コラム
メディア環境研究所
情報は偏ってもいい⁉ ~メディア定点調査連載コラム2021-②~
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メディア環境研究所が2006年から実施しているメディア定点調査。「メディア定点2021」は初めてコロナ禍のメディア環境をとらえた。コロナ禍でメディア環境はどう変化しているのか、生活者のメディア意識や行動にはどんな兆しが見えてきているのか、本連載コラムでご報告していく。

情報のバランスは取れていた方がいい

栄養のバランスは取れていた方がいいのと同じような感覚で、情報のバランスは取れていた方がいいと考えていた。インターネットで検索すると、検索結果に基づいて情報が引き寄せられてくることを経験している人は多いであろう。興味があるから、見る。更に引き寄せられて、また見る。ついには興味がある情報ばかりになることもある。これがフィルターバブルだと思っても、回避するのは難しい。
※フィルターバブル:インターネット検索やSNSの履歴によって、利用者に最適化された情報が提示されて、泡(バブル)に包まれたように、見たい情報しか見えなくなってしまうこと

「ニュースなど自分が得ている情報は偏っているのではないかと不安に思う」人は半数近い(45.4%)。2017年(36.9%)から8.5ポイントUPと増加傾向にある(図1)。また、「SNSだけで、ニュースを取得するのは不安だ」と思う人は過半数(51.1%)。2016年(36.0%)から15.1ポイントUPと急増している(図2)。
※各調査項目の聴取開始時点

図1

図2

SNSの利用が増加し、情報取得手段が変化する中、ニュース取得の不安が増している。情報の偏りだけでなく、信憑性や発信元など不安の要因はさまざまであろう。SNSだけでのニュース取得は不安でも、「SNSは自分の暮らしに必要だ」と考える人は年々増加し、過半数を超えた(51.7%)(図3)。

図3

情報は、偏ってもいい

最近、メディア環境研究所が行った生活者インタビュー調査から見えてきたことである。「興味のないことは頭に入ってこないし、自分の好きな情報を得られればいい。」「(情報が引き寄せられてくるのは)自分に必要な情報が得やすいし、余計な情報を入れたくないから有難い。時代がそうなっている。」「情報は偏ってもいい。情報過多になり過ぎるのもどうか。」などの回答があった。興味のないことは覚えられない、情報過多は嫌だ、メディアサービスの多くが閲覧結果に紐づくようになっているなど、人によって理由はさまざまある。「偏っている」といっても、何かを受け入れないということではなく、必要があれば「その時に調べればいい」と思っているようだ。

「ニュースなど自分が得ている情報は偏っているのではないかと不安に思わない」人は過半数いるのだ。不安に思っている人より多いのだということを再認識する。情報のバランスをきちんと取っているから不安に思わないという人も勿論多いであろう。でも、情報が引き寄せられてくるのだから偏るのは仕方ないし、偏っても不都合はないと思う人も出現した。情報の送り手である我々が、生活者に伝えたい情報も、伝えるべき情報も沢山ある。ただそれを生活者の知りたい情報に変換しなければ、伝わらなくなりつつあることを実感し始めている。

【関連情報】
メディア定点調査2021ニュースリリース
メディア環境のデジタル化が叶えた「好きなものを好きな時に好きなだけ」 ~メディア定点調査連載コラム2021-①~

新美妙子
メディア環境研究所 上席研究員
1989年博報堂入社。メディアプラナー、メディアマーケターとしてメディアの価値研究、新聞広告効果測定の業界標準プラットフォーム構築などに従事。2013年4月より現職。メディア定点調査や各種定性調査など生活者のメディア行動を研究している。「広告ビジネスに関わる人のメディアガイド2015」(宣伝会議) 編集長。

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