コラム
メディア・コンテンツビジネス
人が集まる場所にはワケがある「Media Hotspots」第2回 Webサービス「note」ピースオブケイク・加藤貞顕氏【後編】
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個人化、多様化、分散化が進み、個人すら捉えにくくなる現在。それでも、多くの人が集まる熱いメディア/コンテンツは存在します。その熱さを生み出した方々にメディア環境研究所所長 吉川がお話を伺うこのシリーズ。
映画『カメラを止めるな!』の上映拡大にいち早く乗り出したアスミック・エース・村山直樹会長に続き、第2回はWebサービス「note」を運営するピースオブケイクを訪問。

クリエイター支援だけでなく、コンテンツを掲載するプラットフォームとしても国内随一の存在感となりつつある本サービスについて、代表の加藤貞顕さんにお聞きしました。noteの運営術から見える、メディア環境の変化とは。

★前編はこちら

noteの空気づくりは、「まちづくり」みたいなもの

加藤 既存の出版業は、ある程度のパイがないとビジネスにならなかったわけです。なぜならば、人手もかかりますし、印刷するからです。1アイテムあたりのユニットコストが数百万円かかるとなると、最低でも5000部は売れないと話にならない。

だけど、別に5000部売れなくてもいい作品だってあるわけです。以前、宇野常寛さんとこの議論をしたとき、彼は「本にイデオンのことを書くなら、その説明からしないといけない」とおっしゃっていて。

吉川 イデオンというと、あの80年代ロボットアニメのことですか。

加藤 そうそう、『伝説巨神イデオン』ですね。なぜ説明がいるかといえば、1万部売らなければいけないと考えるからです。

吉川 一般人を広く相手にしようと思うと、前提が必要になると。

加藤 説明不要な「1000人ぐらいの濃い人たち」に対して語りたいことがいっぱいあったとしても、それだと売りものにはできなかった。だけれど、ネットならできるわけですよ。

吉川 なるほど。一部の人に向ければ、それに値段がちゃんと付きますし、価値も感じますからね。

加藤 それに本って、なぜかわからないですけど、500円から3000円ぐらいのレンジに全て収まっていますよね。それも、おかしい。つくり手も含めて「そういうもの」と思っているから、それより高いものや安いものが許されなくなり、流通もそれを前提にできあがっている。

買うほうにしても、ゲームなら1万円でもおかしくないのに、本が1万円だとおかしいと思うんだけれど、そんなはずはないですよね。例えば、「必ず美肌になる方法」が書いてある5000字のテキストならnoteで1万円の値がついていてもいい。もし、実際にエステなどのサービス込みで売っていたら、それこそ100万円くらいになるかもしれない。

値付けも自由ならば、お客さんも自由になるから、より滑らかにいろんなコンテンツがつくれるようになるのは大きいと思うんです。実際に、プログラムのコードを売っている人もいますよ。それが5万円なら「安い」と言えるかもしれない。

吉川 正規に外注することを考えると、ずっと安価でしょうしね。

加藤 ただ、そういうのばかりを奨励しようとも思っていないんです。売上は上がるだろうけど、noteの持っている空気感が変わってくるからです。僕たちは、クリエイティブな空気感のを大事にしています。

僕らは、noteの運営は、「まちづくり」みたいなものだと思ってるんですよ。

noteの“空気”をつくりだす、お題コンテスト

吉川 あぁ、その共通点は理解できます。

加藤 たとえば、街中に看板をいっぱい提げて、家賃を上げていくようなまちづくりもある。一方で、景観規制をして道路を整備し、気分の良いまちをつくっていく方針も当然ある。

吉川 そういうことなんですね。それこそが、私がnoteに抱いていた良い意味の違和感なんだと思い当たりました。何かひとつ、隠れた主張があるように思っていたんです。加藤さんから見て、noteみたいな違うまちをつくろうとしている人は、出てくると感じますか?

