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生活者のメディアライフから読み解く、次のマーケティングのヒント 「メディア定点調査2015 最新セミナー」(博報堂Consulactionセミナーより)
REPORT

参考 → 博報堂Consulaction HP

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博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所では、10年前から「メディア定点」と題する定量調査を継続して行ってきました。
また、7年前からは、「メディアライフ密着調査」という映像取材も並行して続けています。
その長年の取り組みから見えてきたメディアと生活者の関係を考察するセミナーが7月30日に開催されました。その模様をお届けします。

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【第1分析編】時系列分析に見るメディアライフの今

 メディア総接触時間は過去10年間で約49分増

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2014年と15年の生活者の一日あたりのメディア総接触時間を比べると、全体では385.6時間から383.7時間に微減しています。
メディア別で見ると、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、パソコンが微減、タブレット端末と携帯電話/スマートフォンが増加という結果になっています。

では、この10年間の変化はどうなっているのでしょうか。
06年から15年までの10年間の接触時間の変化を見てみると、全体で335.2分から約49分増えて383.7分となっています。
従来のマスメディア(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)が53.0分の減、デジタルメディア(パソコン、タブレット端末、携帯電話/スマートフォン)が101.4分の増というのがその内訳です。

一見、「マス対デジタル」という構図のように見えますが、実はそうではありません。
というのも、デジタルメディアすべてが伸長しているわけではないからです。
パソコンは2011年をピークに減少に転じています。
その減少分を補っているのが携帯電話/スマートフォンで、06年の11分から10年間で7倍以上の80分に増えています。

携帯電話/スマートフォンとタブレット端末を合わせたモバイルメディア。
その伸長が目覚ましいのが近年の傾向です。
全体的に見ると、まだモバイル以外のメディアの接触時間が上回っているのが現状ですが、20代の女性だけで見ると、すでにモバイルメディアの接触時間が総メディア接触時間の半分を超えています。

モバイルの勢いは、全体の構成比を見るとさらに明らかになります。
メディア総接触時間を100とした場合、モバイルメディアが26.3%と、今年初めてシェア4分の1を超えました。
ちなみに、デバイスの東京地区での所有率は、スマートフォンが約7割で、この5年で7倍に、タブレット端末は約3割に達し、この3年で2倍以上伸びています。

こうして見ると、最新のメディア環境は「モバイル対それ以外のメディア」という構図になっていることがおわかりいただけると思います。
つまり、「モバイルシフト」が現在のメディアの主要な傾向であるということです。

進むメディアへの長時間接触

次に、モバイルシフトとメディア接触時間の関係を見ていくことにします。

1日のメディア接触時間ごとに、生活者を「ライト層(4時間未満)」「ミドル層(4~6時間未満)」「ヘビー層(6時間以上)」の3カテゴリーに分けると、06年にはライト対ミドル対ヘビーの割合は3対3対4でした。
15年にはこれが2.5対2.5対対5となっています。ライト層とミドル層は減って、ヘビー層が増えているということです。
また、1日10時間以上メディアに接触している層も、この10年で1割以上に達しました。

このヘビー層の増加傾向を牽引しているのがモバイルです。
接触時間が多いメディアのトップ2であるテレビと携帯電話/スマートフォンの変化を見ることで、それが明らかになります。

それぞれのメディアに接触しているユーザーを、やはり「ライト層(1時間未満)」「ミドル層(1時間~3時間未満)」「ヘビー層(3時間以上)」の3カテゴリーに分けると、テレビはこの10年間で「ライト層1→1.5/ミドル層5→5/ヘビー層4→3.5」という比率で変化しています。
1日1時間未満しかテレビを見ない人が増えて、3時間以上見る人は減っているということです。
それに対して、携帯電話/スマートフォンでは、10年前には4%に過ぎなかったミドル層とヘビー層の合計が、15年には実に40%にまで増えています。

これらの事実から明らかになるのは、次のようなことです。

メディアに長時間接する層はこの10年間で増加している。
一方、メディアごとの接触時間を検証すると、テレビではメディア接触のライト層が拡大し、携帯電話/スマートフォンに長時間接する層は増えている。
したがって、メディアへの長時間接触を促進しているのは、携帯電話/スマートフォン、すなわちモバイルである──。

