コラム
メディア環境研究所
映画館で見たい!~メディア定点調査連載コラム2021-⑤~
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メディア環境研究所が2006年から実施しているメディア定点調査。「メディア定点2021」は初めてコロナ禍のメディア環境をとらえた。コロナ禍でメディア環境はどう変化しているのか、生活者のメディア意識や行動にはどんな兆しが見えてきているのか、本連載コラムでご報告していく。

6割が「映画館で見たい」

定額制動画配信サービスの利用が加速する中、映画鑑賞が増えた人は多いのではないだろうか。2020年4月、コロナウイルスの影響で外出がままならない間、20代前半の私の娘は、定額制動画配信サービスを利用して、離れた場所にいる友達と同時に同じ映画を楽しんでいた。メディア定点調査2021では、「別の場所にいる家族や友人、知人とテレビ、動画、音楽などをオンラインで同時に楽しむことがある」と答えたのは全体で1割、10~20代の若年層は3割前後となっている。(図1)

【別の場所にいる家族や友人、知人とテレビ、動画、音楽などをオンラインで同時に楽しむことがある】
図1

このように、若年層を中心に新しい視聴行動が広がりつつある今、映画館で映画を見ることを生活者はどうとらえているのだろう。「良い作品については、映画館で見たい」は60.7%。「良い作品については」と限定的ではあるが、映画館での映画の視聴欲求は高い。性年代別の合計スコアを見ると、若年層に高い傾向が見られる。(図2)

図2

定額制動画配信サービスも若年層の利用が高くなっている(図3)。定額制動画配信サービスで映画に触れる機会が増える一方で、良い作品は映画館で見たいと考えている生活者は多いようだ。

【定額制動画配信サービスの利用状況】
図3

スマホで見るだけでは物足りない

メディアサービスが増加し、スマホ画面の大型化・高機能化が進んだことも影響して、スマホでのメディア行動は変化している。「スマートフォンで映画やテレビ番組などを見ることが増えた」は24.1%。2016年の8.1%から16ポイント増と急速に増加している。(図4)

図4

スマホでの映画やテレビ番組などの視聴は増加しているが、「良い作品であっても、テレビやスマホなどで見られれば十分だ」と考えている人は16.9%と2割に満たない(図5)。スマホで手軽に気軽に映画を見る機会が増えても、良い作品は映画館で見たいのである。スマホで映画を見ることと映画館に映画を見に行くことは別の体験だととらえているようだ。

図5

決め手は“タイパ”

「定額制動画配信サービスは選択肢が多いし、面白くなければ途中でやめられるから安い。」インタビュー調査での20代女性の発言である。沢山の作品を見られるから安いということではなく、面白くない作品を最後まで見なくてもよいから安いと考えているのである。勿論“コスパ”(コストパフォーマンス)もあるだろうが、“タイパ”(タイムパフォーマンス)意識の高さが定額制動画配信サービスを選択した決め手であった。デジタル化が加速し、情報が溢れる中で、若年層に限らず生活者にとって、時間が無駄にならないかどうかはメディアコンテンツを選択する際の大事な判断基準になっている。多くの映画に触れられるメディア環境が整ったことで、生活者は評論家並みに映画の目利きになっている可能性がある。確かな目を持つ生活者の、映画館という空間で過ごす時間をどう満足させるのか。「映画館で見たい」と思わせるところからデザインしていく必要がありそうだ。

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新美妙子

メディア環境研究所 上席研究員
1989年博報堂入社。メディアプラナー、メディアマーケターとしてメディアの価値研究、新聞広告効果測定の業界標準プラットフォーム構築などに従事。2013年4月より現職。メディア定点調査や各種定性調査など生活者のメディア行動を研究している。「広告ビジネスに関わる人のメディアガイド2015」(宣伝会議) 編集長。

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