加藤 いやぁ、あんまり見ないです。ややこしいですし、シンプルな話ではないですからね(笑)。

テクノロジーでネット上にアド以外の「もっと良い場所」を

加藤 かつて出版が果たしていた役割ってなんなのかなと考えると、一般的に言えば、クリエイターの想いを拡大して伝える装置だと思っています。それが好きで業界にいましたし、たくさん本を作って売ったりしているので、業界全体として人類の幸福度に貢献してきたと思います。だから出版は、とてもいい仕組みだったと思うんですが、テクノロジーを使えば、もっといい場所をつくれるとも思っているわけです。それがnoteをつくる理由でもあります。

同時に、「メディアのディストリビューションとファイナンスを、ネット上で、いかに実現するのか」というのは、広告会社の存在意義にもかかわる話ですが、世界的な課題なんですよ。たとえば、アメリカであるニュースメディアが、広告に究極的に特化していく形を見せている。それが先日リストラを敢行したということは、やはりうまくいかないところがあるのだろうと。結局、労働集約的にならざるを得ないのも理由でしょう。

吉川 それは、そうですね。

加藤 それに広告に特化すると、コンテンツがゆがむと思うんですよ。広告主のことを考えると、純粋に読者だけに向けたコンテンツをつくるのが難しくなってしまいますから。

吉川 noteを含めた貴社の活動は、それの解答でもあるといえそうですね。先ほど、「テクノロジーを使えば、もっといい場所をつくれる」はずだという言葉もありましたが、テクノロジーはどんどん進化していきますね。それこそ5G通信やIoTもある。それら最新の領域との関わり方で、考えていらっしゃることはありますか?

加藤 僕らとテクノロジーの関わりでいうと、そもそもピースオブケイクはテクノロジーカンパニーということがあります。社員の半分以上は開発担当者ですが、ユーザーの利便性といったUXやUIなどの話もありながら、それ以外にも「人とコンテンツのマッチング」を重要視しているんです。つまり、コンテンツを、いかに適切な人へマッチングさせるかですね。リコメンドエンジンの精度を上げることも一つです。

リコメンドのためには「記事がどういった分類に含まれるか」を判断し、「ユーザーは何が好きなのか」を掛け合わせる必要があります。その分類にAIなどのテクノロジーを活用しています。noteはCGMサイトですから、全員が正規化されたハッシュタグを使うことは望めません。「漫画」を分類するといっても、呼び方さえカタカナも、漢字も、ひらがなも、すべてあり得ますし、タグがついていないことだってある。そこを機械的に自動化するために人工知能を使ったりしているんですね。

例えば、noteで「マンガ」のカテゴリを押したときにリコメンドされる記事は、ディープラーニングで分類してるんですよ。

吉川 ユーザー側で漫画と分類しなくても、機械が判定しているんですね。

人とコンテンツのマッチングを高めた先には、アドもあり得る

加藤 そして、読んでいる人たちのことを「漫画好き」だと学習することで、しっかりと漫画をリコメンドできるようになる。それと同じようなことを他のいろんなジャンルでもやっているんです。だからたまに、間違ってしまうこともあるんですけど……。精度を上げて、人とコンテンツを的確にマッチングできるようになると、それは相当に面白いですね。

究極的にいえば、それが実現したら、アドをやる手もあるんだと思っています。なぜ現状でアドに踏み切れないかというと、マッチングが悪いからですよ。

吉川 なるほど。そういうことですね。

加藤 極めて的確な広告ができれば、それはサービスにすらなり得る。ある意味では「ほぼ日刊イトイ新聞」は、とてつもないアドサイトともいえます。ユーザーと広告がスーパーマッチしてるから、むしろ楽しんで見られる。そこまでいける可能性はあります。

そのためにも、スーパー分類とスーパーマッチングが必要。そのときのアドは、今のプライスの10倍ぐらいになってくるでしょうし、双方に納得感が生まれるはずです。とはいえ、それは結構、先になってしまいますね。

