レポート
カンファレンス
「広告が嫌われる時代!分散型メディア時代のデータ活用と、ブランドの顧客育成」(ATS Tokyo 2016より)
REPORT

日本のプログラマティック・マーケティングや広告業界のトレンド、日本と海外における市場発展などをテーマにしたカンファレンス「ATS Tokyo 2016」(ExchangeWire 主催)が10月20日(木)に東京・恵比寿で開催され、博報堂DYメディアパートナーズの柴田貞規が登壇。スマートニュース株式会社の菅原健一氏による講演の後、意見交換を行いました。

分散型メディアにはディストリビューション戦略を

菅原
スマートフォンの登場によって、生活者やメディアを取り巻く環境は大きく変わりました。これまでのテレビやラジオ、新聞や雑誌といったメディアでは、移動を伴わないと情報が手に入りませんでした。テレビは家にいないと見られませんし、本は書店でないと手に入りませんよね。それに対して、常に携帯しているスマートフォンなら、いつどこにいても情報をとることができる。生活者も、その瞬間その瞬間の情報がほしいという風に気持ちが変わってきているようです。コンテンツについても、テレビではなく、「テレビ的なもの」でいいから早く見たいというように変化してきています。

またスマートフォンによって、情報をFacebookやニュースアプリなどから得たり、検索したりといったように、情報の入手経路にも変化が生じています。いわゆる“分散型メディア”になり、生活者はメディアまで行かず、プラットフォーム上で長時間過ごすようになっているわけです。メディアもそうした状況に最適化させようとして、たとえばGoogleやFacebook、SmartNewsなど複数のチャネルにコンテンツを分散させる「ディストリビューション戦略」をとるようになりました。この戦略で必要なことは3点あります。ひとつは各チャネルの特徴を意識してコンテンツや広告をつくること。次にチャネルへの配信、つまりディストリビューション(分散方法)を最適化する必要がある。最後に、これまでは自社メディアに来た数字だけをカウントしていたと思いますが、分散型メディアの数字も加える必要があります。

広告は本当に嫌われているのか?

菅原
続いて話したいのは、広告が嫌われているのではないか?というテーマについて。世界で4億人がアドブロックを利用していると言われているので、たしかに大きな課題といえるでしょう。広告を嫌う理由としては、「見たいものの邪魔になっている」「表示が遅い」「クリエイティブが望んでいるものではない」といったことが考えられます。メディア体験の質というのは、記事だけでなく広告も含めて決まりますから、これは解決すべき課題です。記事しか見ないという傾向は、世代が若くなればなるほど強まっています。媒体社、広告会社、テクノロジープラットフォームにとって重要なのは、ユーザー体験を阻害しないことです。また、広告の必須条件として、記事を高速で表示すること、スクリーンを最適化すること、不快と感じるクリエイティブをなくすこと、広告がコンテンツ体験の邪魔をしないことが挙げられると思います。

一方で、市場を大きくするには、ダイレクトレスポンスだけでは十分ではありません。必要なのはブランドを伝えていくことですが、それをインターネット広告でできるでしょうか。ブランド価値の最大化には、認知、理解、共感が大切といわれていますが、認知に加え、理解と共感を得ていくには、広告を見るだけでなく、コンテンツの中身まで読んでもらうことが必要。そして読んでもらうにはブランドを語らなければなりません。しかし、誰に、何を、どのように語ればいいのでしょうか。そもそもブランドの話を聞いてくれるのかわかりません。

ということで、広告が嫌われるといわれる時代にブランドの顧客育成をするには、データを使ってチャネルの分散化にも、広告のディストリビューションにも対応しなければなりません。この点について、これから博報堂DYメディアパートナーズの柴田さんに話をうかがっていきたいと思います。

大切なのは「タイミング」と「価値観」からの「顧客理解」

菅原
まず柴田さん、広告が嫌われる時代になったと思いますか。

柴田
広告そのものが嫌いというのではなく、“嫌いと感じるとき”と“そうでないとき“があるのではないでしょうか。好きなタレントさんのものであったり、いいタイミングであったりすれば、むしろ嬉しいこともありますよね。逆に、朝のすごく忙しい時間帯に広告が出てきて、そのせいで記事をきちんと読めないとなるといらいらするかもしれない。

菅原
タイミングやコンテンツ次第ということですよね。

柴田 
そうですね。この「タイミング」について私たちはいろいろと工夫しています。
まず前提として、私たち広告会社は、広告主や媒体社、その先にある生活者が、いかに長期的に付き合っていけるかをきちんと考えることが大事だと考えています。そのためには、生活者のことを今以上に詳しく知らないといけません。そこで私たちは、生活者の行動(24時間365日の行動、興味関心、接触メディア等)をデータとしてDMPに蓄積し始めていて、マーケティングや広告配信に活用する仕組みをつくっています。

