コラム
メディア環境研究所
IoTサービスの今後~CES2015レポート「インターネット化する生活空間」(後篇)
COLUMNS

今回は、CESに見えた3つのインターネット化から考えていきます。

(参考)CESから考える、IoTの定義とは? ~CES2015レポート「インターネット化する生活空間」(前篇)~

■ CESに見えた 3つのインターネット化

前篇に続きCESに見えた3つのインターネット化について、そしてIoTの今後についてとりあげたいと思います。

【3つのインターネット化】

1.スマートテレビ ~メディアのインターネット化~
2.スマートカー/スマートホーム ~モノ/場のインターネット化~
3.ウェアラブル ~ヒトのインターネット化~

1. スマートテレビ ~メディアのインターネット化~

今年のテレビまわりの最大トピックスは、「テレビにOSが搭載されたこと」と言われています。私も会場で各メーカーのものを実際に触ってみましたが、画面のインターフェイスがスマートフォン並みにサクサクと動かせ、これで実商品としてローンチするのだったらそろそろ欲しいな、と思わせる製品になっていました。現地では「スマートテレビ2.0に進化した」とおっしゃる方もおり、たしかに、かつてのスマートテレビ1.0時代の「もっさり」とした操作感と比べると隔絶の感がありました。この処理の速さは、ひとえにスマートフォン由来のOSを搭載したことによります。そして、それらのOSによって「テレビというメディアのインターネット化」が実現し、テレビはスマートフォンや他の家電との連携が強く意識された設計になっているのです。また、画面のユーザーインターフェイスだけでなく、リモコンも変わっていきます。各社はタッチパッド方式やポインタ式を採用し、リモコンからボタンが減り、よりすっきりとしたデザインになっていました。ここ数年、テレビまわりの展示では、ソーシャル連携などをテレビの1画面の中で行うような複雑なサービスの提案が続いていたのですが、今年の各プースの印象は「シンプルに高機能化し、テレビの原点回帰へ向かった」といえそうです。

2. スマートカー/スマートホーム  ~モノ/場のインターネット化~

次は、クルマと家です。
クルマで注目されたニュースはなんといっても「自動運転」ですね。とあるメーカーが発表したコンセプトカーでは、車から運転席がなくなり、座席が向かい合わせのラウンジのような形態になっています。このメーカーでは「mobilityを再発明する」とコメントしており、移動という概念そのものがパラダイムシフトする可能性を示唆しています。自動運転というとかなり遠い未来のSFのような話に聞こえますが、別のメーカーでは、CES開幕に合わせて研究拠点のスタンフォードからラスベガスの会場までを約880km以上の自動運転テスト走行に成功し、現地のプレスから注目を集めました。日本でも、内閣府の研究開発計画では、2020年に自動走行の実用化を目標として掲げており、「自動運転」は決してSFではなく、思ったよりも近い未来に実現されうる技術として捉えてよいでしょう。こうした自動運転の技術を支えているのは「クルマのインターネット化」です。単に、クルマとスマートフォンが連携する、といったレベルを越えて、クルマが置かれている道路の状態を車自身が把握し、自らの走行をコントロールする、こうしたセンシング&コントロールの繰り返しが、自動運転を可能にしていきます。「インターネット化」、奥が深いですね。
続いて、家、のニュースです。スマートホームまわりの出展では、基本的「防犯、省エネ、温度管理、照明コントロール」という、4つの機能を謳うサービスが多かったと捉えています。これらが統合されると、たとえば、わざわざ離れたガレージまで行かなくても手元のスマートフォンで、ガレージの様子をチェックして、照明を消し扉を閉めることができようになります。一般的に、日本よりも家屋が大きい米国では、先のクルマ以上に、家そのものの状態を、簡単にセンシング&コントロールしたいというニーズがより強いと言えます。また、「スマートホーム」というと、「新築でないと無理なんでしょ」と思われる方もいらっしゃるかと思います。今年のCESの会場には、電源コンセントや、照明の取りつけ元など、家の様々な場所にアタッチメントをとりつけることで、「現在、お住まいの家をスマート化できます」という、ソリューションが展示されていました。これはかなり現実性がある技術で、「家のインターネット化」の普及を後押しする可能性を感じました。
このように、クルマと家、というカテゴリでは、「モノ/場のインターネット化」のサービスが、他の産業カテゴリに比べて先行しています。その結果、クルマA社とハウスメーカーB社が提携、クルマC社とチップメーカーD社が提携、といった新しいアライアンスネットワークと言うべきものが生まれつつある状況も見えてきました。「これからのデファクトをとるネットワークは我々ですよ」というアピールは様々な場所でみられ、どのアライアンスがどのような強みを打ち出し、この「モノと場のインターネット化」における競争を勝ち残っていくのか、今後の動きが注目されます。

