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Media Extensionスマホ時代のマーケティング計画に押さえておきたい、〈メディア行動〉最前線!(博報堂Consulactionセミナーより)
REPORT

参考 → 博報堂Consulaction HP

■Media Extensionとは?■
~メディア環境研究所 上席研究員 加藤薫~

スマートフォンの普及率は、6割を超えようとしています。スマートデバイスの一般化によって、私たちの生活には「スクリーン」が増え、生活者とメディアの付き合い方にも変化の兆しがみえてきました。これまでメディアは「読む」「見る」「聴く」という行為が中心で、「Closedな仕組みとClosedなコンテンツ」として存在していましたが、スマートデバイスを手にした生活者はそうした行為にとどまることなく、メディアに接触しながら、同時に何かを調べ、買い、すぐに友人と情報をやり取りするという行動が一般化しつつあります。Media Extensionとは、いわば、新しいメディア接触行動を指した概念です。これをメディア側から見た場合、「メディアとして勝負する領域が大きく広がっている」と言えます。

生活者のメディア行動は今どうなっているのか、今後どうなっていくのか?
各研究員の発表内容を、ご覧ください。

■メディア行動の可視化分析■
~メディア環境研究所 上席研究員 新美妙子~

スマートデバイスによって生活者の情報行動がどう変化したのか、また行動の原動力となっている欲求は何か、「情報行動意識」と「スマートフォン/テレビの同時行動ログ解析」の両面から、メディア行動を可視化いたしました。

その1:情報行動意識調査
調査結果からひも解いたのは、生活者の行動と行動の原動力となる欲求の構造です。
生活者の欲求の構造は4つに分類されることがわかりました。
(1)「追っかけ欲求」世の中の出来事を把握しておきたい、流行っているものは抑えておきたい。
(2)「満たされ欲求」話したい、知ってほしい、承認されたい。
(3)「深堀欲求」深く知りたい、関連情報も抑えておきたい。
(4)「臨場欲求」わくわくする気持ちを分かちあいたい、リアルな状況を把握したい。
これらの欲求の核となるのが「即」です。すぐに行動が起こせる、様々な行動につながるという変化が生まれ、「行動の短時間化・シームレス化」が起こっています。

その2:テレビ/スマートフォンの同時行動ログ解析
ログとは、「記憶」ではなく「記録」です。生活者の行動を記録することで見えてきたテレビ視聴時のWeb・アプリの同時行動を分析した結果、以下のことがわかりました。

≪Web・アプリ同時接触率の推移≫
◇ドラマ:番組と連携して、ソーシャルメディアでのコミュニケーション行動が広がっていく。
番組スタートと同時にWeb・アプリ行動が始まっています。 グラフの黄緑色は「LINE」です。番組視聴中にコミュニケーションが活発に行われている様子が伺えます。途中、急激に同時接触率が下がっていくところがありますが、ドラマの内容を確認してみると、“目が離せないシーン”がありました。棒グラフ1本が毎分を表しており、1分ごとにグラフの高さや色が変わっていることから、様々な行動が瞬間、瞬間に行われていることがわかります。

◇Web・アプリ行動はテレビ視聴を奪うのではなく番組視聴時のメディア行動を拡張している。
情報番組には様々なコーナーがありますが、その変わり目や盛り上がりの瞬間はテレビ画面に集中することにより同時行動が少なくなっている(同時接触率が低下している)様子が見て取れます。番組についてSNSで盛り上がるなど、Web・アプリ行動を見ていると、テレビの視聴を奪う行動というより、番組視聴時のメディア行動が広がっているという印象を受けます。

≪Web・アプリ同時接触行動の内訳≫
◇全体傾向:コミュニーション行動が活発なドラマと、情報収集が活発な情報番組。
Web・アプリ行動を見てみると、情報番組はドラマより情報発信の行動が少なく「インフォメーション行動」(情報収集)が多くなっています。番組から発信される様々な情報に刺激され行動を起こすために情報収集している様子が見えてきます。一方ドラマでは、LINE、Facebook、Twitter、SNSなどでの「コミュニケーション行動」(情報発信)が目立ちます。


