コラム
テレビコンテンツ×テクノロジーの可能性を探る|フジテレビ「サスティな!」のAIリサイクル広告
COLUMNS


写真左より、博報堂DYメディアパートナーズ坂本裕太、平川智也、フジクリエイティブコーポレーション瀧澤卓、フジクリエイティブコーポレーション望月靖子氏 、フジテレビジョン栗山みゆ氏

フジテレビ系列で放送中のSDGsバラエティ番組「サスティな!」のプロモーションとして、生成AIを活用し過去の番宣動画を再利用して放送する「AIリサイクル広告」を実施。日本のテレビ業界で初の取り組みとなった今回の施策を、番組制作スタッフの皆さんと振り返ります。放送局のコンテンツと最新テクノロジーの融合にはどんな課題があり、どんな未来が待っているのか。本プロジェクトに携わったメンバーに話をききました。

望月靖子氏
フジクリエイティブコーポレーション
制作部

瀧澤卓氏
フジクリエイティブコーポレーション
制作部

栗山みゆ氏
フジテレビジョン
営業局 営業推進部

坂本裕太
博報堂DYメディアパートナーズ
統合アカウントプロデュース局
TV AaaS Lab

平川智也
博報堂DYメディアパートナーズ
メディアビジネス基盤開発局
AaaS Tech Lab

放送局のコンテンツや制作力に、広告会社のテクノロジーを掛け合わせる

―はじめに、皆さんの自己紹介からお願いします。

望月さん(以下、望月):フジクリエイティブコーポレーション制作部のプロデューサーで「サスティな!」を担当しています望月です。

瀧澤さん(以下、瀧澤):同じくチーフディレクターとして「サスティな!」の番組演出を担当しております瀧澤です。

栗山さん(以下、栗山):株式会社フジテレビジョン営業局でネット番組の営業推進を担当しています栗山です。

坂本:博報堂DYメディアパートナーズのTV AaaS Labに所属しています坂本です。クライアントのメディア戦略を描く統合的なメディアプラニング業務と同時に、放送局様と新しいコンテンツの形や新しいテレビ広告ビジネスの形をプラニングさせていただいています。今回のプロジェクトでは、企画の推進プロデューサーとして携わりました。

平川:博報堂DYメディアパートナーズのAaaS Tech Labに所属している平川です。データサイエンティストとしてメディア効果の可視化を行うソリューションを開発業務と、テクノロジーを活用したメディア・コンテンツ開発を行なっています。今回のプロジェクトではAIを用いた映像制作を担当しました。

―「AIリサイクル広告」というちょっと聞きなれない施策ですが、今回の取り組みについて概要から教えてください。

坂本:博報堂DYメディアパートナーズがフジテレビと取り組んでいる「サスティな!」というSDGsバラエティ番組で、過去の番宣素材を生成AIで組み合わせ、素材を再利用し新しい番宣動画を作成し放送する「AIリサイクル広告」という企画を実施しました。いまコンテンツの視聴環境が大きく変化しているなかで、認知向上も含めた番組の盛りあげ施策ができないかと考えたとき、博報堂DYグループが推進する次世代メディアビジネスモデル「AaaS (Advertising as a Service)」の実現を目指すデータサイエンティスト集団「AaaS Tech Lab」とのコラボレーションがよいのではないかと思いご提案させていただいたのがきっかけです。

―なぜ「AaaS Tech Lab」とのコラボレーションを考えたのでしょう?

坂本:放送局には望月さんや瀧澤さんのような制作のプロフェッショナルがいらっしゃるなかで、番組を盛りあげる施策として我々広告会社が提案できることはなんだろうと考えたんです。そのとき、僕らのもっているテクノロジーを、放送局のもっているコンテンツや制作力と掛け合わせることに意味があるのではないかと考えました。

話題のAIと番組テーマのSDGsがわかりやすく結びついた「AIリサイクル広告」

―過去の番宣動画を再利用する「AIリサイクル広告」という企画はだれの発案なのですか?

平川:「AaaS Tech Lab」メンバーのブレストから生まれたアイデアでした。SDGsに関する番組なので、そのテーマとテクノロジーを結びつけるにはどうすればいいか、データサイエンティストが集まって議論した結果生まれた企画です。

―この企画をきいたとき、どんな印象を受けましたか?

栗山:AIで番宣をつくる…?って、はじめはまったく想像がつかなかったですよね(笑)。

瀧澤:そうですよね(笑)。でも、番組内でSDGsに関してさまざまなリサーチをするなかで、AIに関連するワードが飛び交っていたんです。そのタイミングでご提案いただけたのと、「リサイクル」というのが番組のテーマとしてもすごくわかりやすくておもしろそうだなと思ったのが第一印象。局内でもここまでSDGsをテーマにした番組はほかにありませんし、存在感を示していきたいと思っていたので、他の番組と違うPRを仕掛けていくのはチャレンジしがいがあるなと思いました。

望月:たしかに、AIを使う取り組みって、テレビではあまりできていないと思うんですよね。
こういった企画なら、テレビもちゃんと新しいものを取り入れているということを打ち出せるのではないかなと思いました。

―「AaaS Tech Lab」としてアイデアを出すとき大切にしたことは?