3. ウェアラブル ~ヒトのインターネット化~

最後は「ウェアラブル」について、です。既に、ウェアラブル関連のデバイスが市場にでて数年がたっていますが、2015年のCESでは、大きく2つの方向性が見えてきました。
ひとつめは「トラッキングデバイス」として、歩数などの活動量や心拍などのデータを計測するデバイスの進化が感じられたことです。これまでは、いわゆる「活動量計」と呼ばれてひとくくりにされていましたが、今年の展示では、「特定ターゲット向けの課題解決ソリューション型」が登場しました。特定の疾病の方向けに、体内の状態をトラッキングするもの、またはアスリート向けにさらなる記録更新をサポートするもの、または幼児をもつ母親向けにわが子の状態をセンシングしてくれるもの、など、サービスのバリエーションが格段に増えてきたことが特徴的です。
次は、「コネクティングデバイス」という方向性です。これはスマートフォンなど他機器との連携を前提に、デバイス自体の機能は削ぎ落したものが生まれてきたことを指しています。いろいろなアプリケーションはスマートフォン側で動いていて、一部のプログラムだけが「コネクティングデバイス」側で走ります。たとえば、一見、普通のアナログの腕時計にみえるが、時計の盤面のごく狭い一部分にスマートフォンからのアラート通知表示されるもの。また一見、大きめの指輪にみえるけれど、ソーシャルメディアのリモートコントロールなどに利用できるもの。はたまた、スマートジュエリーというカテゴリも台頭して、一見ただの女性向けのペンダントやブレスレットにみえるが(まったくデジタル表示部分はないのですが)、実はジュエリーが一日の活動量をスマートフォンに送り続けているもの。などなどです。この「一見普通の・・・」というのがポイントで、どれもデザイン性が格段にあがっており、「いますぐ買えるならな買いたいな」と、私自身も物欲を押さえるのに必死になってしまいました。(日本にサービスローンチしたら、きっと買います・・・)。
これまで一部のアーリーアダプター層だけが身につけていた「ウェアラブル」デバイス。「トラッキングデバイス」として、あるいは「コネクティングデバイス」として、生活者へのベネフイットをはっきり打ち出す段階へ進化したといえるでしょう。こうして、ウェアラブルデバイスが一般化するフェーズに入ると、「ヒト」の状態というのが常にセンシングされ、様々なプレイヤーがその状態にあわせたソリューションを提供しうる状態になります。「ヒトのインターネット化」に対してどのようなサービスで応えていくのか、私たちが考える余地はまだまだありそうです。

■ IoTサービスの今後 ■

CES2015を通じて考えさせられたことは、それは「今後、どのレイヤーでIoTサービスは統合していくのだろうか」ということでした。まだ各サービスはバラバラに存在しています。テレビ、クルマ、照明、時計、植木鉢、哺乳瓶・・・個別にスマート化しても、それらをコントロールするアプリケーションが無数に増えていくだけでは、生活者の「本当に使ってみたい」からはまだまだ遠い状態です。これから、統合はどのようにおこるのでしょうか?「健康」「移動」といったジャンル毎か、はたまた「クルマ」「家」といったハードの単位か、いやいやOSで統合されるのでは?という向きもあります。このあたりは、広告やマーケティングに携わる私たちは注視していく必要があります。また、現在はどちらかいうと、テクノロジー先行型のプロダクトアウト発想がメインである点も否めません。個別のサービスを束ねられるような、生活者視点の「太い」インサイトを発見することが求められています。IoTサービスが統合されてゆく未来に、大きなビジネスのうねりを感じました。

【参考】
メディア環境研究所ホームページ

加藤 薫 メディア環境研究所 上席研究員

1999年、博報堂入社。菓子メーカー・ゲームメーカーの 担当営業を経て、2008年より現職。エンタテインメント領域を 中心に、放送、デジタルメディア、日本のコンテンツの海外展開、およびコンテンツファン動向について研究している。主なレポート :「コンテンツファン消費動向調査」(2011~)、「今、生活者が求める“Media Experience”とは?(2013)」など。

※執筆者の部署名は、執筆時のものであり現在の情報と異なる場合があります。

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