コラム
柔軟でクリエイティビティあふれるCMをどう実現するか。
テレビ広告運用における新たなスタンダードと各プレーヤーの最新の取り組み
【アドテック東京2021レポート】
COLUMNS

あらゆる産業にDXの波が押し寄せるなか、テレビ広告ビジネスも、同じように大きな変化に直面しています。テレビ広告ビジネスの価値を、時代に合わせて維持・向上するためには、どのような変革が必要なのでしょうか。また、その推進時に浮かび上がる課題にどう対応していくべきでしょうか。広告主、広告会社、放送局それぞれの視点から最新の取り組みをシェアし、またディスカッションを通してテレビ広告ビジネスの進化を考えました。

本稿では11月1日、2日に開催されたアドテック東京2021のセッション「テレビ広告ビジネスに必要な変化とは」の模様をお届けします。

布瀬川 平
株式会社電通 ラジオテレビビジネスプロデュース局 エグゼクティブ・メディア&デジタル・ディレクター

橋本 昇
株式会社テレビ朝日 ビジネスソリューション本部 セールスプロモーション局長

今西 周
日本コカ・コーラ株式会社 マーケティング本部IMX事業本部長

モデレーター
飯塚 隆博
博報堂DYメディアパートナーズ AaaSビジネスプロデュース局 局長

ネット結線率が5割に上る、現在のテレビを取り巻く状況

飯塚
モデレーターを務めます、博報堂DYメディアパートナーズの飯塚です。今回は、日本コカ・コーラの今西周さん、テレビ朝日の橋本昇さん、電通の布瀬川平さんとともに、テレビ広告ビジネスについてディスカッションしていきたいと思います。
はじめに、テレビ広告を取り巻く環境を紹介します。当社のメディア環境研究所によるメディア定点調査によると、テレビ接触時間はすでに下げ止まりで、かつスマートデバイスへの接触時間は年々増えているため、メディア接触の時間自体はすごく増えているんですね。それをシェアに直すと、「テレビ接触時間のシェアは10年前の3分の2」になっていることがわかります。

性年齢別でみるとさらに顕著で、15歳から20代と60代以上とでは、スマートデバイスと4マスメディアの接触時間の割合が逆転しています。この背景のひとつは、ネット結線の増加です。テレビデバイスで、地上波以外の動画が視聴されている。現在の結線率は5割弱ですが、この調子で進むと2、3年後には7割くらいに届くかもしれません。

一方、広告メディアとしてテレビを捉えると、10年ほど前から広告効果の可視化に対する広告主のニーズが高まっています。テレビとデジタルの評価指標が違うため、それらが自社のKPIやKGIとつながっていないと、マーケティング効果を可視化できないという課題が常に言われてきました。
それを受けて、近年この課題に対するソリューションが多く出てきています。さらにメディアやプラットフォーマーの個別進化も進みました。このように、広告主企業のニーズに応える形でデータ基盤が整備されつつある傍ら、今度は「媒体間を統合的に把握したい」というニーズが高まってきています。これからさらにプラスの変化を促し、革新していくことが、テレビ広告業界に求められています。

利便性、可視化、柔軟性――テレビ業界全体の共通課題

飯塚
こうした環境を前提に、お三方に事前に3つの項目についてアンケートを取りました。皆さん立場は違えど回答は似通っていて、まずテレビ広告の課題については利便性や使い勝手、アジャイル性の改善や、広告メニューの柔軟性などが挙がりました。

次にテレビ広告とデジタル広告の強みと弱みについて挙がった項目は、テレビは圧倒的なリーチ力や話題づくり、エンゲージメント形成が魅力ですが、デジタル広告のようなターゲティングや柔軟性には乏しいところがありそうです。

また、テレビに必要な変化としては、視聴データとセールスシステムの整備や、コンテンツとCMの融合、あるいは即時運用などが挙がりました。

まとめると、テレビ業界を革新するには「利便性・アジャイル性」「データ活用・効果の可視化」「広告メニューの柔軟性」「コンテンツ活用」が共通のキーワードとして挙げられました。