平川:ブレストでは本当に多種多様なアイデアが出ましたが、最終的には瀧澤さんもおっしゃっていた「わかりやすさ」を大事にしました。リサイクルというのは番組のテーマにも直結しますし、ちょうど画像生成AIや動画生成AIが話題になっていた時期だったので、トレンドという意味でもわかりやすかったと思います。
漫画風にするとか映画風にするとか、画風の変換をするアイデアもありましたが、シチュエーション自体を変換させるほうが新しい提案になると思い、数百パターンの画像変換を検証した結果、最終的に「水族館」「植物園」「星空」の3つのシチュエーションに変換するアイデアに落ち着きました。

栗山:お肉が水の中とか草の上で焼けちゃうとか、AIじゃないとつくれない画ができたのがおもしろかったですよね。

瀧澤:おもしろいシチュエーションがたくさんつくれることがわかって、こちらもアイデアを考える意欲が湧きました。あれはどう?これはどう?っていろいろアイデアが出てくるんだけど、動きの多い素材は技術的に変換がむずかしいみたいで、どの映像を使うかは試行錯誤しましたよね。

平川:企画をはじめたのがいまから4〜5ヶ月前なんですが、そこから今までの間にも技術がどんどん進化しているので、いまならそんなに苦じゃないことも当時はむずかしかったり。画面のチラツキの処理も、手足などの細かな描写も、この数ヶ月で格段に進歩しています。僕らの業務では、2週間後のミーティングにはもう次の技術が出てきているなんてことが日常茶飯事なんです。

どこまで人間が手を加えるか。仕上げの「さじ加減」は今後のAI共通の課題

―番組制作サイドで苦労されたことはありますか?

瀧澤:最終的な仕上がりの「さじ加減」を調整する作業には議論を重ねました。極端なことを言えば「この映像はAIが自動生成しました」とテロップを入れてしまえば、どんな非現実的なシチュエーションも受け入れられはするんですよね。
今回の企画で言うと、はじめにAIがつくった映像ではバーベキューで焼いている肉にも草が生えてたんですよ。でも、それだと見た人が「???」ってなっちゃう。肉じゃないと理解できないから肉に戻そうといった調整をしたんですが、それをやりすぎちゃうとAIがつくった意味がなくなってしまいますよね。その塩梅がむずかしい。これは今後のAIそのものの課題なんだと思います。人間が手を加えることで、結局人間の考えるものを超えることができなくなってしまうかもしれない。そういう葛藤はありました。

望月:新しいことをはじめるときには必ず賛否があるので、いろいろな意見をききながら議論しました。いまAIに関して少しネガティブな報道も出てきているなかで、どうすればもっとおもしろがっていただけるかというのがひとつの課題かもしれないですね。

―いろいろな意味でチャレンジングな取り組みだったということですが、実施してどんな反響がありましたか?

坂本:今回のリサイクルCMを視聴したことによる番組への誘導率は、通常の番宣映像よりも1.2倍高く、番組視聴時間もリサイクルCM視聴者の方が1.4倍長い結果となりました。SNS上での再生回数は合計500万回以上を獲得していますし、生成AIの不思議な世界観をおもしろがるコメントも多数寄せられていて、話題化に貢献できたのではないかなと思っています。

栗山:見てくれた人は必ず「これってどういうこと?」って聞いてくれるんですよね。
仕組みを説明すると「すごい、SDGsだね!」って納得してくれる。それをきいて、やっぱりこの番組にふさわしい番宣だったんだなとあらためて思いました。

坂本:いま、SDGs、SDGsと言われすぎて「SDGs疲れ」という言葉も生まれていますよね。「サスティな!」はそもそも楽しくSDGsを学ぶというのがコンセプトなので、もっとライトに関心をもっていただくきっかけをつくりたいというのが当初からの狙いでした。それができたらとしたらうれしいですね。

メタバースなど今後の取り組みも、すべてのステークホルダーを盛り上げる発信に

―今後の期待や取り組んでみたいことなどあれば教えてください。

瀧澤:さきほどお話ししたように、AIがつくるものに対して我々がどこまでリミッターを外せるのかという課題もありますし、いまはまだトライアルの状況で、制作作業としても時間がかかっているんですよね。それが今後本当にAIにすべて任せられるようになったらすごいこと。本来的には、AIがつくってるのに逆に時間かかっているってどういうこと?って話ですもんね(笑)。インパクト狙いなだけでなく、実務にもイノベーションが起これば最高ですね。

平川:今回あらためて思ったことは、やはり放送局はコンテンツの宝庫だということ。
そのコンテンツとテクノロジーとの掛け合わせは、無限に考えられそうです。いまGaussian-Splatting(ガウシアン-スプラッティング)という技術がトレンドとして上がってきていて、それはさまざまな角度から撮影した写真をもとにAI技術で3D空間を構成するというもの。メタバースにも発展できるので、そういったチャレンジもしてみたいです。

望月:社内でもメタバースに取り組みたいという動きはあるんですよね。そのとき大事なのが、番組だけでなくたとえば「サスティな!」で取材させていただいている企業やお店もいっしょに盛り上げていける施策になること。それを我々の番組から発信できれば、みんなにメリットのある取り組みになるんじゃないかと思います。

坂本:おっしゃる通り、クライアント企業も、放送局も広告会社も三者がwin-win-winになる形をデザインするのが僕らの使命。そのためにAaaSにいるデータサイエンティストは単なる技術者ではなく広告会社としてマーケティングを理解する人材であることが重要です。テレビ広告ビジネスや統合的なメディアプランニングを専業とする僕のような人間もワンチームで取り組むことが強みだと思っていますので、これからも皆さんとさまざまなチャレンジをさせていただきたいと思います。

望月:ぜひ、よろしくお願いします!

坂本裕太
博報堂DYメディアパートナーズ
統合アカウントプロデュース局
TV AaaS Lab

平川智也
博報堂DYメディアパートナーズ
メディアビジネス基盤開発局
AaaS Tech Lab

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