レポート
アドテック東京
【ad:tech tokyo2016人気セッションランキング第3位!】検証!グロースハックで顧客をどこまでつかめるか?(ad:tech tokyo2016より)
REPORT

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9月20日、21日の2日間にわたり、アジア最大級のマーケティングカンファレンス「ad:tech tokyo2016(アドテック東京)」が東京国際フォーラムにて開催されました。業界を牽引するキーパーソンたちによって、最先端のマーケティング・テクノロジーについて熱い議論が交わされました。本セッションには(株)博報堂DYデジタルの向後健が登壇。 (株)イー・エージェンシー野口竜司取締役をモデレーターに、iQONアプリをグロースハックのみで100万ダウンロードを達成した(株)VASILY金山裕樹代表取締役CEO、ECサイトでの売上急増を導いた(株)メガネスーパー デジタル・コマースグループ 川添隆ジェネラルマネジャーとともに、グロースハック実践のポイントについてディスカッションを展開しました。(以下敬称略)

■グロースハックの心技体

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野口:モデレーターの野口です。最初に「グロースハック」の定義についてあらかじめ確認させてください。直訳するとグロース(成長)をハックする(上手くやる)こと。データに基づいて改善・最適化し成長を科学すること、あるいはサービスやプロダクトの運用開発のなかに成長する仕組みを組み込むこと、ととらえられます。A/Bテストが先行しているイメージがありますが、心技体で表現してみると、A/Bテストに限らない新機能・新サービスの投入やアロケーションといった諸活動の集合体が「技」にあたります。同時にマインドとかカルチャーといった「心」、チーム体制やデータ環境といった「体」も合わせた全体を広義のグロースハックととらえ、本日は考えていけたらと思います。

早速ですがA/Bテストにちなんで特製のA/Bうちわをご用意しました(笑)。
駆け足ですが、これからいくつか質問をしていくので、お三方にはAかBかで回答いただければ。

最初の質問は「グロースハックパワーで顧客満足度やマーケットはどこまで変わる?
A「めちゃくちゃ変わる」かB「限定的にしか変わらない」、どちらでしょうか。
(回答:全員A)

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皆さん、大いに変わるとお考えなんですね。では次です。
グロースハックにおいて左脳派(データサイエンティストなど)と右脳派(コピーライターなど)、どっちが成果をあげやすい?
A「キッチリ左脳派」とB「ダイナミック右脳派」どちらでしょうか。
(回答:A金山、B川添、向後) これは割れましたね。

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金山:基本はやはり数字に基づいたPDCAだと思う。右脳派は短い時間で正解をぱんと出せる強さがありますが、結局PDCAを回していくと最後には左脳派が追い抜くような気がします。

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川添:僕は小売業なので、お客様がどう感じるかを読み解くことが重要になる。なので右脳派の方が成果をあげやすいかと思います。

野口:続いては「機械学習と人、どちらがグロース能力がある?」 A「なんだかんだ人」か、B「いずれ機械学習が抜く」か。
(回答:全員A) 皆さんAですね。なぜでしょうか?

金山:いずれどちらか一方が、という話ではなく、ベースは機械と人とのコラボレーションだと思います。でもデータの解釈、課題の抽出は機械には難しいのでは。

野口:そうかもしれませんね。
続いて「グロースハックに大事なのは打席数?施策インパクト?
A「打席数こそ大事」かB「ドカンとインパクトでしょ」か。
(回答:全員B) 満場一致でBですね。グロースハックには回転数こそ大事ということですね。

次、「グロースハックにおいて究極的にどちらが大事?
A「グローステクニック(技)」かB「文化と仕組み化(心・体)」か。
(回答:全員B)
これはどうしてでしょう。

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向後:「技」の部分も広告会社としてはすごく重要だと思う。ただ技にはどうしても賞味期限があるので、それを生み出し続けるカルチャーとか土台が必要だと思いました。それで、迷いましたがBで。

