レポート
アドテック東京
本当にわかっていますか?データの重要性を改めて問う(ad:tech tokyo2016より)
REPORT

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9月20日、21日の2日間にわたり、アジア最大級のマーケティングカンファレンス「ad:tech tokyo2016(アドテック東京)」が東京国際フォーラムにて開催され、業界を牽引するキーパーソンたちによって、最先端のマーケティング・テクノロジーについて熱い議論が交わされました。本セッションには(株)博報堂DYメディアパートナーズの柴田貞規が登壇。シーセンス(株)江川亮一代表取締役社長をモデレーターに、イオンドットコム(株)長谷川憲司CTO、ヤフー(株)マーケティングソリューションズカンパニー リサーチアナリシス部 天野武部長とともに、これまでどのようにデータ活用してきたのか、そして今後はどのようなデータを活かすことで新たなビシネス価値を生み出せるかなどについてディスカッションを展開しました。(以下敬称略)

■いま、データとどう向き合っている?

江川:本日は、最大の小売業であるイオンさま、メディアでナンバーワンのヤフーさま、それを陰ながら支えられている広告会社の博報堂DYメディアパートナーズを代表して、お三方に話をうかがっていければと思います。
まず伺いたいのは、1990年後半からデータベースを中心に各社いろいろなデータを蓄積していると思いますが、お三方はそれぞれそのデータにどのように向き合っているのか、現実のところを教えてください。

長谷川:イオンドットコムの長谷川です。イオンの大きな中期計画の一部であるデジタルシフトを加速させるため、普段はデジタルの専門家を集めた子会社で日々業務を行っています。
小売業界はデジタルとあまり接点がなさそうなイメージかもしれませんが、購入情報、フィナンシャルデータなどイオングループは大量のデータを保有しています。イオンのレジ通過人数は年間で10億人に上り、それぞれの購入データが実は昔から大分わかるようになっています。そうしたデータと対峙しながら、販促や陳列、需要予測、また配送ルートの最適化、商品開発などに活用しています。それを、きちっとしたサービスの形で、お客様にとってのライフタイムバリュー向上にどうつなげていけるかは課題の一つではありますね。

柴田:柴田です。博報堂DYグループ全体のデータマネジメントプラットフォームなどをつくりながら、企画設計の責任者をやらせていただいています。いま様々な角度から生活者を見直す作業をしています。
具体的には、4年くらい前から集めている3000万人くらいのデータを活用し、24時間365日のなかから、ちょっと嬉しい気持ちのタイミングをつかまえるとか、ブランドスイッチをしたくなるタイミングを計り、広告主さんや媒体社さんにお伝えしながら一緒に広告をつくっています。長谷川さんの場合、小売のファクトデータを使われますが、我々の場合はそれを含む生活全体を見ます。なのでデータもすごく小さな数万人単位のパネルデータから何千万のPOSデータまである。ビッグからスモール、シンプルなデータから複雑なデータまでを、ビッグデータ解析チームなども含めた割と大きな組織で扱っているという現状です。

天野:ヤフーの天野です。マーケティングソリューションズカンパニーという、検索連動型広告とディスプレイ広告を中心に広告事業を行う部門に所属しており、そのなかでもリサーチアナリシス部として、広告効果の調査をしたり、プロダクトやマーケットの状態などを分析、フィードバックしています。
私からは現状の話というより、データの価値についてお話しさせてください。よく皆さん、データ量が多いとか、更新頻度が高い、新しい、入手困難であるといったところに価値があると思われていますが、我々はそうではなく「説明力の高さ」にあると考えます。つまり何か予測したいものなどがあったときに、いかに説明できるかが重要なんです。たとえば通販化粧品の場合全国どこでも買えるので、都道府県のデータなどはあまり関係ない。それよりは女性に関係する情報が重要になる。不動産とは必要な情報が異なるわけです。目的が違えば必要なデータも変わる。その中で検索データは、潜在的な欲望が言語化され蓄積されたもので、汎用性が非常に高く、多くの事業者さんに活用してもらえるものだと考えます。ですから我々は、さまざまなマーケティングの課題に対するソリューションとしての検索データを確立することを目指しています。

