2021.11.15

AaaSによる広告メディアビジネス革新の現場④
Analytics AaaSの現場
〜マーケティング施策の投資配分最適化〜

博報堂DYグループが推進する広告メディアビジネスのDX化「AaaS」について分かりやすく紹介する本連載。第4回目のテーマは、メディアやマーケティング施策の投資配分を最適化し、KPIを策定するAnalytics AaaSについてです。その具体的な内容や強み、PDCAへの影響などについて、現場で中心となってサービスの導入や推進を担当している博報堂データドリブンプラニング局 データサイエンス部の田中塁と宮久流維の二人に語ってもらいました。

“マーケティング構造の把握” “マーケティング効果の可視化”
“最適予算配分プラン” を実現

“マーケティング構造の把握”
“マーケティング効果の可視化”
“最適予算配分プラン”
を実現

――Analytics AaaSについて教えてください

宮久:
Analytics AaaSは売上や販売といったビジネスKPIに対するマーケティング施策の影響を可視化する分析ソリューションです。専門的な言葉になってしまいますが、Marketing Mix Modeling(以下MMM)という時系列データを統計的に処理して、特定の指標に対する施策効果を可視化する方法があり、Analytics AaaSはHDYグループが独自で開発したマーケティングプラニングに特化したMMMです。

――MMMをもう少しわかりやすく教えてください

宮久:
たとえば、販売数を最大化するためにマーケティング活動を行ったとして、テレビCMに1億円、YouTube広告に5,000万円の投資を行った結果、先月から売上が120%上昇したとします。そういった状況で、おそらく20%が広告投資の結果と考えることはできますが、具体的にテレビCMとYouTube広告のどちらがどの程度、売上に貢献したかを明らかにできなければ、次の投資をどうすれば売上を最大化できるのかはわかりません。もっと言うと、先月との比較だけでは、季節性の影響や長期的な市場トレンドの影響でリフトしていた可能性を排除することができませんし、日用消費財などの場合は店頭CPの影響で売上がリフトしているだけかもしれません。
そういった複数の要因を総合的に考慮して、各施策の影響度を可視化するのがMMMという分析アプローチです。具体的には、まず販売数やメディア出稿量、店頭CPなどの時系列データを収集して、それらのデータを統計的に処理することで、それぞれの施策が具体的に何個の販売に繋がったのかを明らかにしていきます。

――MMMは一般的な手法なのでしょうか?

宮久:
徐々に浸透してきていると思っています。昔から投資のビジネスKPIへの影響の可視化は重要なトピックと考えられていました。そんななかで、昨今、あらゆる分野でDXが進行してデータを取得できる領域が増えたことで、効果の可視化は徐々に精緻になってきていると思います。しかし、これらの潮流とは逆行して個人情報保護の関係で各プラットフォームが保有しているデータの連携が困難になっています。
そのことによって、各プラットフォーム内での効果可視化や最適化は確実に進化しているものの、施策横断での効果可視化は困難になってきています。そのような背景もあり、売上やサイト来訪といったKPIに対して、施策横断で評価することが可能なMMMというアプローチに注目が集まっている、と感じております。

――ではAnalytics AaaSによって提供可能な価値は何ですか?

