コラム
CES2021レポート ~グローバル各社はパンデミック下の暮らしをどう捉え、未来をどう提案したか~
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毎年1月にラスベガスで開催される、コンシューマー向け最新テクノロジーが集結するコンベンション、「CES」。今年はオールデジタル開催となり、世界最大級のイベントがどのようにオンライン上で実施されたのかという視点でも注目を集めました。パンデミックの影響で変わる暮らしを、グローバル各社はどう捉えたのでしょうか。そして、テクノロジーを核に、自社の製品やサービスを通じて、どのような生活提案を行ったのでしょうか。

■グローバル各社が目指す未来が、一堂に会するCES

もともと家電ショーの意味合いが強かったCES。10年ほど前までは、テレビというスクリーンとその進化にまつわる情報が多く集まる場であり、メディア環境研究所でも放送や映像サービスの技術動向を知るため、継続して取材してきました。近年では、CESそのものが「テクノロジーとイノベーションの祭典」という位置づけに変わり、大企業からスタートアップまで、自社の製品やサービスを通じて未来の生活を提案し、グローバル市場に向けてスタンスを表明する場となりました。いわば、「様々な企業の未来の捉え方が一堂に会するコンベンション」として、メディア業界のみならず、マーケティングや事業開発の視点からも、注目度がさらに高くなっています。日本での報道量もこの数年で非常に増えているという実感がある方も多いのではないでしょうか?

■「パラダイムシフト期」「サービス実装期」という2つの波

CESには、大きく2つの波があります。メディア環境研究所では「パラダイムシフト期」「サービス実装期」と呼んでいます。(図) 前者はまったく新しいコンセプトが市場に対して提案されるときです。例えば2017年、これまでスタンドアロン型だった家電を、「ボイスコントロール」という視点でつなげて、家の中を統合していこうという提案がCES参加企業のあちこちでみられました。ベースとなる要素技術がこなれて、それまでになかった新しいサービスのコンセプトが台頭したわけです。一方、後者の時期では、新コンセプトに対して、各社がそれぞれの製品やサービスに落とし込んでいきます。このターンのときには、参加企業はパートナーシップやマーケティングまわりで、非常にリアリティのある情報を発信します。取材する側としては、コンセプトだけでなくどこまで完成されているのか、市場での需要性はありそうか、といった視点でみていきます。テック系のコンベンションではCESに限らず、こうした2つの波が繰り返し発生しています。各社の個々の発信が大きなうねりになり、全体のトレンドを形成しているのです。

■2021年の位置づけは?

昨年からのパンデミックの影響で私たちの生活の前提は否応なしに変わり、2021年はまた新たなパラダイムシフト期に突入しました。今年ほど一言で表現するのが難しいCESはなかったのではないでしょうか。「各社の話法がこんなにバラバラなCESは初めて」というのが正直な感想です。今年はオールデジタル開催となり日本からオンラインで参加した方も多かったのですが、皆押しなべて、どう捉えたらよいか、その解釈に非常に苦労していたように思います。取材する我々を迷わせた原因は、各社の時間軸の設定にありました。

この図は、2021年の各社のアプローチを把握するために、メディア環境研が作成したものです。横軸が「イエの中」「イエの外」という、テクノロジーが実装される空間を表しています。縦は、時間軸です。下がパンデミックまっただなかの現在、上が収束したあとも見据えた先の未来です。今年は特に、この縦の時間軸が出展各社ごとに入り乱れ、A社が語っている世界とB社が語っている世界がまったく別のもののように感じられる、SFでいうとまるで世界線が違っているような、そんな印象を参加者に与えたのです。

では、この軸を理解の枠組みとして使いながら、今年のトピックを整理していきたいと思います。

●トピック1 イエの内外で実装されるクリーニングテック
デバイスやガジェット系のニュースで、一番多かったのはこの領域ではないでしょうか?イエの中向けでは、スマートフォンなどに付着したウイルスを殺菌消毒するデバイスや、電動のファンを内蔵したスマートマスクなどが相次いで発表されました。画像検索で、「CES2021 マスク」などのキーワードを入れると、各社から発表された様々なプロダクトをご覧いただけると思います。また、イエの外向けでは、無人環境で紫外線を照射してまわる自走型の消毒ロボットなども発表されました。例年のCESでは、だいたい2~3年先に発売される想定での製品発表が多いのですが、2021年のこの領域では「今すぐ使えるもの」が目立ちました。特に韓国系の家電メーカーで顕著だったのですが、各社がもともと保有していた技術を、現在のパンデミックの状況にあわせてソリューションとして実装してきた、そんな印象を強く受けました。