5Gに関しては、直接、僕らは関係ありませんが、大きな変化が起きるとすれば映像業界がネットに取り込まれることですね。この100年の歴史において、あらゆるメディアがインターネットに取り込まれている過程を体験しているので、それは非常に面白いタイミングだと思います。

ネットに取り込まれるのには順番があって、新聞、音楽、出版と、データが小さいほうから始まっているんです。テレビがまだ取り込まれていないのは、データが大きいからですね。ただ、家庭で光ファイバーで見るレベル、あるいは5Gの時代になってくると……(笑)。要するに、オンラインでお客さんにアプローチして、適切なものをリコメンドすることで、おそらく番組のつくり方も変わるし、業界の構造や収益モデルがまるで変わるでしょう。

とはいえ、僕らとしては、やることは基本的に変わりません。いまの道筋を、しっかり進んでいくことを考えています。

■対談後記

「収益性と文化性のバランスを取りながらクリエイターの本拠地を作る」

noteのメディア価値は、クリエイターと彼らが生み出したコンテンツを楽しむ人を繋ぎ続けるエコシステムであること、と思います。

“クリエイターの本拠地”とは発信する(アカウントがある)だけでなく、集客する(フォロー数を増やしていく)だけでもなく、それらとファイナンスが紐付くことで、クリエーター(発信者)が継続してコンテンツを出していくことができる(収益を確保する)ようになる場所のこと。

かといって儲けだけじゃなく、クリエイティブな空気感をどう醸成していくか。収益性と文化性、その両方を高次にバランスさせて、街づくりのようにじっくりその空間(≒メディア)を作っていくこと。この絶妙なバランス感覚が、自分がnoteに感じていた(いい意味の)違和感なんだとわかりました。

コンテンツの値ごろ感を変え、そのコンテンツの持つ価値が、適正な人に評価され、適正な価格で取引が成立し、適正な満足が買い手に生まれ、クリエイターに適正な収益が入る。編集や出版が創造してきた価値を今のメディア環境に合わせて新しい価値にバージョンアップしたこと。それこそが多くの人を集めるnoteのhotさの源泉なんだと感じました。ありがとうございました。

 

■プロフィール

加藤貞顕
株式会社ピースオブケイク 代表取締役CEO
1973年新潟県生まれ。大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。アスキー、ダイヤモンド社に編集者として勤務。『英語耳』(松澤喜好)、『投資信託にだまされるな!』(竹川美奈子)、『なぜ投資のプロはサルに負けるのか?』(藤沢数希)、『スタバではグランデを買え! ―価格と生活の経済学』(吉本佳生)、累計発行部数280万部を記録した『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海)や、『評価経済社会』(岡田斗司夫)など、ベストセラーを多数手がける。
2011年株式会社ピースオブケイクを設立。『ゼロ』(堀江貴文)、『ニコニコ哲学 川上量生の胸のうち』(川上量生)、『マチネの終わりに』(平野啓一郎)などの編集を手がける。2012年、コンテンツ配信サイト・cakes(ケイクス)をリリース。2014年、クリエイターとユーザーをつなぐウェブサービス・note(ノート)をリリース。

 

吉川昌孝
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 所長
1989年博報堂入社。マーケティングプラナー、博報堂フォーサイトコンサルタントを経て、2004年博報堂生活総合研究所に着任。未来予測プロジェクトのリーダーとして「態度表明社会」(09)「総子化」(12)「デュアル・マス」(14) など、生活者とマーケティングの未来像を発表。15年メディア環境研究所所長代理、16年より現職。著書に「亜州未来図 2010」(03)「『ものさし』のつくり方」(12)などがある。京都精華大学デザイン学部非常勤講師(08年~13年)、立命館西園寺塾第5期生(18年4月~)。現在 NHKの「マイあさラジオ」の「今週のオピニオン」にレギュラーゲストとして出演中(http://www4.nhk.or.jp/r-asa/338/)

 

【関連情報】
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