博報堂DYメディアパートナーズグループである株式会社オールブルーは、2013年に創業。「国境なき、熱狂をつくる」を合言葉に、日本のポップカルチャーを紹介する「Tokyo Girls’ Update」運営を始め、国内外を舞台にしたコンテンツプロデュース、国内企業の海外進出支援などを展開しています。オールブルーディレクター原田健司氏と「Tokyo Girls’ Update」の阿部彩香編集長に、サイト運営におけるこだわりやその裏側、起業のきっかけとなった思い、今後の展望などについてうかがいました。 

■AD+VENTURE(アドベンチャー)から誕生したオールブルー
■日本のカルチャー情報を英語で発信するオンリーワンのサイトを運営

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原田:当社の創業は2013年。その前年に応募した博報堂DYグループの社内公募型新規事業育成制度であるAD+VENTURE(アドベンチャー)から誕生しました。日本のポップカルチャー情報を世界の人とシェアするサイト「Tokyo Girls’ Update」の運営を始め、日本人アーティストの海外プロモーション支援、クライアント企業様の国内外におけるプロモーション企画から開発プランニング、ブランディングなどまでを、ワンパッケージで提供しています。

Tokyo Girls’ Update(以下TGU)では、日本のアイドルやファッションなどといったポップカルチャーを主とするメイドインジャパンのコンテンツ情報を英語で発信しており、現在そのコミュニティにはファンの方500万人ほどが存在しています。国籍も実にさまざまで、アメリカやアジアを中心に150カ国からアクセスがあります。アニメをきっかけに興味を持ったという10代から、かつて日本滞在経験があるという40代まで、世代もばらばら。ただ一つ、「日本のポップカルチャーが好き」ということを共通点に持つ人々が、情報や話題をシェアし、交流を深めています。

阿部:そもそも、日本のポップカルチャーファンは海外にたくさん存在するのに、彼らが英語で情報を得られるような本格的なサイトがこれまでは存在しませんでした。TGUはアイドルやポップカルチャーに関すうる最新情報がわかる情報プラットフォームであるのと同時に、ファンの人同士で交流したり、オフ会を開催したりと、さまざまな形でユーザー同士がつながる場となっています。

編集部は編集長である私とアメリカ人のネイティブライター2名が中心となり、そのほか外部ライターが約20人、さらに各国のインフルエンサーなどの“ご意見番”が10人います。彼らとコミュニケーションを取りながら、情報収集や記事の企画を進めています。

■Tokyo Girls’ Update制作の裏側!?
■世界各国のユーザーから現地の生活者インサイトを把握

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阿部:TGUでは、私たちが何かしら中毒性があるなと感じられることを紹介するようにしています。たとえばこれまで、ギャルカフェや坊主バーなど、ナニコレ?という驚きがあり、また見たくなる、あるいは気になる!と思ってしまうようなものを紹介してきました。特に最近話題となった記事は、LEDシューズを紹介したもの。もとは韓国で生まれたそうですが、今や原宿の若者たちから熱い支持を得ているファッションで、反響がありました。それからロボットクリエイターのきゅんくんを取り上げたインタビュー記事。彼女は大学で機械工学を学ぶ学生で、「ファッションとして着用するロボット」を発表している、知る人ぞ知る話題の人物です。こだわっているのは、そういった面白い人やモノ、カルチャー周りの情報を、決して「教えてあげる」という上から目線になるのではなく、「見て、こんな人がいるよ」という風にフラットに伝えること。あくまでも読者と同じ日本のポップカルチャーのファンとして、同じ立場で情報をシェアするというスタンスを大切にしているんです。

原田:また、TGUでは、いわゆる外国人受けしそうな、わかりやすい商品や事例などは紹介していません。僕らは海外のジャパンエキスポなどに行って、現地のユーザーの方々とも交流しているので、ネット上のコミュニティとはいえ彼らの顔がしっかり見えているんですね。中でも世界各国に20~30人くらい、いつも見てくれているだろうなという方々がいて、彼らがガッカリするかもしれないと思えば、取り上げません。日本のカルチャーに対する感度が高い彼らに対して、恥かしくないような、失望させないようなネタを選ぶようにしています。

阿部:世界中にいるご意見番の存在も心強いですね。必要に応じて、現地のトレンドについて調べてくれるなどリサーチャーの役割も果たしてくれます。

原田:世界各国のユーザーやご意見番は、TGUだけでなく、企業さんのプロモーション案件などにおいても大きな力になってくれています。たとえば先日東京メトロさんの依頼で作成したのが、マレーシア国内向けの観光誘客用プロモーションビデオ。日本人のモデルさんが、マレーシアからの旅行者をメトロを使って案内するというものです。従来の観光プロモーションビデオで紹介するような箇所とはちょっと違ったスポットを巡っていますが、これも、実際にマレーシア在住のTGUユーザーたちに、いま東京のどんなところに興味があるかをアンケートで聞き、その結果に基づいて場所をチョイスしました。

