レポート
アドウィーク・アジア
日本はヤバい!? ~広告&コンサル業界デジタルリーダーからの提言~ ( アドバタイジングウィーク・アジア2018 博報堂DYグループセミナーレポート)
REPORT

今年で3回目を迎えるアドバタイジングウィーク・アジアが、2018年5月14日~17日に六本木の東京ミッドタウンで開催され、4日間で延べ13,000人超が集まりました。中でも、昨年好評だったコンサルティング会社VS広告会社のパネリストが再集結した本セッションは、多くの立ち見が出る盛況ぶりでした。イグナイトの笠松良彦氏、博報堂及び博報堂DYメディアパートナーズの安藤元博執行役員、アクセンチュアの黒川順一郎氏、電通デジタルの鈴木禎久氏による、刺激的なセッションの様子をご紹介します。

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パネリスト
安藤元博:博報堂・博報堂DYメディアパートナーズ 執行役員
鈴木禎久:電通デジタル 代表取締役社長COO
黒川順一郎:アクセンチュアインタラクティブ日本グループ統括/株式会社 IMJ 代表取締役社長兼CEO
モデレーター
笠松 良彦 :アドバタイジングウィーク・アジア エグゼクティブプロデューサー、イグナイト 代表取締役社長

デジタルマーケティングとは何か。その意味するものを考える

笠松
モデレーターの笠松です。昨年はこのメンバーともう一人、計5人が、エージェンシーとコンサルという、競合関係にある2つの業界の代表として意見を交わしました。一方で今年のテーマについては、“バーサス”の話よりも、会社の垣根を超えてやるべきこと、考えることがあるのではないかと考えた。そこで今回は「このままでは日本はヤバい」というテーマで、競合を超えて思いを一つにし、何かメッセージができればと考えています。

まずは2017年度の世界の時価総額ランキングを見てください。上位のほとんどがアメリカか中国で、国内ではトヨタがやっと現われます。国内で見れば営業利益何兆という素晴らしい企業でも、世界レベルで見ればこれほど下位になってしまうというのが現状です。特に中国企業に注目して見ると、有名なテンセント、アリババのほか政府系の銀行、そして民間の保険会社も上位にきています。さらに時価総額ランキングを1992年当時と2016年で比較してみると、1992年は軒並み日本企業が占めていたのが、2016年度には一つも見当たりません。

特にいま成長著しい中国企業では、「Online Merges Offline(OMO)」をキーワードに、数億人のモバイルユーザーの生活すべてがデジタル化されつつあり、そうしたデジタル企業がより良い体験サービスをお客様の生活に溶け込ませています。日本企業がいくら顧客第一主義だとかお客様目線、と言っていても実現できなかった間に、彼らはデジタルの力でそういう社会を実現させていっている。そこで改めて、デジタルマーケティングとはどういうことなのかをまずは考えてみたいと思います。

安藤
経済やビジネスのデジタル化が進んでいるかどうかで、成長に大きく差が出ている。そのカギになるのは「デジタルマーケティング」なのか、という質問ですね。でも世界の時価総額上位の会社群はそれをやったから今の位置にたどりついたのかというと、そうではない。狭い意味での「デジタルマーケティング」という水準の話ではなくて、デジタルとは何か、マーケティングとは何かを考えることが企業の成長の本質につながる、ということですよね。
さまざまな人の定義するデジタルや情報経済について見てみると、まず「デジタル化とは情報をコード化し自由に扱えるようになったこと」といえる。そこに経済的側面から付け加えると、複製の限界費用がゼロに近いということがある。加えて、物理的資源と異なり「電子の世界のアイデアは使い続けてもすり減ることがない(有限でない)ので、アイデアの組み合わせの爆発的な拡大によるイノベーションが可能になる」という見方もあります。一方で、経済というのは、希少性が価値を左右するもの。要は有限な部分が価値を形成するに際して重要になってきます。提供されるアイデアが爆発的に拡張するとき、相対的に限られるものは何かというと、生活者のアテンションになる。つまり、情報の豊かさは相対的な関心の希少性をつくりだし、生活者の潜在的関心、価値観を力強く掘り起こす。これは、いわばマーケティングの本質につながる考え方だと思います。イノベーションとマーケティングがいまリンクしてきているのは、そういう背景があるからであり、この論理に共振している企業活動がおおきな成長につながっている。時間が限られていて、かなり端折って話しましたので難しいかもしれませんが、いま世界でおこっているのは理屈っぽく言うとそういうことです。

(左から)博報堂・博報堂DYメディアパートナーズ 執行役員 安藤元博、アドバタイジングウィーク・アジア エグゼクティブプロデューサー・イグナイト 代表取締役社長 笠松 良彦氏

(左から)博報堂・博報堂DYメディアパートナーズ 執行役員 安藤元博、アドバタイジングウィーク・アジア エグゼクティブプロデューサー・イグナイト 代表取締役社長 笠松 良彦氏

