コラム
学生が等身大の“らしさ”を表現できる採用活動を
──博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ採用担当者座談会【前編】
COLUMNS

社会全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいる現在、企業の採用活動のあり方も大きく変化しつつあります。コロナ禍で顕在化した就職活動の課題を明らかにし、就活生と企業の真に実りあるマッチングを目指す取り組みの中心になっているのが、博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ人事局の新卒採用担当者たちです。「採用のトランスフォーメーション」をめぐる座談会。その前編をお届けします。

瀬 和成
博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ 人事局人事部マネジメントプラナー
山本 桃子
博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ 人事局人事部マネジメントプラナー
秋葉 遼太
博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ 人事局人事部マネジメントプラナー
小林 由佳
博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ 人事局人事部マネジメントプラナー

就活は “らしさ”を発揮する機会

──2022年度新卒採用では、いろいろな新しい仕組みづくりにチャレンジしたそうですね。まずはその背景についてお聞かせいただけますか。


博報堂は「生活者発想」というフィロソフィーを掲げています。すべてのことを生活者目線で考えるという企業理念です。採用活動における生活者目線とは、「学生目線」を意味します。学生の皆さんがコロナ禍で何に悩み、何を求めているのか──。それを考えることが、僕たちにとっての生活者発想であるという視点がまずありました。

もう一つ、2022年度新卒の採用活動は、コロナ禍によって大きな影響を受けました。学生からするとこれまでの就職活動の「当たり前」が崩れ去った状況のなかで、企業側の採用活動はコロナ前と同じ手法を続ける訳にはいきません。そんな危機感があったのも、チャレンジのきっかけとなりました。

最初に行ったのは、2021年度の内定者へのデプスインタビューです。複数の内定者に、コロナ禍における就活にはどのような苦悩があったかを出来るだけ「リアルな声」として詳しく聞きました。そこからわかったのは、企業と学生のパワーバランスが明らかに不均衡であるということでした。そもそも就職活動はお互いのマッチングを計る場であるはずなのに、面接では学生が一方的に緊張を強いられ、不合格通知はメール一通で済まされる。一方で、学生が内定を断ると企業側から強く怒られたりする。選考フローも不透明で、情報発信も十分とはいえない。そんな企業と学生の不公平な関係性に起因する率直な不満や悩みを聞くことができました。

──コロナ禍の課題を明らかにしようと思ったら、期せずして就活の本質的な問題が見えてきたわけですね。


そういうことです。そこで僕たちは、「そもそも就活とはどういうものであるべきか」ということについてとことん話し合いました。一つの結論は、「就活とはその人“らしさ”を発揮する機会である」ということです。ある種、当たり前なことですが今日の就活市場ではそれが実現しにくい環境が形成されていました。

就活はお互いの最適なマッチングを目的としている以上、飾らず自分 “らしさ” を発揮することが最も重要です。しかし、企業と学生の関係が対等ではない環境のなかでは、学生はどうしても背伸びをし、自分にメッキを貼ってしまいます。つまり、 “らしさ” を思う存分表現できないわけです。そこに大きな課題があると考えました。

山本
企業側は学生に対して「本音で話してほしい」というわりに、企業は本音を言わない。そんな声は以前からもありました。コロナ禍を機に各企業で採用計画値の縮小や、内定取り消しなどといった不測の事態が発生し、より学生-企業間のパワーバランスが崩れたことで、学生の不満や悩み、また学生の置かれている不安定な環境がより明確に表れた形でした。

秋葉
僕は2019年入社で就活からそれほど時間は経っていないので、まさに自分が就活の時に感じていたことだなとインタビューの結果にすごく共感しました。。それまで当たり前だと捉えていた企業と学生の関係の不公平性や情報の不透明性を、採用チームで少しずつ変えていこうというベースができたので、その前提に立ったうえで新しい施策や学生とのコミュニケーションの仕方を考えることができるようになりました。

小林
私も同様に入社3年目なのですが、自分が就活の頃に抱いていた違和感は今の学生にも共通していることがわかりました。人事部にいるのだから、先頭を切ってその課題を変えていける。そう思いました。


企業と学生のよりよいマッチングを実現するには、お互いが自分をさらけ出す必要があります。それをまずは企業側から実践していこうというのが、2022年度新卒採用の大きなチャレンジでした。

大切なのは「ガクチカ」ではなく「ジンチカ」

──具体的な取り組みについてお聞かせください。


まずは、採用活動にまつわるいろいろな呼称を見直すところから始めました。「選考」ではなく「対話」。「面接」ではなく「キャリアディスカッション」という感じです。それによって、言葉の上での対等性をまずは確保しようとしました。

その上で、大きく五つの施策を実行しました。一つめは、「エントリーシートの刷新」です。学生の皆さんとの最初の接点となるのがエントリーシートですが、その中でも僕たちが着目したのが、学生時代に一番力を入れて頑張っていること、いわゆる「ガクチカ」と呼ばれる項目です。一般的には、部活やサークル活動などについて書き込むことが多いのですが、コロナ禍で活動が制限されていた学生にそれを尋ねるのはフェアではないと考えました。