■ペルソナとモーメントの組み合わせからマーケティングを考える

江川:ではビッグデータについてはどのように活用しようとされていますか。

長谷川:小売はいま成長市場ではありません。その代わり何が起きているかというと、顧客ニーズの細分化です。総合スーパーだとかつては棚に物をばーっと並べておけばよかったんですが、いまはそれでは買ってくれないんですね。ですから超細分化された顧客ニーズというものを的確に把握していきたいと思っています。細分化の例としては、地域差やカテゴリーがあります。ワインだったら、どこで作られた何の種類のワインかというところから商品決定をしたりする。ワインや自転車、趣味嗜好に関連するものは割と細分化しやすい傾向があります。ただこれはメーカーさんと一緒じゃないとできないこと。今後はプライベートブランドも含めてそういった細分化されたニーズに応えられるような戦略、アプローチができればいいなと思っています。

それから、データをもとにした発注、物流、配送の最適化だったりと、アルゴリズムで小売を動かしていくアルゴリズミックリテーリングも出てくると思います。そこにAIも入ってきて、業務の自動化、効率化を進め、10億人以上のお客様により良い商品、サービスをお届けしていくというのが今後の取り組みになるかと思います。

柴田:広告会社としては、いま業界で本当にデータが求められているイシューは何なのかを考えたうえで、媒体の立ち位置を決め直すのも一つあるかなと。その一つとして、小売店の店長の支援や、たとえば保険とかビール会社の営業マンの方とかをデータを使って支援できないだろうかと考えています。店長によって店舗ごとの売り上げの差がどうしてつくのかなどは、結果は分かるけど過程が分からない。結局、勘と経験に頼ってしまっていることをどうやって可視化していくか、そこに広告会社としても関わっていきたいと思っています。

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ブランディングという役割も当然大事ですが、やはり現場で小売の店長さんが悩んでいるとか、SNSの情報をどう使えば役に立つのかわからないでいるとか、そういったところに大事なニーズがあったりするので、そこに対してある意味ブランドから販売までちゃんと見ていけるようになるといいですね。

天野:データ分析とかビジネスの世界の話ではないんですが、批評家の東浩紀さんが『動物化するポストモダン オタクから見た日本社会』という本で、消費構造が物語消費からデータベース消費に変わりつつあると語っていて、個人的にも実感しています。その本のなかで言われているのですが、たとえば昔ビックリマンチョコが流行りましたが、あれはシールを集めるのが目的ではなく、背景にある神話の世界観、物語を楽しみたかったから買い集めていた。一方いま、オタクが二次創作という形でオリジナルとは別の物語をつくっていくのを見ると、背後にある物語は失効してしまって、そこにあるのはデータベースの中の「萌え要素」の集合。要素を適宜ピックアップしていけばいくらでも物語が紡げるんですね。オタクに限らず、マーケティングにも同じような現象が起きている気がしていて、従来はペルソナ、つまり体系的な理想の顧客像を定義し、そこに向けてプロモーション、広告を打っていくという発想でしたが、DMPをやっていると分かるのは、ペルソナのような統一的な顧客像はなくはただ属性を網羅的に示すだけで実際にどういう人なのかを体系的には説明できない。なぜかというと消費者は一人の人ではありますが、いろんな状況でいろんな側面を見せるものだからです。ですからユーザーでも生活者でも、属性の束、キャラクターの集まりでしかないんだというふうに考えてアプローチをし始めている。それは大きな変化だと思います。

弊社でいうと、ヤフーを利用しているユーザーの、性別だったり年齢だったりさまざまな属性データがあります。それから検索データから、単語をグルーピング化して興味・関心を図ります。たとえば年収1,400万円以上の人がいたとして、高級車の検索はするけど動画サイトは全然見ていない。その理由はよくわかりませんが、網羅的に出てくるそういった情報を組み合わせることでプロモーションの最適化はできるかと思います。

江川:イオンドットコムさんの場合はいかがでしょうか。

長谷川:ペルソナは一応ありますが、実際は、自転車を買いに行った人がキャベツを買って帰ることはないに等しい。それは明白です。チーズだったりワインだったりとかの趣味嗜好をもって、属性を組み合わせていく……。ペルソナというよりは、購買してくれる人がどういう人なのかというところへのアプローチであって、3人で1人としても良しとしています。ですからペルソナで仮説検証するよりは、データから見える属性の幅から、そこに対して何を投げたらいいのかというのを日々考えてマーケティングするというやり方です。

柴田:僕は価値観をどういう風に変数として大事にするかに重きを置いています。たとえばちょっといいものにお金を払いたいと思っている、その購買活動のタイミング、モーメントをどう拾っていけるか。それと、ペルソナ―その人の意思決定を形作る根幹的なもの―の組み合わせがすごく重要です。