野口:なるほど、各自さまざまなご意見をありがとうございました。

■本当は言いたくない!?成功事例と失敗事例

野口:ではグロースハックの実際の成功/失敗事例について順にお話しいただけますか。

川添:まず成功事例をお話します。僕がメガネスーパーに入社した3年前、EC改革というミッションがありました。数百万円投じられていた開発途中の案件がありましたが、思い切ってリセットしようと判断。それを捨てる代わりに新しいECシステムを採用したところ、売り上げを35%上げることができました。 失敗事例としては、商品詳細ページに、ある注意喚起の一文を入れることになったのですが、入れたとたん対象商品の売り上げが約10%ダウンした。文言を入れる位置を調整したところ無事売り上げは戻りましたが、掲載のしかた、あしらいの大事さに改めて気づきました。

金山:アプリにおいてはよくプッシュ通知が大事だといわれますが、 それと同じくらい重要なので、アプリアイコンの右上に表示されるバッジです。ある日DAU(デイリー・アクティブ・ユーザー)が急に20%ダウンしたため驚いて原因を調べたら、どうやらバッジが出ないバグのせいだとわかった。未読を示す数値は個人的にあまり気にならなかったんですが、多くのユーザーにとって、未読数が表示された状態は非常に気になることだとわかり、未読がついていることがアプリにアクセスするきっかけになるんだと理解しました。 あと、ありがちな失敗ですが、A/Bテストをたくさんやったわりに得られた効果がほんの少しだったり、A/Bテストに頼りすぎることでチームの思考が止まり、意思決定能力が下がったりすることもわかった。これらは過度なA/Bテストによる失敗ですね。

野口:やりきったからこそわかったことかもしれませんね。やはり機械学習などに頼りすぎるのではなく人が大事だということですね。向後さんはいかがでしょうか?

向後:成功事例としては、某企業のEC系サイトにおける、リスティング広告にオートメーションシステムを活用したマイクロモーメントSEMの採用があります。人だと拾いきれないような細かいキーワードを大量に自動収集し、自動入稿するというもので、瞬間の旬なキーワードを察知し、不要なキーワードは排除するといった処理を自動化しました。これによりユーザーの細かいトレンド情報をしっかりキャッチすることができ、昨対比広告経由の取扱量の20%向上につなげることができました。あと、いま改めてDMPの活用に注目しています。というのもこれまでのファネル構造では、まずはアンケートや調査データをもとに分析、仮説をつくって戦略を立てるわけですが、実行後に、コンバージョンや売り上げなどから仮説を改めて検証し、戦略をリビルディングしていくというやり方も必要なのではないかと。アンケートなどから得たデータと、実際のウェブ上での行動データを紐づけて分析していくのですが、この取り組みにより不要コストを20%カットすることができました。

■スピーカーからスピーカーへ、禁断のキラー質問

野口:最後に、ここだから聞けるキラー質問を互いにしていきましょうか。まずは金山さんから川添さんへお願いします。

川添:いまアプリに取り組んでいるのですが、正直、小売業界でアプリは有効でしょうか?

金山:小売系のアプリをつくったらコンバージョンが非常に高まった、という意見を聞きますが、あれはデータの罠だと思うんです。アプリを落とした人はすでに購入意思のある人で、キーワードの検索結果から流入してくるウェブに比べてコンバージョンが高いのは当たり前で。比べるならスマホの指定キーワードから入ってきたユーザーのコンバージョンデータと比べたほうがいいですよね。また、アプリはPDCAを回すのに時間がかかり、結局コストもかかるので、個人的な見解としては不要だと思います(笑)。

川添:そうですか(笑)。僕が考えているのは、いまの来店促進型アプリとかEC単独のアプリとかとはちょっと違っていて。たとえば、購入商品に応じてファーストビューの表示をユーザーごとに変えるとか、パーソナライズしたものですね。

金山:すでにウェブ上で物を買うという体験をユーザーに十分やっていただけているのであれば、僕は本当に正直、アプリは要らないと思うんです……(笑)。でも川添さんの取り組みが業界に改革を起こすことになるかもしれない。