もう少し本質的な見方をすれば、ガクチカからわかることはさほどないと思えてきたんです。ガクチカに書かれるのは結局のところ名目的な実績や肩書であることが多く、インパクトを重視するあまりいくらでも誇張できるからです。学生時代の経験だけでその人 “らしさ” が全て形成される訳ありませんし、もっと深いところにある原体験こそが重要なのではないかと感じました。その人がこれまでの人生でどういう経験をしてきて、どういう価値観を大切にし、何に心が動かされるのか。その人はどのようなエンジンで動いているのか。そのエンジンをもってどこに進んでいきたいのか──。そういった根源的な揺るぎない個性を聞くことの方が、はるかに意味があるのではないか。そう考えました。ガクチカではなく、生まれてから今まで、そして未来も含めた人生丸ごとで力を入れていること、いわば「ジンチカ」を語ってもらうということです。

「ジンチカ」を明確にするために新たに開発したのが、「パーソナルコアシート」と僕たちが呼んでいる自己分析シートです。博報堂で実際に使われているマーケティングフレームを活用して、社内のマーケターに監修してもらって作ったシートで、これに書き込んでいくだけで自己分析ができる設計になっています。正面から自分に向き合うのはしんどい作業かもしれませんが、一度その作業に取り組めば、ほかの企業の選考にも使える。そんな汎用的なツールにもなっています。

──エントリーシートを変えることで、どのような効果が生まれましたか。

山本
一番大きく変わったのは、キャリアディスカッション(面接)時のコミュニケーションです。一般的なエントリーシートはどの企業も「ガクチカ」が共通フォーマットとなっており、学生は各企業において同じ内容を話すので、どうしても形式的かつ表面的なやり取りになりがちでした。。
それが「パーソナルコアシート」を導入したことで、その人の持つ個性や価値観など、本質に迫るような対話が実現したと思います。採用側としても、用意されたテンプレートの回答を聞くのではなく、様々な人生経験のヒアリングを通じた対話形式が取れたことで、より学生のことを多角的に知れるコミュニケーションが実現できたように思います。

小林
シートの内容を各ディスカッション前に一部書き直せるようにしたのも大きなポイントです。一般的にもそうだと思うのですが、これまでのエントリーシートは、3月末に記入して提出したものが、6月の選考までそのまま使われていました。でも、4月以降のOB・OG訪問や企業研究などの活動の過程で、視野が広がったり、考え方が変わったりするのはよくあることだと思うんですね。自身も学生時代、数か月前に記入したエントリーシートに縛られて無理に合わせていた経験があったんです。だからこそ、その変化に合わせて、選考の段階ごとにシートを書き換えられるようにしました。「今の自分」を反映できるシートと言っていいと思います。

就活生の満足度や納得感を最優先にする


二つめの施策は「選考ステップの公開」です。これは透明性の確保を目的にした取り組みで、書類、一次、二次、三次のそれぞれの選考段階で、僕たちが何を重視しているか、そのつど何人が通過するかをすべてオープンにしました。選考で何が重視されるかがわかれば、学生はそれに対して無駄な努力をせずに、最適な方向で力を発揮することができますよね。服装に関しても、「スーツ着用は必要ありません」というのが建前ではなく、本当に私服でいいんだよということをしっかり伝えました。

 

秋葉
情報は採用サイトに掲載するだけでなく、各選考の間にオンラインミートアップという説明会を開催して、学生の皆さんに僕らの口で直接お伝えしました。次の選考では何人の学生が参加するのか。どのような形式・内容でディスカッションをするのか。そういったことを詳しく伝えたことで、途中で辞退する学生が格段に減りました。やはり誠意をもって納得感のある情報を伝えていくことが大事なんだなと思いました。

山本
また就活生の一大情報源として匿名掲示板が挙げられますが、いざそこで情報交換されている内容を聞いてみると真実とは異なる憶測や、虚偽の情報であふれていること、そしてその情報を信じるしかない状況に学生が陥っていることに気づきました。そんな状況を学生の自己責任と片づけるのではなく、こちらから正しい情報を伝えることで本来感じる必要のない不安を払拭し、就活を通して自分自身にポジティブに向き合いぬける場を提供したい。そんな思いもありました。

小林
これまでは、採用の競争戦略上、選考に纏わる情報はあまり出さない方がいいという判断があったと思うのですが、「博報堂/博報堂DYメディアパートナーズの採用情報には透明性がある」ということが伝わった方が、むしろ採用活動ひいては企業自体のブランディングになると思っています。


優先順位を変えたということですよね。他社に対する競合優位性ではなく、就活生の満足度、納得感、動きやすさといったものを最優先に考えるということです。長い目で見れば、それが博報堂自身のためになると僕たちは信じています。

(後編に続く)

瀬 和成
博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ 人事局人事部マネジメントプラナー

山本 桃子
博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ 人事局人事部マネジメントプラナー

秋葉 遼太
博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ 人事局人事部マネジメントプラナー

小林 由佳
博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ 人事局人事部マネジメントプラナー

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