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『そもそもをデザインする』~事業の存在意義から考えるマーケティング~(博報堂Consulactionセミナーより)
REPORT

参考 → 博報堂Consulaction HP

成熟した市場においては、スペックや価格で差別化するだけでは競争に勝つことはできません。その商品やサービスが世の中に存在する理由──「そもそも」の存在意義──について根本的に考えてみることがいよいよ大切になっています。
「そもそもをデザインする」という考え方とモデルケースを紹介したセミナーの模様をレポートします。

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博報堂 そもそもデザイン推進体 ビジネスコンサルタント 赤松範麿

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博報堂 そもそもデザイン推進体 マーケットデザインコンサルタント 高岡繁之

■マーケティングに「正解」はない

コストを下げることと売上を上げること。それがあらゆる企業にとっての課題です。コストを下げるのは、ファイナンスやマネージメントと呼ばれます。一方、売上を上げる役割を担うのはマーケティングと呼ばれます。
コンサルティングという行為が介在するのは、主に前者です。コンサルティングの特徴は「正解」があることです。他社が取り組んだ優れたケースを流用できるし、正解を導くための汎用的なフレームもあります。コンサルティングとは、様々な要素を整理して解答を求める方法であると言っていいでしょう。
それに対して、マーケティングには正解がありません。他社と同じことをしても成果が出るとは限らないのがマーケティングです。ヒット商品をつくるための汎用的な方程式はありません。マーケティング活動においては、そのつど着眼点や切り口を変えて、新しい発想を生み出していかなければなりません。
「そもそもをデザインする」とは、フレームなどには頼らずに、商品やサービスの「そもそも」の価値から新しい発想を生み出すマーケティングの一つの方法を意味します。

■フレームから新しい発想は生まれるか

一つの例で考えてみましょう。「地方銀行の将来ビジョンを見据えたブランディング」を行うケースがあるとします。この銀行は、大阪の岸和田に本社があり、大阪南部に主な拠点をもっています。理念は、「地域密着」「顧客第一」「チャレンジ精神」です。これは、どの地銀も掲げているありふれた理念であり、ここから独自のブランドをつくり出すことは難しいと思われます。
では、どうすればいいか。とりあえず、ブランディングのフレームを活用してみましょう。よくあるのは、「エッセンス」「機能価値」「情緒価値」などの項目を埋めていく方法です。この地銀の場合、例えば、エッセンスは「地域で一番」、機能価値は「地域に密着していること。起動力があること」、情緒価値は「身近で親しみやすく声をかけやすいこと」という感じになるでしょう。ここに新しい発見はあるでしょうか。どうもなさそうです。地銀の一般的な性格をまとめたにすぎないからです。
それでは、ビジョンづくりのフレームを使ったらどうなるでしょうか。ビジョンのフレームでは、「ミッション(使命)」「ビジョン(未来像)」「バリュー(価値観)」の項目が重視されます。それぞれ、「地域を活性化し、暮らしを明るくするお手伝いをします」「私たちを選択してくださるお客さまを一人でも多く増やします」「”お客さま第一”をモットーに”地域密着””チャレンジ精神”で取り組みます」としてみましょう。やはり新しい発見はなさそうです。

■「そもそも」の存在意義を考えることからすべては始まる

こうして見ると、フレームは要素を整理するには便利であっても、そこから新しい発見や発想を導き出すのはなかなか難しいということがわかります。むしろフレームには頼らず、「そもそも、地銀の存在意義は何なのか?」を素直に見つめた方がいいと、私たちは考えます。
そもそも、全国をカバーしている都銀ではなく、大阪南部にしか拠点がない地銀を選ぶ意味はあるのでしょうか。他地域には支店やATMはないわけですから、出張したときなどはその地銀のサービスを使うことはできません。では、地銀の特徴である”地域密着”とは何の価値があるのか──。そこをずばり言い当てることができない限り、どんな美しい言葉を並べても、独自のブランドをつくることは不可能です。
では、「そもそも銀行とは何か?」と考えてみましょう。銀行口座を財布代わりに使うのだとしたら、全国に支店やATMがある都銀の方がいいに決まっています。しかし、「銀行の役割はお金を貸し出すこと」と考えてみたらどうでしょう。
人がお金を借りるのは、何かを実現しようとするときです。店を出したい。会社をつくりたい。家を建てたい──。そういった夢を実現するためにお金が必要になるわけです。だとすれば、銀行はいわば「夢実現の相談役」ということになります。
岸和田には「だんじり祭」という有名なお祭りがあります。おそらく岸和田の人たちの多くは「自分の大切な夢を相談するなら、だんじり祭のよさがわかっている銀行に相談したい」と思うはずです。都銀にはない地元愛がある銀行。夢の相談ができる銀行。それが、この架空のケースにおける地銀の「そもそも」の存在意義ということです。
フレームは便利なツールですが、便利であるがゆえの罠もあります。あらかじめ用意された項目を埋めるだけで安心してしまい、要素の吟味がおろそかになってしまうという罠です。本当の答えは、今ある要素を徹底的に検証し、吟味していくことからしか生まれません。フレームを使えば答えが導きやすくなるということでは決してないのです。
シンプルに、今の事業や商品の「そもそも」の価値を考えること。そこから始めることが何よりも確かであると私たちは考えます。