笠松
結構難しい話になりましたが、黒川さんはいかがですか。

黒川
僕はそもそもマーケターではないので、デジタルマーケティングという言葉自体に違和感があります。消費者はデジタルデバイスに触れているので、デジタルを使ったマーケティングが必然的に伸びるというのは理解できます。でもデジタルの本質は、見えないものが見えるようになるとか、数えられないものが数えられるようになるとか、そういうことを実現するテクノロジー、手段です。そういうデジタルが当たり前になってきた世の中で、そこでしかできないどんな体験やサービスを提供できるかを考えるべきであって、それはデジタルかもしれないしフィジカルかもしれない。そういう意味で、弊社では最近「デジタルイズデッド」ということも言われています。デジタルはそもそもマーケティングの一手法であるし、人間の体験を構成するのはどこまでいってもフィジカルなものである。デジタルを追うだけでは何も生まれないと思うんです。手段を目的化してはだめだと思いますね。

笠松
鈴木さんどうですか。

鈴木
我々としては、マーケティングのなかのデジタル領域という立ち位置だったんですが、メディアも生活もデジタル化されたいま、マーケティングに対しても発想を少し変えないといけないでしょうね。つまりこれまで、広告の枠とか流通の棚をおさえることだったり、それらを大規模に展開して認知をとることで販売に結び付けるといった発想だったわけですが、デジタル化が当たり前のマーケティングにおいてはそういう押し付けでは通用しなくなる。これは去年安藤さんが言っていたことですが、人に合わせてインタラクティブにやっていく、ピープルドリブンマーケティングの発想に変えていかなくてはいけないのだと思います。たとえば駅の近くにお店をつくりました、来てくださいねというのがこれまでのマーケティングだったとすると、通っているお客さんのほうにこちらからどんどんアクセスして、交通手段を調べたければすぐ調べられるし、何かのチケットを買いたいなら買えるし、ペイメントしたいんだったらペイメントできるというように、デジタルを手段とすることで人に本当に寄り添ったサービスが可能になる。これはマーケティングの原点ともいえる考え方だと思います。

電通デジタル 代表取締役社長COO鈴木禎久氏

電通デジタル 代表取締役社長COO鈴木禎久氏

デジタル企業の強みは、生活者価値に依拠し、やれることを全部やれる体制にあること。

笠松
私が個人的に思うのは、マーケティングという大きな領域の中にデジタルがあるということ。決してデジタルがマーケティング全体を包括するものではない。ですからデジタルマーケティングという言葉を安易に使って、それですべて解決するという風に考えるのは危険だと思っています。主体はあくまでも人で、人の生活の中にデジタルが入り込んでいるだけの話なんです。それを示しているのが先ほどの話にあったOMOの概念。中国のトップの人たちが、アナログもデジタルも関係ない、すべてカスタマイズできるんですよと言っていたのが印象的でした。

安藤
デジタル出自の企業は最初からそういうものだと理解しているでしょうね。じゃあ企業のマーケティングにどうデジタルを取り入れるかという話になるわけでしょうが、その際ぼくが気になるのは、デジタル以前に、実はほとんどの企業でそもそも「マーケティング」ができていないんじゃないか、それくらいの見方でいたほうが実態に合っているのではないかとも思うんです。開発や製造段階で固まっていたり、逆に営業・販売現場の要請により諸条件と仕様が形作られている新商品に対して、我々のような広告会社があれこれと作戦を考えるというようなことがあったとしたら、それは本来の「マーケティング」ではない。一方、デジタル出自の企業の行為には逆に、マーケティングが自然に組み込まれているといえます。バリューチェーンを組み替えつつ、生活者と向き合いながら価値をつくるということが生業なので。だから成長できているのではないかと思いますね。

黒川
僕らコンサルのビジネスというのは、クライアントのビジネスパフォーマンスを上げることが目的なので、そのための手段としてシステムを作ったりマーケティングを行うというのはあります。決してそれ自体が目的になることはないんですね。一方、広告業界に関していうと……メディアの数も限られているので、そのパイを取り合っていて、結果として競合を気にしているように見える。だからその話とコンサルの話はイコールではないと思う。

安藤
なるほど。クライアントの成長を目的として仕事している点ではいうまでもなくぼくらも一緒ですが、限られた市場のシェア競争に気をとられているのではないか、といわれると、自己反省がないわけではないのです。だからこそあらたな協働が必要になってくるのかもしれない。

アクセンチュアインタラクティブ日本グループ統括/株式会社 IMJ 代表取締役社長兼CEO 黒川順一郎氏

アクセンチュアインタラクティブ日本グループ統括/株式会社 IMJ 代表取締役社長兼CEO 黒川順一郎氏

笠松
確かに、僕らが仕事をしているそもそもの目的は、クライアントの事業の成長をつくることのはず。デジタルだろうが何だろうが大切なのはそこです。では我々が事業成長するため、あるいは支援するために何が必要だと改めて思いますか?

