博報堂DYグループであるデータスタジアム株式会社は、大阪大学発の研究開発型ベンチャー企業Qoncept(株式会社コンセプト)との共業により「卓球トラッキング」システムを開発しました。すでに国内外のデジタル系見本市などで出展され、注目を集めている本システムについて、新規事業推進部部長の中村暢也さん、同部所属の上出優衣さんに話をうかがいました。

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■球速や軌道を瞬時に解析できる「卓球トラッキング」システム

中村:
データスタジアムでは、2001年の設立以来、プロ野球、Jリーグ、ラグビー、バスケットなどのデータを取得・分析し、スポーツ団体や選手に対して選手強化のためのソリューションを提供する一方、メディアに対しても、スポーツデータの提供を通じ、さまざまな形のエンターテインメントコンテンツに活用していただいています。僕らが所属する新規事業推進部では、今述べた4種目だけではなく、マイナースポーツも含めた、世の中にある多種多様なスポーツ競技に対して、データを活用した新たなソリューション開発、ビジネス開発の可能性を日々探っています。
そんな中、今回Qoncept(コンセプト)社さんの協力を得て新たに開発に成功したのが、「卓球トラッキング」のシステムです。

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上出:
そもそもトラッキングとは、さまざまな対象物の動きを追尾するシステムのことです。たとえばサッカーにおいては、このトラッキングを選手の動きや走行距離などのデータ分析に活用しています。一方、今回の卓球という競技に関しては、追尾するのは選手ではなくボールです。
具体的に説明しますと、まず卓球台の両側にボールの動きを捉える2台のカメラを設置、それらがまるで人の目のように両側から縦横高さの位置情報を捉えていきます。1台のサーバーにその情報が集められると、瞬時に画像処理していき、球速や軌道がほぼリアルタイムで算出されるという仕組みです。
このシステムの特徴としては、まずは高い画像処理技術によって、瞬時にデータが取得できるということ。それから、特殊なハイスピードカメラなどは特に必要なく、市販の安価なカメラさえあればデータ取得には何ら問題がないということです。この手軽さは、たとえば大会主催者やメディアといった利用者にとっても、大きなメリットになるのではないかと考えています。

中村:
卓球トラッキングシステムで非常に大きな役割を果たしているのが、いま上出が言った「高い画像処理技術」です。大阪大学発のベンチャー企業であるQoncept社さんは、その点、画像処理やARに関する非常に高い技術力を誇る会社です。野球やサッカーにおけるデータ取得技術については、ヨーロッパやアメリカですでに広く使用されているシステムを輸入し、活用しているのですが、海外製品だけにさまざまな制約があるのも事実です。今回我々はQoncept社さんのような国内企業と独自に技術開発することができた。これも大きなポイントだと思います。

■選手も来場者も夢中に!?卓球トラッキングに集まる注目

中村:
実は昨年、テレビのとある大会中継で、このシステムを実際に活用していただくことができました。実際の画面を見ていただくと良くわかると思いますが、たとえばこの選手の場合、ラリーになると相手選手の左サイドを攻める傾向があるな、というのが一目瞭然です。

自分のデータを目にしたほかの選手の皆さんからも、「私こんなにスピードが出てるんだ!」「このデータ欲しいです、いただけますか」なんていう声があったくらい新鮮だったようです(笑)。野球やサッカーとは異なり、卓球においてはこれまでほとんどデータが活用されてこなかった。その点、選手強化という点でもご協力できることは大きいのではないかなと改めて感じました。

実は、この卓球トラッキングシステムがITTF(国際卓球連盟: International Table Tennis Federation)に認められ、2017世界卓球選手権デュッセルドルフ大会の国際映像に採用されることが決定いたしました。

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上出:
また、3月にはドイツで開催された国際情報通信技術見本市「CeBIT(セビット)2017」に出展させていただいたのですが、来場者が卓球トラッキングシステムを体験できるようにしたところ、装飾が地味なブースだったにもかかわらず、多くの方が卓球を目当てに集まってくださいました(笑)。ドイツは卓球のナショナルチームも強いですし、意外と卓球が身近なスポーツなんですね。現地では「センサーはついてないの?」「カメラだけでこんなに正確にデータが取れるんだ!」と驚きの声を多くいただきました。
ちなみにラケットやボールの他、卓球台とカメラが2台あればいいので、多くを現地調達できるというメリットも実感することができました。

*CeBIT(セビット)2017での動画

■卓球を、スポーツをもっと楽しくしたい!

中村:
この卓球トラッキングシステムは、東京神奈川エリアを中心に卓球スクールを運営する株式会社タクティブさんにもご協力をいただいており、そのスクールなどでの活用も見込まれています。すでに活躍する選手だけでなく、そうしたスクールにおいて子どもたちへの指導に役立てられることで、強い選手が出てくれば、間違いなく試合中継を見る人も増える。やはりスポーツが盛り上がるには、選手強化は欠かせないと思います。そして、それと同じくらい「見る楽しさ」も重要。我々の技術によって、卓球を始めとするスポーツ全般を、もっと面白いものにできたらと思います。

上出:
同感です。そして、やはり卓球という競技にもっと注目が集まるようにしたいですね。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでもっともっとメダルが期待できるような競技にできれば。今は男女ともに若い選手がたくさん出てきているので、これからますます目が離せない競技だと思います。

中村:
卓球トラッキングシステムは誕生したばかりです。これからどんな風に活用・展開されて、卓球界を盛り上げていけるか。僕らも楽しみにしています。

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◆プロフィール

中村暢也(なかむら・のぶや)
データスタジアム株式会社 新規事業推進部 部長
1973年生まれ。大学卒業後、博報堂スポーツマーケティング(現 博報堂DYスポーツマーケティング)に入社。さまざまスポーツビジネスに携わる中、サッカーのデータビジネスの立ち上げにも携わる。2011年にデータスタジアム入社後は主に新規事業の開発や海外との提携などを担当。

上出優衣(かみで・ゆい)
データスタジアム株式会社 新規事業推進部
1985年生まれ。大学卒業後、映像制作会社を経て国立スポーツ科学センターにてアスリートの映像支援に携わる。2014年にデータスタジアムに入社後は主に野球・サッカーを中心としたスポーツデータ事業の企画営業および新規事業の運用などを担当。

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