レポート
アドテック東京
ソーシャルエンゲージメントの正体。「何となく」はもうやめませんか?(ad:tech tokyo2016より)
REPORT

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9月20日、21日の2日間にわたり、アジア最大級のマーケティングカンファレンス「ad:tech tokyo 2016(アドテック東京)」が東京国際フォーラムにて開催され、業界を牽引するキーパーソンたちによって、最先端のマーケティング・テクノロジーについて熱い議論が交わされました。本セッションでは、(株)サイバーエージェントの淵之上弘インターネット広告事業本部統括がモデレーターを務め、(株)リクルートライフスタイルの塩見直輔執行役員、(株)博報堂DYデジタルの越一峰がスピーカーとして登壇。スピーカーの携わった事例をもとに、ソーシャルエンゲージメントの正体や、その評価方法などに迫りました。(以下敬称略)

■事例から見るソーシャルメディアの働きと評価

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淵之上:本日モデレーターを務める淵之上です。ソーシャルメディアというと、フェイスブックやツイッター、LINEを思い浮かべると思います。そのソーシャルメディアは、シェアやリツイートなどさまざまな指標をもとに運営されているはずです。本日は事例をもとに、ソーシャルメデイアの働きとその評価、そして、次のアクションにどのようにつなげていくかを考えたいと思います。

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塩見:リクルートライフスタイルでは、「じゃらん」「ホットペッパーグルメ」「ホットペッパービューティー」「ポンパレ」など、日常消費系のサービスを運営しています。ソーシャルメディアへの取り組みは5、6年前からです。当初は、競合に勝っているということを社内アピールして施策継続していたのですが、次第に費用対効果はどうか、儲かっているのかと問われるようになりました。キャンペーンを行うことで会員獲得ができ、予約が増えるといった証明は実現できたのですが、ボリュームが大きくないためほかに投資した方がいいのではという話になってしまいました。そこで、苦肉の策として「拡散すると売り上げが上がる」という方程式をなんとか証明しにいきました。風が吹けば桶屋が儲かると同じスタイルで、「拡散すると被リンクが増え、被リンクが増えると検索順位が上がり、検索順位が上がると流入が増え、流入が増えると売り上げがアップする」と、拡散と売り上げの間に相関関係があることを調べて説明しました。これによりソーシャルメディアの運用や投資は「一命を取り留め」ました。その後、ソーシャルメディアのアドが伸びて現在に至っています。
フェイスブックやツイッターのアド、私たちの場合はホットペッパーなどのアプリの集客に使用していますが、サーチアドやディスプレイアドより効率がよく、ボリュームも出るのでメイン施策となっています。
ここで少し別の話題です。アドのコンバージョンはラストクリック計測で評価するというのが業界標準になっているかと思うのですが、果たして本当に正しいのでしょうか。最近はスプリット配信をし、ABテストの要領でコンバージョンのリフト値を計測してアドの効果を測る手法があります。我々が行った実証実験では、リターゲティング広告など顕在層向け施策は過度に評価され、逆に潜在層にリーチするアドは過小評価されている傾向が掴めました。ソーシャル系の施策もきっと過小評価されている側。ソーシャルメディアはIDベースのスプリット配信も可能ですし、評価の方法を見直せば真の価値が見えてくるのではないかと思っています。

淵之上:今のお話に関連して、私からも事例を紹介したいと思います。フェイスブックでのコンバージョンのリフト値やCPAについて調べると、テレビCMや動画、静止画を併せて行った場合が、コンバージョンのリフト値はやはり最も高くなりますし、トータルのCPAは最も安くなりました。しかし、テレビCMと静止画、テレビCMと動画でもリフト値はそれなりにあり、SNSの効果は見方によって変わるといえます。(図①参照)

