コラム
生成AIはクリエイティブの力をどこまで高められるか?
『東京リベンジャーズ』英監督と語る、映像制作におけるAI活用
COLUMNS

今、生成AIによりクリエイティブが猛スピードで発展しています。AIがビジネスに活用され始め、当初は作業の効率化に使われることが多かったですが、今では画質の高解像度化、あるいは映像作品の中にユーザーを合成することも可能になりました。
それらを実現しているのが、2022年6月にリリースした「H-AI UpRes(エイチ・エーアイ・アップレゾ)」、および2023年5月にリリースした「H-AI NARRATIVE(エイチ・エーアイ・ナラティブ)」です。

2023年1月、最新のAIソリューションを活用したクリエイティブをテーマに「クリエイティブDX 〜AI映像クリエイティブの最前線〜」と題したウェビナーを開催。『ハンサム★スーツ』をはじめ、『貞子3D』『東京リベンジャーズ』など多数の作品を手掛ける映画監督の英勉氏をゲストに、博報堂DYメディアパートナーズの松﨑健、また松﨑とともにソリューション開発にかかわるフリーのテック・クリエイティブ・プロデューサーの阿部正氏がディスカッションしました。

英(はなぶさ)勉
映画監督 東北新社/OND°所属

松﨑健
博報堂DYメディアパートナーズ クリエイティブ&テクノロジー局 クリエイティブ・テクノロジスト

阿部正
テック・クリエイティブ・プロデューサー

「AI×クリエイティブ」の画期的なソリューション、続々登場

博報堂DYメディアパートナーズではかねてから、クリエイティブ&テクノロジー局のソリューション開発グループにおいて、最新のクリエイティブ・テクノロジーを開発や制作に活かすための研究を続けてきました。
まず、AIをクリエイティブに活かしていくために専門性に長けた社内外のチーム、時には海外のテック系スタートアップとの連携が不可欠です。社外の技術を採用する上で、近年問題視されている生成AIによる不適切な画像生成が起きないようにするための倫理チェックを、開発/企画のプロセスに組み込み、安全なアウトプットの実現を目指しています。

近年、生活者の間には「高画質の映像をいつでもどこでも楽しむ」環境やライフスタイルが浸透しました。2022年6月、博報堂DYメディアパートナーズではAI/XR領域に強みを持つイスラエルのスタートアップAUGMIND(オーグマインド)社と共同開発を行い、低画質の映像を高画質に変換するAIサービス「H-AI UpRes」の提供を開始しました。データの劣化により粗くなった過去の映像作品を、AIが機械学習により分析し、補正して高解像度化します。従来、映像作品のリマスター版の制作には多大な時間とコストがかかっていましたが、本サービスでは短い制作期間とリーズナブルな価格で実現し、過去のテレビ番組やCM、映画やアニメやNFTなどの映像コンテンツの有効活用を支援します。

一方、2023年5月にリリースした「H-AI NARRATIVE」は、AIディープフェイク技術を活用して、映像領域における生成AIサービスとして、静止画の顔写真を表情豊かな動画に変換することが可能なサービスです。すでに海外では企業による複数の広告活用例があり、例えばハリウッド映画のキャンペーンで、ユーザーの顔写真をサイトにアップすると、予告編の動画の一部に自分の映像が組み込まれる斬新な企画が実施されて話題になりました。
「こうした生成AIのクリエイティブ活用は、広告表現を進化させると考えています」と松﨑は語ります。ブランドが一方的にストーリーを語るのではなく、ユーザーがそこに参加してストーリーの一部になれることで、新しいユーザー体験を楽しむことができます。
この生成AIを活用したソリューション「H-AI NARRATIVE」を活用すると、ユーザーがCMの世界観に没入したり、タレントと疑似的に共演したり、コンテンツ作品の一部に参加できるようになるので、広告キャンペーンの表現の幅が広がり、ブランドとのエンゲージを強化します。
英監督は「スポーツのメンバー紹介の最後や、アーティストのライブ映像に加わったりすることもできそうですね。瞬間的におもしろいものというより、それぞれの方が参加するうれしさや高揚感を得られる企画が立てられそうだと思います」とコメントしました。「様々なコンテンツ毎に、ファンの皆様が楽しんでいただける仕掛けを考えていきたいです」と松﨑。

4Kレベルの画質への転換が容易にできるように

映像の高解像度化と、ストーリーの中に参加できるという、2つのAIソリューションを紹介した後は、3名のトークセッションへ。松﨑・阿部から英監督にうかがいたいことや、ウェビナー参加者から事前に寄せられた質問に答えていく形で進行しました。

――H-AI UpResは過去映像の超解像度化をメインにしたサービスですが、監督として考えられる使い方の案など教えてください。


モノクロだったり粗かったりする過去の映像を、今の画質に合わせられると、過去の人を現代に登場してもらうことができますね。その点には大きな可能性を感じました。
これまで、映像の上で現代の人が過去に行くようなことはできたんです。画質を落とせば、それこそタイムスリップの物語のように過去の世界になじませることができましたが、その逆は難しかった。これを相互に行き来できると、CMやコンテンツのつくり方も変わってきます。何十年も同じCMキャラクターを務めている俳優さんが、昔の自分と高画質で共演するなどもおもしろそうです。
また、今は4Kで作品の納品や配信をしているのですが、まだやはりCGも後処理もかなりの時間がかかるので、これを2K状態で進めて4Kにできるなら、相当な効率化になりそうです。

