コラム
MATCH×雑誌編集長ナイト
社会に貢献しながらビジネス利益に結び付ける
パーパス・クリエイティブが奏功する3つの視点
「福祉×地域×クリエイティブ
いま知っておきたいワクワクの芽」~前編~
COLUMNS

今年4月、マガジンハウスから福祉をテーマにしたWebマガジン『こここ』がオープンしました。プロデューサーは、地域にフォーカスした『colocal』の立ち上げも務めた及川卓也氏。本屋B&Bのオンライントークイベントとして企画された本イベントでは、及川氏、岩手県遠野市で活躍するローカルプロデューサーの富川岳氏、メディアの編集部と企業をつなぐプロジェクト「MATCH」に携わる博報堂DYメディアパートナーズの下萩千耀を交えて、地域と福祉、そしてクリエイティブとの掛け算で生まれる可能性を話し合いました。進行役は、博報堂ケトル/本屋B&Bの原カントくんが務めました。前編と後編の2回シリーズで掲載します。

*MATCHは、雑誌編集部の知見をアイデアの発火点にするソリューションチームです。
(博報堂DYメディアパートナーズ ニュースリリース2020/07/27)

■出演(写真右上から時計回り)
及川卓也(株式会社マガジンハウス「こここ」「コロカル」統括プロデュサー)
富川岳(株式会社富川屋 / to know 代表)
下萩千耀 (株式会社博報堂DYメディアパートナーズMATCH)
原カントくん(原利彦。博報堂ケトル / 博報堂)

福祉や地域で発揮されるクリエイティブ


そもそも今日のテーマ「福祉×地域×クリエイティブ」は、下萩さんの発案でした。下荻さん、なぜこのテーマに至ったんですか?

下萩
きっかけは、『こここ』の立ち上げの際、及川さんにお会いしたことです。福祉をテーマにしたメディアって、最初は想像がつかなかったのですが、お話しをうかがうと「福祉は決して他人事ではない」という気がしてきました。クリエイティブと掛け合わせたらおもしろそうだと、ぜひ及川さんを交えてこうしたテーマでもっとお聞きしたいと思ったんです。


及川さんはマガジンハウスで『an・an』編集長などを経て、現在は広告局・クロスメディア事業局局長、かつ地域にフォーカスしたWebマガジン『colocal』、そして『こここ』の統括プロデューサーを務められています。これらの新しいメディアは、クロスメディア事業局で管轄されているんですか?

及川
そうですね。一方、広告局は当社の雑誌10誌やそれに紐づくWebサイトの広告コミュニケーションをみています。なので、マネジメントをしながらメディア運営にも携わっています。


そして富川さんは及川さんのご指名で、ローカルプレーヤー代表としてお越しいただきました。広告会社を経て2016年に岩手県遠野市に移住され、デザインや情報発信をされています。なぜ、広告会社から地方へ?

富川
広告も広告の仕事も好きだったのですが、もともと地方に移住したいと思っていたので、縁あって遠野に移り住みました。出身は岩手ではなく、新潟なんですが(笑)。


なるほど(笑)。そして下萩さんは、博報堂DYメディアパートナーズの新聞雑誌局で、昨年から「MATCH」というプロジェクトを担当されています。これはどういう内容なんですか?

下萩
「MATCH」は、雑誌編集部の知見を使ってクライアント企業の課題解決に取り組む活動です。もともと、編集部の知見は雑誌タイアップ広告などで発揮されていましたが、誌面に限らずもっと広い観点で課題解決ができるのでは、という考えからチームが立ち上がりました。


編集部さんにある知見やリソースを、メディア露出を超えて、企業や社会に還元していくわけですね。

ローカルに注目したメディア『colocal』

今でこそ、地域移住や二拠点生活に関心が集まっていますが、『colocal』が立ち上げられたのは2012年とかなり早いタイミング。その背景には、「東京では将来が見えづらい」「分業化が進んで全体が見えない」といったある種の生きづらさを抱え、地域に目を向ける人たちが少しずつ現れ始めていた兆しがあった、と及川さんは話します。


早速、今日のテーマ「地域」について直球で及川さんにうかがいたいと思います。コロナ禍の影響で、今でこそ「ローカルだ」と地域での暮らしや働き方が注目されていますが、『colocal』を立ち上げられた2012年は、すごく早いタイミングだったのでは。きっかけは何だったのですか?