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では、次に越さんお願いします。

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越:私からはコンバージョンのポイントが設計しにくい場合にどうするかといったことを、4つの事例で説明したいと思います。ケース1は遊技場、公営競技、また金融関係など企業イメージが非常に重要な業界の場合です。こうした業界ではCSRの広報が全体戦略においても重要なので、指標としては、CSR活動の認知や理解が企業への好意や共感に結びつくかを見ていきます。しかし、それはソーシャルメディアのKPIだけでは計れないので、インターネット調査を行います。まず、ファンや非ファンなどユーザー別に好意度などブランド指標を計り、効果検証を行います。さらに、配信コンテンツのカテゴリーごとにブランドリフトの貢献度を計ります。貢献度が高いカテゴリがわかれば、どのコンテンツに注力していくべきかもわかるわけです。

ケース2は耐久消費財メーカーの事例です。当初は顧客との絆づくりを目的にアカウントを運営していましたが、そもそもファンに顧客が多いのかという疑問が生じ、そこに立ち返ってプレゼントキャンペーンへの応募に対してアンケートをつけました。アンケートでは予想以上に顧客が少なく、検討層が多いという結果になったので、ソーシャルメディアの運用の目的自体を変える必要があるとわかり、サブの目標だった検討層に向けた施策をメインに変えることになりました。検討層にアプローチして顧客に転換していきましょうとなったわけです。

淵之上:検討層から顧客への転換にはどのような施策があるのでしょうか?

越:そのブランドを購入、保有するとどのようなメリットがあるのか、生活に価値をもたらすのか、明確に訴求できるコンテンツを用意したりします。顧客ならメリットはわかっているので、例えば具体的な使い方などのコンテンツになりますが、検討層にはその手前のコンテンツに誘導します。

次にケース3です。こちらは映画会社等のエンタテインメント系企業です。目的は上映前、上映中の評判づくりで、評判の量だけでなく内容も重要になります。そのためにソーシャルメディアのアカウントや広告だけでなく、マスメディアやデジタル上のバイラル施策も含めて口コミ数を上げることが必要です。そして、ソーシャルリスニングツールを使って評判の量と質を見ていきます。口コミと興行収入の相関を見ていくと、成功した映画には共通の波形ができ、必要な口コミ数も概ねわかるので、そこに向けてキャンペーンやプロモーションでバズを起こしていきます。ブランドのアカウント発信だけではなく、その他のソーシャルの施策、マスメディアの施策やPRを含めた施策が必要となります。

淵之上:映画を観た後はともかく、公開前の口コミはどういうものですか。その口コミの計測はどのようにするのですか。

越:一般的には俳優や監督が来場したときのPRによる口コミや予告編への口コミなどがありますが、バイラルキャンペーンを実施するという方法もあります。口コミを分析するソーシャルリスニングツールはいろいろなものがあります。博報堂DYグループのオリジナルツールは、キーワードを設定するとそれに基づいて口コミを拾い、ポジ・ネガを自動的に判定してくれます。競合と比べて口コミはどうなっているかといったことがわかります。

ケース4は食品メーカーの例です。ブランドとファンの絆づくりを主目的にソーシャルメディア施策を行ってきましたが、ビジネスへの貢献を問われて、販促効果を解明することになりました。大型のイベントがあり、ソーシャルメディアでそこへ送客できているか、来場者アンケートを行って他のメディアと比べました。その結果、ソーシャルメディアの書き込みを見て来場したという人が、メルマガやブランドサイト、WEBニュース、TV番組などを見てきた人より多いということになりました。イベントでは物販も行っていたので、その売り上げにソーシャルメディアの割合をかけると売り上げ貢献額が算出でき、ソーシャルメディアの働きが具体的にわかったのです。

ここまでのポイントは、ソーシャルメディアのKPIだけでなく、コミュニケーションゴールやビジネスゴールのKGIも見ることです。また、ソーシャルメディアのアカウントだけでなく、リアルも含めてトータルにバズを起こし、その数や質を見ることも重要といえます。まとめると、コミュニケーションゴールを計るには、ブランド調査やソーシャルリスニングを活用し、ビジネスゴールを計るためには来場者アンケートやECやPOSデータを活用する、ということになります。(図②参照)

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淵之上 いろいろな手法があるわけですが、どのように使い分けをしているのですか?