●トピック2 これまで外部にあった機能を「イエ」の中に取り込む動き
昨年までも「イエにいながらにして、〇〇ができる」というサービスは多くありました。イエで顔の写真をスマートフォンで撮るだけで皮膚科医並みの肌診断をしてくれる、イエで自分の体調にあわせたエナジードリンクを調合してくれる、といった「便利」を売りにしたものです。ところが、2021年は、同じような「イエにいながらにして、〇〇ができる」というサービスでも、その意味合いが大きく変わりました。例えば、あるラグジュアリー系コスメブランドは、自宅で口紅を調合してくれるプロダクトを発表しました。複数の色味の口紅がカートリッジ状になっており、数千色のパターンからユーザーに似合う色に混ぜ合わせてくれるのです。この製品のコンセプトは昨年発表されていたものの、1年前はあまりピンとこなかったのですが、今年は心に刺さりました。社会の状況が変わったからです。まだしばらくのあいだ、外出制限で店舗に行きづらいだけでなく、衛生上の観点から今までのように「店頭で口紅を実際に塗って試す」という行為は難しい状況が続きます。製品と距離ができてしまった状況を、ブランド側がテクノロジーで解決してくれているという有難さを感じました。また、ヘルスケア系の家電メーカーでは、妊婦向けに、腹部のパッチデバイスがバイタルデータを専門医につなげてくれるサービスを発表しました。彼らのプレゼンテーションで面白いのが「ヘルスケアは、今後私たちの家にやってくるんだ」という言い方です。この、医療とつながる家電=医電、というカテゴリは、パンデミック以降も支持されることでしょう。また、水回り製品を出している日本企業では、「普段どおりにトイレを使うだけで、健康指標をモニタリングし、身体の状態に応じたリコメンドをスマートフォンに通知する」という「ウェルネストイレ」というコンセプトを表明しました。イエのトイレが体調管理デバイスのひとつになるのです。このトピック2の領域では、従来の「手軽で便利」という価値だけでなく、「自宅でここまでできることが安心につながる」、という「便利から安心へ」という2021年ならではの価値の転換が起きていたのです。

●トピック3 自動運転系は一旦休み、別の課題設定に動いたモビリティ系各社
ここ数年、自動車メーカーの存在感が強まったCESですが、今年は日本の完成車メーカーの出展の多くが見送られ、自動運転まわりのニュースは一部にとどまりました。一方で、今年出展していたティア1の部品メーカーは、空気中のエアロゾル濃度を計測するセンサーや、迅速PCR検査の解析ソフトウェアなど、今まさに社会に必要とされているソリューションを打ち出していました。また、米国の大手自動車メーカーは、後述する別の領域での発信をメインに打ち出すなど、各社ごとに課題を設定し、モビリティ領域に限らず自社の役割を語っていく動きが多かったと言えるでしょう。例年に比べ今年は、自動運転まわりは一旦お休み、という状況ですが、2022年以降はスマートシティの枠組みとあわせて、EV車やマイクロモビリティによって都市や町における移動サービスをどう設計するか、また中長期的には空飛ぶモビリティを都市の機能とどう接続させるかなどの社会提案ともいえる議論が再び活性化するのではないかと捉えています。

●トピック4 根本的な社会課題をどう設定するか、その課題に対してどう活動するか
今年のCESで、もっとも例年と違う活動がみられたのが、この領域です。パンデミックである/なしに関わらず、自社として根本的な社会課題をどう設定するか、その課題に対してどのような活動をしていくか、というスタンスで語る企業が相次いで現れました。先述の米国の自動車メーカーでは、CESのメインのキーノートの場で、脱炭素の視点から本格的なEV導入を大きく打ち出しました。このメーカーでは、いわゆる重厚長大なアメリカ車のブランドが多かったのですが、全車種でEV化を決定という、脱炭素への強いコミットメントをCEOが宣言しました。一部商用車では今年の年末から導入、2025年には30車種のEVを投入するという具体的なロードマップも語り、翌日の株価が10年来で最高値を更新しました。また、印象的だったのは、グローバル大手の消費財メーカー。2年前に非テック企業がCESに参入したとして、大きな話題になったこのメーカーでは、例年ですとオープンイノベーション部門のチームが、DX視点で開発した新機軸のトイレタリー製品や理美容サービスを次々と発表していくというスタイルで注目されていました。しかし今年のプレスカンファレンスでは、世界的に著名なチーフブランドオフィサーがオンラインで単独登壇。自宅と思われる場所から数十分にわたり、ストレートトークで、聴衆に熱く語りかけました。パンデミック、人種差別問題など、大きな社会課題をブランドとして認識していること。後半では、自社内のダイバーシティも推進し、人種や性差などの不平等を是正していくことの表明に多くの時間を割き、推進していく際の具体的な数値目標までも語り、オンラインながら画面の向こう側からの気迫をひしひしと感じました。また、プライバシーやメディアの公平性に関する問題への指摘もあり、広告やマーケティングに関わる私も背筋が伸びる思いがしました。

■CES2021全体を通じて

これまで「未来のプロダクトをポジティブに発表していく」という話法が多かったCESという場のトーン&マナーは今年大きく変わったと言わざるを得ません。このわずか1年という間に、地球上には多くの課題が噴出しました。もともとあった気候変動の問題、米国で表面化した人種差別や国内の分断、パンデミックという緊急事態への対処など、各国が自国優先の風潮が強まる中、CESに出展した様々なグローバル各社は「よき市民であるとは、よき企業であるとは」という根本的な問いに立ち返っていました。流動的な社会情勢はしばらく続いていくことでしょう。生活領域の様々なデジタル化は進み、各社のDXのスピードも加速していきます。しかし、そうした中でもまず、「自社はいま何を課題と捉え、何を約束し実現していくのか」を表明することが、まず生活者と大きな信頼をつくる第一歩なのでは、と、2021年のCESを通じて改めて強く感じました。

加藤 薫
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 主席研究員
1999年博報堂入社。菓子メーカー・ゲームメーカーの担当営業を経て、2008年より現職。生活者調査、テクノロジー系カンファレンス取材、メディアビジネスプレイヤーへのヒアリングなどの活動をベースに、これから先のメディア環境についての洞察と発信を行っている。

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