及川
ひとつは、今日参加してもらった富川くんのような方が現れ始めていたことですね。
東京でたくさん稼いで消費して、というライフスタイルがバブル崩壊で消え、以後しばらくはつらい時代に入っていきました。そのなかで、たとえば「東京の中心部では将来や暮らし方が見えづらい」とか、仕事の専門性が高まって細分化が進み、それによっていい仕事が生まれる一方で「全体を見通してやりがいを得たい」と思う人も増えてきているなと感じていました。それで、これからはローカルでの実践を紹介するメディアが求められるのでは、と考えたんです。
地方やローカルでは人口流出が激しく、特に大学がない街だと18歳で進学や就職で土地を離れてそのまま戻らないケースも多いんですね。人口流出や高齢化、産業の衰退など、課題がたくさんある。でも、その解決におもしろい形で取り組んでいる方々もいるので、あえて「ローカルは『楽しい!』『カッコいい!』『進化している!』」と強調したメディアを立ち上げました。


富川さんが「ローカルで働きたい」と意識したのは、いつごろなんですか?

富川
僕は田舎の生まれで、大学も群馬だったこともあり、クリエイティブなことに興味を持ちながら、それぞれの地域で「もったいないな」と思うことも多かったんです。いいモノやいい取り組みなのに、デザインやクリエイティブの力がいまひとつなせいで脚光が当たらない。そんなことを目の当たりにしていたので、2009年の新卒時にはまず広告業界に入りました。
そこで仕事をしながら30代に差し掛かるころ、同世代の30歳前後の人たちが少しずつローカルに関心を持っていった感覚があって、自分も具体的な移住を考え始めました。それでも2012年に『COLOCAL』というのは、早いタイミングだなと改めて思います。


そもそもWebサイトのデザインが、クールで素敵ですよ。

福祉は誰にでも関係があること。『こここ』の背景

話は『こここ』の立ち上げへ。一風変わった印象的なメディア名は、真ん中の「こ」をハイフン(-)に見立てて「個と個」、また「Cooperation(Co-Operation)」という意味合いが込められているそうです。及川さんは、「福祉は実は誰にでも関係のあるテーマ。一人ひとりの幸福を目指すのが福祉」と話します。


そんなに早く地域に注目していた及川さんが今年立ち上げられたのが『こここ』です。テーマが福祉ですが、なぜ「福祉」なんでしょうか?

及川
先ほど、東京にいるのがちょっと生きづらい、もう少し違う選択肢もあるのではという風潮が出てきているとお話ししましたが、『こここ』の背景にあるのも今の世の中の「生きづらさ」です。効率や結果に向かって最短で進むなかで、人と人との関係も以前とは変わってくる、そういう状況がつらいという感覚があると思います。
そのなかで福祉の現場、それは障害福祉もあれば老人福祉、介護などもありますが、そこにある人と人とのつながり方や触れ方、考え方のなかに大事なものがあるんじゃないかと思いました。
『こここ』は福祉に携わる方々への情報提供メディアではなく、今日本で生きている我々に、何か気づきをくれる事柄や取り組みに注目しています。福祉の現場で新しい創造性をもって働いている方々や、福祉に関わるアーティストやクリエイターの方々の活動や思いに、大切なことを教えてくれる何かがあるのでは。そんなふうに考えて、2-3年くらい構想していました。


そんなに構想されていたんですね。

及川
たとえばLGBTQやジェンダーの問題など、もっと広い「多様性」というテーマも考えたのですが、福祉にフォーカスを絞ることでメディアのミッションも明確になると思いました。いろんな人がいるから、“干渉し合わないでいよう”というメッセージになると違うかな、と。人と人との触れ合いから「問いかけ」を探すことで、メディアの役割を果たしていきたいと考えました。
僕は事業全体にかかわっていて、編集長には中田一会さんという、マガジンハウスの社員ではない方をお迎えしています。メディアのコンセプトや編集方針は、中田さんが編集チームを束ねてつくっているという体制です。


サイトに提示されている『そもそも「福祉」とは、「幸福」を指す言葉』というフレーズが、すごくかっこいいと思いました。

及川
「福祉」はすべての人にかかわりがある言葉だということを、このメディアの前提としたいと考えて、メディアからの最初のメッセージとしました。

下萩
私もこのフレーズを聞いて「なるほど」と思いました。今は、福祉にかかわるテーマが身近になっていて、自分自身もたとえばジェンダーを考えると関係のあることだったりします。一人ひとりが「個」である上で、福祉は自分のこととして考えたいテーマです。


そうですよね。単純に、一人ひとりが気持ちよく息を吸いたい。そのための地盤を整えている方々に、焦点をあてているのですね。

<後編に続く>

及川卓也
株式会社マガジンハウス「こここ」「コロカル」統括プロデュサー

富川岳
株式会社富川屋 / to know 代表

下萩千耀
株式会社博報堂DYメディアパートナーズMATCH

原カントくん(原利彦)
博報堂ケトル/博報堂

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