越:ブランド企業の場合、ソーシャルメディアだけでのキャンペーンでは、並行して他の施策を行っていることもあって、POSとは相関関係を見ることは難しいと思います。そこで施策をプロットして、その貢献度を見るという方法もあるし、来場者アンケートをひとつの効果測定に使う手もあります。ブランドの好意度を上げるには調査をかけるべきです。さらにソーシャルリスニングで競合と比較するとかなり広がると思います。(図③参照)

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■指標×デジタルマーケッターがエンゲージメントの正体を明らかにする

塩見:ところで、アンケート調査には限界がありませんか。アンケートで「サイトにアクセスした」と答えていても、ログを見ると実際にはアクセスしていなかったということも少なくありません。何か工夫されていますか。

越:その通りですが、質問のつくり方次第で変わることもあります。客観性を担保するには、ソーシャルリスニングで見るというのも、ひとつの方法です。

塩見:アンケート調査はソーシャルメディアに有利になりがちで、ラストクリックでは不利になりがちという特性を、担当者は注意した方がいいと思います。

淵之上:ホットペッパーグルメなどで、店舗に行くといった具体的に行動まで計測していること、あるいは計測したいと思っていることはありますか。

塩見:これまではクーポンでチェックですね。位置情報を使った計測も実用化されていますので活用できないかと思っています。

越:どのくらい使われたかといったクーポンの動きをPOSで読み取ることはよくやりますね。特にLINEはやりやすく、複数の飲食店系の顧客のクーポンの利用や動きを併せて見るということもよくやっています。

淵之上:ソーシャルメディアの担当者は、エンゲージメントが必ずプラスがあって、ユーザーにはポジティブに働いているという認識があります。デジタルマーケッターのいいところは、結果を見て企画をブラシュアップするということですが、そこがなかなかうまく回らないのが今の課題です。最後の指標が見えれば、デジタルマーケッターの得意分野なので、エンゲージメントの正体も少しは明らかになると思います。今回は計測や指標のお話が多かったので、そんな感想を持ちました。

塩見:これまでの広告媒体は人の特定がクッキーベースでした。それがフェイスブックやLINEなどではIDベースになり、個人がほぼ100%特定できるようになり、今までできなかった計測が可能になっていると感じています。

淵之上:計測などの手法だけでなく、今回は触れることができませんでしたが、クリエイテイブや見せ方といったものも変わってきていると思います。

残念ですが以上でお時間となりました。本日はどうもありがとうございました。

■プロフィール
モデレーター:
淵之上 弘
(株)サイバーエージェントインターネット広告事業本部 統括
2008年、サイバーエージェントへ入社。インターネット広告事業本部にて、営業としてDB系最大手クライアントを担当。 2014年より統括に就任し、リスティング広告、ディスプレイ広告の運用、メディアの責任者を務める。

スピーカー:
塩見 直輔
(株)リクルートライフスタイル 執行役員
岡山県岡山市出身。2003年慶応義塾大学卒、ソフトバンクパブリッシング(株)入社。2007年(株)リクルート入社。2014年、(株)リクルートライフスタイル執行役員、(株)リクルートホールディングス ネットマーケティング推進室 室長に就任。インターネットマーケティングの責任者を務める。

越 一峰
(株)博報堂DYデジタル ソーシャルメディアマーケティンググループ グループリーダー
企業におけるソーシャルメディア活用のコンサルティングや運用支援、デジタルPRなどを担当。コンテンツクリエイティブと戦略的な流通・拡散設計によって、ソーシャルメディアやニュースメディアでの話題化および生活者との関係性構築を目指す。

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