田中:
大きく①マーケティング構造の把握 ②マーケティング効果の可視化 ③最適予算配分プラン の3つがご提供できる価値です。
まず、1つ目にご提供できるのは、「マーケティング構造の把握」です。Analytics AaaSでモデルを構築する場合、まず各施策や各指標がどのような因果関係で繋がっているのかを構造的に整理します。例えば、カスタマージャーニー上、販売に至るまでにサイトに来ることが重要な場合、サイトに来ることがどの程度重要なのか、またサイト来訪に影響している要因には何があるのか、をまず分析します。そういった分析の結果、マーケティング施策と中間KPI、ビジネスKPIの関係性が明確になり、今後の意思決定の際の適切なKPI設計に役立てることが可能です。
次にご提供できるのは、「マーケティング効果の可視化」です。先ほどの話とも重複しますが、Analytics AaaSで分析を行うことでそれぞれのマーケティング施策がKPIに与えている影響を可視化することができます。実施したマーケティング施策が、それぞれ具体的に何個、何台の販売に貢献したかを算出することができるので、ROIを把握したうえで各施策への投資判断も可能になります。また、商品リニューアルなどのイベント的な要因の効果も概算することができるので、あくまで理論上にはなりますが、「この商品はどのような影響で売れていたのか?」を把握することもできます。
3つ目に提供できるのは、「KPIを最大化する最適な予算配分プラン」です。Analytics AaaSでは、分析によって明らかになった各施策の貢献力をもとに、販売数や売上といったKPIを最大化する予算配分プランを逆算することが可能です。モデルの精度というのは、基本的に100%正しいとはならないものなので、「1円単位で必ず最適な予算である」というわけではない前提ですが、理論上は最もKPI上昇を達成できる予算配分を算出することができるので、過去の実績に基づいた科学的なプラニングが可能になります。その他にも分析の結果として得られるアウトプットはありますが、大きくはこの3つが主要な提供価値になると思っています。

――逆にAnalytics AaaSで出来ないことは何ですか?

田中:
テレビやYoutubeといった施策の中での更に細かい放送枠の選定やターゲティング効果の検証、といったことは得意ではありません。Analytics AaaSが得意とするのは先述の通り、施策横断での施策間での評価で、例えば、テレビの影響度とYoutubeの影響度の比較、といったことです。更にその中のテレビの放送枠の影響がどうだっか?Youtubeのターゲティングは正しかったのか?ということは、テレビ vs Youtubeの比較に比べるとかなり小さな影響度の違いになってしまうので、Analytics AaaSではその違いまで見るのは難しい、というのが現状です。
逆に、テレビの放送枠の選定やターゲティング効果の検証といった各施策内で閉じることの出来る検証については、各プラットフォームデータ内のデータを活用するほうが精度が高くなります。ですので、プラニング全体を最適化したいと考えるのであれば、AaaSソリューションを組み合わせて、Analytics AaaSで全体プランを最適化したうえで、Tele-Digi AaaSやTV AaaS、Digital AaaSを利用して個別メディアのプラニングを最適化する必要があると思っています。

宮久:
Analytics AaaSでは状態空間モデルというアルゴリズムを採用しているため、時系列のマーケティング施策の効果の変化までは自動算出可能です。そのため、昨年と比較して今年の施策はよかったのか?悪かったのか?といったことも評価することができます。なので、施策内で大きく変更したポイントが明確な場合は個別施策のプラニングへのフィードバックも可能です。

――Analytics AaaSによってマーケティング活動はどのように変わったと感じますか?

宮久:
やはり媒体横断のフラットな評価が可能になったことが大きな変化だと思います。従来のマーケティングではさまざまなアプローチはあるものの、どうしても各デジタルプラットフォームやサイト来訪や販売といったKPIファネルによって最適化領域が分断されていたと思います。そのような状況において、Analytics AaaSをはじめとするMMMのアプローチによって、それぞれの分析手法に適切な領域はあるものの、媒体やファネルを横断した総合的な評価が可能になったと感じています。

マーケティングとデータサイエンスの知見を持つ担当者による
分析から打ち手まで一気通貫したPDCA運用

マーケティングとデータサイエンスの
知見を持つ担当者による
分析から打ち手まで一気通貫した
PDCA運用

――Analytics AaaSの競合優位性は何ですか?

