2022.10.24

【NewsPicks】次世代型テレビCMが“広告効果4.5倍“を叩き出した背景

近年、下落傾向が続くテレビ視聴率。

近年、下落傾向が続くテレビ視聴率。

90年代後半には70%を誇っていたゴールデンタイムの総世帯視聴率(テレビをつけている世帯の率)も、2021年下期には55.6%と低下。各局の視聴率はダウントレンドが続き、若い世代ではテレビへの接触時間が減少傾向だ。
「2020年 国民生活時間調査」(NHK放送文化研究所)より。
そんななか、「AIを駆使すれば、テレビCMの効果はもっとあげることができますし、テレビコンテンツの可能性をもっと広げることができると思います」と語るのは、博報堂DYメディアパートナーズでデータサイエンティストとして活躍する篠田裕之氏だ。
同社メディアプラナーの松浦伸二氏も次のように語る。
「テレビCM枠の最適化の第一歩として、AIの分析に基づいて、弊社のクライアント2社のテレビCM枠を入れ替えたところ、各社のKPIについて、A社はターゲット層の延べ視聴率(GRP)が20%アップし、B社はWeb上のコンバージョンが4.5倍という成果が上がりました。今後はこうした施策を積極的に進めていきます」
2019年には広告の総出稿額でウェブメディアに抜かれ、視聴者層の高齢化を指摘する声も上がるテレビ業界。果たしてAIによってテレビCMに活路は生まれるのか。
篠田裕之 ビッグデータやテクノロジーを用いたメディアコンテンツ開発、およびメディアソリューションの開発に従事。セミナー登壇やメディアへの記事寄稿、テレビ出演、データ分析専門書の単著出版など多数。
松浦伸二 2000年、博報堂入社。4年半テレビのバイイングを経験した後、メディアプラニングやデータセクションに配属され、自動車メーカーや通信キャリアなどを担当。2020年からTV AaaS推進に加え、クライアントへのAaaS推進業務を担当。

テレビCMの抱えていた2つの課題

テレビCMの抱えていた2つの課題

──テレビ離れと言われて久しいですが、本当にテレビCMは売上につながるのでしょうか?
松浦:
確かにテレビCMの効果は、生活者から見るとわかりにくいかもしれません。「この前、テレビCMで見た商品だからこれを買おう」と意識することはそれほど多くないと思います。
一方、広告主から見ても同様で、自社の商品が売れたのは、テレビCMの影響なのか、ウェブの影響なのか、口コミの影響なのか、明確にはわからないという状態が長年続いていました。
──それでも多くの企業が、テレビCMの出稿を行ってきた理由はなんでしょうか。
松浦:
かつては、「とりあえず視聴率の良い番組にテレビCMを出そう」くらいの認識で良かったのです。特に高度成長期の頃は「新商品を出せば売れる」という時代でしたから、知名度を上げることが最優先でした。
その後、日本社会が成熟するに従って、マーケティングの対象も細分化し、視聴者層別の視聴率が求められるようになったり、視聴者データの分析も高度化したりという進歩を重ねてきました。
ただ、それでも2000年初頭までは、テレビCM出稿時点の視聴率データは翌月第三木曜日になるまでわからないという状況でした。取れる視聴データの種類も今に比べて少なかったのです。
──つまり、テレビCMを出した効果がわかるまでに時間差があったのですね。
松浦:
はい。当時はキャンペーン期間に広告出稿をし、テレビCMの効果がわかる頃にはキャンペーンは終わっているというのが当たり前でした。一度テレビCMが流れる期間に入ってしまうと、出稿枠の変更などの出稿戦略の見直しはできなかったのです。
篠田:
テレビCMはもう一つ重要な課題を抱えていました。それは「どのような人が見ているのか明確ではない」という問題です。
──視聴者の年齢や性別はわかっていますよね。
篠田:
「F1層(20歳から34歳までの女性)」や「M2層(35~49歳の男性)」といった世代区分ごとの番組視聴率についてはおっしゃる通りです。
ただ、それでは、マーケティングの視点から見ると、視聴者像に十分に迫れているとは言えないのです。
たとえば自動車メーカーが「乗用車を購入してくれそうなM2層が観そうな番組」にテレビCMを出稿したいとします。けれど、実際に視聴している層は「都心に住んでいて電車通勤のM2層」かもしれませんし、「地方に住んでいて4WDを欲しているM2層」かもしれません。
つまり、本来のターゲットとなる人が、どの程度含まれているのか精緻に把握することは困難なのです。
松浦:
ここ15年ほど、ウェブ広告の伸びとともに、広告の費用対効果が強く求められるようになりました。効果がわかりやすいと言われるウェブ広告に比べ、こうしたテレビCMの効果のわかりにくさは広告主が出稿を検討する上でネックになっていました。
就職以来、ずっとテレビ局にお世話になってきたこともあり、正直忸怩たる思いを抱えていましたね。

