レポート
セミナー・フォーラム
データビジュアライゼーションの極意
REPORT

7月25~29日、日経BP社により開催された「D3 WEEK 2016」に博報堂DYメディアパートナーズの篠田裕之が登壇。Zaimの閑歳孝子氏がモデレーターを務め、データビジュアライゼーションの現状について、またデータサイエンティストとしてデータの価値をいかに伝えるべきかなどについて、電通の近藤康一朗氏と具体例を交えながら意見を交わしました。(以下敬称略)

データビジュアライゼーションのさまざまな取り組み

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閑歳:
モデレーターの閑歳です。まず、本日のセッションの大前提として二つのことをお話しさせてください。
一つ目は、データビジュアライゼーションは、現場の共通言語を生み出す点においてもっとも有効なのではないかいうこと。プロジェクトが動く際にはエンジニア、プロデューサー、デザイナーなどさまざまな職種の方がかかわるわけですが、データを可視化し共通言語とすることで、あいまいな感覚の話に陥ることなく、誰にもわかる形で問題点をあぶりだすこともでき、プロジェクトが進行しやすくなるのではないかと考えます。

二つ目は、データをどう形にするかの傾向について。かつてはエクセル表のような「静的・探索型」が主流で、羅列されたデータを見てこちらから意味を探しに行く必要があったのですが、いまは「静的・提言型」と「動的・探索型」に移行しつつある。「静的・提言型」というのは、プレゼンテーションなどでよく使われるグラフのような、見た目からはっきりと意味が読み取れるもの。「動的・探索型」は、左側のパネルに連動して右側の表示がどんどん変わってくるような、動的に結果が変わりつつこちらから探していくようなもの。いまはこういう方向性に発展しているのではないかということです。

以上を前提に、早速お二人に、データビジュアライゼーションの現状についてお話いただければと思います。

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篠田:
博報堂DYメディアパートナーズの篠田です。私がかかわった事例を二つご紹介します。一つは、神戸市の事例です。観光ナビゲーションシステムをつくり、そこから抽出したデータをビジュアライズしたものです。神戸市に観光に来る人はどういう興味を持ち、居住地はどこなのか、そして実際に神戸市のどのエリアにいつアクセスしているのか、DMPで収集し、ビジュアライズすることで、今後の観光促進に役立てようというものです。24時間365日どんどん情報が集まってくるなかで、観光、ショッピング、グルメなど目的別に表示させたり、性別・年齢別などで表示させることができます。たとえば神戸ハーバーランドは夜の時間帯に賑わっているとか、ポートアイランドでは某レストランに20代男性が夕方よく訪れているということがわかります。このようなGPSデータに、アンケートによるエモーションデータを掛け合わせることで、よりターゲットを深堀りすることができます。

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もう一つの事例は、ダルビッシュ選手の投球データのビジュアライズです。弊社のグループ会社であるデータスタジアムの広報も兼ねたプロジェクトで、2014年の1年間にダルビッシュ投手が投げた全投球をビジュアライズしました。各球の軌跡や集計を、球種、球速、右バッターのとき、左バッターのとき、などのフィルターをかけて見ることができます。またピッチャーからの視点、ベンチからの視点、真上から、真下からなど視点は自由に変えることができます。

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閑歳:
野球好きの人ならずっと見ていられそうなデータで面白いですね。では近藤さんお願いいたします。

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近藤:
電通の近藤です。私からも事例を二つご紹介します。
一つ目は、各国からインバウンドで来ている人たちのパラメーターが出てくるというサイトです。たとえばこれは2015年の韓国から来た人たちのデータです。何人来日し、各自いくら使ったのかなどのデータから全体の市場規模がわかるほか、人口比率では国民の何%の人が来日したのかもわかります。入国空港としては関西国際空港が多く、ほかにも鹿児島や那覇からの入国が多いのが韓国の特徴ということがわかります。中国を見てみると、市場規模は断トツに高い一方で、人口比率でみるとたったの0.12%。爆買いと騒がれていても実際にはまだ掘り起こしていない市場が結構あることなどがわかります。

インバウンド

二つ目は、全国のボーナス分布をビジュアル化したもの。県別、産業別、職種を入れるとどういう平均になるのか、さらに雇用状況の詳細、男女の比率、正社員比率などを出しています。農業製造業で見ると都市部の平均はやはり高いとか、どの産業で高いか低いかなど地域別に比較することができます。

ボーナス

最大の成功事例は、営業マンの成績グラフ!?