野口:では逆に、金山さんから川添さんへどうぞ。

金山:グロースハック初日に会社にどんな印象を持ち、最初にどんなアクションを取りましたか?ニュアンスとしては、アムロがガンダムに乗り込んだ時に「こいつ動くぞ」みたいな感覚だったのか、「うわー、こりゃだめだ」だったのか(笑)。

川添:メガネスーパーへの入社日を初日とすると、そのときの印象としては「これは動くぞ」でした。まず行ったのはヒアリングです。即日配送とか5,000円以上で送料無料とかすごくいいサービスなのにきちんと見える位置に謳っていないことがわかった。そのとき「これはいける」と。実際にそういった情報をバナー表示するなどしていくと、すぐに売り上げで成果が出せました。

野口:では最後に向後さんから金山さん、川添さんへ。

向後:あえての質問ですが、広義におけるグロースハックにおいて広告会社のサポートは必要ですか?

金山:グロースハックをどうとらえるかですよね。製品に成長の仕組みを組み込むというプロセス自体には、正直広告会社の強みはそこまで生きないと思います。でも広義のグロースハックにおいては、やはり広告会社さんが持つマーケティング力は大きい。

川添:確かにそうですね。戦略を描く上で、特にウェブ領域でのマーケティングにおいては、事業者側にいると情報が非常に集めにくい現状があるので。その点とても頼りになる存在です。

向後:ありがとうございます。少しほっとしました(笑)。

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野口:ありがとうございました。以上になりますが、会場の皆さんそれぞれのビジネスで、グロースハックに生かせる何かしらのヒントにしていただければと思います。本日はありがとうございました。

■プロフィール

モデレーター:

noguchi

野口 竜司 (株)イー・エージェンシー取締役
株式会社イー・エージェンシー取締役 兼 Optimizelyエバンジェリスト 野口竜司 (株)イー・エージェンシーでサービス全般・マーケティング担当の取締役を務める。Google アナリティクスを活用したコンサルティングやA/Bテストコンサルティングサービスの提供、マーケティングオートメーション・レコメンドエンジンのツール事業開発に従事。『A/Bテストの教科書』『Webマーケティング成功の法則75』などの著書がある。

スピーカー:

kanayama

金山 裕樹 (株)VASILY代表取締役CEO
ファッションアプリ「iQON」立ち上げから100万人までのユーザー獲得を、広告費をかけずグロースハックにより実現。iQONは2012年にApplesベストアプリ、2014年、2015年にGoogleベストアプリを受賞。著書、翻訳書に『いちばんやさしいグロースハックの教本』『Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール』など。

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川添 隆 (株)メガネスーパー デジタル・コマースグループ ジェネラルマネジャー
総合アパレルのサンエー・インターナショナルに従事後、ネットビジネスを志しサイバーエージェントグループのクラウンジュエルへ。2010年にガールズ系アパレルブランドを展開するクレッジに転じ、EC事業責任者として自社ECサイトの内製化、EC事業を2年で2倍に拡大、さらにLINE@の成功事例をつくる。2013年7月より現職。EC事業、オムニチャネル推進、デジタルマーケティング・コミュニケーション、デジタル活用に店舗支援を統括し、EC事業は3年で2.7倍、自社ECの月商は5倍に拡大。ECシステム改修、ECマーケティングツール導入、LINEのビジネス活用などに取り組む。

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向後 健 (株)博報堂DYデジタル 戦略業務推進グループ グループリーダー
2007年、(株)オプトへ入社。SEM本部にてSEMコンサルタントとして広告運用を担当。2009年より同社営業部門へ異動しアカウントプランナーとして旅行、EC等のロングテール業界の大型得意先の新規開拓、PDCA業務を担当。2013年より(株)博報堂DYメディアパートナーズにてデジタル×マスの統合プランナーを経て、2016年4月より新会社(株)博報堂DYデジタルのプロデュース本部にてチームリーダーとして従事。

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