事前に視聴率がわかる時代に

事前に視聴率がわかる時代に

──ここまでのお話を整理すると、テレビCMには「データ収集」と「視聴者像の明確化」という2つの課題があったということですか。
松浦:
そうです。そして、これらの課題が技術進歩によって急速に改善されてきています。
篠田:
「テレビデータの収集」の面では、2段階の進歩がありました。
1段階目が、テレビの詳細な視聴ログが取れるようになってきたこと。
以前はアンケートデータや少数のパネルデータのログしかありませんでしたが、現在は数百万台レベルのインターネット回線につながったテレビの視聴ログを用いることで、「どのような人が、どの番組をどのように観ている」といった、より明確な視聴行動がわかるようになりました。
2段階目の進歩が、「視聴率の予測」です。
──放送前に視聴率がわかるのですか。
篠田:
そうなんです。従来は番組の視聴率を過去視聴率の平均などから推計することが多かったのですが、詳細なテレビ視聴ログが取れるようになったことと、近年のAIによる自然言語処理の発展を受け、博報堂DYグループではテレビ番組視聴率を精緻に予測可能なシステムを実現しました。
たとえば、テレビ局、放送時間帯、曜日、エリアなどのほか、近年はそれらの特徴に加えて、番組概要をAI技術を使って分析することで、従来の番組ジャンルにとらわれない新しい視点で番組をカテゴライズすることができます。
それによって、高い精度で番組視聴率を予測できるようになったのです。

視聴者のペルソナを明確化していくAI

視聴者のペルソナを明確化していくAI

──新しい視点とは具体的にどのようなものでしょうか?
篠田:
たとえば、有名なアニメ映画監督のファンが世の中に一定数いるとします。その監督のファンは「その監督の映画がテレビで放送されれば見る」だけではなく、「その監督が出演するなら、『バラエティ』でも、『ドキュメンタリー』でも『情報番組』でも視聴する」ことが想定されます。
こうした点を踏まえると、バラエティ番組であっても「その監督が出演する回」は「あるスポーツ選手が出演する回」とは、視聴率も視聴者層も違ってきますよね。
──確かに、「このゲストが出るなら見よう」という経験は心当たりがあります。
篠田:
そうですよね。このような分析をしていくと、番組カテゴリー、番組名を超えた、視聴傾向に基づいた新たな番組の特徴を捉えることができます。
データが蓄積していけば、それぞれの特徴と視聴率の関係も推測できます。
今の話は極めて単純な例ですが、番組のタイトルや出演者、番組概要といったメタ情報をインプットすることで、「似たような過去の番組」をAIが探し、従来の手法よりも高い精度で、視聴率を予測することが可能になるのです。
──視聴者像についても、明確にわかるようになってきたのでしょうか。
篠田:
番組の特徴を精緻に分析することで、その番組を見ている視聴者像をより詳細に把握できるようになっています。また弊社の保有する生活者DMPとテレビ視聴ログを掛け合わせることで、テレビ視聴だけではわからない属性も解析することができます。
松浦:
視聴者数は右肩下がりで厳しい状況が続いていますが、最適化によって“広告の打率を上げる”ことが可能になってきました。
松浦:
今までのテレビCM運用実績に基づくビジネス視点と、大量のデータやAIなどの独自アルゴリズムに基づくテクノロジーの両面からテレビ広告の効果を最大化する。
これが今、博報堂DYグループで進めている新しい運用型テレビCM「TV AaaS」です。

