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20-30代女性が読みたいものは何か。
若手だからこそ挑戦する。新しい編集長の形。【前編】

キャリジョ研ではこれまで「働く女性」をテーマに、トレンドや調査データをもとに女性たちのインサイトを探してきました。しかし、世の中にはもっともっと女性のことを知っている人がいるはず。更に女性について学ぶために、その道のプロたちに話を伺うことにしました。
お目当ての相手は、女性たちのハートにささりまくる人気コンテンツをつくっている素敵なクリエイターやプロデューサーたち。これまでの紆余曲折から、業界の裏話、秘伝のワザまで。根ほり葉ほり聞きだすことで、女性たちの気持ち、本音、インサイトを学ばせていただきます。最後まで読んでいただくことで、これからのマーケティングやプランニング、もしかしたら人生観にまで、ヒントを感じていただければ幸いです。

第二回のゲストは、女性に人気のライフスタイル&ファッション誌「FRaU」の編集長、岡田幸美さん。岡田さんは瀧川と同世代で、2005年入社の30代半ば。2015年10月に編集長に就任し、昨年の3月号から大幅リニューアルに踏み切った新生「FRaU」のかじ取りを担っています。人気女性誌の編集長として、企画づくりのこだわりや具体的なリサーチの仕方、編集長としての想いを伺いました。

■入社時はコミック部署を志望
■ViVi編集部を11年経て、看板雑誌「FRaU」編集長へ

瀧川:今日はこうしてお会いすることができてとても光栄です。岡田さんが、同世代の代表としてすごく頑張っていらっしゃる姿がとても刺激的で、勇気づけられます。ちなみに地元も結構近いですよね、ますます親近感がわいてしまいました(笑)。

岡田:本当にすごい偶然ですよね(笑)。でも瀧川さんのことは、実は以前からFacebookに書かれているコラムを拝読していて、いつかお会いしてみたいなと思っていたんです。だからこちらこそ、今日はとても光栄です。

瀧川:本当ですか!?それはすごく嬉しいです!ありがとうございます!岡田さんはもともと編集者志望だったのですか?

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岡田:そうですね、本当は「週刊文春」に載っているミステリー小説がすごく好きだったのと、「Number」が好きだったので文藝春秋に入りたかったんです。結果講談社でしたが、入社時の希望配属先はコミックの編集部でした(笑)。

瀧川:ええっ、とても意外です(笑)。女性ファッション誌とはまた全然違う世界ですね。

岡田:でも入社してすぐに配属が決まったのが、10代後半~20代女子がメインターゲットの女性誌「ViVi」編集部だったんです。今だから笑って話せますが、なんで興味のない女性ファッション誌なの?とかなり悩みました。私自身それほどおしゃれに興味がある学生でもなかったので、「ViVi」もほとんど読んだことがなかったんです。だから看板モデルが誰かという事すら知らなくて。

瀧川:そうだったんですね!でもそこで、「FRaU」編集部に移られる去年の夏までの11年間を、ファッション担当として過ごされた。

岡田:はい。ファッション班といってもファッションだけをやっているわけではなく、タレントさんのページとか、読み物とか、海外の旅記事なんかも、みんなで分担してやっていました。「FRaU」のリニューアルをするのは、突然でびっくりしましたが、20歳で「ViVi」読者になった子たちがいまはもう30歳になっているので、彼女たちの受け皿にできればというのと、読者を今のアラサー世代に戻したいというのもあったかと思います。

瀧川:確かに読者と一緒に雑誌も年を取っていく。でも雑誌としては新たな世代の受け皿も必要なわけで。新陳代謝させる必要があるわけですね。そこで、新たな読者世代を代表する岡田さんに白羽の矢が立ったわけですね。

岡田:あと、いまちょうど私くらいの、30~35歳の女性が本当に読みたい雑誌がないというのもよく言われていて。私たちくらいの年の女性って、上の世代からは元“ギャル世代”とかでひとくくりにされていて、実際は年を経てすごく進化しているのに、なかなか周囲に認知されないと思っている人も多いと思います。それもあって、彼女たちが欲しいものもつくられないし、だから買わなくなる、という悪循環をずっと見ているわけです。そこで、30代女性のインサイトというものをしっかりととらえて、特にグループの中でも感度が高い人、早耳な人に刺さる雑誌をつくれたらと思いました。ただ、実際には「雑誌」というメディアは40代以降の年齢層が人口も多いし、たくさん買ってくれるわけで、冷静に数字として考えると30代を狙うことは間違いなくいばらの道ではあるんですが。