鈴木
ここにいる方々とぶつかってしまうんですが、企業成長のためには我々はあらゆることをやっていく必要があると思っている。そのとき、自分たちのドメインがマーケットに合っていなければ、状況に応じてちゃんと作り替えていくことが必要でしょうね。先ほどの例でいうと、これまでこちらはお店をつくるだけだった。魚屋です、八百屋です、という感じで。でもお客様は魚も欲しいし野菜も欲しい。そうしたときに、自分たちとほかの企業とでデータ連携するなどして、お客様に本当にいいビジネス、幸せになるものを提供できる可能性がまだまだ無限大にあると考えています。広告業でもないしコンサルでもない、いわばマッチング業を私たちはやっていけるのではないかと。縦じゃなくて横の連携、コンソーシアムしながら新しいものをつくっていけたらいいですよね。

安藤
賛成です。デジタル企業は、生活者価値に依拠して、リソースを組み換え、やれることを全部やっていく仕組みに長けている。だから伸びていけるんですね。
コンサルも広告業界もアイデアの交換ができるといいと思っています。

鈴木
ジャストアイデアですが、引っ越し業界でいうと、引っ越し前には古い家具を処分したいというニーズがあり、引っ越し後は家具を買いたいというニーズがある。それぞれの業界がばらばらなわけですが、それらのサービスをシームレスにタイミングよく利用することが可能になれば、それは新しいアイデアになりますよね。

黒川
たとえば旅行に行くとすると、家で空港までのバスを調べて、空港についたらチェックインして移動して、現地についたらまた調べて……確かに、その間に一体何社会社が入っているのかと思わされます。この連続体をどうしたらつなげていくことができるんでしょうか。たとえば我々のような会社が間に入っていくにしても、その方針を各企業でつなげていくことは実際非常に難しい気がしますが。

笠松
テンセントではないですが、異なる会社が持つデータをグループとして共有し、カスタマージャーニーをつなげていくことはできると思います。膨大なビッグデータも集まるはずです。ただ現状だと、日本では難しいかもしれませんね。

安藤
データに関していうと、安全性をきちんと守りつつデータを有効に活用するためには、特別な技術や仕組みが必要です。社会に対し、安心できる形でそのインフラを提供する役割の一端を、私達が担わなければいけません。

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これから業界で求められる人材、スキルセットとは?

笠松
なかなか議論が収まりませんが、最後に、この業界に必要なスキルセットはそれぞれ何だと思いますか?

鈴木
いかにユニークで新しいアイデアが出せるかどうかが重要なので、これからの企業にはある意味「変人」が求められているのではないかと思いますね。これまで生産性、合理性を追い求めてきたけど、これからはある種隙間のようなものが成長のきっかけになるような気がするからです。こんなことやったら大変だよ、ではなくて、とりあえずやってみようよと言える変人でしょうか。

黒川
僕はちょっと違いますね。とがった人も必要かとは思いますが、そういう人はむしろスタートアップやベンチャーに向いているような気がします。これからは、僕らの業界に限らず、確たるスキルを持ちながらも、協調性、社会性とかも併せ持ったバランスのいいひとが求められると思う。マシンにはできないような、人のエモーショナルなところもしっかりと感じ取り、対応できるような人が欲しいですね。

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安藤
博報堂という会社に長くい続けている僕が言うことではないかもしれませんが、たとえばアクセンチュアだったり電通だったり博報堂だったりに入らないといい仕事ができないと無前提に考えるのは、いま、ちょっと違うと思います。入るにしても、自分がやろうとすることを実現するために、互いに理解し合えるこの会社に行ってみようか、くらいの感覚でいいというか。怒られるかもしれませんが(笑)。離合集散、流動的に、枠を超えて考える人の集団にならないと、会社を超えて業界全体、経済社会全体で何かをやるとか、そういう発想ができなくなると思います。

黒川
それから、それぞれに専門があったとして、大事なのはその人たちが集まることだと思うんです。つまり一人のジェネラリストが全部カバーできるような世の中ではなくなってきているので、クリエイターやマーケターそれぞれが専門性を磨きつつ、確かなコミュニケーション能力とコラボレーション力で、チームにならないといけない。デジタルにおいて最強のチームになりえるのは、そんないろんなタレントが集まったチームだと思いますね。

笠松
それには僕も同感ですね。イグナイトはいま3人しかいませんが、それぞれがプロフェッショナルで、違う特徴を持っています。でもチームメイト力があるから、コミュニケーションもできるし、いざというときに集まることもできる。鈴木さんのおっしゃっていた変人のようなとんがった人でも、同時にコミュニケーション能力、チームメイト力がなければこの先、生き残っていけないような気はしますね。

話は尽きませんが、本日は以上となります。お三方、ありがとうございました。

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