生活者の文脈を押さえたアプローチで購買につなげる

飯塚
ここからは、各社の最新の取り組みを紹介いただきます。まず広告主の立場から、日本コカ・コーラの今西さんにお願いします。

今西
私からは、我々が消費者とエンゲージメントを高めるために何をしているか、そのチャレンジについてお話します。
今、データ取得とその分析・活用によって、コミュニケーションできる守備範囲が非常に広がり、併せてビジネスへの貢献範囲も広がっています。コミュニケーションのミッションが単にメッセージ伝達だけでなく、消費者の体験や具体的な購買体験の創出、さらにはリピート促進まで拡大してきました。購買の動機になる情報も多岐にわたり、接触ルートも多様化した結果、個々人のジャーニーが短く、そして多彩になっています。

そこで大事になるのは、消費者のジャーニーをつくるための戦略的なアプローチです。我々のコミュニケーションプランの中で、いかにスケールを担保しながら個々の生活文脈に寄り添い、その体験を充実させていけるか。また、それを通してロイヤリティをいかに醸成できるか、そうした中長期的な視点での取り組みが必要だと考えています。

その上でテレビの力をどう捉えているかというと、やはり高品質で強力なコンテンツパワーは大きいです。また、生活者のインサイトを踏まえたストーリーをつくり、圧倒的なスケールで社会への影響力を発揮できるメディアだと捉えています。
そんなテレビの力を信じつつ、我々のブランドメッセージを伝え、かつ消費者に体験を提供した事例をご紹介します。今年のオリンピックにおいて、競技結果に連動したCMを放映しました。選手が競技を終えた直後に「メダル獲得、おめでとうございます!」といったメッセージを含んだCMを放映し、そこに埋め込んだQRコードから我々のアプリ「Coke ON」に誘導します。CMとスマホ画面を連動させてコカ・コーラが注がれるよう演出し、コカ・コーラで満たされたグラスで一緒に乾杯する、メダル獲得のモーメントを共有できるストーリーを構築しました。乾杯に参加すると、抽選でCoke ON対応自販機でもらえるドリンクチケットが当たります。

結果、試合本編の注目度より直後のCMの注目度がわずかに上回り、例えば7月26日の卓球混合ダブルス決勝戦の直後に放映したCMは視聴人数が1,500万人以上、乾杯に参加した人数は96万人になりました。Coke ONアプリの新規ダウンロード数は69,000で、日時平均の+45,000と大きく伸びました。
オリンピックで日本が沸いたのはひとえに選手の皆さんのおかげですが、テレビの力と我々のプラットフォームでデータ連携した結果、非常に高いエンゲージメントを獲得できました。ここに、テレビの未来を考えるヒントがあるのではと考えています。

投資効果を引き上げる基盤やソリューションを整備する

飯塚
ありがとうございました。続いて私と電通の布瀬川さんから、広告会社の取り組みをご紹介します。
まず博報堂DYメディアパートナーズとしては、メディアのDX、広告全体のDXを目的に、2020年12月に「AaaS(Ad as a Service)」の概念を発表しました。広告主のメディア投資効果を上げ、事業成長に貢献する理念の下、すでに組織を立ち上げて複数のソリューションを出しています。背景にあるのは、これまで「枠」で買い付けられてきた広告メディアが、さまざまな指標が可視化されることで「効果」で買い付けられるよう、価値の転換が起こりつつあるという潮流です。
現在はまだ、メディア間の取引や評価指標が分断し、メディアの指標と広告主のKPIも分断しています。そこでAaaSでは、まずデータウェアハウスを構築し、それを基盤とした統合的なメディア運用ダッシュボードを提供します。その上で、メディアプランナーやストラテジックプランナーがKPIを調整しながらコンサルティングを担うことで、統合的なメディア運用を実現します。

今日はテレビがテーマですが、テレビCMの運用やデジタルとの統合管理を含め、4つの領域でソリューションを用意しています。セッション冒頭で課題を整理しましたが、個別最適化が進んでいることも挙がっていました。我々としては、それに対して各メディアを統合的に捉えて運用するソリューションサービス部を立ち上げ、広告主の投資の最適化に取り組んでいます。