閑歳:
可視化して終わりではなく、データビジュアライゼーションにより価値を持たせるには何が必要でしょうか。

近藤:
データビジュアライゼーションとはそもそも情報伝達の一手法です。膨大なデータをわかりやすい状態=情報に落とし込む情報圧縮の技術でもある。そこで重要なのは、その情報の目的とターゲットが何なのかを明確にすること。分析の基盤をつくりたいのか、予測を立てたいのか、ビジネスの意思決定をしたいのかなどを明確に規定しておかなければ意味がありません。そのうえでだれがどこでどういう頻度でデータを見てどういうアクションをとるのか。よくあるのが、ツール選定が先に来てしまうパターンです。でも一番重要なのは可視化よりもその後の実施の部分ですから。ビジュアライズする仕組みはつくったものの、見る人がいないなんていうことも起こりがちです。それはプロセスと人がデザインされていないのが原因かと思います。

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篠田:
データ分析のプロセスを考えると、データを収集し、そのデータを探索・解析する、そして先ほどのインバウンドの例のようにビジュアライズする、それらをサマライズした後、広告主に報告し、さらにPRやパフォーマンスとして使うことがあると思う。ここで重要なのは、そのビジュアライズが、データ分析のプロセスの中の、探索のためなのか、サマライズのためなのか、それともPRのためなのか、の目的をはっきりさせることだと思います。これらがごっちゃになっていると、ビジュアライズをしたはいいけど、その後のプロセスがよくわからなくなりがちだと思います。

あと、冒頭にあった「静的・提言型」から「動的・探索型」への発展についてですが、今後「静的・提言型」の作業は機械学習やAIが担っていくんだろうと思います。一方で、結論自体ではなく、人間が疑問をはさんだり議論を起こしたりすることが重要になるにつれ、「動的・探索型」のビジュアライズがますます大事になってくるんじゃないでしょうか。

近藤:
そうですね。ビジュアライズは人間にわかりやすく示すためであって、人工知能には必要ありません。そもそもビジュアル化する時点で工程が一つ増えていて、効率は落ちている。だからこそ人間にはもう少し高度化した作業、たとえばやることを自分で探すだとか、データをもっと掘っていくだとかの作業が必要になるんだと思う。

閑歳:
企業ではデータビジュアライゼーションをどう取り入れていけるでしょうか。

篠田:
神戸市やダルビッシュ投手の事例は広報目的というのもありましたが、直接何かの事業利益が出るわけではないところで、情報を把握するのに利用しています。今後、次の段階として集めたデータをどう活用していくかの具体的なディスカッションは進めています。

近藤:
おそらくビジュアライゼーションの効果として一番期待できるのは、いままで人の経験と勘みたいなところでわかっていたことを、見える化して確認できるようになるということ。企業はそういったデータを見て意思決定していくという文化をちゃんと考えることも必要だと思う。

ちなみに僕が考えるデータビジュアライゼーションの最大の成功事例は、営業マンのノルマや成績をグラフにして壁に貼ったもの。成績がいい人は自尊心がくすぐられてもっと頑張れるし、よくない人はやばいって思って頑張る。そうやって人をモチベートしたり、いろんなプレイヤーに影響を及ぼすようなレベルにそのビジュアライゼーションがいっているのか。誰が何人見てビジネス選択につなげているかを数字にちゃんと落としていくことも大事なんでしょうね。

閑歳:
お二人のようなデータサイエンティストを育成し、専門性を高めていくにはどんな環境が必要でしょうか。

近藤:
育成の仕組みをつくりたいのであれば、1人2人ではなく大量に人を入れる必要があるでしょうね。また、採用後に育成してきちんと輩出する仕組みも必要。データサイエンティストは売り手市場ですから、もっとスキルアップしてもっといい会社にどんどん移るというふうなインセンティブがないとなかなか難しいと思います。

篠田:
僕はもともとコンピューターサイエンスが専門で、会社に入ってからマーケティングスキルを身につけていきました。今日のテーマでいうと、一番大事なのは、心を動かすということだと思っています。データを使ったシミュレーション・ビジュアライズで、いかに広告主を納得させることができるか、世の中を動かしていけるか。そのフィードバック自体がやりがいで、結局は専門性を高めるモチベーションになっている気がします。

閑歳:
お二人ともどうもありがとうございました。

 

■プロフィール■

閑歳 孝子
株式会社Zaim 代表取締役
日経BP社にて専門誌の記者に従事した後、Web業界に転職。データ解析ツールの開発会社であるユーザーローカルの立ち上げに参画し、Webやソーシャルメディアの解析ツールを企画・開発・デザインを手がけた。個人で開発していた家計簿サービス「Zaim」を2012年に株式会社化。550万ダウンロードを超える日本最大級のサービスへと成長している。

近藤 康一朗
電通
2010年東京大学大学院工学系研究科修了。同年、電通入社。データ・サイエンティストとして、広告主のデータ解析、ソリューション導入・構築、施策PDCAを担当。SAS,Python,SQL,R,Tableauなど様々なツール/プログラミング言語を駆使した高度解析と、元コピーライターの経験を活かしたコミュニケーション戦略提案、PDCAスキーム提案を行う。 テレビ、ラジオ広告賞受賞歴あり 大学、企業、メディアでの講演多数 「データビジュアライゼーションの教科書」寄稿。

篠田 裕之
博報堂DYメディアパートナーズ データドリブンメディアマーケティングセンター データマネジメントプラットフォーム部
Ruby/Python/R/SQLなど様々なプログラミング言語による、統計、機械学習を用いたビッグデータ解析全般を担当。特に運用型広告を中心としたメディアプランニング、DMPを用いたウェブマーケティング施策立案、および、データビジュアライズ業務に従事。

(注)所属・プロフィールは「D3 WEEK 2016」より

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