■テレビ視聴時のマルチスクリーン接触の実態■
~メディア環境研究所 研究主幹 勝野正博~

続いて、勝野正博研究主幹が「アイトラッキング調査」の結果を踏まえて「テレビ視聴時のマルチスクリーン接触の実態」について発表しました。アイトラッキング調査とは、視線の動きや見ていた時間を記録できる眼鏡型のカメラ(アイトラッキングカメラ)を生活者に着用してもらい、テレビ視聴時の行動を可視化・分析するものです。この調査で撮影した映像を実際に見ながら、得られた考察を2点にまとめました。

◇インフォメーションの拡張
必要な情報はすぐその場で集めてしまう、つまり生活者の情報欲求がリアルタイムになっています。テレビから得た情報の詳細・評判・真偽などをスマホ出確認しながら視聴する傾向にあります。

◇コミュニケーションの拡張
視聴しているテレビ番組をネタにスマホで繋がる友人・知人とSNSを通じて井戸端談義をするような見方をしています。テレビ以外にネット空間でコミュニケーションが生まれており、自宅にて一人で観ているにもかかわらず、放送番組を共有している友人との会話をネット上で楽しむわけです。

■ 海外にみる、メディア行動のひろがり ■
~メディア環境研究所 研究員 矢木野桂一郎~

ここでは、研究員の矢木野桂一郎が「海外事例にみる、メディア行動のひろがり」をテーマに講演。生活者からみたバリューに焦点をあて、メディアエクステンションの拡張パターンを「仕組み軸×コンテンツ軸」に分けて紹介いたしました。

①コンテンツ拡張パターン
・雑誌A社:雑誌ブランドごとにビデオサイトを構築。ハイクオリティな雑誌ブランドを活用した、「デジタルビデオネットワーク」。コンテンツを動画領域へと拡張し、雑誌ブランドと生活者の新しい接点を構築。
・雑誌B社:雑誌関連番組をライブストリーミング配信。“ライブ向き”の雑誌ブランドで、動画メディア事業へと拡張する動き。
・動画キュレーションメディアC社:1つの動画について、タイトルABテストを最大20回以上実施。コンテンツのタイトルで生活者へのリーチの最大化を追求。

②仕組み拡張パターン
・テレビ地上波同時視聴アプリD社:生放送コンテンツをTVとアプリの両者に配信。TV放送のリアルタイム視聴も一部番組で可能にしている。(コンテンツ接触機会の増加)
・流通E社:生活者の日常空間で活用する仕組み・サービスの開発に着手。

③仕組み×コンテンツ拡張パターン
・ネット動画サービスF社:自社サイトの視聴データを分析し、ユーザーの好みに合うコンテンツを開発。仕組みで得た資産(=データ)をベースにコンテンツを拡張している。

まとめ:すべてのパターンが各事業社・メディア企業が培ってきた「本業ビジネス」への利益還元が発想のベースになっている。メディアエクステンションとはすなわち 自社の仕組みやサービスを活かした「エコシステムの構築」と捉えられそうだ。そのエコシステムの中心にいるのは顧客としての「生活者」であり、「いかに生活者へのバリューを拡張するか」がメディアエクステンションのポイントになりそうだ。