田中:
モデルのアルゴリズムや精度といった点ももちろんあるのですが、1番大きなポイントは『マーケティングとデータサイエンスの両方の知見がある担当者がモデル設計からプラニングまでを担当すること』だと考えております。昨今、あらゆる分野でDXが進むと同時に生活者行動のデジタル比率も徐々に上昇してきています。その影響で、データ取得出来る範囲は増えたのですが、マーケティングの構造も徐々に複雑になってきていると感じております。そのような背景もあり、Analytics AaaSのようなMMMにおいても、統計学などのデータサイエンス領域の知見だけでなく、マーケティング領域の知見も必要になってきていると考えております。
仮にマーケティングのみの専門家が担当だった場合、MMMというアプローチ自体がやや専門的な領域でもあるため、複数のデータの関係性を精緻に解明するというのが難しい局面に出くわすことも多々発生します。逆に、データサイエンスのみの専門家が担当すると、モデルの数式やアルゴリズムという面では理論上精緻なものを構築することができると思いますが、マーケティングやメディアの知見が十分でないと、実際の生活者のカスタマージャーニーとは乖離したモデル構造になってしまう可能性があります。特にメディアの領域に関しては、各メディアの特性を理解しておかないといけなく、例えばディスプレイ広告や検索広告は、サイト来訪には有効だが、認知度や好意度といった認知指標を直接的に上げるのには適していない、といったことも鑑みてモデル化する事が必要になってきます。そのため、生活者の正しいカスタマージャーニーを再現して現実に則したモデルを構築するためには、データサイエンスとマーケティングの両方の知見が必要になってきます。
Analytics AaaSのモデリングに関しては、データサイエンスを学んだマーケティング領域出身者が担当させて頂くので、そういった両面をカバーできることが有効なポイントになっております。加えて、広告会社という側面もあるので、メディアのプラニングやバイイングの知見も持ち合わせた人間がモデリングからメディアプランまでを一括して考えることが出来るので、分析から打ち手まで一気通貫に見ながらご対応させて頂くことが可能です。そのため、モデリングによって効果を可視化するだけではなく、それにともなったメディアプラニングやモデリング結果を活用したシームレスなPDCA運用が可能な点も優位なポイントになると考えております。

――具体的に競合他社のMMMサービスとのアウトプットの違いはありますか?

田中:
競合他社と比較して大きく違うのが、提供形態がモデラ―ではなく、モデル構築プロジェクト(以下PJ)であるという点です。他社のMMM PJにもさまざまな提供形態がありますが、モデリングを行うツール(モデラ―)自体を開放し、モデラーはクライアント企業側で触る、という形態が多いとお聞きしております。一方、Analytics AaaSはPJとしてデータ収集からモデル構築、そこからのメディアプラニング、PDCAといった一連の業務にPJ型で並走させていただいています。
もちろん、モデラ―での提供とPJ型の提供にはそれぞれメリット・デメリットはあって、モデラ―で提供する形態は、導入いただいた広告主がそのままモデル作成までを実施できるため、よりクイックなモデル構築が可能です。また、普段の業務で培った肌感ともあったモデルを作成しやすいという面もあると考えております。デメリットとしては、やはりMMMというアプローチ自体が専門的な知識が必要な領域のため、そういった知識をインプットするというコストは必要になってくる点であると考えております。
逆に、PJとして提供する形態は、モデリングの知見がある担当者がモデルを作成するため、広告主ご自身で試行錯誤しながらモデリングを行う必要がありません。またご担当させて頂く人間もモデル構築の経験者なので、過去のモデル構築のポイントが蓄積されているのもメリットになると思っています。一方、デメリットとしてはツール提供型との裏返しになるのですが、担当者様と会話しながらモデルの精度を検証してブラッシュアップする必要があるため、どうしてもある程度の時間がかかってしまう、という点がネックになります。そういったメリット・デメリットも考慮して、現在Analytics AaaSはPJ型でモデルを提供する形態を採用しています。

宮久:
またその他の違いとしては、先ほどとも重複しますが、弊社は広告会社の側面ももちろん持ち合わせているため、モデルの分析結果に加えて、最適なメディアプラニングとモデルの予測値に基づいたPDCAを行う点が特徴だと考えています。更に、Tele-Digi AaaSやTV AaaS、Digital AaaSといった各メディア領域のAaaSともシームレスな連携が可能なので、メディアプラニング全体の最適化とPDCAが容易になります。特に今後、媒体やファネルを横断したPDCA運用はより重要になると思うので、そういったPDCA運用に対応できるのは一つの強みだと考えています。

KPIの統一とダッシュボードの活用により統合的なPDCAを実現

KPIの統一とダッシュボードの
活用により統合的なPDCAを実現

――Analytics AaaSによってPDCAはどのように変化しますか?