菅原
確かに、朝の通勤時に見たいのは新しい情報で、夜は自宅でリラックスして読めるものがほしいなど、同じ人でも時間などによってモチベーションは全然違いますよね。

柴田
そうなのです。だから、一人ひとりを丁寧に理解していこうと思っているのです。
たとえば、コンパクトカーを買いたいという女性でも、24時間ずっと車のことを考えているわけではありませんよね。一方、スーパーマーケットに行く直前には、必ず食材や日用品のことなどを考えるはずです。そうした、“ある1日の朝起きてから寝るまでの興味関心の移り変わり”を細かく調べて、タイミングを把握するということはとても大切だと思います。

菅原 
人が重要ということですね。人を知るためには、どういったデータを活用しようと思われていますか。

柴田
複数のデータを組み合わせることが大切だと考えています。POSデータや調査データなどを組み合わせて、ターゲットとなる生活者の行動表をつくるというイメージです。

菅原 
そのデータをもとにした行動表を使って、ブランド側がやりたいことをいつ、どのタイミングで発信するかを決めるということですね。

柴田
はい、そうです。このときにもう1つ大事にしているものがあります。それが「価値観」です。
たとえば、10万円の炊飯器を買う人と3万円の炊飯器を買う人との間には、価格以上の価値観の差があるように思います。プレミアムビールを飲む人と発泡酒を飲む人もそうです。その価値観の差、違いは何によるものかを踏み込んで考えることによって、顧客理解を深められるのではないかというのが、今の私たちのテーマです。

やはりブランディングの第一歩は、人を理解することだろうと思います。SmartNewsの場合でも、長時間接している人は多いですよね。具体的にはどのくらいになるのでしょうか。

菅原 
毎日使っていただいている人で、11分から12分でしょうか。

柴田
毎日、24時間の中で11分も見ている。そんなに見ているデジタルメディアをどうブランディングに取り入れ、さらにテレビなどほかのメディアとどのように組み合わせるかを考えることが大切でしょうね。まさに人による。そのあたりをもっとフラットに考えていければと思います。

菅原
ターゲットによるわけですね。

生活者の生涯価値を高めるための「新しいCRM」へ

菅原
いまおっしゃったようなメディアミックスについては、どう取り組まれていますか。

柴田 
調査・設計段階ではかなり細かくデータ見ています。しかし、実際の施策では大胆に、ビジネスインパクトの大きさを考えて施策を決めています。

菅原
その行動表を使って、ブランドのストーリーテリング、顧客育成にはどのように取り組む予定ですか。

柴田
分析するための時間軸を長くとって長期的に人を追いかけていこうと考えています。広告主の皆様の顧客データに、私たちのデータを加えて長期的な生活者のマネジメントを進めていきたいと思っています。

また、生活者の嗜好や購買チャネルが多様化する中で、生活者の生涯価値を高める新しい考え方のCRMが必要だと思っています。すでに博報堂・博報堂DYメディアパートナーズでは、企業のCRM活動の改革と、顧客生涯価値(LTV)の最大化を支援する新しいサービスも始めています。これは「HAKUHODO Advanced CRM Program」と呼ぶもので、博報堂DYグループ独自の生活者データを集めた「生活者DMP」と、企業が持つ自社のさまざまなデータを掛け合わせ、マーケティング戦略からチャネル、システム、データ戦略まですべてのCRM領域にワンストップで対応するサービスです。

菅原 
では広告も含めた“コンテンツ”を考えるとき、タイアップもそうですが、誰がつくるものなのでしょうか。

柴田
媒体社のコンテンツについては、もちろん媒体社につくっていただきたいと考えています。自分たちの媒体のことや、ユーザーのことを最もよく知っていると思うからです。

菅原
ユーザーの興味や関心と商品とを刷り合わせていくことが重要ということですね。

柴田
タイミングを図る上での最大の変数は、いまユーザーの興味や関心がどこにあるのか。それを理解する必要がありますね。

菅原
情報量が増え、ユーザーの選択肢も増えている時代です。ただ商品名を連呼したり、商品のスペックだけを語ったりする戦略もありますが、媒体社の力を借りる必要もあるということですね。

柴田
そうですね。一緒に取り組んでいけたらと思います。

菅原
なるほど。お時間になりましたので以上となります。柴田さん、今日はありがとうございました。

 

■プロフィール

菅原 健一
スマートニュース株式会社 ブランド広告責任者
スケールアウト社(現Supership社)にてデジタル広告プラットフォームのサービス開発とマーケティングを担当。株式会社medibaによるスケールアウト社買収に伴いmedibaのCMOに就任、広告事業およびマーケティング施策を牽引。スケールアウト社、株式会社nanapi、株式会社ビットセラー3社が合併しSupership社となり、同社CMOとして、ブランド広告主の課題解決やアドテクノロジー、データドリブンマーケティングの啓蒙、事業展開に貢献。2016年6月より現職。

柴田 貞規
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ  データドリブンメディアマーケティングセンター(DATA WiNGS)
データマネジメントプラットフォーム部 部長
博報堂DYグループの「生活者DMP」の企画・プロデュース責任者。「生活者DMP」を使ったマーケティングの高度化への取り組みを行っている。2016年4月にヤフー株式会社と合同で設立した、株式会社Handy Marketing のCMO。

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