コラム
メディア環境研究所
生活者のメディア接触の変遷とこれからのテレビの可能性
COLUMNS

博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所では、生活者のメディア接触状況を定点観測する為に、「メディア定点調査」を行っています(‘06年より現行の調査設計)。「メディア定点調査2015」では、これまでを振り返り、時系列分析を実施しました。生活者のメディア接触はどのように移り変わってきたのか、テレビの視聴態度にはどのような変化が起こっているのか、そして、今後テレビに求められるものについて考察したいと思います。

「メディア定点調査」から見る生活者のメディア接触の変遷

「メディア定点調査」の時系列分析からは、2つの変化が見えてきました。1つ目は「携帯電話・スマートフォン」「タブレット端末」の接触時間の伸長です。両方を併せると、今年初めてメディア総接触時間の1/4を超えました。2つ目はメディアに長時間接触している人の増加です。1日あたり6時間以上(週平均)メディアに接触している「メディアヘビー接触層」は半数近くになりました。2つの変化を見ていきます。

変化その①「携帯電話・スマートフォン」「タブレット端末」がメディア総接触時間の1/4を超える

グラフ1 メディア総接触時間の時系列推移(1日あたり・週平均)東京地区
グラフ①

*2012年から「携帯電話」にスマートフォンを追加し、「携帯電話・スマートフォン」に変更
*2014年から「タブレット端末」を追加
*2014年から「パソコンからのインターネット」 を「パソコン」に、「携帯電話・スマートフォンからのインターネット」を「携帯電話・スマートフォン」に変更

15年の1日あたり(週平均)のメディア総接触時間は383.7分で、昨年とほぼ変わらず、380分台と横ばいでした(グラフ1)。伸長したのは「携帯電話・スマートフォン」と「タブレット端末」で、それ以外のメディアは微減。「テレビ」は昨年から4分減の152.9分でした。過去を遡って見てみると、‘06年から接触時間が伸長し続けているのは「携帯電話・スマートフォン」のみで、「パソコン」は‘11年をピークに減少に転じています。メディア総接触時間の構成比を見ると、ピーク時に23.3%だったシェアが今年は6ポイント近く減少し、17.7%と2割を切りました。一方、「携帯電話・スマートフォン」のシェアは急速に拡大しています(グラフ2)。06年に3.3%だった「携帯電話・スマートフォン」のシェアは、今年6倍強の20.9%。「タブレット端末」のシェアと併せると26.3%に達し、今年初めてメディア総接触時間の1/4を超えました。接触時間だけでなく、スマートフォンやタブレット端末の所有率も伸長しています(グラフ3)。スマートフォンの所有率(東京)は、昨年から10ポイント以上伸びて、今年69.2%と7割に迫り、タブレット端末の所有率(東京)は、昨年の20.9%から6ポイント以上伸びて27.5%と3割に近づいています。メディアのデジタル化は目覚ましい勢いで進んでいますが、すべてが伸長し続けているわけではなく、スマートフォンやタブレット端末といったモバイルの伸長がデジタル化を牽引しているのが、近年の傾向です。

グラフ2 メディア別接触時間の構成比 時系列推移(1日あたり・週平均):東京地区
グラフ2

グラフ3 スマートフォン・タブレットの所有率の時系列推移(1日あたり・週平均):東京地区
グラフ3

変化その②メディアヘビー接触層(1日6時間以上の接触者)が半数に迫る

1日あたり(週平均)のメディア総接触時間を時間量別の構成比で見てみます。1日のメディア総接触時間が4時間未満を「メディアライト接触層」、4時間以上6時間未満を「メディアミドル接触層」、6時間以上を「メディアヘビー接触層」と定義して、それぞれのシェアを見ると、「メディアヘビー接触層」が‘06年の4割弱から10ポイント以上伸長し、今年49.6%と半数に迫ったことがわかります(グラフ4)。中でも、10時間以上の接触者は‘06年の5.3%から昨年1割を超えました。一方、「メディアライト接触層」は’06年の30.3%から今年23.2%と7ポイント以上減少し、メディアの長時間接触者が増えていることがわかります。

グラフ4 メディア総接触時間量別の構成比 時系列推移(1日あたり・週平均):東京地区
グラフ4

グラフ5 メディア総接触時間(性年代別)2015年(1日あたり・週平均):東京地区
グラフ5

モバイル伸長時代のテレビ視聴実態

テレビに最も接触しているのはどの年代なのか、今年のメディア総接触時間(東京)を性年代別に見ると、テレビの接触時間が最も長いのは60代女性で、250.6分です(グラフ5)。次に長いのは、50代女性の215.4分で、いずれも200分を超えています。女性ほどではありませんが、50~60代は男性の接触時間も長く、テレビの長時間接触は50~60代を中心とした中高年層が牽引していることがわかります。テレビの接触時間が最も短いのは20代男性の98.4分で、わずかながら100分を切っています。20代女性のテレビ接触は126.6分と男性よりは長いですが、女性の中では最も接触時間が短くなっています。20代の接触時間が長いのは「携帯電話・スマートフォン」で、男性が128.8分、女性が187.5分です。20代女性はメディア総接触時間が最も長く、その4割以上が「携帯電話・スマートフォン」で、「タブレット端末」を併せるとモバイルが半数以上を占めています。10代も「携帯電話・スマートフォン」の接触時間が長く、モバイルの長時間接触は、若年層に顕著であることがわかります。