宮久:
ひとことで言うのは難しいとも思うのですが、まず媒体やファネルで分断されていた運用をビジネスKPIで統一できるように変化していくことだと考えております。従来であれば、メディアの運用はデジタルであればCPCやリーチ単価といったデジタル指標、テレビであればReach & FQやターゲット含有率といったテレビ指標、というように各メディアに適したメディアKPIで運用されていたと思います。そういった領域でも個別メディアの最適化は可能だと思うのですが、販売数や売上といったもう一つ奥のビジネスKPIに対する影響で横比較しながら、レイヤーを分けたPDCAが可能になることがAnalytics AaaSの特徴です。

――具体的にPDCAはどのようなイメージになりますか?

宮久:
モデルから得られたKPIの予測値をダッシュボードに反映して、実績の推移を検証していくイメージになります。まず、モデルを構築することで、理論上、最適な予算配分とそれに伴ったKPIのシミュレーションが可能です。Analytics AaaSでは、シミュレーション結果とアクチュアルの結果の両方を自動的にダッシュボードに反映することができるので、予測値と実績値の推移を検証しながらキャンペーンの進行が可能です。また四半期や半期といったスパンでモデルの期間を延長していくことで、直近のキャンペーンが効率よく運用されていたかに加えて、キャンペーン前の予測と比べて、何が良くて何が悪かったかを分析させていただきます。

広告主のマーケティング構造に合わせた
モデル選択やアプローチが重要

広告主のマーケティング構造に合わせた
モデル選択やアプローチが重要

――実際に広告主にAnalytics AaaSを導入頂き、感じること・思うことはありますか?

宮久:
ひとことでというのは難しいのですが、1つあげるとすれば、担当させていただいた広告主ごとにマーケティング構造が異なっているため、モデル構造も変える必要があると感じています。そのため、やはりモデルも完全なオーダーメイドではないとしても、レディメイドのモデル構造に当てはめるのではなく、マーケティング構造にあわせたチューニングが必要になってきます。また、一般的な時系列モデルというアプローチ以外にもNBDモデルやバスモデルといったさまざまな数理モデルの採用が必要な場合もあり、状況に応じた適切なアプローチも重要になっていると感じています。

――実際にAnalytics AaaSを導入して頂いた広告主からは、どんな反応を頂いていますか?

田中:
データドリブンな分析により、客観的に納得度の高いメディアプラニングが可能になったと言っていただけることが多いです。広告主からのご相談として、各メディア内でのプランニングは最適化出来るが、各メディア間での予算配分は明確なロジックを持っていない、というようにメディアプランニングに悩まれてお声をかけて頂けることが多いです。Analytics AaaSを導入頂くことで、施策横断でビジネスKPIに対する影響度を可視化することが出来るので、ビジネスKPI達成のためのメディア別予算配分を統計的な計算によって算出することが出来ます。ここの透明性の高いメディアプランニングをご評価頂けることが多いです。

――Analytics AaaS推進における、今後の展望や目標としていることはありますか?

宮久:
モデル作成によって、効果の可視化を行うだけではなく、より事業成果に結びつく形でPJを推進できるようにしたいと考えています。モデリングで効果を可視化することは目的の1つではありますが、最終的にはモデリングの結果を事業成果に繋げることが必要になってくると思うので、モデリング結果をPDCAに反映しながらより次のアクションに繋がる形にしていくことが必要になってくると考えています。

田中 塁

博報堂
データドリブンプラニング局 データサイエンス部
データストラテジスト

宮久 流維

博報堂
データドリブンプラニング局 データサイエンス部
データサイエンティスト

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