松﨑
2Kで仕上がっているものを4Kにするのは、かなり容易にできます。

阿部
機械的に対応するのではなく、監督やクリエイターの要望を細かく聞いて、その意向通りになるように調整しています。


そうなんですね。先ほど、古い時代のコンテンツを現代に持ってくるのは難しいとお話ししましたが、画質のせいで古く感じてしまうものも多くあるので、もったいないと思っていました。
物語という点では、この高解像度化とH-AI NARRATIVEは組み合わせで使うのがよさそうですね。自分がコンテンツの世界観に入れる、自分向けの映像などが簡単にできたら、地方のエキストラさんに加わっていただいたりすることも多いので、そうした方々にお土産として楽しんでもらえそうです。

――今、映像制作において課題に感じていることはありますか?


課題のひとつは前述した「高画質にするのに労力や時間がかかる」ことでしたが、今回のH-AI UpResでは解決できそうだと思っています。もうひとつの課題は、どうしても映像制作は現場に単調な作業も発生し、それが長時間にわたったりするので、そこを解消できたらいいですね。画像の切り抜きなどは、今でもあるのですが精度がそこまで高くないので、それを任せられたらと思います。人間の時間は、おもしろいことを発想する方向に振りたいですね。

阿部
そうですね、基本的にAIの技術力や活用は、単純作業や面倒な部分を自動化して補うところにあると思います。実際、H-AI NARRATIVEのほうには自動的に背景をくり抜く機能もあります。ほかにも、現場で使っていただく中で改善したい点などがあればぜひ聞かせていただきたいです。

新しい技術が、クリエイティブを進化させる

――ここまでは、クリエイティブDXをテーマに話してきましたが、監督は原作を実写化する作品も多く手掛けられています。その際に意識されていることや、工夫されていること、苦悩などがもしあれば教えてください。


やはりマンガなどの場合は、読んだ瞬間の体感を覚えておくことがいちばん大事だと思います。何がおもしろくて、何がかっこよくて、何がかわいかったかをしっかりとらえておくことです。実写化すると静止画が動いたりしゃべったりすることになるので、静止画の状態を知る人には、どうしても違和感は出てきてしまいます。その変換の際に、自分の体感を頼りにファンの方の感じ方、そして原作の先生が描かれたときの感覚をできるだけ想像して持ち続けるようにしたいと思っています。たとえばノリを合わせるとか……表現の形が違っても、芯をしっかりつかむことが重要です。
ただ、寄せすぎてマンガの通りだと、生身の人間の体や声で演じる豊かさが生きませんし、ファッションの見た目も原作に忠実にしたら今度は時代に合わないこともあります。その塩梅を図るのも、欠かせません。
苦悩というと、その読みがずれないかどうか、ということですね。“解釈違い”といったりしますが、そうならないように常にいろいろなアンテナを張っている感じです。

阿部
マンガの原作は、考慮する点が多くてハードだと思います。今春に公開の『東京リベンジャーズ2』は、マンガを原作とする第一弾が好評だったから第二弾に至ったのですよね。


おかげさまで、第一弾は多くの方に観ていただきました。4月21日から『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編』の前編、6月に後編が公開の予定です。
マンガなどの原作もので難しいのは、マンガなら20万部でも大ヒットですが、映画になると対象が100万人単位になるので、原作を知らない人やそもそも普段からマンガを読まない人にも広げる必要があることです。とっつきにくい部分のハードルを下げてわかりやすくしながら、とがっているこの設定や表現は残すとか、本当に作品ごとに試行錯誤をしています。技術があったらクリアできたのに、という点も多いですね。

――最後に、今後もコンテンツ制作をされる上で変わらない「英監督の哲学(想い)」を教えてください。


シンプルに、「おもしろがれるか」が軸だと思っています。作品のアイデアでも、技術があるから思いつくことでも、それが瞬間的でも長期的に持つ企画でも、やはりおもしろいと思えるかどうかがゆるい哲学といえばそうなのかなと思います。

松﨑
AIをはじめとする先端技術は、ともするとクリエイターの方に脅威と捉えられてネガティブな反応をされることがありますが、事前に監督にお話を伺った際に、そのような感覚をまったくお持ちでなかったことがとても印象的でした。


本当に、ないですね。新しい技術を取り入れて、それがあるからできることをどんどん乗せていきたいです。

松﨑
とても楽しみです。本日はありがとうございました!

英(はなぶさ)勉
映画監督 東北新社/OND°所属

松﨑健
博報堂DYメディアパートナーズ クリエイティブ&テクノロジー局 クリエイティブ・テクノロジスト

阿部正
テック・クリエイティブ・プロデューサー

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