仕組みを提供する際は、クライアントからソリューションフィーをいただいて、それを英国のGood-Loop社とシェアするモデルになっていますが、僕たちはシェアしたフィーの半額を寄付に充てることにしています。お金の動きが明確で、透明性のある寄付活動がビジネスモデルに組み込まれているわけです。

山﨑
もう2点、1つめはドネーションの文化を日本に定着させていく活動という側面もあると僕は考えています。欧米ではドネーションの文化が社会にしっかり根づいていますが、日本では寄付は企業にとっても個人にとってもまだそこまで一般的ではありません。社会貢献活動の一つであるドネーションを広告会社として推進していくための取り組み。そう捉えることも可能だと思います。
また2点目について、我々が広告主と寄付先団体を繋ぎ、広告マーケティングの取組を通じて寄付先団体の活動を支援することで、”ブランドの掲げるパーパスを実際の活動に結び付けられること”が非常に大きいと思います。
最近パーパスという言葉をよく耳にするようになりましたが、単に意思表明やメッセージの発信を行うことにとどまらず、掲げたパーパスを実現するために新たなステークホルダーとの繋がりを生み、具体的な活動や仕組みまで発展させ社会実装できる点は、非常に大切だからです。

すべてのメディアエージェンシーが利用可能

──英国のGood-Loopはどのような会社なのですか。

矢田
広告会社出身のエイミー・ウイリアムスが2016年に創設した会社です。彼女はもともと環境問題や社会問題への強い関心を持っていて、20代でGood-Loopを立ち上げました。これまでオンラインで何度もミーティングをしているのですが、とてもパワフルでフランクな方だと感じます。私たちとの協業についても、非常に前向きに捉えてくれています。

──博報堂DYグループとGood-Loopの現在の関係はどのようなものなのですか。


博報堂DYグループがアジア太平洋エリアにおけるソリューション提供の窓口となっています。Good-Loopを使った動画広告配信では、3種類のお金が動きます。メディア費、ソリューション費、寄付金です。僕たちのチームはメディア費にはタッチせず、ソリューション費をいただき、先に述べたようにそれをGood-Loopとシェアします。寄付金は僕たちがお預かりしてGood-Loopに送り、Good-Loopから寄付先団体に届けてもらう形になっています。

重要なのは、メディアの取り扱いを完全にオープンにしている点です。メディアビジネスを手掛ける博報堂DYメディアパートナーズやデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)が配信メディアの扱いを独占するのではなく、すべてのメディアエージェンシーにGood-Loopを使ったメディア展開をしていただけます。もちろん、博報堂DYメディアパートナーズがメディアを担当する場合は、メディアチームがメディア費をいただくことになりますが、僕たちのチームがそこから収益を上げることはありません。

呼吸をするように自然な社会貢献

──Good-Loopの活用を広めていくに当たっての課題がありましたらお聞かせください。


Good-Loopの活用は、広告コミュニケーション活動であると同時にCSR活動でもあります。したがって、通常の広告とはクライアントの担当部署や意思決定のプロセスが異なることになります。その社内調整をしていただく必要があることが、一つハードルになりそうです。

──そのハードルを越えるには、企業のトータルな経営戦略の中にドネーションを組み込むロジックづくりをお手伝いする必要もありそうですね。

山﨑
そのとおりです。企業としての社会貢献活動のコンセプトがまずあって、そこにGood-Loopの活用を位置づけていただく必要があります。博報堂DYグループにはコンサルティング、プランニング、クリエイティブのプロがいるので、マーケティングと社会貢献を統合した新しい活動のデザインづくりをお手伝いすることが可能です。

──博報堂DYグループ内での連携も今後も進んでいきそうですか。

矢田
2021年4月、グループのDX支援機能を統合した「HAKUHODO DX_UNITED」が立ち上がりました。HAKUHODO DX_UNITEDのメンバーとの連携を進めながら、DXの一環としてのGood-Loop活用をクライアントにご提案していきたいと考えています。

──最後に、今後に向けた意気込みをお聞かせください。

山﨑
ドネーションの仕組みとメッセージングのデザインをトータルでご提供できるのは僕たちのような広告会社だけだと思います。Good-Loopによって、企業の社会貢献活動を世の中に広く伝える新しいスタイルを確立していきたい。そう思っています。

矢田
商品やサービスを安くたくさん売るためのマーケティングではなく、企業の意志と生活者の意志を結びつけるマーケティングがこれからの時代は必要になっていくと思います。Good-Loopはそれを可能にするソリューションです。Good-Loopを広めていくことで、クライアント、生活者、広告会社のそれぞれにメリットがあるデジタルコミュニケーションを実現できると考えています。


広告はしばしば邪魔者扱いされることもありますが、本来は、人々を楽しくさせたり、ワクワクさせたり、ときには感動させたりする力が広告にはあると僕は信じています。Good-Loopを使うことで、そこにさらに新しい価値を加えることができます。「広告を見る」という行為と「寄付をする」という行為が生活者の中で違和感なく結びついて、まるで呼吸をするように自然に社会貢献ができるようになる。そんな可能性をもったソリューションがGood-Loopです。僕たちの活動は、自然で気負うことのない社会貢献活動を世の中に広げていくための取り組みの一つだと考えています。そのような取り組みを広告やマーケティングだけでなく、社会のさまざまな領域に広げていきたいですね。

李 眞煥
博報堂DYメディアパートナーズ
プラットフォーマー戦略局

山﨑 宏太
博報堂DYメディアパートナーズ
プラットフォーマー戦略局

矢田 菜々子
博報堂DYメディアパートナーズ
プラットフォーマー戦略局

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