飯塚
続いて布瀬川さん、お願いします。

布瀬川
はい。今回セッションの準備をするなかで、飯塚さんとは「やはり広告会社としての課題意識やソリューションも似てきているよね」といった話をしました。前半の話を受けて、私からは最新の取り組みとして「テレビ枠最適フレーム」を解説します。
まず電通ラジオテレビ局としては、「放送コンテンツにおけるエコシステムを回し続けること」を目指しています。テレビ放送局はこれまで、優良なコンテンツを生活者に届け続け、生活者は利便性や豊かさを享受してきました。それを広告会社が少しお手伝いすることで、生活者にこれらの価値を無料で提供し、企業にはマーケティングの機会を提供できていると考えています。これはとても良いエコシステムだと考えており、このループを回し続けるために変えるべきところを変える、という考えが我々の活動のベースにあります。

具体的には、AIを活用した複数広告主間での広告枠の組み換えに取り組んでいます。例えば、暑い日により多く訴求したいアイスクリームの広告と、F1層にリーチしたい化粧品の広告がある場合、天気予報やF1視聴率予測などから事前にプランを入れ替えて広告効果を引き上げています。
この実現の背景には、3つのDXがあります。まず、視聴率だけでなく天気やサイト来訪など複数の指標で枠を評価する、評価のDX。次に、その枠を買い付けるかどうかの判断をAIが行う、買付のDX。そして、広告主・広告会社・放送局の間の複雑な工数を簡略にする、運用のDXです。
現在、放送局とのコミュニケーションツールや、予測値を元に入れ替えるとどうなるかがわかるダッシュボードなどを用意してテストしており、平均して+14%の効果が得られています。

インフォマーシャルによる態度変容を数値化

飯塚
では放送局の立場から、テレビ朝日の橋本さん、お願いします。

橋本
今の飯塚さんと布瀬川さんのお話は、投資効率を上げるという広告主のニーズを捉えたシステマチックな取り組みだと思いました。我々放送局も、近年かなりデジタルの活用を増やしています。やはり枠のセールスだけでは成り立たないので、利便性を高めるために複数の取り組みを進めています。
そのひとつが、番組の選択からプランニング、視聴数などの予測を試せるツールです。事前に時間帯や曜日ごとのターゲット含有率やリーチ数を確認したり、放送後のサイト来訪率を分析したりすることが可能です。さらに、商品認知や好意度などの態度変容の調査も容易に取りまとめられます。

また、放送局として、コンテンツと連動したソリューションも提供しています。ドラマと連動したインフォマーシャルや、番組の出演者を起用したネット限定ムービーなどですね。施策に接触した人とそうでない人で、商品認知度や購買意欲度がどのようにリフトするかを調査しています。例えば、バラエティ番組「あざとくて何が悪いの?」でインフォマーシャルを放送した結果、スポットCMと一緒に接触した人の購買意欲が特にリフトしたことがわかりました。
こうした事例が増えてくると、試してみたいという企業も増え、業界の活性化につながると思います。当社含め、放送局各社がまさに模索しているところです。

インフォマーシャルによる態度変容を数値化

飯塚
コンテンツ連動による広告効果が見えてきたりする点は、やはりインパクトがありますね。
ではここから、ディスカッションに入りたいと思います。
まず、テレビの課題として売り方の改革や商品拡充の話が挙がりました。前提として、テレビ広告の運用型の定義を確認しておきたいと思いますが、どうでしょうか。

布瀬川
運用型というとターゲティング広告のような印象がありますが、どちらかというと事前にKPIに基づいてプランを立て、それを可視化して改善するサイクルを回すことが「テレビ広告の運用型」の意味合いだと思っています。

今西
我々も同じイメージで、点のコミュニケーションというより、投資全体を効率よくターゲットに当てていくニーズが大きいです。我々の場合、そこに天候などの即時的な要素も加わっていくといいですね。それらも含めるのが「運用」だと捉えています。

飯塚
PDCAを回すインフラが整いつつあるなかで、放送局としては素材管理や差し替えのタイミングなど、ハードルもあるかと思います。

橋本
そうですね、臨機応変に素材を変えられない部分には、データ関連の無駄とはまた別に無駄が生じていると思います。
素材搬入のタイムラグは、たしかにデジタル時代からすると長すぎるので、あるとき在京5局で一斉にそれを短縮化したんです。すると、若干縮めただけで、僕の感覚だとローカル局1局の1年分くらい広告収入が増えました。これまで営業サイドは設備投資をしてきませんでしたが、このデジタルの波に乗って運用性を向上するのはとても重要なことです。同時に、できて当たり前だろうと思います。

飯塚
当たり前という言葉を共有していただけて嬉しいです。今西さん、これだけテレビのパワーが可視化されると、販促費を加算してテレビのシェアが巻き返すこともあると思いますか?

