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SXSW2017に見るクリエイティビティとイノベーション
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◆サプライズとコネクションを求めて

2017年3月10~19日に、アメリカ・テキサス州オースティンにおいて、SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)2017が開催されました。
SXSWは、「ミュージック」「フィルム」「インタラクティブ」部門からなる、カンファレンス&フェスティバルで、1987年に始まって以来、今年で31回目となります。
このイベント期間中は、メイン会場であるオースティン・コンベンションセンターを中心に、周辺のホテルも会場となり、キーノートなどのセミナーセッション、展示会、ライブイベントなどが開催され、IT・ネット関連の起業家やビジネスマン、映画制作者、音楽関係者などが一堂に集まり、様々なテーマを掲げてディスカッションしたり、ネットワーキング活動が行われたりします。実際、会場には映画監督、写真家、ミュージシャン、コメディアン、企業経営者(CEO)、ベンチャーキャピタリスト、モバイルアプリ開発者、クリエイティブディレクター、デジタルエージェンシーのマネージャーなどが実に多彩な職業の人が、これから先の未来はどうなっていくのか、「サプライズ」と「コネクション」を求めて参加していました。過去には、TwitterやAirbnb(エアービーアンドビー)が、SXSWでの受賞をきっかけに、世界的なサービスに広がったことから、テック系ベンチャー企業の登竜門的な位置づけのイベントにもなっており、近年では新しいサービスやイノベーションの兆しを求めて、アメリカ国内にとどまらず、世界中から多くの人々が集まってきています。

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SXSW会場の中心であるオースティン・コンベンションセンター

◆最先端DNAから見る、インタラクティブの未来

今年「インタラクティブ」部門のキーノートスピーカーの一人として、カリフォルニア大学バークレー校で分子生物学の教授を務めるJennifer Doudna氏が、講演を行いました。Doudna氏は、遺伝子編集において革命をもたらした”CRISPR/Cas9”(クリスパーキャスナイン) の開発者で、2015年には、TIME誌の世界で最も影響力のある100人にも選ばれる生物学者です。キーノートセッションでは、細胞にすべて記述されているDNA情報に対して、私たちが、普段、文章で文字を編集するように、DNAが持っているコードを自由に書いたり読んだりすることができないか、DNAの遺伝子編集の最先端事情についての解説が行われました。DNA塩基配列の切断、置換、結合というゲノム編集を通じて、「情報」というものがどう形成されているのか、「サイエンス」、「テクノロジー」、「社会」を、『生物学的』に「情報(Information)」という視点から切り込んでいるのは、インタラクティブを考えていく上で、大きな視野を得る刺激の多いセミナーでした。

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Jennifer Doudna氏によるインタラクティブ・キーノートの講演

◆「アクセラレーター・ピッチ・イベント」の勝者

SXSWでは、カンファレンスと並んで注目されるのが、アクセラレーター・ピッチ・イベントです。これは、新しいビジネスアイデアを持つスタートアップ企業が、自らの事業アイデアを投資家やベンチャーキャピタリストなどで構成される審査員の前でプレゼンテーションを行い、勝敗を決めるまさにピッチ・イベントになります。

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アクセラレーター・ピッチ・イベントの様子

事業カテゴリーとしては、「Social and Culture」、「Entertainment and Content」、「Sports」、「AR and VR」など全部で10部門があり、世界中の500社以上のスタートアップが参加し、カテゴリーごとの勝者を決めていきます。また、3月13日には、「Super Accelerator」と呼ばれる、全10部門の中のBest of Bestを決定する最優秀企業の選出も行われました。
今年は、「Payment & Fintech」部門の、CNote 社が、最優秀企業に輝いています。
Cnote社のビジネスアイデアを簡単に紹介しますと、アメリカには、地元経済の職業創出経済活動を促進するためのCommunity Development Financial Institutions(CDFIs)という団体があり、ここに投資することで、預金者に対して2.5%の金利を得られる預金サービスのビジネスになります。通常の銀行と異なり、投資を通じて得たリターンを、預金者と社会をよくするための両方に役立てているという仕組みが評価され、最優秀企業に選ばれています。

その他、部門ごとの受賞企業一覧はこちらになります。

<Enterprise and Smart Data部門>
Deep 6 Analytics (カリフォルニア州パサデナ)

<Transportation部門>
SPLT(テキサス州オースティン)

<Social and Culture部門>
Lily(カリフォルニア州サンディエゴ)

<Entertainment and Content部門>
Laugh.ly(カリフォルニア州サンフランシスコ)

<Health and Wearable部門>
Sound Scouts(オーストラリア、シドニー)

<Sports部門>
Brizi(カナダ、トロント)

<Security and Privacy部門>
UnifyID(カリフォルニア州・サンフランシスコ)

<AR and VR部門>
Lampix (カリフォルニア州サンフランシスコ)

<Innovative World部門>
Thimble.io(ニューヨーク州・バッファロー)

◆専門性を超えて、積極的に関わりあう場として

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多くの来場者でにぎわうトレードショー

SXSWでは、今回紹介しましたカンファレンスやアクセラレーター・ピッチ・イベントの他にトレードショー(展示会)も目玉の一つであり、ベンチャー企業や大学の研究室、大企業などが、自社の新規プロダクト・サービスや開発中のプロトタイプを展示する、大変ユニークな展示会が行われています。世界中から、どんなに面白いプロダクトやアイデアがあるのかを探しに、多くの人が来場し、その場で議論したりビジネスを行ったりしており、次のビッグビジネスの芽がここにはいくつも散らばっています。

毎年3月オースティンに、ベンチャー企業や投資家、大学、企業、クリエイター、ミュージシャン、研究者など異なるバックグラウンドの人たちが一堂に集結し、普段自分が携わっている専門分野を超えて、テーマを掲げ、ディスカッションし、様々な部外者と積極的に関わっていく場であること。そのカオスの中で繰り広げられる「クリエイティビティ」と「イノベーション」こそ、SXSWの最大の醍醐味ではないでしょうか。

中杉 啓秋(なかすぎ ひろあき) ナレッジマネジメント部

2002年博報堂入社。営業局にて、ブランド・メディア業務を担当した後、2008年よりメディア環境研究所にて「生活者のメディア利用実態」や「メディアの未来予測」をテーマに各種リサーチ業務に従事。2016年より現職。

※執筆者の部署名は、執筆時のものであり現在の情報と異なる場合があります。

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