20-30代女性が読みたいものは何か。
若手だからこそ挑戦する。新しい編集長の形。【後編】

◆前編はこちら

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■リサーチの核になるのは地道な定点観測の積み重ね
■「こういう特集が読みたい」と言われた企画は絶対にやってはいけない!?

瀧川:ちなみに、私はときどきマーケット調査として、1対1でしっかり1時間話すというようなデプスインタビューをしていたこともあるんですが、岡田さんご自身はどうやってリサーチされているんですか?

岡田:たとえば大勢いる読者のなかの、先端を行っている読者だなと思える人を一人見つけておいて、定点観測します。読者モデルと読者との中間地点にいるような人というか。本人は調査されているとは思っていないでしょうけど、定期的に会って他愛ないおしゃべりをする中で、その人が今何にひっかかっているのかとか、何に盛り上がって、何がダサイと思っているか、誰のことは興味を失ったのか、どこにご飯を食べに行ったのか……などを聞いてるんです。話すうちに意見が揺れ動くこともあるんですが、それも含めて、何にどう気持ちが向いているかを見る。そういうことの積み重ねですかね。

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瀧川:形式ばった質問をしたり、答えをいきなり求めるというのではないわけですね。確かに岡田さんのおっしゃるようなやり方のほうが、確実に本音を聞ける気がします。しゃべりたいことをしゃべってもらうほうがよっぽどトレンドの動きもわかりそうですね。

岡田:形式的な質問だと、アンケートと変わりませんからね。だから、読者の誰かが「こういう特集読みたいな」なんて言っていたら、それは逆に絶対やってはいけない特集なんです(笑)。その人が読みたいと言ってる時点で、もう読んで満足した企画なはずだから。もちろん「ファン」の方がいるようなテーマは別ですが。必要なのは出したときに「そうそう、これこれ!」と言ってもらえるような企画です。だから逆に企画を世に出した後で、「もう一回やってほしい」というアンケートがやってきたら、それは刺さったんだなと解釈しています。

■ネットがザワついた1万字の女優インタビュー
■揺れる世代に向けて、極限までおもしろさを追求

 瀧川:読者に刺さった企画といえば、2016年3月号の山口智子さんロングインタビューがありました。子どもを産まない人生について語られたところは、ネット上でも話題になって反響がすごかったですよね。突っ込んでお聞きしてしまいますが、あれは最初から話題化をにらんでいたのですか?

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岡田:いえいえ、そういうことはなかったです。もともと女性誌では1万字くらいの長いインタビューって誰も読まないのでは…と言われてはいたのですが、それって本当かな、やってみたいよね、という話を編集部の皆でしていたんです。それで、インタビューするんだったら、私たちの世代が小さい頃から本当に好きな山口智子さんにお願いしようということになって。幸運にも依頼を受けていただけて、結果的にああいうお話になったんです。
「FRaU」を貫くコンセプトに、心が自由であること、そしてそのために、力強く、柔軟に変化していけることがこれからの幸せへの近道なんじゃないか、というのもあるんです。ちょっと上の世代は、働くか結婚するかの二者択一で悩み、私たちの世代は、両方選べるし選択肢は自由、だけど全部手にしたところで回していけないという新たな悩みにぶつかっている。もっと若い子たちになると、全部持つとジョーカーを引くことになるから、早い段階でもっとも得な方を選ばないと、と考えている。いずれの世代の場合もわかりやすいロールモデルが不在で、それぞれが生き方を模索しています。「FRaU」はそんな人たちの真ん中に向けてつくっているものなので、私たちより一足先に、諦めたり達観したり悩んだりして、その上で自由に、柔軟に生きている方々に話を聞くことで、何かヒントが得られるんじゃないかなと思ったんです。

瀧川:広末涼子さん、黒柳徹子さん、樹木希林さんなどなど、ラインナップが豪華なだけでなく、生き方や考え方が気になる方ばかりですよね。

岡田:やっぱり興味があって、お話が面白そうだな、会ってみたいなと思える方とご一緒したいなと思いますね。あとそういう方々は、とても普通の人は真似できない、ある意味少し極端な生き方をしている方々ともいえる。だからこそ、その生き方には真理があると思うんです。インタビューは数時間みっちり話を聞きますが、編集者が一番感銘を受けたところを中心に切り取って記事にします。編集者の感覚が読者の方にも伝わった結果の反響なんじゃないかと思います。

瀧川:2017年1月号の特集「東京タラレバ娘」も印象的でした。

岡田:「東京タラレバ娘」はまさに「FRaU」のターゲット層がそのまま漫画になっているような作品なので、いつかやりたいなと思っていた特集でした。ただ、作品を特集するだけならほかの文芸誌やカルチャー誌と同じになってしまうので、あくまでも「FRaU」らしい切り口のさまざまな企画をちゃんと束ねていくことにこだわりました。あの一冊ができたことで、改めて、いまの私たちがつくる「FRaU」の形というものが提示できたんじゃないかと思っています。

瀧川:世代という点でいうと、キャリジョ研では30代後半を「モーターボート世代」、30代前半を「ヨット世代」と言っていて、ヨット世代は自分が楽しく生き延びるためにふわふわと自由に漂っている世代だと分析しています。さらに下の世代は、安定を求める「波止場世代」。不況などで厳しい現実を知っているので、社会的な地位の上昇を目指すのではなく、今の居心地の良い状況を大きくは変えたくないという世代だと思うんです。いまはこういう世代の子たちが次の世代の読者ですよね。彼女たちこそが、これからは市場の真ん中になっていく。

岡田:そうなんですよね。確かに彼女たちは生き方に迷いながらも、大きく動き出す感じもない…。でも、やっぱり彼女たちが楽しいと思えることを一緒に探していくのがこれからの私たちの仕事でもあるなと思っているんです。彼女たちが本当に、いまいる場所がベストと思っているかどうかはわからない。心から変わりたくない、いまがいいと思っているとはあまり思えないんですよね。もしかしたら自分を守るためにそう言っているだけなんじゃないかなという気もする。私としては、そこはこじ開けていきたいと思います。読者と真剣に向き合うためにも、編集部として極限までおもしろいものを追求してつくっていきたいんです。

瀧川:なるほど。貴重な制作の裏側までたっぷりとうかがうことができました。これからの「FRaU」が私たちにどんなメッセージを届けてくれるのか、とても楽しみにしています。本日はありがとうございました!

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【インタビューを終えて】
女性編集長というと、一般的には「プラダを着た悪魔」を想像する方も多いかもしれませんが、安心してください、違いますよ。ふんわりとやさしい雰囲気で、そして非常に知的。芯があってとことん頑張るタイプの岡田さん。出版業界では珍しく30代という若さで編集長に抜擢され、20-30代の女性読者を取り戻すという難題に挑戦中。ご自身も30代女性でありながらも、自分の勘には頼らず、女性たちへのリサーチを欠かさない。また編集長でありながらも現場にどんどん出向いていく。先輩編集者にならって常にミーハーでいるために努力を惜しまず、極限までおもしろいものを追求するというストイックさが印象的でした。
また、デジタルネイティブ世代というだけあって、雑誌という“紙”に全くこだわらないのも岡田流。WEBメディアでもどんどん情報発信をしていったり、企業とのタイアップがあるときは様々な方向でアイデアを出したりと、その柔軟さも若手らしい。30代女性はタラレバ娘なのかと、あなどるなかれ。次世代の女性編集長、かくありき。