<マレーシアの旅行博覧会および、ASOBISYSTEMが運営する原宿の旅客案内所「MOSHI MOSHI BOX」にて
配布したリーフレット>
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そのビデオでも出てくるのですが、最近外国人の間で抹茶スイーツがブームなんですね。でも彼らは別に抹茶そのものに興味があるわけではなくて、緑色をしたスイーツが海外では非常に珍しく、写真映えもするということで人気なんです。そういう海外の生活者のインサイトも、僕らが持つネットワークを通してしっかりと把握することができる。それを企業さんの広告やPR事業に反映させることができるというのは、弊社の大きな強みだと思います。

阿部:一方でTGUでは、海外にいる外部ライターやカメラマンの方々に取材をしてもらうことも多いんですが、やはり国によって写真やコピーライティングのテイストに特徴が出ることもある。TGU編集部としてはあくまでも日本の基準に合ったクオリティのものを掲載していますが、ときに日本人では絶対に撮らないようなアングルの写真などが上がってきて驚くこともあります(笑)。でも意外性があっていいと判断すれば採用しますし、そういったカルチャーギャップが、いい意味でサイトの独自性につながっているのかもしれないですね。

原田:そうですね。逆にそのあたりせめぎあいから、新しい独特なものが生まれることもある。その点、外国人ユーザーだけでなく日本人の目線から見ても、面白いと思ってもらえるような記事が掲載できていると思います。

■すべての海に日本のコンテンツを出していく
■仮想国家のような場づくりを目指したい

 原田:TGUでは、アニメやファッションはもちろんですが、アイドルカルチャーに関するトピックが特に充実しています。その理由は、やはりアイドルというコンテンツそのものに力があるから。過去、海外のエクスポに出展した際にライブイベントを開催したのですが、生身の人間がステージに立ち、生の演奏と声を届けるというだけで、ここまで人々を盛り上げることができるのかという驚きがありました。言葉がわからなくても無条件に盛り上がれるというのは音楽ならではです。アイドルカルチャーの、コンテンツとしての推進力は非常に強いなという実感がありました。

もともと僕自身K-POPが好きで、個人的にやっていたブログを通して、いろんな国のK-POPファンの方々と交流をしていました。「好きなもの」「興味をもっているもの」を通してだと、言葉はそこまでわからなくても、意思疎通がすごく早いし、あっという間につながれる。そういうエンターテインメントの在り方がすごく面白いなと感じていました。そこからだんだんと、日本のコンテンツを同じように海外に紹介していって、好きな人同士をつなげていければと考えるようになった。社名をオールブルー(ALL BLUE)としたのも、「国境を取り払い、すべての海に日本のコンテンツを出す」という思いがあったからです。

阿部:TGUをやっていて感じるのは、昔みたいに無理やり日本語を英語に翻訳しなくても、今は日本語のままで理解してくれる人が多いということ。たとえば日本の学校の制服が海外で注目されていますが、わざわざschool uniformなどと訳さずに、そのままSeifuku と表記してもわかってもらえる。「外国人相手だからこうしなきゃ」と構えなくても、ありのままで伝わるようになってきているんです。海外でも日本語のままで通用するようになった言葉の代表例はKawaiiですが、今後はそのKawaiiに次ぐような、世界に通じる日本語をTGU発信でつくっていくことが密かな野望です(笑)。

原田:日本のカルチャーが響く対象は世界中に存在しています。そうした、ただ純粋に日本のカルチャーが好きだという人々が世界各地から集まって、一方的でも双方向でもなく、好きなように滞留できるような場所ができたら。「好き」という価値観の共有だけでつながれる新しい仮想国家のような場を、ゆくゆくは僕らの手でつくっていけたら嬉しいですね。

 

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◆プロフィール

(写真左)
原田 健司 
(はらだ けんじ)
ALL BLUEディレクター
2007年博報堂入社。営業局を経て2013年にAD+VENTURE制度にて株式会社オールブルーを創業。Tokyo Girls’ Updateの立ち上げ及び、コンテンツを活用した企業のインバウンドPRを行う。2016年10月より博報堂DYデジタル兼務。

(写真右)
阿部 彩香 
(あべ あやか)
Tokyo Girls Update 編集長
女子高生向けファッション雑誌『Ranzuki』の編集を経て、2014年6月オールブルー入社。日本のポップカルチャーファンに楽しんでもらえるよう、コンテンツを日々制作中。