■「あなたの事業は何ですか?」という問いが最も難しい

次に、トロフィー、盾、メダルなどをつくる徽章・表彰業界のとある会社の例で考えてみましょう。
この業界は、市場全体が縮小傾向にあります。トロフィーやメダルは、いわば権威による「褒めてつかわす」という行為の象徴です。しかし、「権威から褒められたい」と考える人は明らかに減っています。それが、市場が縮小している理由です。では、どうすればいいか。ここで役立つのが「そもそも」の発想です。
たとえ徽章業界の市場が今後縮小していっても、人が人を「褒める」という行為自体がなくなることはないでしょう。褒めるというのは、相手のいいところに着目するということです。それは褒める側も幸せにします。人は「そもそも」褒めることも、褒められることも好きなのです。
だから、こう考えてみてはどうでしょうか。これまでは「”褒めてつかわす”を支える会社」だった、これからは「”褒める”をつくる会社」になってみよう──。例えばスポーツ大会などで金銀銅の賞を進呈するだけでなく、日常の生活の中で、できなかったことができるようになったことを褒めたり、子どもがこの世に生まれてくれたことに感謝したり、運動会で汗をかいた全員に賞をあげたり、「大人のがんばり」に対して記念品を進呈したりする。そうやって褒める機会をどんどん増やしていけば、褒められる人も増えるし、市場におけるターゲットもそれだけ拡大することになります。
これは事業の方向性の大きな転換です。この転換を成功させるためには、社員の意識改革が必要になります。そこで例えば、小学生を対象にした「褒めるをつくる授業」を企画し、社員に参加してもらいます。小学生たちにオリジナルの賞を考えてもらい、賞状や記念のカップをつくってもらう。それによって、どれだけ多くの「褒める」があるかを社員が実感できるようになります。そこから、商品やサービスとしての「褒める」企画が生まれるでしょう。それは褒めるためのイベントかもれないし、褒めるための場所かもしれません。褒めるという行為の出張サービスかもしれません。もちろん、商品自体も従来のトロフィーや盾から、もっとカラフルでもっと多様なものに変わっていくでしょう。
徽章・表彰メーカーが廃れていくということは、日本の社会から「褒める」という行為がなくなっていき、日本が人を「けなす」一方の社会になっていくかもしれないということです。徽章・表彰メーカーの「そもそも」の存在意義とは、「褒める」という素晴らしい行為を守り、広めていくことなのです。
「あなたの事業は何ですか?」という問いが最も難しい──。ドラッガーはそう言っています。自分たちの事業の「そもそも」の存在意義とは何か。それを徹底的に考え、業界用語や横文字を使わず、誰もが知っている言葉で表現してみることから見えてくるものが必ずあるはずです。

■「美しさ」の価値観を変える商品

もう一つ、伝統工芸品のメーカーのケースについても考えてみましょう。200年の歴史をもつ銅器メーカーです。伝統工芸に対する多くの人のスタンスは「価値のあるものだし、後世まで残ってほしいと思う。でも、自分では買わない」といったものです。それを、実際に買って使ってもらうためにはどうすればいいか。
この銅器は手作りの一点もので、数十年~数百年にわたって使い続けることができます。しかも、使いこむほどに深みあるいい色になるのが銅器の大きな特長です。一般的な商品は、新品が一番美しい。しかし、この銅器は使い込むほど美しくなる。つまり「美しさ」の価値観が異なるわけです。
一般に、これまでの伝統工芸品は歴史的価値、つまり「過去の価値」が評価されてきました。しかし、この銅器の価値とは「未来の価値」です。それを使う人の人生とともに育ち、積み重なっていく価値です。それがこの銅器の「そもそも」の意義であると考えることができます。
この銅器の意義をそう捉えれば、職人の意識も変わるはずです。ベテランの腕だけに価値があるのではなく、若手職人の新しいセンスも重視されるようになるでしょう。そうして新しい商品が生まれれば、顧客も変わるはずです。伝統工芸の愛好家だけでなく、より一般的なインテリアや雑貨に興味がある人がこの銅器を求めるようになるかもしれません。
今この瞬間の見た目がきれいなものよりも、時を重ねて育ち続けたものの方がどれほど美しいことか──。そのような価値観を示すことがこの銅器の存在意義です。したがって、この銅器を使うということは、未来がよりよくなるのを願うことであり、丁寧に時を重ねていく生き方を大切にすることです。そのような付加価値をもたらしてくれて、子どもや孫の代を超えて数百年も受け継ぐことができることを考えれば、たとえ銅器に数万円~数十万円という価格がついていたとしても、決して高くはないはずです。

■「そもそも」の存在意義を世の中に見える化する

デザインとは、一般に「きれいにすること」「かわいくすること」「かっこよくすること」「おしゃれにすること」などと考えられています。もちろん、デザインにそのような機能があることは確かですが、マーケティングで大事なのは、「そもそもの存在意義を世の中に見える化する」ことです。表面的な見た目のデザインではなく、その事業、商品、サービスの本質的で根源的な価値を誰もがわかる形で明らかにすることです。それを私たちは「そもそもをデザインする」と呼んでいます。
「そもそも」の存在意義を捉えるコツは、「このシーンが世の中からなくなったら寂しい」「これがない未来はイヤだ」と言い切れるような「一枚の絵」を見つけることです。もし自分たちのこの商品やサービスがなくなったら、世の中からこんな幸せな場面がなくなってしまう。そう想像してみることです。その一枚の絵を見つけることが、ブランドの「そもそも」の存在意義を見つけることにほかなりません。
私たちは、そもそもの存在意義を捉え直してマーケットをデザインする「そもそもデザイン推進体」をつくりました。事業や商品の本質的な価値は何か──。そこに迷いが生じたら、ぜひ一度ご相談ください。また、博報堂マーケティングスクールには、「そもそも」の存在意義から課題を見つけるトレーニング研修を用意しています。こちらもぜひご活用いただければと思います。

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