天野:発想は同じですよね。いずれにしても一人の人がいついかなるときも同じ価値観でいるとは限らない。それが鍵となるわけですね。

■データで可能になること、データ以外の大切なこと

江川:では今後、それぞれの立場でどんな世界観をつくっていきたいですか。

長谷川:データから見えるもの、データで可能になることというのは、ある一定の領域まではすごく安定したものをもたらしてくれて、水準もぐっと上げてくれるだろうと思うので、そこは引き続きやっていく。一方でやはり強いのは実店舗ですから、その活性化も課題です。なぜオンラインのニーズが高まっているかというと、そこに毎日違うものがあるという期待感と習慣からだと思います。そのあたり、お店に来たお客さんが楽しさだったり、新しい発見をしてもらえるような店舗づくりをやっていきたいですね。あと、冒頭に言ったイオンデジタルシフトというのは、オンライン上でのイオンをきっちりつくっていくということ。そうすれば実店舗との連携もしやすくなるでしょう。そういう意味でイオンのデジタルはまだまだ伸びしろがありますね。

柴田:クリエイティブ支援をデータでやっていきたいですね。たとえば実店舗での棚の作り方などもクリエイティブ要素だと思う。ここが最後の勝負になるケースが多いんですね。いまクリエイティブとデータを掛け算にするという考えが広がっていますが、どちらかというとデータはそこから半歩下がってクリエイティブをサポートをしていければいいと考えています。データがあることによって足かせになったり思考が狭まっては絶対にいけないので、クリエイティブとの掛け算というよりは、半歩下がった、1.5列目にデータを配置する。そのうえでクリエイティブジャンプをデータで高くしていきたいと考えています。

天野:同じような発想ですが、たとえばレコメンデーションの技術とかも、データだけで行くとどうしてもスタティックな状態、安定した状態にいってしまう。重要なのは、ほかにもあり得たんだよねという可能性だったりする。その可能性が忘れ去られることのないよう、いかに揺らぎを起こすのかというのも非常に重要だと思っています。

江川:ありがとうございます。各社さん、それぞれ違う立場でデータについてお話しいただきました。これから皆さんともいろんな形で情報交換しながら、新しい世界が、特にライブ感だったりわくわく感が生まれていくような世の中が、データを中心にできていければいいなと思います。ご清聴ありがとうございました。

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■プロフィール

モデレーター:

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江川 亮一
シーセンス(株)代表取締役社長
1997年に日本オラクル株式会社に入社。ITコンサルタントとして大手企業向けウェブシステム構築やERP導入に従事後、日本IBMを経て検索エンジン大手のオートノミー、ファストサーチ&トランスファーにてセールスディレクターとして数々の著名ウェブサイトでの検索・レコメンデーション導入を担当。2010年、オンライン・メディア企業向けに収益の最大化・ユーザエクスペリエンス向上ソリューションをクラウドで提供するシーセンスの立ち上げに参画。

スピーカー:

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長谷川憲司
イオンドットコム(株)CTO
米国にてエンジニアとしてキャリアをスタートし、テクノロジーコンサルタントを経験した後、2002年帰国。インターネット系ベンチャー企業にて様々な開発プロジェクトを担当した後、大手ポータルサイト内のECサイト総責任者及びITアーキテクトを担当。2015年3月からイオングループの中期計画である「イオングループ中期経営計画」を担う、イオンドットコム社にCTOとして参画。

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天野 武
ヤフー(株) マーケティングソリューションズカンパニー マーケティング本部 リサーチアナリシス部長
2010年9月、ヤフー株式会社に入社。広告プロダクトのパフォーマンスに関する分析に従事。その後、リサーチアナリシス部長としてデータを活用した営業戦略、プロダクト戦略の立案や広告出稿効果の可視化を推進。2016年4月より株式会社Handy Marketingの代表取締役副社長。

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柴田 貞規
(株)博報堂DYメディアパートナーズ  データドリブンメディアマーケティングセンター(DATA WiNGS )データマネジメントプラットフォーム部 部長
博報堂DYグループの生活者DMPの企画・プロデュース責任者。 生活者DMPを使ったマーケティングの高度化への取り組みを行っている。4月1日にヤフー株式会社と合同で設立した、(株)Handy MarketingのCMOでもある。

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