レポート
カンファレンス
オンとオフの掛け合わせが最強のデータを創造する(ad:tech tokyo2015より)
REPORT

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2015年12月1、2日の2日間にわたって開催された、デジタルマーケティングの最新情報が集まる「ad:tech tokyo2015」。本セッションでは、ダイレクトマーケティングビジネスセンター竹下伸哉が登壇。グローバルに展開する代表的なB2C、またB2Bのブランド企業の方々と、オムニチャネルでの最適なUX実現のためのデータ活用方法とは、また自社ブランドらしさをどのように実現していくのかなどについてディスカッションしました。
(以下敬称略)

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■各ブランド企業、それぞれの取り組み

石黒:ユーザー企業の皆さんも我々サプライヤーも、あらゆる接点からデータを持ってきて、個を知りエンゲージメントしていくというゴールは見えている。ではそこに向かって、何をどんなやり方でやっていけばよいのか。本日はデジタルマーケティングの各分野で活躍される方々に、各社の取り組みを紹介しながら語っていただければと思います。

長見:スターバックスの長見です。私たちのデータの主な出どころはスターバックス カードで、80万人以上のお客様の購買履歴を保持しています。ほかに、オンラインストアのデータ、メールやアンケートのログなどが加わります。それらのデータの分析結果をもとに、さまざまな施策にトライしています。

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1to1はマスマーケティングに比べて効率が悪いと考えています。マスマーケティングでは1つしか必要ないプランとアクションを無数にやらないといけないわけですから、1to1であることにこだわるのは得策ではなないと思うのです。1to1はテストとリサーチの場ととらえ、この仮説は筋がいいとなったときに、ナショナルプロモーションに拡大させるか、一部店舗で展開するかを決めていけばよい。実際にテストした結果を自分たちの知見として貯めていけることは素晴らしい資産になると思うんです。人にデータが蓄積されていっていると言っていいかもしれないですね。お客様のことを知り、より筋のよい仮説を発見するために、1to1は非効率ではあっても大量に積極的にやっていく必要があると考えています。

田口:サンリオの田口です。ご存じの方もいるかもしれませんが、今年(2015年)「ちゃんりおメーカー」が話題になりました。これは、Web上で自分のアバターをつくってネット上で友人とシェアできるという企画です。まずはメディアや SNSを通じてちゃんりおの認知を広め、さらにピューロランドに自分のちゃんりおを持って来ればサンリオキャラクターとともにバーチャルなパレードに参加できるという2段階の施策でピューロランドへの集客増を狙ったプロモーションでした。Webサイトは 1カ月半で 1億PVを超え、1300万体ものちゃんりおがつくられるという盛況ぶりにもかかわらず、実際の集客数は期待値を下回りました。実は最も流行っていたのは、自分のちゃんりおではなく友人や恋人、好きな芸能人のちゃんりおをつくることでした。エグザイルの全メンバーをつくってもピューロランドに連れて行くとかないですよね。ユーザーのニーズは我々の考えたシナリオとは全く違うところにあったのです。

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サンリオには多彩なキャラクターの他に、テーマパーク、国内200店舗を超えるショップ、Webサイトや数多くのSNSアカウントなど多様な顧客接点があります。加えて、商品も卸売・小売(店舗、EC)・ライセンスという異なるチャネルを通じて販売されており、ユーザーのニーズと購買行動は複雑に細分化されています。とりわけ流通をライセンシーに依存する膨大な数のライセンス商品はこうした情報の把握が極めて困難です。今後はオンライン/オフラインでの接触データを収集し、様々な特徴・属性を持つファンの実像を可視化することで、モザイク状のユーザーセグメントに対して個別最適なコミュニケーションを実現していくことが課題です。

大森:横河電気の大森です。コンビナートなどを中心にB2Bのビジネスを行っていますが、近年急速に海外での売り上げが伸びていて、海外でのブランド訴求が課題になっています。2015年に100周年を迎えたのですが、同じように100周年を迎える会社は国内に15万社もあり、かえって海外のほうが100周年の持つ意味は大きいんですね。それもあり、新規の海外のお客様にブランド体験してもらうために、ウォールストリートジャーナルやフィナンシャル・タイムズなどのビジネスサイトに特設記事を設けるなどして100周年記念サイトに誘導しています。おかげさまで動画の再生回数も右肩上がりで、問い合わせが4倍になったという嬉しい結果も出ました。

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ウェブサイトは海外各エリアにありますが、南米、東南アジアは弱くてアメリカは強く、ヨーロッパは国によってまちまちといったように、幅がある。新しいCMSに移行しグローバルにコンテンツを強化する必要があると思います。これからはマーケティングオートメーションもスタートさせたいですね。B2Bはやはり営業が強いので、重要なのは営業のメンバー、マーケティングのメンバーがどれだけコミュニケーションを取り合い、ゼロから構築していけるのかだと思います。