今西
あると思います。私はメディアと販促の両方の予算を預かっていますが、その切り方もやはりどんどん変わっています。例えば先ほどご紹介した事例のような効果が得られると、さらに切り方や運用の考え方も各社で変わってくると思います。

橋本
先ほどの事例はとても興味深いですね。コカ・コーラのシズル感とビジュアルがあって、乾杯する、まさにエクスペリエンスです。こうした企画がもっと多様にできると思うので、広告会社にはマッチングをぜひお願いしたいですし、広告主にも志向していただけたら。また、このアドテックにもクリエイティブ的におもしろいソリューションを持つ企業が多く出展していますが、こうした場にもっと編成や制作現場のスタッフが足を運ぶと、付加価値の高い広告マーケティングのヒントが得られるのではと思います。

飯塚
最後に少しまとめさせていただくと、テレビメディアは広告効果の可視化というアカウンタビリティと、広告商品の柔軟性やコンテンツ活用によるクリエイティビティを担保することで、パワーメディアとしてよりサステナブルになると思います。そのためにも、統合的な運用と売り方の連携が必要だと改めて感じました。お三方とも、ありがとうございました。

布瀬川 平
株式会社電通 ラジオテレビビジネスプロデュース局 エグゼクティブ・メディア&デジタル・ディレクター
16年間の国内関係会社への出向での経験を経て、5年前にラジオテレビ局に帰任。TVerの広告ビジネスの立上げやSTADIAの立上げ、radikoを活用したラジオの可視化などラジオ・テレビのデジタル化・データ化の促進の事業に従事。ラジオ・テレビに加えてメディア・コンテンツ領域全般のトランスフォーメーションを現在は担当する。

橋本 昇
株式会社テレビ朝日 ビジネスソリューション本部 セールスプロモーション局長
1992年テレビ朝日入社1990年代は番組企画開発、衛星放送、番組編成などの一般放送業務に従事。2000年代は株式上場準備を皮切りに、地上波のデジタル化、規制緩和、放送倫理などの業界共通の課題に携わる。2010年代は一貫して広告事業を担当、予算編成・進捗管理や業務調整のほか、有事CM対応方針やスポット新取引指標全国導入など、系列間の協調分野にも取り組んできている。

今西 周
日本コカ・コーラ株式会社 マーケティング本部 IMX事業本部長
2003年1月日本コカ・コーラ入社。マーケティング部門にて、セールスプロモーション、コカ・コーラTMブランドチームを経て、IMC部門においてコネクションプランニング&メディアを統括。021年1月よりデザイン、デジタルプラットフォーム、コネクションプランニング、メディアプランニング&バイイング、セールスプロモーション、マーケティングアセット、コンテンツプロダクションを管轄するIMX事業本部長に着任、2021年東京オリンピックでは、日本人選手の金メダル獲得を祝いCokeONドリンクチケットをプレゼントする、コカ・コーラの「リアルタイム乾杯テレビCM」を実施。TVの前の119万人が参加した。

モデレーター
飯塚 隆博
博報堂DYメディアパートナーズ AaaSビジネスプロデュース局 局長
1995年博報堂に入社しテレビスポットの現場を担当。その後メディアプラニングとメディア(コンテンツ)戦略プロデュースを長く担当し、13年間で約200社のクライアントのメディア・コンテンツ業務に関わる。 2012年からテレビに戻りスポットと動画を6年間担当し、データセクションに異動。3年間データソリューションの開発/実装に関わり、今年度から博報堂DYグループのメディアDXソリューションであるAaaSの推進責任者を担当している。

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