枠ではなく、効果を売る広告

枠ではなく、効果を売る広告

──2つの課題が解決されつつある今、博報堂DYグループが向かう先を教えてください。
松浦:
こうした技術的な進歩と、従来からの戦略提案をベースに、広告メディアビジネスの次世代型モデル「AaaS」の提供を開始しました。
「AaaS」は「Advertising as a Service」の略で、従来の「広告枠」を売るビジネスではなく、「データ×システム×アルゴリズム×人」によって最大化した「広告効果」を売ることを目指しています。
弊社で培ってきたこれまでのテレビ出稿の知見をもとに、専用の管理ツールを開発し、クライアントに対してテレビCM効果の可視化を行っています。
──どのように効果を測るのでしょうか。
松浦:
クライアントへのヒアリングをもとに、KPIを設定します。
KPIはクライアント企業のウェブサイトへのアクセスであったり、ウェブでの売上であったり、さまざまです。テレビCM放送後、すぐにデータが取れるので、スピーディな効果検証が可能です。
──こうした運用型テレビCMは増えていますが、他社との違いは何でしょうか。
松浦:
一言で言えば、総合力です。従来のテレビCMはPDCAのP(プラン)である出稿計画が中心でしたが、そこに効果検証のC(チェック)を足したのが、従来型の運用型テレビCMサービスです。
「AaaS」ではそこに「D(ドゥ)」と「A(アクション)」を加え、各プロセスでメディアプラナーからエンジニアまで一丸となってコミットします。
「D(ドゥ)」の部分では、テレビ局との関係性を活かし、広告主にとって期待効果の高い広告枠の買い付けを行うことが可能です。
「A(アクション)」の部分では、今は最短翌日に視聴率の速報値がわかるので、AIを活用した成果予測を踏まえて、より高い効果が期待できる出稿枠への変更や、広告戦略全体の見直しもスピード感を持って行うことができます。
テレビCMの枠というのは特殊な商材で、「ここの枠が良い」とわかっても、クライアントにすぐにピンポイントでご提供するのは難しいのです。
ただ、弊社は数多くのクライアントを抱えていますので、冒頭に申し上げたような「弊社が取り扱っているCM枠の中で、高い効果が出るように枠の入れ替えを提案する」といったソリューションが可能です。
また、マーケティングやクリエイティブ、デジタルの分野の人材の層の厚さを活かし、TV以外の媒体も含めた出稿先、出稿CMの内容も含め、複合的な角度から広告出稿効果の最大化につなげていきます。

なぜ、AI部門がカレーを開発したのか

なぜ、AI部門がカレーを開発したのか

──メディアプラナーの方とデータサイエンティストの方が一緒に働いている職場って珍しいかもしれませんね。
松浦:
確かにそうですね。ただ、お互いの領域に関心が高いので、まったく畑違いというわけではないんですよ。
篠田:
そうですね。自分や自分と同じ部署のスタッフも、データサイエンスに精通しているという以前に、「メディアが好き」、「コンテンツが好き」ということが大前提としてあるというメンバーばかりです。
自然言語処理をする際にも、メディアやコンテンツをより良くしたい、あるいは生活者への解像度を高めたいという情熱が根底にありますね。
先日、「分析から一歩踏み込んで、自分たちでコンテンツを作る」という視点から、AIを使ってカレーを作りました。
──AIでカレーを作ったんですか?
篠田:
高知放送さんと「AIが高知県民の好みをビッグデータで分析してカレーを作ったら、プロの料理研究家のカレーよりも高知県民はおいしいと思うのか」という料理対決番組を一緒に作りました。
AIで高知県民のレシピサイト閲覧傾向を分析し、“高知県民好み”のカレーを作りました。
また、過去の番組メタデータから各タレント出演番組のターゲット視聴率も分析し、キャスト候補を提案しました。
博報堂DYメディアパートナーズ、高知放送=画像提供
──AIを使ってカレーも、それを紹介する番組も作ったと。
篠田:
そうです。同時にテレビ番組と分析元のレシピサイトの相互送客により、視聴率とレシピサイトアクセスを同時に上げるという試みもしました。
松浦:
「過去はこうでしたよね」という分析ではなく、「だったらこういう番組を作ればいいじゃないですか」という提案まで行う姿は、まさにPDCAのA(アクション)ですね。
篠田:
そうですね。テレビ局の意向や制作を尊重しながら、データやテクノロジーを用いて新たな視点を提供し、より良いメディアコンテンツを共創していくことができたらと思います。
松浦:
その通りですね。テレビCMは多数の生活者に効率的にリーチできるという点で、強みをまだまだ持っていますし、AaaSとして設定できるKPIや見ることができるデータの種類もどんどん拡張していっています。新時代のテレビ広告ビジネスに、ぜひ一緒にトライしてもらえたら嬉しいですね。
構成:相川いずみ
編集:金子祐輔、中道薫
撮影:岡村智明
デザイン:藤田倫央
制作:NewsPicks Brand Design
※本記事はNewsPicks(2022/9/28)に掲載されたコンテンツを転載したものです
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