■2020年に向けたメディア変化のロードマップ■
~メディア環境研究所 上席研究員 中杉啓秋~

現在の最新テクノロジーやトレンド等から、テレビ・スマートデバイス・ウェアラブル・IoT等を軸に、2020年に向けたメディア変化のロードマップを予測。

5年後の2020年、メディア環境がどう変わるのかを、1つのシナリオを描きました。
過去を振り返ってみると、生活者の生活時間(睡眠時間、食事時間、仕事時間)に大きな変化は見られませんが、使っているメディアやサービスは大きく変わっています。
未来のある1日である、2020年11月17日を想定し、こんな生活やメディア利用が起きているというシナリオを”Media Life 2020”というムービーで提示しました。
シナリオの中では、4Kテレビ、スマートウォッチ、テレビエブリウェアサービス、IoTなどが登場します。海外の家電ショーの取材から、未来のテレビ、ウェアラブル端末、コネクティッドカ―、IoT(Internet of Things)の最前線を取り上げています。
これらのストーリーは、決して架空の物語ではなく、いま実際に開発されているテクロノロジーをベースに取り上げており、新しいテクノロジーが日常生活の中に入っていくことを紹介しました。
最後に、2020年へのメディアロードマップでは、4K/8Kやスマートテレビ、プラットフォーム、モバイル環境などの今後の見通しについて紹介し、メディアの未来を考えるきっかけにしていただければということでご報告しました。

■ Media Extension時代の企画■
〜スダラボ 代表 須田和博〜

スダラボで取り組んだ、ライスコード(カンヌ広告賞でPRゴールドを獲得等)の事例等を踏まえて、
メディアが拡張し続ける時代における企画のポイント・考え方をご紹介。

(参考) スダラボ HP

①メディアエクステンション時代に重要なことは、「お客さま」を見失わないこと。
時代の変化とともにメディアが変わっていくことは、ごく当たり前のことです。だからこそ、自分の「お客さま」が、どういう生活をしているのか?どんなメディアに接触しているのか?それを、よく見ることが大事。新しい技術で可能になったことは無数にありますが、新しければいいというものではありません。ポイントは、お客さまの「お役立つこと」。役に立つことで、接触の可能性が生まれる。その際、新しいテクノロジーが有効ならば使えばいいし、新しくない方が有効ならそれでいい。幼稚園の送り迎えをするママが、日常的にスマホ動画で子供をあやしているなら、それがその人にとってのメディア。「今の時代はスマホだ!」といって、スマホだけを見ていてはダメ。そのお客さまの「スマホの外」には何があるのか?スマホがお客さまの生活の「何と何」をつないでいるのか?それをよく観察しなければいけません。

私が入社した1990年からの25年間で広告の役割は大きく変わってきました。しかし、もっと長い目で俯瞰すれば、広告の根幹は全く変わらないと思っています。未来がどうなるか知りたければ、大昔を見た方がいい。江戸時代、歌舞伎の演目の合間に人気役者が広告を「上演」していました。例えば、8代目市川團十郎による「江戸香はみがき」の広告口上。これは、人気タレントがTVCMに出る、今の広告の構造と全く変わっていません。人気者が「これがいい!」とお薦めすれば、フォロワーは「それがいい!」と思ってしまう。メディアやテクノロジーは進化していきますが、人間の本質は進化していない。さっき2020年に向けたメディアのロードマップという話がありましたが、2020年になっても人間の本質は、ほぼ変わらない。お母さんは子供を育てるし、お腹がすいたらご飯を食べるし、見たい娯楽を見る。メディアとテクノロジーはどんどん進化していくけど、人間は進化しない。だから、変わるところと、変わらないところ、両方見ていくことが重要です。どんどん変わっていく、時代の最先端の方ばかり見ていると自分がどこにいるか、わからなくなって、何を企画すればいいのか、さっぱりわからなくなる。また一方、20世紀後半に成功した広告のやり方にこだわって、その手法の範囲内でばかり企画していると、お客さまに届かない時代遅れなものになる。

常に、自分をアップデートする。そして、お客さまをよく見る。要は、それだけです。

錦絵「江戸香」「広到香」御はみがき/文政8(1825)年頃/二代豊国・画
(所蔵:(公財)吉田秀雄記念事業財団 アド・ミュージアム東京)