では、モバイルメディアは、具体的にどのような用途で利用されているのでしょうか。

モバイルメディアの特徴は、使われているサービスが多岐にわたる点にあります。
例えば、スマートフォンで最も利用率が高いのが、メール、検索、ニュース閲覧で、タブレット端末でとくに利用率が高いのが、検索と動画視聴です。
そのほかに、ショッピング、まとめサイト閲覧、ゲーム、音楽、ソーシャルメディアなどのサービスがモバイルメディアでは利用されています。

今後、スマートフォンとタブレット端末がさらに浸透していけば、さまざまなサービスを広告やマーケティングのチャネルとして活用できる機会が一気に広がっていくでしょう。

 【第2章・洞察編】 生活者に生まれる新たな欲求と行動

「いつでも、何でも、たっぷり」がモバイルメディアとの過ごし方

では、具体的に生活者はモバイルメディアにどのように接し、どのようにサービスを利用しているのでしょうか。

私たちは、26歳の女性会社員と26歳の専業主婦に対して、メディアライフ密着調査を実施し、1日の生活の中でどのようにモバイルを利用しているかをつぶさに観察しました。
その結果をまとめたのが、以下で説明する「3つの発見」です。

1つ目は「いつでもどこでもスマホ」です。
起床時にはベッドの中でメールなどをチェックし、通勤時は歩きながらLINEをチェックし、電車の中ではまとめサイトの「NAVERまとめ」を閲覧する。家にいるときは、台所でも、ソファやこたつでくつろいでいるときも、常にスマートフォンが手元にあり、ことあるごとに活用する──。
つまり、生活者は家でも外でも、あらゆる場面でスマートフォンを使っているという実態が明らかになりました。

2つ目は、「何でもスマホ検索」です。髪型、洋服、料理のレシピなど、知りたいと思う情報があるときには、すかさずスマートフォンで検索し、必要な情報を即座に手に入れます。

3つ目は「たっぷりコンテンツ接触」です。
仕事から帰った後は、2時間近くゲームに熱中したり、寝る前に夜中まで電子コミックを呼んだりと、じっくりスマートフォンを活用する場面もあることがわかりました。

情報活用の「緩急の幅」が広がる

以上の3つの発見からわかるのは、スマートフォン活用の「緩急の幅」が非常に広がっているということです。
スピーディに情報を取得したり、メッセージを返信したりする行動がある一方で、ゆっくりと時間をかけてコンテンツを楽しむという行動もあります。

このような傾向は、実はスマートフォンが登場する以前からありました。
例えば、電車で朝刊を読んだり、雑誌でトレンドをチェックしたりするのが「急」で、家でビールを飲みながらテレビで野球中継を観戦したり、ラジオの深夜放送を聴いたりするのが「緩」だったと言えます。
もともとあったその「緩」と「急」の幅が、メディア上の情報が膨大になり、かつスマートフォンが普及することによってさらに広がったということです。

スマートフォンによって、生活者は緩急を自在に操り、情報取得のスピードをそのつど最適化することが可能になりました。
自分にとっての情報環境を最適化したい、常に最適な状況に情報を更新していきたい──。そんな欲求を私たちは「更新欲求」と名づけました。

更新欲求には、以下の3つのタイプがあると考えられます。

①「より早く知りたい」=ファストな情報の更新欲求

②「より手早く取り入れたい」=ファストな生活の更新欲求

③「好きなだけ楽しみたい」=スローなコンテンツの更新欲求

今後、生活者の更新欲求がファストとスローへとさらに2極化していくことによって、緩急の幅はさらに広がっていくと考えられます。
これは、モバイルメディアでビジネスを展開しているプレーヤーにとって大きなチャンスであると言えます。緩急の幅が広がるということは、新しい生活シーンが生まれ、ビジネス展開の可能性が広がるということだからです。

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さて、次の第3章では、生活者の新たな欲求と行動に対して、メッセージやコンテンツの送り手はどのように応えていけばいいのかを考えていきたいと思います。