グラフ6 テレビを見る時の態度・行動 時系列推移(2014年、2015年):東京地区
グラフ6

グラフ7 テレビを見る時の態度・行動(性年代別)2015年:東京地区
【テレビ番組を見ながらソーシャルメディアで書き込む/書き込みを読む】
グラフ71

【ソーシャルメディアがきっかけでテレビ番組を見る】
グラフ72

テレビとモバイルの関係を生活者のテレビ視聴態度や行動データから見てみます(グラフ6)。「携帯電話やスマートフォン、タブレット端末を操作しながら、テレビを見ることがある」のは66.5%。「テレビを見ていて、気になることがあるとすぐに携帯電話やスマートフォンで調べる」のは67.1%と、いずれも7割近くとなっています。特に検索行動は、昨年の58.5%から9ポイント近く伸びています。「テレビ番組を見ながらソーシャルメディアで書き込みをしたり、書き込みを読むことがある」のは24.7%、「ソーシャルメディアから得た情報がきっかけでテレビ番組を見ることがある」のは34.2%。全体では2~3割ですが、性年代別に見ると、テレビを見ながらソーシャルメディアを使っているのは10~20代の若年層が圧倒的に高く、中でも女性が活発です(グラフ7)
実際にテレビを見ながらスマートフォンでどのようなことをしているのかを個別番組(ドラマ)のログ解析から見てみます(グラフ8)。テレビ視聴時のWeb・アプリ同時行動の毎分グラフからは、瞬間ごとに移り変わっていく生活者の行動が見えてきます。個別の事例となりますが、ログ解析からは、番組内容と連動しての反応など視聴時の行動が可視化されました。モバイルをきっかけとしたテレビ視聴や、テレビ視聴からモバイルへの行動の広がりなど、若年層を中心に新たな「ながら視聴」スタイルが定着しつつあり、テレビの楽しみ方も多様化しています。

グラフ8 テレビ番組視聴時のWeb・アプリ行動(ログ解析 毎分)
グラフ8

生活者の情報接触をひも解くポイントは「量」から「スピード」へ

インターネットの普及や多メディア化により情報量が爆発的に増大した結果、生活者のメディア接触は変化し、接触時間も増えました。そして今、モバイルが急速に浸透し、高速で情報処理するモバイルが常に携帯されるようになったことで、生活者の情報接触をひも解くポイントは「量」から「スピード」に移ってきていると考えられます。「ニュースはまとめて、さっと知りたい」「常に更新された情報を得たい」「好きなコンテンツは丸ごとゆっくり楽しみたい」など、生活者はスピードの緩急をつけて自分のペースでメディアに接触し始めています。質の高い情報を発信し、話題を作り、生活者に大きな影響力を持つテレビのパワーは不変ですが、強いメディアであり続けるために、これからは、生活者のスピード感に合わせて情報を届けるということが求められるのではないでしょうか。時間や空間を選ばずに情報に接触できるようになった現在、「いつでも見られる」が「いつか見る」にならないように、「いま見て」という“見どき”を知らせることも益々必要になってくると思われます。
コンテンツのお薦めサービスも、好みはもちろん、その時の状況や気分に合ったものを薦めるなど、充実していくことでしょう。
CMも同様です。女子高生に人気の僅か6秒の動画アプリのように短尺でメッセージを送るCM、コンテンツとして楽しめる長尺CMなど、CMの長さも自在になるかもしれません。それに応じたCMの露出タイミングなど、柔軟な対応が求められる可能性もあります。新たな潮流である定額制サービスの普及が進むと、過去を含めた“CM見放題サービス”も誕生するかもしれません。
CMは番組の合間に偶然出会うものではなく、コンテンツとして楽しむという兆しは既に出てきています。
生活者のメディア接触のスピードに合わせながら、多様な情報を発信していくことで、テレビはこれからも生活者と更により良い関係を作っていけると思います。

図①

GALAC(2015年9月発行号)より転載

新美 妙子 メディア環境研究所 上席研究員

1989年博報堂入社。新聞局、メディアマーケティングセクションを経て、2013年4月より現職。シニア研究、ローカルメディア研究など、生活者のメディア行動研究に従事。「メディアガイド」、「メディア10年変化(M10)」を編集・刊行。

※執筆者の部署名は、執筆時のものであり現在の情報と異なる場合があります。

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