②お客さまの役に立つ広告=使ってもらえる広告
素晴らしいイノベーションがおこると、それはあっという間に普及し、生活の一部になり、そうして、すぐ「当たり前」になります。つまり「当たり前」は、イノベーションによって、ある日、変わる。これが、パラダイムシフトです。「そんなの当たり前だよ」ということが、明日、当たり前ではなくなっている。そんな中で、じゃあ何を頼りに企画の仕事をしたらいいんだ?と不安になる方もいるでしょう。その時、ここだけ見ておけば大丈夫!というものがあります。それは「お客さまの生活」です。お客さまの生活をよく見て、自分が作ろうとしているものが、お客さまにとって「役に立つ」かどうか。それだけが大事です。

4年前にその視点で「使ってもらえる広告」(アスキー新書)という本を書きました。ポイントは、広告もメッセージ訴求でなく、「役に立つもの」になることで、お客さまの近くにいくことができるかもしれない、という仮説です。

本日のテーマであるスマートフォンをメディアと考える場合、ますます、その視点が大事です。スマートフォンをお客さまがどう使っているのか?企業側がスマートフォンで実施しようとしているものが、お客さまの生活の役に立つものなのか?それを考える必要があります。

例えば、スダラボの自主開発第1弾「ネイチャー・バーコード」は、「観光地でお土産を買っても、重い荷物を持たずに手ぶらで帰って来たい」「田舎の農道とかで見る無人販売所のような、なごむEコマがあったらいいのに」という自分たちの「素直なわがまま」を見つめてみたものでした。そんなブレストのアイデアがいくつか合体して、「風景をバーコードのように読み込み、その土地の特産品を簡単に買えるようにする」という大きなコンセプトが生まれました。その汎用スマホアプリを、わかりやすく「ネイチャー・バーコード」と名づけました。そして、その実証実験第1号が、青森県田舎館村の「田んぼアート」で画像認証を体験する「ライスコード」でした。

青森県・田舎館村で実施したネイチャー・バーコード「ライスコード」

(参考)スダラボ HP 「ネイチャー・バーコード」

③未来のヒントは過去にある。
いまや、あらゆるところにメディアが存在している。そう考えると、お客さまの行動の中の、ぐっと来る瞬間、つまり「モメント」を捉えることが重要だと思います。気持ちが盛り上がる瞬間に、お客さまが何らかの行動をする。その時、その手の中にスマホがある。何度も繰り返しますが、とにかく、お客さまをよく観察すること。そして、感動する瞬間や困っている瞬間など、たかぶる瞬間がいつなのか?その時、何をしているのか?を見つけることが重要です。

私が有効だと思う「企画の方程式」は、昔からずっとやっている、人間の一番古い行動特性に、今の時代の最新の技術や、一番新しい手法をかけあわせること。こうすると「みんながわかる」、しかも「誰も見たことないもの」になります。最先端の技術トレンドを学ぶことはとても重要ですが、そうでないもの、新しくないもの、昔から変わらない普通のもの、自分の足もとの確かな生活の感覚、そういったものを「同時に大事に」すること。それこそが、もっとも重要です。

「未来のヒントは、過去にある」というのが私の持論です。例えば、昭和の頃なら、どこの家庭にもあった「ビールのロゴ入り栓抜き」。ロゴが入っていて、毎日使ってるとだんだんブランドに馴染んでいく。「あ!使ってもらえる広告って、昔からあったんだ」と、これを見つけなおして気づいた。すごく新しい!と思われる「ヒット広告施策」の考え方の根幹は、案外、過去の事例にヒントがあります。なぜなら、大ヒットするということは、多くの人々に理解され、関心を寄せてもらえるということであり、多くの人々が関心を寄せるものの根幹というのは、そんなにコロコロとは変わらないものだからです。

(参考書籍)
・使ってもらえる広告  ~「見てもらえない時代」の効くコミュニケーション~ (アスキー新書) 須田和博 著

(取材:博報堂DYメディアパートナーズ 広報室)

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