 【第3章 提言編】送り手からの3つのアプローチ

 「短い区切り」で出す

第2章で、私たちは更新欲求の3つのタイプを提示しました。ここでは、そのそれぞれに対するアプローチを提案してきたいと思います。

1つ目の「より早く知りたい」(=ファストな情報の更新欲求)。これに対する最適なアプローチは、「短い区切りで情報を発信する」ことです。

ファストな情報の更新欲求をもった生活者が本当にほしい情報は、「さっき」と「今」の間に更新された情報です。その短い間に情報が更新されている、つまり、短い区切りで情報が発信される状態が当たり前になれば、生活者は頻繁にメディアをチェックするようになるでしょう。
それによってメディアの接触頻度が上がることになります。

「みんなの解決」を見せる

2つ目の「より手早く取り入れたい」(=ファストな生活の更新欲求)に対する最適なアプローチは「みんなの解決を見せる」ことです。

ファストな生活の更新欲求をもつ生活者は、「やってみたいこと」を検索結果の「みんなの解決」からカタログのように取り出してすぐに自分の暮らしに取り入れることを望んでいます。
以前であれば、例えば「髪型を変えたい」と思ったら、ヘアカタログをチェックし、美容室を予約し、美容師に相談し、髪型を決める、といった順を追った行動をとるのが普通でした。
しかし、情報が膨大になり、スマートフォンでそれを手軽に活用できるようになった現在、「髪型を変えたい」と考えたら、即座に情報にアクセスし、新しい髪形をその場で決めるというスタイルが一般的になってきています。
その決め手となるのが「みんなの解決」です。
いろいろな人の髪型を参照して、その中から自分に合う髪型を決める、つまり、「課題の解決法を見つけ、それによって自分の生活をスピーディに更新する」わけです。

この更新欲求と相性がいいのは、料理、美容、健康といった生活カテゴリーです。
また、帰宅後のアクションが期待される時間帯として、夕方から夜にかけての情報発信も有効です。
例えば、交通広告などで「みんなの解決」を提示して生活更新欲求を喚起し、生活者のアクションを促すという戦略もありうるでしょう。

「まるごと」を作る

3つ目の「好きなだけ楽しみたい」(=スローなコンテンツの更新欲求)に対する最適なアプローチは、「まるごとをつくる」ことです。

今年は、音楽、映画、ドラマ、コミックなどの定額制サービスが続々と登場した「定額制メディアサービス元年」でした。しかし、定額だからといって「何でも聴ける」「何でも見られる」という訴求の仕方では、生活者はどうしていいかわからなくなってしまいます。
情報量があまりに多すぎるからです。

そこでこちらから、生活者が追ってみたくなるような「まるごと」のパッケージを作って提案するという方法が有効になります。
考えられるのは、例えば以下のようなパッケージです。

●「見逃しサービス×人」

一定期間の放送終了後、好きなアーティスト、好きな俳優、好きなMCなどが出演する番組を取りこぼしなく「まるごと」パッケージにする。

●「読み逃しサービス×旬」

雑誌やニュースコンテンツを掲載後、単純にアーカイブ化せず、旬のテーマを設定し、横断的に「まるごと」パッケージにする。
例えば、「今週のギリシャに関する記事をまるごと」「今月の京都観光に関する情報をすべて」など。

「まるごと」を提供することのメディア側のメリットは、生活者の中に「ずっと追ってみたい気分」が生まれることです。
その結果、メディアへの接触量が増えるというわけです。

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生活者に「スピード」を提案する

今後、情報やコンテンツを発信する場合は、「生活者のどの更新欲求を満たすのか」を見極める必要があります。
つまり、「ファスト」な状態に情報を届けるのか、「スロー」に対して情報を届けるのか、ということです。

現在、生活者も情報の送り手もファストな方向に向かっています。
しかし、実はより開拓の可能性が広がっているのは、スローの領域です。
とりわけ、夜の時間帯は未開拓ゾーンと言っていいでしょう。
例えば、夜間だけの定額制サービスを開発し、スローなコンテンツ視聴の欲求を満たす、といった方法が考えられます。

調査結果の検証から今回わかったのは、生活者のメディア接触において「スピード」が欠かすことのできない要因となっているということです。
生活者が求めるスピードに情報やコンテンツのスピードをマッチさせていくこと。それによって、メディア効果はより高まるはずです。

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【講師】

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吉川 昌孝(よしかわ まさたか)
メディア環境研究所 所長代理

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加藤 薫
メディア環境研究所 上席研究員

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新美 妙子
メディア環境研究所 上席研究員

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中杉 啓秋
メディア環境研究所 上席研究員

 

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