瀧川:なるほど。ちなみに「FRaU」創刊は1991年です。そのとき代表的だった女性誌は、そのとき代表的だった女性誌は、『anan』や『Hanako』などですね。

岡田:「FRaU」創刊時のスタンスは、その2誌がカバーしていない領域を、ということで、服やライフスタイルだけじゃなくて、そこに「考え方」「知性」をプラスさせようということだったんだと思います。それって改めて考えてみると、いまの空気にすごくぴったりくると思うんですよね。それで、一度そうした原点も見直してみて、フラットな視点でつくっていきたいと思ったんです。一冊を通しで読んで初めてワンテーマが浮かび上がってくるような、いろんな角度、切り口から人の生き方を捉えるような雑誌にしていけたらいいなと。実際に読んでいらっしゃらない方への説明しやすさからは遠のくのですが(笑)

瀧川:雑誌の市場としてはここのところずっと大きな変化が続いていると思いますが、実際のところ、どう思われますか?

岡田:やっぱり、一部の雑誌を除いて売り上げ部数は下がり続けています。そこで付録をつけるとか、センセーショナルな特集を組む等の取り組みもある程度有効だとは思いますが、それもやりすぎると、何が雑誌の核なのかがわからなくなってしまう。幸い「FRaU」は過去1年間、そうした施策を打たずになんとか来られました。いまの雑誌って、ファッションもコーディネートも一緒で、モデルもそんなに変わらない。見分けがつかなくなったな、と感じています。やっぱり女性誌って、それぞれの雑誌が持つ物語に惹かれて読者がついてくると思うんですよね。私たちもちゃんと物語をつくっていきたいし、そういう雑誌をきちんと売っていきたいなと思っています。

■「カルチャーのプロ」と「ファッション編集者」の掛け合わせ
■ファション目線でカルチャーを考えると、意外性のある企画が生まれる。

瀧川:毎号のテーマはどうやって決めていくのですか?

岡田:みんなでプランを出し合います。半年に一回、大きなテーマを決めて、その内容は毎月詰めていくという感じです。

瀧川:ワンテーマを決めたうえで、皆さんで、今月は何をしようかという話をされるわけですね。何か、記事をつくっていくにあたって特に気を付けてらっしゃることはありますか?

岡田:そうですね。たとえば、一つのネタを掘り下げるときに、外部のベテランのライターさんのような、その道にものすごく詳しい人と、素人なんだけれども興味があるという編集者で組んでもらったりします。素人でも、その道に詳しい人とやり取りをするためにすごく勉強して、ぶつかっていくんです。そうすると、美容に詳しい子がインテリアを考えたらこんな企画になるんだ、とか、ファッションに詳しい子が話題のテーマパークについて考えるとこうなるのか、とか、意外性のある企画が出てくる。読者の方は専門家なわけではありません。普通に暮らしている人が、ちょっとその分野に興味を持っていて、今知ってること以上のことを知れそうだというのが、雑誌を買うモチベーションなんだと思うんです。だからそこは厳守しつつ、あとはある程度の知識と読者の興味の範囲というバランスをキープして、どれだけ専門家にぶつかって、面白い発見をしていけるかということ。それが「FRaU」らしさかなと思います。

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瀧川:編集部の皆さんが一所懸命勉強した成果が、一冊一冊の特集に現れているんですね!

岡田:はい、だからこそリアルにできるんじゃないかと思うんですよね。おそらくそれが一番わかりやすいのは書評。2017年1月号の特集「ススメ!タラレバ娘」では書評の企画もあるんですが、どういう本をチョイスするかは非常に難しい。「FRaU」読者は、最先端よりはこういうことが好きだろうとか、でも新しい風味も2割くらい入れて、なんとなくトレンドも入れておきたいし……そういうことを、あまり通好みにならないように注意深くディレクションしました。書評に限りませんが、やはり雑誌って、どんどん最先端を追い求めていく限られた人に向けてつくるわけではないんですね。読者目線は忘れてはいけないし、絶対に上から目線になってはいけないと思っています。

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…後編に続く