 ■確実にわかるポイントから取り組んでいく

竹下:博報堂DYメディアパートナーズの竹下です。私からは、総論的になりますがオンライン、オフラインの両側面で、お客様データ周辺からどういった展開の方法があるかをお話しさせてください。我々が企業様のお手伝いをするとき、まず最大ポテンシャルの人に広く知ってもらうためのマス広告と、すでにお客様になっている人に対してのコミュニケーションという2方向があります。今日のテーマに関して言えば、この両者の中央周辺にいる、お客様になる寸前の方とか、まだそこまで関係ができていない方、あるいは関係ができたばかりの方など、お客様データを中心に活用することで、解像度が上がって見えてくるものがあるんじゃないかと。それにより、いまの施策が最適かどうかなどを仕分けし、うまく配置できるようになるかと思います。
データの種類を単純に増やすとか、アナログな行動データもデジタル化するとか、調査ではなくアクチュアルに置き換えてデータ精度を上げるなどしていけば、さまざまなデータがたまっていくでしょう。それらを統合・整理していき、エンゲージメントの強さ、Hot度を知ることが必要です。自動車メーカーさんなら、見積もりをとった方と、試乗して頂いた方、単純に新車を見に来たという人のHot度の違いだけでなく、たとえばネット上でもメールをすぐ開いてくれるかどうかなどで、またわかるところもある。いずれにせよポイントは、「お客様になった」「IDができた」というところを基点に、確実にわかること、小さな発見を積み重ねていくことから取り組んでいった方がKPI設計にはいいのかなと思います。そういう点で、我々はまだ断片的にしか皆様のお手伝いができていないんだなというのを、今日お話を聞いていて思いました。

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石黒:オンとオフの統合について、ここにいる皆さんがまさにいま同じゴールを目指しているんだと思います。ただやり方がさまざまで、そこに各社の個性が出てくるのではないでしょうか。今日のお話が来場の皆さんの開発やコミュニケーションのなかでお役にたてたら、と思います。ありがとうございました。

【プロフィール】

モデレーター:
石黒不二代 ネットイヤーグループ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO
名古屋大学経済学部卒業。米スタンフォード大学MBAを取得。ブラザー工業にて海外向けのマーケティング、スワロフスキージャパンにて新規事業担当のマネージャーを務めた後、シリコンバレーにてハイテク系コンサルティング会社を設立。1999年にネットイヤーグループのMBOに参画。2000年から現職。近年は、内閣府の「選択する未来」委員会や経済産業省の産業構造審議会 商務流通情報分科会 情報経済小委員会の委員などの公職も務める。

スピーカー:
長見明 スターバックス コーヒー ジャパン株式会社 マーケティングコミュニケーション本部 デジタル戦略部
PR会社、フリーランス プランナー、WEBコンサルティング会社を経て、2006年にスターバックスに入社。コンビニ商品「スターバックス ディスカバリーズ」のマーケティング担当後、2008年からWEB担当に。現在はWebマーケティング、ソーシャルメディア、EC、スターバックス カード、データベースマーケティングなど、デジタルマーケティング全体を統括。

大森靖 横河電機株式会社 マーケティング本部 IAマーケティングセンター デジタルマーケティング室長
大学卒業後に㈱横河電機製作所(現横河電機㈱)に入社。2013年から制御ビジネスのマーケティング部門にて、全社グローバルのウェブサイトの刷新やデジタルコミュニケーション戦略強化を担当。現職ではユーザビリティ向上のためのデザイン刷新、グローバルガバナンスの強化、サイト分析の強化、動画マーケティングの始動などブランディング強化策に着手。現在はビジネス経験を活かしながら、お客様との双方向コミュニケーションを軸にデジタルマーケティングのグローバル展開を推進している。

田口歩 株式会社サンリオ ジェネラルマネージャー
1990年に国際データ通信事業者に入社。プロバイダー事業の立ち上げにかかわった後、1997年より動画配信、音楽配信のスタートアップ企業に参画。 2005年にWebコンサルティング会社に入社後、代表取締役に就任。親会社である株式会社アイ・エム・ジェイの経営企画管掌執行役員を経て 2012年サンリオに入社、オウンドメディアを中心にデジタルマーケティング全般を統括する。

竹下伸哉 株式会社博報堂DYメディアパートナーズ ダイレクトマーケティングビジネスセンターダイレクトマーケティングプラニング部
1998年日本電信電話(NTT)に入社し、システムインテグレーション、宣伝・プロモーション、コンテンツ配信企画に従事。2006年博報堂入社。現在に至るまでマーケティング職として従事し、ブランドマーケティング、デジタルキャンペーンプランニングを中心に携わる。近年はスマートデバイスアプリや、企業が保有する顧客や売上データから得られるアクチュアルデータをメインに活用する、オンライン/オフラインメディアやCRMの統合プランニングの推進に取り組んでいる。

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